健康科学研究
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原著論文

江川賢一,種田行男,荒尾 孝,松月弘恵(2004)地域における基本健康診査を活用した生活習慣病予防プログラム開発のための基礎的検討、体力研究102(印刷中)

江川賢一、神野宏司、種田行男、永松俊哉、北畠義典、真家英俊、荒尾 孝(2003)地域在宅高齢者を対象とした生活体力維持増進プログラムの効率的な介入頻度に関する研究、体力研究101,18-29

江川賢一、神野宏司、種田行男、永松俊哉、北畠義典、荒尾 孝、真家英俊(2002)地域在宅高齢者を対象とした生活体力維持増進プログラムの効率的な介入頻度に関する研究、体力研究100,1-10

解説、資料、報告書、その他

江川賢一、荒尾孝、種田行男、西嶋洋子、永松俊哉、北畠義典、神野宏司、青木和江、真家英俊(2000)地域高齢者の生活体力全国版性・年齢階級別評価基準値の作成、体力研究98,18-29

学会発表

2003 第10回日本行動医学会学術総会

 平成15年12月6日(土),7日(日)
東京医科大学病院臨床講堂

体重減少を目的とした地域保健プログラムが運動行動エフィカシーとステージに及ぼす効果

江川賢一,種田行男,荒尾 孝 (財)明治生命厚生事業団体力医学研究所

松月弘恵,白子みゆき 東京家政学院大学家政学部
 

 地域保健の現場では,適用可能性の高い生活習慣病予防対策が望まれている。我々は生活習慣改善による体重減少を目的とした地域保健プログラムを開発した。本研究では本プログラムの運動行動エフィカシーとステージに及ぼす効果について報告する。

 研究対象は2002年度東京都あきる野市基本健康診査受診者で,65歳以下かつBMI24.2以上の者のうち,2002年10月から2003年7月までの9ヶ月間のプログラム参加者96名とした。介入前後に健康度評価(自記式質問紙による運動行動エフィカシー・ステージ評価,形態計測,体力測定)を実施した。対象者はコース①およびコース②のいずれかを自主的に選択した。

 コース①では,1ヶ月に1回の頻度で8回,1回2時間の健康生活教室を開催した。消費エネルギーを増やすために,1)対人プログラム(個人目標設定,生活習慣記録,個別相談),2)支援プログラム(運動施設無料使用,ソーシャルサポート,自主活動支援)を提供した。対人プログラムでは,目標行動設定,コミットメント,セルフモニタリング,行動置換,オペラント強化,逆戻り予防,シェイピング,刺激統制,社会支援などの行動科学的技法を積極的に活用した。コース②では,介入前後の健康度評価および保健師による事後指導を個別に実施した。

 本研究では介入前後で有効データを有する者を解析対象として,コース①を介入群(N=45),コース②を対照群(N=31)として群間比較した。介入前の運動行動ステージの分布(介入:対照)は,無関心期(2%:7%),関心期(40%:29%),準備期(27%:19%),実行期(4%:7%),継続期(27%:39%)であった。

 介入前後でステージが改善した者の割合は,対照群(19%)と比較して介入群(51%)が有意に高かった(P<0.01)。

 介入前後のエフィカシー得点は,対照群は-9.0点,介入群は9.8点であり,介入群が有意に改善した(P<0.01)。

 行動科学的技法を積極的に活用した本プログラムは,生活習慣病を予防する上で体重管理が必要な参加者に対し,運動行動に対する意識を改善し,行動変容を促進する効果が示唆された。

2003 第62回日本公衆衛生学会総会

 平成15年10月22日(水)~24日(金)
国立京都国際会館

運動と食習慣の改善による体重減少を目的とした地域保健プログラムの開発(第2報)

身体活動量および体力に対する介入効果

(財)明治生命厚生事業団体力医学研究所 江川賢一,種田行男,荒尾 孝

東京家政学院大学家政学部 松月弘恵,白子みゆき

東京都あきる野市健康課 葛西和可子

【目的】

 我々が考案した「運動と食習慣の改善による体重減少を目的とした地域保健プログラム」は,運動習慣改善のために,現場で広く適用できるよう考慮した。本報ではこのプログラムの身体活動量および体力に対する介入効果について報告する。

