躁うつ病の罹患経験を活かして、医師を目指しているのですが

 

Q: 私は現在40歳代ですが、双極性障害の原因がほとんど解明されておらず、対症療法を行うほかないことにいらだちも感じてきました。できれば、医学部医学科への入学を検討しています。罹患経験者がこのような志をもつことについて見解を聞かせて頂ければ幸いです。

 

A: 別の質問にもお書きしましたが、一般論としては、双極性障害だからといって、職業選択にはほとんど制約はないと思います。ただし、徹夜が多い仕事やシフト勤務などは、双極性障害の病状を悪化させるので望ましくないと思います。急速交代型の双極性障害の患者さんで、起きる時間と寝る時間を一定にしただけで、病状が安定したとの報告がありますし、たった一晩の徹夜(断眠)でも、躁状態を引き起こすきっかけになると言われています。そういう意味で、医師や看護師の中でも、特に当直やシフト勤務があるような職場は、あまり都合が良いとは言えません。(ちなみに、躁うつ病研究で有名な、「躁うつ病を生きる」の作者、Jamison博士は、医師ではなく心理士ですので、多分当直はなさっていないと思います。)

 なお、完全に病気を自覚し、自己コントロールができている場合のみ、医師という選択肢を考えるべきだと思います。十分に病気を自覚し、コントロールしているのでなければ、再発時に、クライアントである多数の患者さんに多大な影響を与える可能性があるからです。もしも双極性障害が十分にコントロール出来ていれば、病気を克服した経験を持っておられることは、プラスに働く面もあるかも知れません。

 ただ、通常は大学を受験するのは18〜20歳頃ですので、40歳で受験すると、一人前の医師になってから活躍できる期間がどうしても短くなってしまいます。大学側としては、医師一人を育てるために多額の資金と人手を要することや、研修医が一人前の医師になるまでの間には、多くの患者さんの暖かいご支援が必要なこともあって、なるべくなら長く医師として働いてくれそうな、若い学生を取ろうとするかも知れません。しかし、多くの大学では受験に年齢制限があるわけではありませんし、日野原重明先生のように、90歳を過ぎても現役で医師をされているという素晴らしいパワーを持っておられる先生もおられるので、もちろんケースバイケースでしょう。

 私も40歳を過ぎて、「人生には限りがある」ことを自覚するようになってきました。限られた時間の中で、私が今何をすれば最も社会貢献できるか、真剣に考えねば、と思ってしまいます。

医師になる以外にも、様々な形で、躁うつ病の原因解明と克服のために、貢献していただけることがあると思います。もちろん、ご自身が病気を完全に克服し、普通に仕事や家庭を持ち、今後同じ病気にかかった人達のために、良い目標となっていただくだけでも、十分に貢献していると思います。もっと高いレベルでの社会貢献の方法としては、例えば、精神保健福祉、薬の開発研究、躁うつ病についての啓発活動など、医師になる以外にも、多くの方法が考えられるのではないでしょうか? 特に現在お仕事を持っておられるのでしたら、医師にはできない形での社会貢献ができると思いますし、これから改めて時間をかけて医師になって活動するよりも、もっと有効に時間を使えるかも知れません。

 

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