アロステリック効果
【アロステリック効果とは】
アロステリック効果とは(allosteric effect)、酵素や受容体、阻害物質などの蛋白質の機能を、エフェクターと呼ばれる他の化合物が標的蛋白質の活性部位やリガンド結合部位ではない部位(アロステリックサイト)に結合することで、その活性状態を調整される現象です。エフェクターによって標的蛋白質の立体構造が変化することで起きます。「allosteric」の名詞形の「allostery(アロステリー)」は、ギリシャ語の「異なる」という意味の語「allos」と「形」という意味の語「stereos」を組み合わせて作られました。分子の「形」に注目したアロステリック効果は、シグナル伝達や酵素活性化および遺伝子制御など多くの蛋白質が備えている一般的な現象ではありますが、その詳細なメカニズムに関しては十分には解析されていないのが現状です。輸血関連領域ではアンチトロンビンやヘモグロビンが代表的なアロステリック蛋白質です。

【アンチトロンビンとアロステリック効果】
アンチトロンビンはトロンビンや凝固第X因子などの生理的インヒビターです。単独でもトロンビンや活性型凝固第X因子を阻害することができますが、その速度はゆっくりとしたものです。このアンチトロンビンにヘパリンが結合すると立体構造が変化し、その阻害速度が促進されます。ヘパリン結合部位はアンチトロンビンの阻害活性の中心部位とヘパリン結合部位とは1次構造の上でも3次構造の上でも離れた部位にあり、この意味でヘパリンはアンチトロンビンに対してアロステリック効果があると言えます。ただしヘパリンによる阻害速度促進作用はヘパリンの分子量によって阻害する酵素に対する特性が異なり、分子量が小さなフォンダパリヌクス(商標名アリクストラ)や低分子ヘパリン、また硫酸基の数が少ないヘパラン硫酸(商標名オルガラン)などでは活性型凝固第X因子に対する阻害速度促進効果が発揮されますが、トロンビンに対する阻害速度はあまり促進されません。一方分子量が大きい未分画ヘパリンでは活性型凝固第X因子に対する阻害速度促進効果のみならず、トロンビンに対する阻害速度促進効果も発揮されます。トロンビンに対する阻害速度促進作用発現には、アンチトロンビンに対する結合のみならず、同一ヘパリン分子上でトロンビンと結合することもまた重要であると考えられています。この意味ではヘパリンのアンチトロンビンに対して反応の場を提供しているとも言えます。

【ヘモグロビンとアロステリック効果】
ヘモグロビンの場合は、さらに複雑で、それぞれのヘモグロビン蛋白(例えば、HbAにおける一つのヘムとα鎖)は酸素との結合には一定の平衡定数が存在します。しかしそのヘムに酸素が結合すると、グロビン鎖(α鎖)の立体構造が変化し、その変化は、残りのグロビン鎖(もう一つα鎖と二つのβ鎖)の立体構造を変化させます。この変化によってそれぞれのヘモグロビン蛋白に存在するヘムの酸素結合定数が変化し、酸素と結合しやすくなります。同じヘム蛋白でも、ミオグロビンのそれぞれのヘムにはヘモグロビンのようなアロステリック効果はありませんので、ヘムの酸素結合と酸素濃度の間の関係は単純な濃度依存関係です。これに対して、ヘモグロビンのヘムの酸素結合と酸素濃度の関係はS字状の変化を示し(シグモイドカーブ)、このような作用により、酸素濃度の高い所では単独のヘムよりも効率的にヘモグロビンは酸素を取り入れることができます。