【方法】

 前報の介入群の日常生活での活動性を高め,身体活動の維持増進による消費エネルギー量を増加させるために,健康度調査(3分間歩行距離),行動調査(ライフコーダーによる連続10日間の身体活動量調査,運動行動ステージおよびエフィカシー調査),パーソナルプログラム(調査結果に基づく個別運動目標プラン*の提示,運動実施のセルフモニタリング,個別相談による目標設定支援,歩数計の配布による介入期間中の身体活動モニタリング),および教室での運動指導士による実技指導**,市営プール,トレーニング室の無料利用券の配布を行った。

 *個別運動目標プランは,行動ステージ(無関心・関心期or準備・実行・継続期),肥満度30%,体脂肪率30%,3分間歩行距離240m,エフィカシー100点満点中50点の基準で分類した目標設定フローによって,所要時間,難易度,運動負荷,頻度の観点から10段階に割り振った。すなわち,現状から(1)500歩,(2)1000歩,(3)2000歩増やす,歩行運動を(4)10分間,(5)15分間付加する,発汗するような歩行を(6)15分間,(7)20分間付加する,発汗するような運動(8)20分間,(9)40分間負荷を提示した。(10)これらの目標の頻度は1ヶ月に10日以上からはじめ,20日以上,毎日実施へと段階的に移行させた。

 **いつでも,どこでも,ひとりでも実施できるように考案された「あっとホームプログラム」を考案した。このプログラムは食生活プログラムで指導した1単位(80kcal)と対応させ,プログラムを1通り実施すると消費エネルギーが概ね1単位となるように,下肢の自重運動(スクワット,もも上げ),屋内や屋外での階段昇降,腹筋・背筋,全身のストレッチ体操を各自の特性に合わせて組み合わせて実施できるように考案した。冬期における身体活動量の低下を防止するために,比較的簡単に実施できるように,12月は「その場でできる1単位」,1月は「寝ててもできる1単位」と称して提供した。

【結果】

 介入群の1ヶ月間の1日あたり平均歩数は,介入1ヶ月目6922歩,2ヶ月目6830歩,3ヶ月目7718歩,4ヶ月目7551歩,5ヶ月目8129歩と増加傾向を示した。

 介入4ヵ月後の中間評価では,3分間歩行距離が234±33mから265±25mに増加し,あっとホームプログラムの実施者は26名となった。

 介入後5ヶ月間で市営施設の利用者数および件数はそれぞれのべ86名,1016回であった。

2003 第12回日本健康教育学会

 平成15年6月27日(金),28日(土)
パシフィックホテル沖縄

地域における基本健康診査を活用した生活習慣病予防プログラムの開発
 

江川賢一,種田行男,荒尾 孝(財・明治生命厚生事業団体力医学研究所), 松月弘恵(東京家政学院大学)

【目的】

 健康日本21ではその基本方針として「一次予防の重視」,「目標の設定と評価」があげられている。地域保健の現場では,一次予防対策としての基本健康診査および健診後のフォロー(事後)指導が実施されてきた。このような指導は個人を対象とした健康相談,健康教室などの集団を対象とした健康教育を通じて実施されている。しかしながら,その内容は,科学的根拠に基づいた個々の対象者に対する目標設定および効果判定がなされていない点が問題である。さらに,各事業が別個に実施されているために,フォロープログラムの指導内容やその評価に,健診結果が活用しにくい点が指摘されている。


そこで我々は基本健康診査とフォロー事業とを一体化させた生活習慣病予防プログラムを開発することを目的として,その第1報として生活習慣病予防プログラムによる保健行動,特に運動および栄養行動の変容に対する効果について検討することとした。


【方法】

 研究対象者:東京都あきる野市が2001年度に実施した市民健康診査受診者で,医師によって生活習慣改善の指導が必要と判定された5名,同市が主催する保健事業参加者7名および自主活動グループ会員12名の計24名(男性4名,女性20名)を研究対象者とした。年齢は20代1名,30代2名,40代4名,50代7名,60代8名,70代2名,平均年齢は55.5歳であった。介入前後で有効データを有するものを解析対象とした。
介入方法:2001年10月から2002年3月までの6ヶ月間に,毎月1回,1回90分の健康教室を開催した。生活習慣病予防プログラムは,健診受診→ハイリスク対象者選定→健康評価(血圧,体脂肪,体力測定)→個別目標設定→個別相談〔目標行動の実践と継続⇔目標修正〕とグループワーク→健康評価(6ヵ月後)および健診受診(1年後)とした。教室の内容は各回のテーマに沿った教室でのレクチャー,運動および栄養指導,自宅での運動実践,運動・栄養セルフモニタリングとした(表)。


