理学療法学研究における『予防』

第49回日本理学療法学術大会 『予防』関連演題

<全体総括>

第49回日本理学療法学術大会(横浜)に演題登録された抄録から「予防」で演題・キーワード検索を行って抽出された63件について,予防の分野別(下記参照)に分類した.
演題数が多かったのは,「2.スポーツ活動や就労による傷害予防」と「3.介護予防,転倒予防,認知症予防,虚弱高齢者の管理」についてであり,細かく分類するとスポーツ活動による傷害予防が13件,介護予防が6件,転倒予防が20件と多くみられた.さらにその中でも分野は細かく分かれ,演題テーマが重複するものは多いもので3件程度であった.また,他の分野からの報告も1〜2件ずつ幅広く報告がなされていた.エビデンスの蓄積という観点からみると,今後は各分野の演題数増加により議論が深まることを期待するとともに,「5.予防の社会的支援,制度設計に資する科学的検証」において分野共通課題を共有し,予防理学療法を社会へ浸透させていくプロセスへと進むことの必要性も感じられた.

<分野>

1.健康増進,ヘルスプロモーション,一次予防
2.スポーツ活動や就労による傷害予防
3.介護予防,転倒予防,認知症予防,虚弱高齢者の管理
4.再発予防に資する運動習慣,行動変容
5.予防の社会的支援,制度設計に資する科学的検証
6.二次的障害の予防(周術期,廃用),その他


<各分野総括>

<各分野総括:ダイジェスト>

1.健康増進 ,ヘルスプロモーション,1次予防
県士会公益事業部で取り組んだ歩行年齢測定会の結果を基に,理学療法士が国民の健康寿命延伸や,転倒予防活動に積極的に参加することの重要性について述べた報告が1件みられた.

2.スポーツ活動や就労による傷害予防
スポーツ活動による傷害・障害予防に関しては,前十字靭帯損傷予防が4件,投球障害予防が5件,大学陸上競技・マスターズ水泳・高校生のスポーツ活動における障害調査が各1件,熱中症予防が1件みられた.研究手法として,傷害につながる動作解析や,コンディションチェックによるハイリスク者抽出を試みた報告が多く見られた.就労による傷害・障害予防に関しては,移乗介助時の腰痛予防に取り組んだ報告が1件みられた.

3.介護予防,転倒予防,認知症予防,虚弱高齢者の管理
介護予防・虚弱高齢者の管理については,要支援者の運動機能,うつ病,認知機能,運動習慣,生活空間の広がりなど認定状況悪化に関連する因子について検証した報告が4件,介入方法として短時間通所リハや介護予防特化型デイサービスの効果検証を行った報告が各1件見られた. 転倒予防については,運動機能,バランス能力,合併症,睡眠,高次脳機能,認知機能,履物,栄養などのリスク因子を検討した報告が14件みられた.また,急性期病院における退院時転倒予防指導,転倒予防教室などの介入状況・効果を検証した報告が4件みられた.骨密度に関連する因子の検討も3件みられた. 認知症予防については,二重課題による認知機能向上効果を検証した報告が1件みられた.

4.再発予防に資する運動習慣,行動変容
再発予防に資する運動習慣・行動変容については,高齢者の自主的なホームエクササイズのアドヒアランスを高める因子を検討した報告が1件,一次予防高齢者に対する長期間の運動介入が健康関連 QOL,特に精神的側面の向上に寄与するという報告が1件,慢性心不全患者の再入院率減少を目的としたチームでの患者教育を行った効果を検証した報告が1件みられた.

5.予防の社会的支援,制度設計に資する科学的検証
予防の社会的支援,制度設計に資する科学的検証の分野については,介護予防的視点から生活を支えると題したモーニングセミナーと,東日本大震災後の高齢者の住環境と運動機能について検証し被災地での今後の計画的な取り組みの必要性について述べた報告が1件みられた.

6. 二次的障害の予防(周術期,廃用),その他
物理療法を使用した褥瘡治療と発症予防に関するシンポジウムが1件,廃用症候群や悪液質による筋委縮を予防するための活動量・チーム医療・栄養サポートについて6件,心臓・消化器外科術後の術前リハによる術後合併症予防について2件,院内感染症予防について2件,深部静脈血栓症を予防する為の効果的な運動方法について2件,変形性膝関節症の軟骨下骨変化予防のための運動方法について1件,関節拘縮予防のための温熱療法について1件の報告がみられた.