理事長あいさつ2014.11 of 日本甲状腺外科学会

 このたび、吉田明前理事長のあとを受けて日本甲状腺外科学会の理事長を務めさせていただくことになりました。本学会の更なる発展に向けて努力して参りたいと存じますので、どうぞ宜しくお願いいたします。
日本甲状腺外科学会は検討会として昭和43年(1968年)に設立された伝統ある学会です。外科・耳鼻科などの外科系診療科のみならず、内科・病理・放射線科・核医学科など診療科の枠を超えた会員の参加により甲状腺・副甲状腺外科を常にリードしてきました。甲状腺外科検討会として設立された当初から、甲状腺外科に関する熱い質疑応答が交わされるというのがこの会の伝統です。1998年に甲状腺外科研究会と名前が変更になりましたが、施設会員が中心である形態はそのまま引き継がれました。2006年に日本甲状腺外科学会に発展し、施設会員ではなく個人会員中心の学会となりました。学会となりましたが、甲状腺外科に関して熱く議論するという伝統は受け継がれております。専門医制度の維持管理、日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌の発行、甲状腺癌登録、NCDデータ利活用、甲状腺癌取扱い規約改定など、学会として取り組むべきことは多く、必要な作業を行っていく所存です。これからも継続して甲状腺外科に関する標準的医療の確立・普及、先進的医療の開発、若手臨床医・研究者の育成、甲状腺外科に関する社会的責任など、この学会に課せられた多くのミッションを滞りなく遂行していくよう努力いたします。

 最近の本学会でのトピックスとして甲状腺癌に対する治療戦略の見直しが挙げられます。長年本邦での甲状腺癌に対する標準的術式であった甲状腺亜全摘術が近年減少し、甲状腺全摘術もしくは甲状腺葉切除術に二極化したことは大きな転換点でした。これは2011年に本学会と日本内分泌外科学会で刊行した「甲状腺腫瘍診療ガイドライン」の役割が大きかったと考えます。時期を同じくして外来アブレーションが可能になったことも甲状腺全摘術が増加する要因となりました。2014年には甲状腺癌に対して分子標的薬が保険収載されましたが、分子標的薬の適応基準は甲状腺全摘後の放射性ヨウ素内用療法抵抗例であること、かつ進行が速いことです。こうした新しい治療戦略の一環としても、甲状腺癌に対して甲状腺全摘術が選択されることが増加すると考えられます。

 海外の状況をみると日本より先んじること25年、1990年ころから甲状腺全摘術が癌に対する術式として注目されてきました。様々な意見がある中で、甲状腺全摘術の甲状腺癌手術に対する適応は、海外においていち早く普及しました。しかし海外では副甲状腺機能低下症などの合併症を軽減するため甲状腺準全摘術が多く行われているところもあります。甲状腺準全摘術後であっても海外では放射性ヨウ素の使用制限が緩いためアブレーションが可能です。残念ながら日本では外来で使用できる放射性ヨウ素は30mCiまでと決められており、より大量の放射性ヨウ素でアブレーションを実施できる入院病床が不足しています。従って甲状腺準全摘術ではアブレーションの成功例は限定されます。日本ではアブレーションを考慮すると外科医が甲状腺準全摘術ではなく甲状腺全摘術を行わざるを得ない環境にあります。反回神経を確認・温存し、副甲状腺機能を温存した甲状腺片葉切除術を適切に行えることが甲状腺外科医としての基本です。この手技をマスターすれば安全に甲状腺全摘術は行えます。そのための手技の詳細を含む教育、および使用できる器械などの情報を学会として様々な機会を捉えて提供できればと考えます。甲状腺外科学会へ入会した外科医が専門医資格を取得するころには、甲状腺全摘術を合併症なく実施できるようになり、内科や放射線科の先生方から信頼を得られるようになることが目標です。

 2011年の東日本大震災との関連では、東京電力福島第一原子力発電所の事故により放出された放射性物質による影響調査のため、福島県民健康管理調査事業が継続して行われています。甲状腺外科学会としても甲状腺外科の専門医集団として引き続き必要なサポートを行っていく所存です。上述の活動を含め甲状腺外科に卓越した医師を育成すること、甲状腺外科技術のさらなる発展を目指していくことが、本学会としての社会的責任を果たすことになると考えております。会員の皆様、学会支援者の皆様には、なにとぞより一層のご協力を賜りますよう心よりお願い申し上げます。

2014年11月
日本甲状腺外科学会
理事長 今井常夫
愛知医科大学 乳腺・内分泌外科