評価指標:介入開始前後の運動および栄養行動の行動変容段階(ステージ),運動セルフモニタリング(1日の平均歩数),3分間歩行距離,および基本健康診査での医師による生活習慣指導区分(異常なし・要指導・要医療)を評価指標とした。介入効果は前後比較法により評価した。
 

【結果】

 教室への出席率は79.2%(=114/144)であった。介入前後の運動行動段階は,無関心期(全く関心のない状態)0→0名,関心期(関心のある状態)3→2名,準備期(行動を起こす準備状態)4→5名,実行期(行動しているが継続していない状態)1→1名,継続期(継続している状態)13→13名であった。栄養行動段階は,無関心期1→0名,関心期3→0名,準備期5→9名,実行期5→5名,継続期9→9名であり,無関心期あるいは関心期から準備期以降へと変化した。

介入前1週間では1日の平均歩数は6784歩,介入期間中1ヶ月目は8198歩,2ヶ月目は6798歩,3ヶ月目は7171歩,4ヶ月目は7294歩,5ヶ月目は7900歩であり,いずれも介入前と比較して有意差は認められなかった(反復測定分散分析)。介入前後で3分間歩行距離は男性で24m(P=0.01),女性で21m(P=0.03)それぞれ有意に増加した(対応のあるt検定)。


2001年度および2002年度の市民健康診査を受診した者は22名(91.7%)であった。2001年度の生活習慣指導判定区分は異常なし5名,要指導16名,要医療1名であった。2002年度には異常なし14名,要指導8名,要医療0名となった。2001年度と比較して2002年度の生活習慣指導判定区分が改善された者は11名,変化しなかった者は10名,悪化した者は1名であった。異常なしを0点,要指導を1点,要医療を2点として年度間を比較すると,2001年度と比較して2002年度には生活習慣指導判定区分が有意に改善した(Wilcoxonの符号付き順位検定,P=0.00)。


【結論】

 本研究では,地域における基本健康診査受診者を対象として,生活習慣病リスクファクターを有する者に対して,保健行動,特に運動および栄養行動の変容を目的としたプログラムを適用することにより,栄養行動の改善,運動行動の継続,体力および医学的健康度が改善される可能性が示唆された。


本研究は比較対照を持たない前後比較デザインであるため,これらの結果が我々の考案した生活習慣病予防プログラムによる効果であると断定することができない。今後は,対象者の選定や募集方法,運動および栄養の介入(実施や継続)方法などを改良したプログラム開発が必要と思われる。

 

表 健康教室のテーマと内容

回(月日)

テーマ

内容

2001年6月

市民健康診査

生活習慣病リスクファクター保有者に受講を呼びかけ

第1回

(10/12)

健康な生活を考えよう

(血圧,体脂肪,体力測定)

オリエンテーション「健康な生活を考えよう」

グループワーク「自分の健康状態を知ろう」

第2回

(11/9)

目標を設定しよう

グループワーク「1ヶ月間の栄養・運動習慣を確認しよう」

レクチャー「日常生活への栄養と運動の活かし方」

第3回

(12/14)

行動を振り返ろう

グループワーク「1ヶ月間の行動を振り返ろう」

運動実践「ビギナートレーニング」

第4回

(1/11)

目標を再確認しよう

グループワーク「1ヶ月間の行動を振り返ろう」

運動実践「楽しくレクリエーション」「トレーニング」

第5回

(2/8)

グループで活動しよう

(血圧,体脂肪,体力測定)

地域の自主サークル,健康づくり市民推進委員の紹介

運動実践「自主サークルと一緒に運動しよう」

第6回

(3/8)

これからの生活設計

グループワーク「これからの生活を考えよう」

レクチャー「目標を再確認しよう」

2002年6月

市民健康診査

生活習慣病リスクファクターの変化を観察

 

2002 第57回日本体力医学会大会

 平成14年9月28日(土)、29日(日)
高知大学朝倉キャンパス

演題番号:1E016
発表日:2002/09/28
時刻:13:00~17:30
会場:E会場(学生会館)
発表セッション記号:Ⅰ-1202
発表セッション名:生活、健康

