「なんとなくおかしい」を科学する

Filbin MR et al. Presenting Symptoms Independently Predict Mortality in Septic Shock: Importance of a Previously Unmeasured Confounder. Crit Care Med. 2018 Jun 29. doi: 10.1097/CCM.0000000000003260. [Epub ahead of print]

敗血症で "vague symptoms"の患者は,explicit symptomsの患者に比べて抗菌薬の投与が遅れて死亡率が高いという結論を得た,retrospective cohort studyである.直感的に非常に実践的な臨床研究である.従来型の「診断基準」とやらは,「典型的な敗血症(この論文で言うところの明白型)とはどういうものか」というお説教,をコンセプトの中心に据え,そこからの落ちこぼれを少なくする「配慮」を取って付けただけのものだった.つまり,非定型的な=あいまい型プレゼンテーションで来院する敗血症患者さんは最初から無視している.この従来型のアプローチでは,「敗血症の見逃しはどういう誤診のされ方をしたか?」のような後ろ向き研究しかできない.そのような研究では,「では,敗血症らしくない患者さんをどうやって取りこぼさずに救い上げるか?」という切実な前向きの疑問には答えられない.せいぜい,「救急外来に来た患者全員に血培2セットやるわけにはいかないよね」ぐらいのしょーもないコメントが出てくるだけで,非定型的プレゼンテーションで来院する敗血症の患者さんは永遠に救われない.

ところが,この研究では,retrospective cohort studyというデザインによって,最初からあいまい型プレゼンテーションの方に注目している.つまり,非定型的敗血症の病像が明確になっている.だからこの論文を読んだ医師の頭の中では,鑑別診断の過程で非定型的敗血症が除外されにくくなる.このアプローチを応用すれば,例えば,「脳卒中らしくない脳卒中」の臨床研究を行い,救急外来の医師と神経内科医の間で「ウォークインでやってくる脳卒中」を共有し,患者さんの笑顔を見る確率を高めることもできる.

さて,そこで生じる疑問は,以下の通りである.
1."vague symptoms"の定義
2.では,この結果をどう臨床に生かすのか?この研究で得られた結果をそのまま臨床に適用できないと考えるのならば,その理由は何か?そしてその問題点をクリアするには,さらにどんな研究が必要なのか?

1については,explicit symptomsをまず定義して,そうではないものを"vague symptoms"と定義している.実際的で妥当なところだろう.「お告げ」の定義もこのノリで行けそうだ.下記は論文から抜粋.
Explicit and Vague Presenting Symptoms
Presenting symptoms were abstracted from nursing triage, ED physician, resident, and/or physician assistant’s notes. We developed an a priori definition of explicit presenting symptoms, as those we thought would immediately lead the clinician to consider infection, for example, apparent enough to trigger the sepsis alert (5). Symptoms were considered explicit if they included fever, chills, or rigors, cough with productive sputum, dysuria, reported skin redness or concern for soft-tissue infection, or referral for specific infection diagnosis. Additionally, measured temperature greater than or equal to 100.4ーF (38.ーC)at triage was included as explicit given its likely influence on the treating clinician to immediately consider infection. Presenting symptoms were defined as vague if they did not include any of the explicit symptoms listed above, thus making infection less apparent. For example, presenting symptoms of fatigue, weakness, and abdominal pain without fever were considered vague. Vague presenting symptom complex was the primary predictor of interest.

症候の明白・あいまいの定義
来院時の症状は看護師のトリアージ,救急外来の医師,研修医・診療アシスタントの記録から抜粋し,臨床医が即座に感染症を想定し敗血症の懸念を抱くような症候を「明白」とあらかじめ定義した.例を挙げると,発熱,悪寒・戦慄,痰を伴う咳,排尿困難,皮膚の発赤あるいは軟部組織感染を懸念させる所見,その他敗血症を疑って当該診療科に依頼する症候である.これらの自覚症状に加え,高く所見として38度以上の発熱も「明白」な症候に加えた.「あいまい」の定義は上記の「明白」な症候をいずれも欠き,感染症の可能性が明らかでない場合とした.具体的には,疲労感,脱力感,発熱がない腹痛といった症候である.これらのあいまいな症候の組み合わせを主要関心予見因子とした.

2については,このretrospective cohort studyを,今後どう発展させていくかという論題で,教育の場でのネタに使っていただければと(^^;).

→参考:「脳卒中らしくない脳卒中」の研究

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