<2015年10月掲載>
公衆衛生専門職大学院で学ぶ意義
九州大学大学院医学系学府医療経営・管理学専攻修了生
参議院議員 薬師寺 みちよさん
臨床しか知らなかった専門バカの私が専門職大学院で学んだこと、それは大局的・多角的視点を持ち、ロジカルシンキングやクリティカルシンキングを標準装備する重要性であった。
専門職ヒエラルキーを特徴とする医療界では、これらのスキルを身に着ける機会は極めて乏しい。私も専門職大学院で、初めて様々な職歴を持った仲間と徹底的に議論を交わす機会を得て、その楽しさに興じた。さらに講師の導きによって、グローバルスタンダードで物事を考える重要性に触れ、視野の狭さを恥じた。この経験が自分の人生観を変え、新たなキャリアの道を切り開く大きな切っ掛けとなった。
専門職大学院という即戦力を持った高度な専門職業人を育成するカリキュラムでは、医療版MBAと言われるに相応しく、リーダーシップ論や組織論など、社会の中で人・物・金・情報をマネージメントしていく方法論も学ぶ。今、正に、この即戦力、日本の医療・介護・福祉を支える力が枯渇しているのである。
全国隅々に至るまで厚労省が舵取りを行ってきた医療・介護。福祉の金太郎あめ方式も限界を迎え、地方への権限移譲の波が止まらない。とりわけ医療・介護のかじ取りは、一歩間違うと、地方財政が危機に瀕する可能性を孕んでいるため、地域特性を活かし医療・介護をマネージメントできる人材は、地方の宝に等しい存在である。
地域医療構想について、国は地域医療介護総合確保基金への財政支援を行っているが、地域医療構想策定は都道府県任せ。医療費適正化計画についても、都道府県が医療費の目標を定めなければならない。平成30年には国保の財源運営も、都道府県が責任を負うこととなっている。医療提供体制の現状や患者の医療状況、地域の医療構想策定方法などに精通した専門家がほとんど存在しない中、都道府県の負担は重くなる一方である。
保健所もまた、災害・自殺・新型感染症・依存症対策など、新たに発生する社会問題に対し司令塔となることが要求されている。しかし、全国の保健所長の約1割は他の保健所長の職務を兼務しており、地域保健の現場も人材不足に見舞われている。
地域を動かし国を動かし、国家経営・地域経営の一翼を担う医療経営管理人材の育成が急務である。私も、持続可能な社会保障制度の構築に社会的責任を見出し、歩み始めた。今後も大学院で得た貴重な仲間と共に議論を交わしながら日本の未来を見つめ続けていきたい。
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