高齢者の生活体力維持増進プログラムが身体・精神・社会的生活機能に及ぼす短期介入効果に対する介入頻度の影響

江川 賢一1、神野 宏司1、種田 行男1、永松 俊哉1、北畠 義典1、真家 英俊1,2、荒尾 孝1

1財 明治生命厚生事業団 体力医学研究所、2東京リゾート&スポーツ専門学校

【目的】

 我々は高齢期における健康づくりにおいては、日常生活の自立性を高く維持し、QOLを向上することが重要であると考え、運動を介入手段とした健康教育プログラムを開発してきた。これまでに、このプログラムが運動習慣の形成・継続や高齢者の身体的生活機能としての生活体力の改善に有効であることを報告してきた。

 一方、高齢者のQOLは身体的生活機能のみならず、精神的および社会的生活機能とも相互に密接に関連しており、これらを総合的に評価することが必要である。また、健康づくりの現場においては、より少ない介入頻度によって最大の効果が期待されている。

 このような観点から、本研究ではこのプログラムが身体的生活機能に加えて、精神的および社会的生活機能に及ぼす短期介入効果に対する、介入頻度の影響を明らかにすることを目的とした。

【方法】

 神奈川県川崎市内4地区の老人福祉センターを利用している在宅高齢者で、同センターが1997年度より1999年度までに主催した健康フェア(対照群190名)または健康教室(介入群262名)に自主的に参加した男性133名(70.9±5.4歳)、女性319名(68.8±5.2歳)を研究対象とした。

 介入期間は各年度とも10月から翌年2月までの5ヶ月間とした。介入群はさらに介入頻度別3群、すなわち1回のみ指導(1回指導群:30名)、定期的に3回指導(3回指導群:163名)および定期的に7回指導(7回指導群:69名)に分けられた。各群とも同一の内容を、それぞれの回数に応じて介入した。

 対象者の割り付けは、個人単位での無作為割り付けが困難であることを考慮して、居住地区および参加年度ごとのクラスター割り付けとした。4群間で男女比および年齢には差が認められなかった。

 身体的生活機能は生活体力(4項目法)により評価し、男女別に総合得点を算出した。精神的生活機能は、Sheikhらの抑うつ度(簡易版GDS尺度)、社会的生活機能の指標は、岩崎らの社会的行動(趣味、運動、外出、対人交流、老人クラブ、ボランティア活動)および老研式活動能力指標により評価した。

 本研究では介入前後で、会場での体力測定および質問紙調査で有効データの得られた者を分析対象とした。前後の各得点の変化量(後値-前値)を目的変数、介入頻度を説明変数として、男女別に分散分析をおこなった。有意水準は5%未満とした。

【結果】

 介入前値は男性の抑うつ度(P=0.05)以外には、4群間に有意差が認められなかった。また、分析対象者とそれ以外の者との間では、生活体力(P=0.00)以外には有意差が認められなかった。

 男性(n=76)では、いずれの指標とも介入頻度とは関連が認められなかったが、1回のみの指導と比べて3回あるいは7回の定期的指導の方が改善傾向を示した。

 女性(n=163)では、生活体力(P=0.00)および社会的行動(P=0.04)と介入頻度のとの間に有意な関連が認められた。Bonferroniの多重比較検定の結果、生活体力は対照-3回、対照-7回、1回-7回、抑うつ度は対照-7回、社会的行動は1回-7回の各群間に有意差が認められた。

【まとめ】

 我々の考案した高齢者の生活体力維持増進プログラムを高頻度で介入することは、身体的生活機能としての生活体力のみならず精神的および社会的生活機能の改善にも有効であることが明らかにされた。

 

2001 第60回日本公衆衛生学会総会

 平成13年10月31日(水)~11月2日(金)
高松

高齢者の生活体力維持増進プログラムの開発 第7報

運動プログラムの実施状況と運動行動セルフエフィカシーとの関連

江川賢一、神野宏司、種田行男、北畠義典、永松俊哉、荒尾 孝
(財・明治生命厚生事業団体力医学研究所)

【目的】

 我々は地域高齢者の身体的生活機能の維持増進対策として「生活体力維持増進プログラム」を考案した。これまでに、5ヶ月間の介入は運動行動を変容させ、生活体力の改善効果を有することを報告した。本報では、これまでに5ヶ月間の介入に参加した者について、運動プログラムの実施状況と介入前後の運動行動に対する自己効力感(セルフエフィカシー)の変化との関係を明らかにすることを目的とした。

