第5回 人と動物の共通感染症研究会学術集会 研究会目次


3 国内の野生動物における日本脳炎ウイルスに対する血清疫学調査
−イノシシが日本脳炎ウイルスの増幅動物である可能性−
 
○杉山 誠 1),高木愛香 2),源 宣之 2),伊藤直人 2),淺野 玄 3),坪田敏男 3),
石黒直隆 4),伊藤 雅 5),山下照夫 5),榮 賢司 5)
1)岐阜大学大学院連合獣医学研究科
2)岐阜大学応用生物科学部獣医学科人獣共通感染症学研究室
3)岐阜大学応用生物科学部応用生物科学科獣医学講座野生動物医学分野
4)岐阜大学応用生物科学部獣医学科食品環境衛生学研究室
5)愛知県衛生研究所
 
【目的】
  日本脳炎は古くから知られる人獣共通感染症である。近年、国内での患者発生が減少しているものの、新たな年齢層での患者発生や流行ウイルスの遺伝子型の変化など、日本脳炎ウイルス(JEV)の動向の変化が報告されている。これまで国内では、JEVの流行予測のため、対象動物としてブタを使った疫学調査が実施されてきたが、野生動物を対象とした調査はほとんど行われていない。一方で、野生動物を介した新興・再興感染症の出現や広がりが問題となっており、野生動物の感染症の実態を解明することが急務とされている。そこで今回、JEVの感染環における野生動物の役割を調べることを目的に、我々の身近に生息する野生動物を対象に中和試験によるJEVに対する血清疫学調査を実施した。
 
【材料と方法】
  1991〜1992年及び2003〜2004年に岐阜県で採取されたニホンザル96例、タヌキ40例及びヌートリア43例、1991〜1992年に岐阜、兵庫及び岩手県で主に採取されたニホンジカ64例、そして1991〜1992年及び2003〜2004年に岐阜、滋賀、愛知、兵庫及び四国4県で採取されたイノシシ234例の血清について、JEV JaGAr01株に対する中和抗体が調べられた。中和試験にはpH7.8の培養条件下でBHK-21細胞への同時接種法を応用したTCID50法を用いた。10倍以上の抗体価を有する個体を陽性とした。
 
【結果と考察】
  タヌキ及びヌートリアには、中和抗体保有個体が認められなかった。ニホンザル及びニホンジカにおける中和抗体陽性率はそれぞれ4.2%及び1.6%であり、これら動物では稀にJEVの感染が成立していることが示された。これに対し、イノシシにおける中和抗体保有個体は全体の25.2%を占めることが明らかとなった。四国で採材されたイノシシにおける抗体陽性率32.7%(33/101)は、東海・近畿地方の陽性率19.5%(26/133)より高い値を示し(P<0.05)、地方間での感染状況の違いが認められた。今回の血清疫学調査の結果、イノシシは他の野生動物より高頻度でJEVに感染していることが明らかとなり、ブタと遺伝的に近縁なイノシシがJEVに対して高感受性であることが示唆された。このことから、日本で養豚が盛んになる以前、野生のイノシシがJEVの増幅動物となっていた可能性が考えられ、現在のJEVの感染環においてもイノシシが重要な位置付けにあることが推察された。
 
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