雲の王:川端裕人(集英社2012)

 
 

事実が複雑に入れ子になる川端作品は「司馬史観」に近い状態で、科学や技術の事実と小説としての物語が複雑に交錯する。読み分けが難しい作品もあるが、この作品ではそれほど苦労はしなくても済む。男は「外番」として各地に散り気象を読み解くが能力が失われる。しかし、美晴の兄のように科学を体系化し、外番を抽象化して公式へ導く。

黒木や高崎は一族ではなく、気象庁職員として出てくる。数値予測GPSなど新規技術の導入は着実に進行している。黒木や高崎の人としての物語をノンフィクションで読むならば、人と技術で語る天気予報史(古川武彦 東大出版会)を参照する事をお勧めする。

男は早くに気象を予知する能力を喪うらしい