【対象と方法】

 川崎市内4地区の老人福祉センターが主催した健康づくり学習会に自主的に参加した262名を研究対象とした。生活体力改善のための「運動プログラム(速歩、ストレッチ、筋力体操)」および運動継続のための「支援プログラム(セルフモニタリング、個別指導)」が5ヶ月間提供された。この期間中の運動実施記録から、運動プログラム実施量(1日の歩数、速歩時間、ストレッチ実施回数および筋力体操実施回数)を算出した。介入前後に、橋本らの健康管理自信感尺度および運動自信感尺度(セルフエフィカシー)に関する自記式調査を実施した。関連性を検討するために、介入前後の得点の変化量と運動プログラム実施量について、年齢調整した相関分析を男女別に試行した。

【結果】

 男性の健康管理自信感得点の変化量と介入期間中の総歩数(n=36、r=0.41、p=0.02)、および運動自信感得点の変化量と介入期間中の総歩数(n=36、r=0.40、p=0.02)との間に正の相関が認められたが、女性では有意な関連性は認められなかった。

【結論】

 生活体力維持増進プログラムの介入による日常生活における歩数の増加は、男性における介入期間中のセルフエフィカシーの改善に有効であることが示唆された。

2001 第56回日本体力医学会大会

 平成13年9月19日(水)~21日(金)
 仙台国際センター、宮城県スポーツセンター

日本体力医学会プロジェクト研究高齢者の健康づくり事業に関する実態調査

2.高齢者を対象とした健康づくり事業の実施状況

江川賢一 財・明治生命厚生事業団体力医学研究所

 日本体力医学会プロジェクト研究「高齢者の健康づくり事業に関する実態調査」結果から、健康づくりの現場における高齢者の身体的活動能力の維持増進を目的とした健康づくり事業の実施状況について報告する。
本報は、(1)事業の重要性についての認識、(2)事業の実施状況、(3)事業の内容および(4)健康状態の把握・メディカルチェックの実施状況の調査結果を日本体力医学会会員に広く提供する。

(1)事業の重要性についての認識について
 健康づくり事業が重要である(「最も重要」、「より重要」、「同等に重要」を合計)と回答したものは、全体の98.3%であった。このうち、他の事業より重要(「最も重要」、「より重要」)であると回答したものは、全体の28.8%であり、高齢者の健康づくり事業の重要性はほとんど総ての施設で認識されている現状が明らかになった。
(2)事業の実施状況について
 健康づくり事業を実施している施設は、全体の77.0%であり、保健関連施設での実施率が高いことが明らかにされた。
 一方で、事業を実施していない理由(複数回答)については、「スタッフ不足(64.8%)」、「運営・指導プログラムが分からない(50.0%)」、「施設・設備が整っていない(41.0%)」、「予算がない(37.7%)」などの理由が挙げられた。
(3)事業の内容について
 事業に携わるスタッフ(複数回答)は、保健婦(92.4%)、栄養士(72.6%)、運動指導者(42.8%)、看護婦(28.6%)、医師(24.7%)の順であった。
 運動指導者の内訳は、旧厚生省関連の有資格者が最も多く(32.0%)、次いで旧文部省関連(10.3%)、旧労働省関連(2.9%)であり、日本体力医学会が認定する健康科学アドバイザー(平成11年現在、272名登録)は1.0%(5名)であった。
 高齢者を対象とした運動指導は、高齢者に限定して実施される(11.7%)ことよりも、高齢者を含む中高年と一緒に実施される(68.4%)ことが多いことが明らかになった。
(4)健康状態の把握・メディカルチェック体制について
 参加者の健康状態を何らかの方法で把握している施設は、全体の84.2%であり、そのうちの72.0%がメディカルチェックを実施していることが明らかになった。

 以上より、高齢者を含む中高年を対象とした健康づくり事業が広く実施されていることが明らかにされた。その一方で、高齢者に限定した運動指導はあまり実施されていない。したがて、高齢者の身体的活動能力を維持増進するための具体的な方策については、体力医学分野からの科学的根拠をもとにして、健康づくりの現場で実施可能なプログラムの開発が急務である。

2000 第59回日本公衆衛生学会総会

平成12年10月18日(水)~20日(金)
群馬

高齢者の生活体力維持増進プログラムの開発 第5報

運動プログラムの実施量と生活体力との関連性

江川賢一、神野宏司、種田行男、永松俊哉、北畠義典、真家英俊、荒尾 孝
(財・明治生命厚生事業団 体力医学研究所)

