第4回 人と動物の共通感染症研究会学術集会 研究会目次


8 一般家庭で飼育されているイヌ,ネコの口腔内真菌叢について
 
  ○村田佳輝 1),2),佐野文子 2),鎗田響子 2),西村和子 2),亀井克彦 2)
1)むらた動物病院
2)千葉大学真菌医学研究センター
 
【目的】
  近年,家庭内飼育の伴侶動物としてイヌ,ネコが増加の傾向にある。その飼育形態はヒトとの関係がより密接となっている。医師・獣医師等が指導しても,動物に対する溺愛による顔なめや口移しの給餌をはじめ,濃厚接触をしているのが現状である。このような背景から口腔内病原細菌による人獣共通感染症が解明されてきたが,真菌に関しては皮膚糸状菌による人獣共通真菌症の指摘が行われているにすぎず,口腔内微生物叢としての病原真菌の調査はほとんどない。そこで,千葉県東部の動物病院に来院したイヌ及びネコの口腔内病原真菌叢を調査した。
 
【対象と方法】
  イヌ329頭(平均6.53歳,雄:雌=1:0.86),ネコ95頭(平均6.03歳,雄:雌=0.9:1),計424頭(平均6.42歳,雄:雌=1:1),について,口腔内を滅菌綿棒で拭い,抗生物質を添加したポテト・デキストロース寒天平板培地に塗抹し,35℃で4〜7日間培養し,集落を釣菌,形態,生理生化学的性状により菌種を同定し,現在,遺伝子解析による検証を加えている。また,対象となった個体の背景(動物種,年齢,性別,基礎疾患,歯石の有無など)と病原真菌保有率との関係を解析した。
 
【結果】
  口腔内の病原真菌保有率は全体30.4%,イヌ33.7%,ネコ18.9%であった。病原真菌保有個体と陰性個体での動物種,年齢では有為差は認められなかったが,性別では避妊雌を含む雌に保有率に高い傾向が有った。イヌの基礎疾患ではアトピー(P<0.05),腫瘍および免疫介在性疾患(P<0.05)および歯石(P<0.01)と病原真菌保有率に有為な相関を認めた。ネコでは腫瘍および免疫介在性疾患をもつ個体に保有率が高い傾向があるものの歯石との関連は認められなかった。全分離菌株数は168株で,病原性酵母としてMalassezia pachydermatis 71株,Candida albicans およびCandida spp.,Rhodotorulla spp. など34株,病原性糸状菌としてAlternaria alternataArthrinium phaeospermumBipolaris sp.,Curvularia spp.,Fusarium sp. および接合菌など64株が分離された。特記事項として,M. pachydermatis は1株をのぞいてイヌから分離されたことが挙げられる。
 
【考察】
  イヌ,ネコともに基礎疾患を持つ個体や歯石のある個体では口腔内病原真菌保有率が高い傾向を認めた。また,イヌおよびネコの口腔内病原真菌叢もヒトと同様に病原性酵母のCandida 属菌が多数分離されると予想していたが,両動物種ともに少なかった。イヌでM. pachydermatis が高率に分離されたこと,イヌ,ネコともに病原性糸状菌が高率に分離されたことがヒトと異なる点であった。これは,舐毛行動により皮膚に付着もしくは常在する真菌叢が口腔内に反映されていると考えた。今回分離された病原真菌の中には酵母,糸状菌ともにヒトに全身感染を起こすことが知られている菌種も含まれていた。現在までにイヌやネコの咬傷事故による真菌感染症は報告されていないが,病原真菌保有個体の飼育管理上の注意および高齢者,免疫不全の基礎疾患をもつなど易感染性の飼い主への注意を呼びかけて行きたい。
 
【結語】
  一般家庭におけるイヌ及びネコの口腔内真菌叢にはヒト全身感染を起こす菌種も含まれていることから,今後,注意を要する。
 
  本研究は平成16年度厚生労働科学研究費補助金による新興・再興感染症研究事業「愛玩動物の衛生管理の徹底に関する研究」の一環として行われた。
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