第4回 人と動物の共通感染症研究会学術集会 | 研究会目次 |
7 愛玩用輸入野生齧歯類の病原体保有状況 | |
○宇根有美 1),太田周司 2),吉川泰弘 3) | |
1)麻布大学獣医学部病理学研究室 2)東京検疫所川崎支所 3)東京大学大学院農学生命科学研究科実験動物学研究室 |
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多数のエキゾチックアニマルが輸入され、愛玩用に販売・飼育されていることから、感染症対策におけるリスク評価の基礎的研究として、また、この種の動物の衛生状態の情報を得るために、店頭に並ぶ前の輸入間もない野生齧歯類を対象として、ウイルス、細菌、真菌および寄生虫などの病原体保有調査を行った。 | |
【材料と方法】 | |
輸入数が多く、愛玩用としてポピュラーな野生捕獲齧歯類9種類(フトオアレチネズミ5、アフリカヤマネ10、ピグミージェルボア39、エゾリス20、タイリクモモンガ16、シマリス20、リチャードソンジリス20、コロンビアジリス10、ジュサンセンジリス10)合計140匹を対象として、次のような検査を各分担研究者が実施した。 ・ペスト抗体測定(青木英雄、飯塚信二 横浜検疫所)、 ・レプトスピラの分離培養と分子生物学的検索(増澤俊幸 静岡県立大学)、 ・ハンタウイルス肺症候群および腎症候性出血熱ウイルスの抗体測定(苅和宏明 北海道大学室)、 ・消化管内及び筋肉内寄生虫と住血性原虫の検査(佐藤宏 弘前大学)、 ・クリプトスポリジウムfea法および蛍光抗体法(黒木俊郎 神奈川衛研)、 ・サルモネラ分離培養(加藤行男 麻布大学)、 ・豚丹毒分離培養(オカタニ・アレシャンドレ・トモミツ 麻布大学)、 ・エルシニア属細菌とキャンピロバクター分離培養(林谷秀樹 東京農工大学)、 ・ヘリコバクター属細菌免疫染色による検出と病理学的検索(宇根有美 麻布大学)、 ・皮膚の真菌と黄色ぶどう球菌分離培養(小菅旬子 宮崎大学) |
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【結果】 | |
ペスト:抗体を保有する動物はいなかった。 レプトスピラ:アフリカ産アフリカヤマネ10匹中5匹の腎臓からレプトスピラが分離された。 ハンタウイルス:ハンタウイルス肺症候群および腎症候性出血熱ウイルスに対する抗体を保有する動物はいなかった。 消化管寄生虫:消化管内から蠕虫の検出はほとんどなく、Giardia intestinalisに類似する原虫が主としてジリスから分離された。クリプトスポリジウムは、エゾリス2/10とリチャードソンジリス2/20に観察された。エゾリスのクリプトスポリジウムは形態と遺伝子型別によりCryptosporidium parvam ferret typeと同定された。 消化管内細菌としてSalmonella :3種類11匹から検出されたが、同一業者から同一の配送便で送られてきた動物から集中して分離されているため、搬送中あるいはロットによる汚染の可能性が考えられた。 Campylobacter spp :4種類17匹から分離された。 Helicobacter属細菌:全ての種類、86匹(61.4%)の腸に観察された。 なお、エルシニア属細菌や豚丹毒菌は分離されなかった。 皮膚からは、黄色ブドウ球菌:5種類 計39匹の皮膚から分離された。特にピグミージェルボアでは、21/39(53.8%)と高率であった。 皮膚糸状菌:コロンビアジリス3検体のみから分離された。Sspergillus flavus が2種類、38匹から分離され、特にピグミージェルボアでは、39匹中37匹94.9%と非常に高率であった。Aspergillus versicolor がフトオアレチネズミ5匹中5匹(100%)から大量に分離された。 |
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【まとめ】 | |
今回の調査では、輸入野生齧歯類から、感染性の強いあるいは致死的な感染症の病原体はほとんど検出されなかった。しかし、国内では確認されていない血清型の病原体を保有している動物が輸入されていることが明らかになった。海外での各種感染症の流行を考えると、野生齧歯類を愛玩用として輸入し、一般家庭で飼育することはリスクが高い。さらに、これらの動物は、衛生管理上注意すべき多くの寄生生物を保有しており、輸入野生齧歯類の取り扱いについては十分注意する必要がある。 | |
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