【目的】

 高齢者が健康づくりの手段として運動を実施するためには、その運動が安全で手軽に実施でき、身体機能の維持増進に効果的であることが必要である。

 本研究の目的は、我々が考案した5ヶ月間の「生活体力維持増進プログラム」で指導した運動プログラムの実施量と生活体力に対する効果との関連性を明らかにすることである。


【対象と方法】

 川崎市在住の60歳以上の高齢者で、老人福祉センターが1997年から1999年までの秋期(9月から11月)に開催した生活体力測定会(初回調査)に、自主的に参加した452名を研究対象とした。その後、介入群(262名)には5ヶ月間の生活体力維持増進プログラムを提供し、非介入群(190名)には5ヵ月後に第2回測定会を実施した。

 このプログラムは、次の3つの運動プログラムから構成された。1)速歩:毎日の平均的な歩数よりも1000歩増加、普段の歩幅よりも大股でウォーキングを1日15分、2)ストレッチ体操:体幹、肩、股関節、大腿部など全身の柔軟性を高める体操を1セット(4種目、10分程度)および3)筋力体操:体幹および下肢筋群の筋力向上のためのトレーニング(7種目:ひざのばし左右各5回、もも上げ左右各5回、腹筋5回、背筋5回、ひざ曲げ10回、かかと上げ10回、タオル運動2回の合計42回を1セット)を、体調や体力水準といった個人特性に応じて行う。プログラム参加者はこの運動プログラムの方法を健康教室において習得し、自主的に実践した時間および回数を「運動日記」として毎日記録するように指導された。

 測定会では生活体力測定(起居、歩行、手腕作業および身辺作業能力)、および習慣的に実施している運動種目、頻度および時間について自記式調査を実施し、運動による1日あたり消費エネルギー量を算出した。生活体力に対する効果は生活体力総合得点の変化量、指導した運動プログラムの実施量は介入期間中の1日あたり平均値(時間、回数)をそれぞれ評価指標とした。
 

【結果と考察】

 介入前後において測定調査の有効データ保有者(233名)について、初期値、性、年齢、消費エネルギー量を調整した分散分析の結果、介入群の生活体力は非介入群よりも有意に改善した(p=0.00)。

 さらに、関連要因を抽出するために介入群についてステップワイズ法による重回帰分析を試みた。その結果、筋力体操(β=0.19、p=0.03)が抽出され、筋力体操の実施量が多いほど生活体力に対する効果が高い関係が認められた。

 以上より、本プログラムは生活体力の維持増進に対して介入効果が認められた。また、体幹および下肢筋群の筋力向上のための筋力体操が、その効果を高める可能性が推察された。

2000 第55回日本体力医学会大会

 平成12年9月20日(水)~22日(金)
 富山市民プラザ

高齢者の生活体力維持増進プログラムを用いた短期介入効果に対する介入頻度の影響
 

○江川賢一、神野宏司、種田行男、北畠義典、真家英俊、永松俊哉、西嶋洋子、荒尾 孝
(財)明治生命厚生事業団 体力医学研究所


【目的】

 我々は、身体的生活機能を維持増進するための生活体力維持増進プログラム(体操および歩行の運動プログラムおよび運動習慣継続のための支援プログラム)を考案し、5ヶ月間の短期介入効果について報告した。

 健康づくりの現場においては、より少ない介入頻度によって効果をあげることが期待されている。そこで本研究では、プログラムの短期介入効果に対する介入頻度の影響を明らかにすることを目的とした。
 

【方法】

 神奈川県川崎市内4地区の老人福祉センターを利用している在宅高齢者で、1997年度から1999年度の毎年9月にセンターが主催した行事(健康フェア、健康教室)に自主的に参加した男性133名(70.9±5.4歳)、女性319名(68.8±5.2歳)を研究対象とした。介入期間はいずれの年度も10月から翌年2月までの5ヶ月間とした。

 研究対象者のうち健康フェア参加者を対照群(190名)、健康教室参加者を介入群(262名)とした。介入群のうち、1997年および1998年参加者(A地区)は定期的に7回介入する7回介入群(69名)、1998年参加者(M地区)は1回のみ介入する1回介入群(30名)、1999年参加者(A、M、T、N地区)は定期的に3回介入する3回介入群(163名)とした。介入頻度別4群(対照、1回、3回、7回)間で男女比(χ2検定、χ2=4.00、p=0.26)および平均年齢(分散分析、男性p=0.57、女性p=0.19)には差が認められなかった。

