第5回 人と動物の共通感染症研究会学術集会 研究会目次


4 港湾労働者のげっ歯類由来感染症に関する健康調査
 
○内田幸憲 1),井村俊郎 1),鈴木荘介 1),鎌倉和政 1),後藤郁夫 1),林 昭宏 2),杉本昌生 1)
1)厚生労働省神戸検疫所
2)厚生労働省関西空港検疫所
 
【目的】
  全国の主要港湾に外来種のげっ歯類が侵入し、リンパ球性脈絡髄膜炎(LCM)ウイルス保有マウスが4港で確認されている。また、腎症候性出血熱(HFRS)ウイルス保有ラットは全国的に定着状態であり、所によってはレプトスピラ保有ラットも確認されている。これまでは、これら病原体保有げっ歯類の生息状況を調査してきたが、今回は港湾で仕事をしている人々への健康被害の実態を明らかにするために、東京港及び神戸港において健康診断時に港湾労働者のげっ歯類由来感染症(HFRS、LCM、レプトスピラ症)に関する健康調査を実施した。
 
【対象及び方法】
  東京港、神戸港の港運協会や倉庫協会の承諾のもと、健康診断担当者に対して健康調査のすすめ方を説明した。協力が得られた企業の健康診断実施時に、個々人には文章で調査の概要説明のもと、文章での同意を得た上で6〜7tの採血及びアンケート調査を実施した。調査は平成15年8月から平成16年12月にわたり行われた。記入されたアンケート、同意書、検体血清は共通番号で処理され、個人情報の保護に努めた(東京大学農学部生命科学研究科の倫理委員会で承認)。検体血清の抗体価測定はHFRSについては間接蛍光抗体法(IFA法)と赤血球凝集抑制試験(HI試験)にて行い、LCMについては組換えバキュロウイルスを用いたIgG-ELISA法、レプトスピラについてもIgG-ELISA法及び顕微鏡凝集試験にて行った。
 
【結果及び考察】
  東京港2186名、神戸港1527名、計3713名の協力が得られ、アンケート及び血清そして承諾書が回収された。協力者の男女比及び男女別平均年齢は東京港1926名/257名、42.0歳/33.6歳、神戸港1320名/206名、44.6歳/39.1歳であった。HFRS、LCM、レプトスピラそれぞれの抗体陽性者は、東京港:4名(0.18%)、0名、0名、神戸港:7名(0.46%)、0名、0名であった。HFRS抗体陽性者11名の勤務場所は主として事務:2名、事務と現場:5名、港湾現場:1名、船舶周辺・船舶内業務:1名、倉庫・コンテナヤード業務:1名、その他:1名であった。既往歴で腎疾患・血液透析、黄疸を伴う肝障害のある者(東京港34名、神戸港37名)には抗体陽性者はいなかった。健康診断での異常指摘においても、抗体陽性者では、異常なし:8名、C型肝炎、糖尿病:各1名、記入なし:1名であった。1982〜84年に行われた血清疫学調査での抗体陽性率は0.53%、東京湾埋め立て作業員の抗体保有率が2.73%であったとの報告及び現在の港湾衛生状況からみて、現状での人への感染リスクはかなり低いものと思われた。今後も港湾内でのネズミ族の生息調査、病原体保有調査の継続のもと、人への感染予防対応に心がける必要があると思われた。
 
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