第5回 人と動物の共通感染症研究会学術集会 研究会目次


2 翼手目の特性について −系統学的・免疫学的・分子生物学的検索−
 
○大松 勉 1),渡辺俊平 2),西村順裕 2),石井寿幸 1),寺尾恵治 3),
遠矢幸伸 2),久和 茂 1),明石博臣 2),吉川泰弘 1)
1)東京大学大学院農学生命科学研究科獣医学専攻実験動物学教室
2)東京大学大学院農学生命科学研究科獣医学専攻微生物学教室
3)独立行政法人医薬基盤研究所霊長類医科学研究センター
 
【目的】
  翼手目(以下、コウモリ)はニパ、ヘンドラウイルス等の自然宿主である。また、コウモリに由来するウイルス感染症が近年増加する傾向にある。しかし、コウモリの免疫機能など生体機能に関しては不明な点が多く、今後感染症研究を行っていく上でコウモリに関する基礎研究は必須である。そこで、コウモリに関する基礎情報として、その解剖学的・遺伝学的背景および免疫分子の特徴について明らかにする。
 
【材料・方法】
  解剖学的・遺伝学的背景を明らかにするためにルーセットオオコウモリ肝臓より抽出したDNAを用いてsequence法によりmitochondrial DNA全塩基配列を決定した。また片側眼球にhRPを注入しオオコウモリの特徴である視神経回路についての検索を行い、多様性のあるコウモリ内でのルーセットオオコウモリの位置を決定した。
 次に免疫機能に関与するCD4、IFN-α、βについて蛋白コード領域の塩基配列を決定し、その特性について検索した。また、コウモリ由来腎初代培養細胞およびコウモリ由来cell lineであるTb-1 LuにPoly(I:C)(100ug/ml)を用いてIFNの発現誘導を行い、発現パターンの比較を行った。
 
【結果・考察】
  hRPを用いたルーセットオオコウモリ視神経回路の検索において、オオコウモリ特有の霊長目に類似した解剖学的特徴を有していた。またmitchondrial DNAを用いた系統解析の結果、ルーセットオオコウモリは大翼手亜目の中で最も小翼手亜目に近縁な位置にあり、多様性を持つコウモリの中で実験対象としてより適した種だと考えられた。
 免疫機能に関して、CD4、IFN-α、βはそれぞれmitchondrial DNAを用いた系統解析の結果と同様、食肉目・偶蹄目・奇蹄目といった群のものと高い相同性を有していた事が明らかになった。またPoly(I:C)を用いたIFN発現誘導の細胞株間における比較検索において、Poly(I:C)付加6時間後においてcell lineからのIFN発現誘導が確認されず、これがウイルス感染実験等において影響を及ぼす可能性が示唆された。今後、実際にウイルス感染実験を行いその影響について検索を行っていく予定である。
 
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