 介入前後に生活体力(4項目法:起居時間、歩行時間、手腕作業時間および身辺作業時間)を測定した。生活体力の性差を考慮して、男女ごとに4項目のtスコアの10分の1を合算し、総合得点を算出した。

 本研究では介入前後のデータを有する者を分析対象とした。介入前後の総合得点の変化量(後値-前値)を目的変数、介入頻度を説明変数、性、年齢および介入前における総合得点を調整変数とした分散分析、Bonferroni法による多重比較を行った。
 

【結果】

 研究対象者について介入頻度別に介入前総合得点を比較すると、男女ともに差は認められなかった(男性p=0.58、女性p=0.98)。介入群で2/3以上教室に出席した者の割合は、1回介入群(1回出席)が100%、3回介入群(2回以上出席)が83%、7回介入群(5回以上出席)が96%であった。

 分散分析の結果、介入頻度の主効果(F=16.19、p=0.00)が認められ、介入頻度が高いほど効果が高い関係が明らかにされた。また多重比較の結果、対照群と3回介入群(p=0.00)、対照群と7回介入群(p=0.00)、1回介入群と3回介入群(p=0.01)、1回介入群と7回介入群(p=0.00)との間にそれぞれ有意差が認められた。
 

【総括】

 我々の考案した生活体力維持増進プログラムは、5ヶ月間に3回以上の頻度で定期的に介入することで効果が得られることが明らかになった。


1999 第58回日本公衆衛生学会総会

 平成11年10月20日(水)~22日(金)
大分ビーコンプラザ

高齢者の生活体力維持増進プログラムの開発 第3報

短期プログラムの1回指導による効果の検討

江川賢一、神野宏司、種田行男、永松俊哉、北畠義典、西嶋洋子、真家英俊、荒尾 孝
(財・明治生命厚生事業団 体力医学研究所)

【目的】

 昨年までに我々は、5ヶ月間の運動継続による生活体力維持増進プログラムのる繰り返し指導が、高齢者の運動量を増加させ、生活体力の改善に有効であることを報告した。しかし、地域保健事業における健康教育の現場では、より少ない指導頻度によるプログラム効果が期待されている。

 そこで、本研究ではより少ない指導頻度による短期プログラムの効果を明らかにするために、介入期間およびプログラムを同一条件とした2つの運動教室を開催し、1回のみの指導に効果と繰り返し指導による効果について比較検討した。


【対象と方法】

 川崎市内のAおよびB地区の老人福祉センターを利用する在宅高齢者を対象として、運動教室に自主的に参加した者を介入群(99名、68.3±5.0歳)、生活体力測定会のみに参加した者を非介入群(120名、69.6±5.2歳)とした。

 介入群には教室での運動プログラム(生活体力維持増進のための体操および歩行)および運動継続支援プログラム(担当者による個別目標の設定および運動実施内容のセルフモニタリング)を指導した。このうち、A地区(男性5名、女性25名)では初回のオリエンテーションで1回のみの指導をした(1回指導群)。B地区(男性23名、女性46名)では初回のオリエンテーションの後、2週毎に運動教室を開催し、定期的に12回の繰り返しを指導した(定期指導群)。

 生活体力の効果を比較するために、教室前後の生活体力総合得点の変化量を算出し、介入の有無および指導頻度の2要因の2元配置分散分析を施行した。


【結果と考察】

 介入前において習慣的に運動を実施している者の割合は、両地区において有意差は認められなかった。

 介入群において、本プログラムで指導した体操および歩行の1日あたり平均実施状況(回数および時間)は、1回指導群と定期指導群との間で有意差が認められなかった。

 分散分析の結果、2要因の交互作用は認められず(P>0.05)、介入の有無(P<0.01)および指導頻度(P<0.01)の主効果がそれぞれ認められた。介入群の生活体力は対照群よりも改善し、1回指導群は定期指導群よりも改善される程度が低かった。

 以上の結果から、本プログラムは、より少ない指導頻度でも、プログラムで指導した運動量を増加させ、生活体力の改善に有効であることが明らかにされた。しかしながら、1回指導後においては生活体力の改善効果が少なかったことから、本プログラム以外での運動や、日常生活全般における身体活動量に対する増量効果が少なかったものと推察される。したがって、1回指導においては、日常生活における全般的な活動性を高める指導を加えることが必要であるものと思われる。
 

1999 第54回日本体力医学会大会

 平成11年9月19日(水)20日(木)21日(金)
 仙台国際センター、宮城県スポーツセンター

2I011

高齢者の生活体力維持増進プログラムが生活機能に及ぼす効果

第2報 精神・社会的生活機能に及ぼす効果

○江川 賢一1,神野 宏司1,種田 行男1,永松 俊哉1,北畠 義典1,西嶋 洋子1,真家 英俊1,荒尾 孝1
(1明治生命厚生事業団 体力医学研究所)


【目的】高齢者の健康度は身体的、精神的および社会的生活機能を指標として評価することが有効である。本研究では、我々が作成した生活体力維持増進プログラムが精神・社会的生活機能に及ぼす効果について検討した。【方法】対象者および群は前報と同じであり、プログラム実施前後において会場での質問紙法による調査に有効回答した者を分析対象とした。精神的生活機能の指標として抑うつ度(簡易版GDS尺度)、社会的生活機能の指標として日常生活における社会的行動、ソーシャルサポートおよび老研式活動能力指標について調査した。【結果】介入群と対照群のプログラム前後の変化量を比較したところ、介入群の抑うつ度は対照群よりも有意に改善した(p<0.05)。一方、社会的行動(p=0.10)、ソーシャルサポート(p=0.11)、老研式活動能力指標(p=0.10)については有意差が認められなかったが、いずれも介入群が対照群よりも改善傾向を示した。【まとめ】これらの結果から、我々の作成した高齢者の生活体力維持増進プログラムは、身体的生活機能のみならず精神的生活機能の改善に対しても明らかな効果が認められた。

1998 第53回日本体力医学会大会

 平成10年9月19日(水)20日(木)21日(金)
 仙台国際センター、宮城県スポーツセンター

2F003

地域高齢者の生活体力とQOL指標との関連性

○江川 賢一1,種田 行男1,北畠 義典1,神野 宏司1,荒尾 孝1,柴田 博2,渡辺 修一郎2
(1財・明治生命厚生事業団 体力医学研究所,2東京都老人総合研究所)


加齢に伴う生活体力の低下は高齢者のQOL低下の一因となることが予想される。本研究は地域代表性のある高齢者集団を対象として、生活体力とQOL指標との関連性について横断的な検討を行うことを目的とした。調査対象者は秋田県南外村在住の65歳以上の全高齢者のうち生活体力の測定が可能と思われる938名であり、そのうち実際に生活体力を測定した者で全てのデータが得られた677名(全調査対象者の72.2%)を解析の対象とした。生活体力の測定は生活体力総合動作時間により、QOL指標(ソーシャルサポート、老研式活動能力、抑うつ度、生活満足度、主観的健康度)は面接聞き取り法によりそれぞれ行った。解析は生活体力を目的変数、各QOL指標を説明変数とした重回帰分析を行った。なお、年齢を調整変数として説明変数に加え、抑うつ度と生活満足度との間に高い相関関係が認められたので、抑うつ度をそれらの代表変数とした。その結果、生活体力は男女ともに主観的健康度が良好で、老研式活動能力が高い者ほど生活体力も高い関係が認められ、さらに男性では抑うつ度が低い者ほど生活体力が高い関係を認めた。

1997 第56回日本公衆衛生学会総会

 平成9年10月16日(木)~18日(土)
 横浜

高齢者の健康づくり長期介入研究 第6報

社会・精神的生活機能の2年間の変化

江川賢一、種田行男、北畠義典、神野宏司、永松俊哉、西嶋洋子、荒尾孝、安富恵美子
10月17日(金) パシフィコ横浜会議センター P-2会場(3F314) P2-2 ポスター発表10:00~11:00
日本公衆衛生雑誌44(10)287

1997 第52回日本体力医学会大会

 平成9年9月21日(水)~23日(金)
大阪

高齢者の生活体力維持増進に関する長期介入研究 第1報

健康教育プログラムと生活体力について

江川賢一、種田行男、北畠義典、神野宏司、西嶋洋子、永松俊哉、荒尾孝
9月22日(木) リーガロイヤルホテル D会場(松の間) 2D34 口演(スライド)16:30~17:30
体力科学46(6)841

1996 第51回日本体力医学会大会

 平成8年9月18日(水)~20日(金)
 広島

高齢者の生活体力と医学的健康指標との関連性

江川賢一、種田行男、荒尾孝、北畠義典、西嶋洋子、神野宏司
9月19日(木) 広島国際会議場 E会場(コスモス) 2E073 ポスター発表15:30~16:30
体力科学45(6)737