米英何するものぞ
−国粋主義学会によるガラパゴスガイドライン−

1. 韓国にも負けている

無症候性高尿酸血症に対する効能効果





×
×
×
○承認あり ×承認なし
詳細については→こちらの表をご覧ください

こうなったのは,日本におけるフェブキソスタットの承認申請データパッケージが,純国産だったからだ と帝人ファーマは説明している(フェブキソスタット審査報告書).確かに審査の対象になっているのは国内治験だけで,海外臨床試験は参考資料の位置づけに留まっている.では,日本では純粋に国内開発だったから,日本独自の効能効果が認められたのだ とでも言いたいのだろうか?

●では,国際共同治験がデフォルトの時代に,なぜ国内開発となったのか?何よりもスピードを重んじる製薬企業の,よりによって自社創製品の自国承認が世界で最も遅れたのはなぜか?(フェブキソスタットの承認は,欧州が2008年4月,米国が2009年2月,韓国が2009年6月なのに対し,日本での承認は世界最後発の2011年1月)
そこまで遅らせてまで,国内開発にこだわったからには,その結果,無症候性高尿酸血症という名のガラパゴス効能効果を支持する特別なエビデンスが得られたのか?

まず,表に示すように,国内外で推奨用量が異なっている.

フェブキソスタット承認推奨用量




40
80
120
80

これは国内外でそもそも用量設定試験自体が異なっている=同じ用量に対応するエビデンスも内外で異なっていることを意味する.そこで審査報告書を読んでみる.
そうすると,用量反応比較試験(対象患者は痛風あるいは無症候性高尿酸血症)で,
●血清尿酸値6.0mg/dL以下達成率が40mg群82.9%,60mg群83.3%,80mg群87.8%と,40mgより増量する意義が認められなかったこと
●痛風性関節炎の有害事象が80mgで22%と高率だったこと
といった理由から,海外での承認用量80mgが排除されてしまったからだ.その結果,海外第V相試験の結果が外挿できず,改めて国内で第V相試験を行わなくてはならなかった.
そこで改めてアロプリノール200mgを対照にして痛風あるいは無症候性高尿酸血症患者対象でフェブキソスタット40mgの非劣性を検証する試験を行ったところ,血清尿酸値変化率の非劣性は証明されたが,一方で,痛風性関節炎の有害事象がアロプリノール群5.8%だったのに対し,フェブキソスタット群9.0%と高かったため.

2.ガラパゴスガイドライン
対米追従主義者が圧倒的多数を占める日本の医学界の中で,米英何する者ぞとばかりに,彼の国における研究成果も規制も全て無視したガイドラインを出した学会がある.それが,『Minds から「非常に完成度が高い」ときわめて高い評価』をもらったと称する(*),高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン改訂第 3 版を2018年12月に公開した,日本痛風・核酸代謝学会である.このガイドラインは,2018年3月(つまりガイドライン第3版が出る9ヶ月も前)に公開されたCARES試験の結果や,それに基づいてFDAが改訂した注意喚起(下記)を完全に無視して,フェブキソスタットの有用性を高らかに謳っている.(*2019年3月末現在,Mindsのサイトには,2012年に出た第2版しか掲載されておらず,第3版の影も形もない.Mindsの「きわめて高い評価」とは,日本痛風・核酸代謝学会のガイドライン作成者がたまたま聴いた幻聴だったのだろうか?)

高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン改訂第 3 版は以下のようにフェブキソスタット(どさくさに紛れてトピロキソスタットとともに)を「史上初の腎機能低下抑制作用を示した尿酸降下薬」()として絶賛し,腎障害を有する無症候性高尿酸血症にもどんどん使いましょうと推奨している.
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腎機能低下抑制に新規尿酸生成抑制薬を推奨  高尿酸血症・痛風治療GL発刊 日刊薬業 2019/1/17
日本痛風・核酸代謝学会は「高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン」(第3版・GL)を作成、発刊した。新規にクリニカルクエスチョン(CQ)と推奨を設けたのが特徴。尿酸生成抑制薬のフェブキソスタットとトピロキソスタットを新規に記載し、両薬剤が中等度の腎障害を有する高尿酸血症に単独で使用できることや、腎機能低下を抑制する目的で使用することを条件付きで推奨した。GL は2010年以来の改訂となる。前回との大きな変更点として、7課題のCQと推奨を作成したほか、高尿酸血症の新規病型分類、動脈硬化や心不全、小児の高 尿酸血症などの項目を新たに追加した。CQでは、臓器保護のために尿酸降下薬を使用するか否かについて、腎障害を有する高尿酸血症患者に対しては「腎機能 低下を抑制する目的に尿酸降下薬を用いることを条件付きで推奨する」(エビデンスレベルB)とした。(後略)
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『史上初の「降圧を超えた効果」を示したアンギオテンシン受容体拮抗薬』なあんてキャッチコピーもありましたっけ.

3.あくまで「痛風治療薬」!無症候性高尿酸血症への投与や臓器保護にはエビデンスなし!!それどころかフェブリクには心血管イベントリスクが
CARES試験の結果は以下の通りである.(参考:見捨てられたフェブリク
●主要評価項目である4MACE (four-component major adverse cardiovascular event (cardiovascular death, non-fatal myocardial infarction, non-fatal stroke, and unstable angina with urgent revascularization)は,フェブキソスタット群335例(10.8%),アロプリノール群321例(10.4%)に生じ,アロプリノールに対するフェブキソスタットの非劣性が証明された.
●一方,全死亡,心血管死亡のハザード比はそれぞれ,1.22 [1.01-1.47],1.34 [1.03-173]で,ともにフェブキソスタット群で上昇していた.

CARES試験の結果を踏まえたFDAの添付文書改訂:FDAはCARES試験の結果を踏まえ,以下のようにフェブキソスタットの心血管イベントリスクを,最高レベルの注意喚起である黒枠警告として明記した上で,第一選択はあくまでアロプリノールであり,アロプリノールと比較してリスク・ベネフィットバランスが劣ることが明らかとなったフェブキソスタットの位置づけを格下げした.
●黒枠警告
心血管疾患の既往のある痛風患者では,アロプリノール治療群に比べてフェブキソスタット群で心血管死が多かった.UROLIC(フェブキソスタットの商品名)を新たに処方するあるいは継続するにあたっては,そのリスク並びにベネフィットを考慮すること.UROLICの処方は,アロプリノールを最高用量まで増量しても十分な効果が得られない場合,あるいは,アロプリノールに不耐性の場合,あるいはアロプリノールの服用が薦められない場合に限ること.
効能効果の改訂
UROLICの処方は,アロプリノールを最高用量まで増量しても十分な効果が得られない場合,あるいは,アロプリノールに不耐性の場合,あるいはアロプリノールの服用が薦められない場合に限ること.
UROLICは無症候性の高尿酸血症には推奨されない.

英国添付文書もあくまで痛風を来した高尿酸血症に対して効能効果を認め,無症候性の高尿酸血症には効能効果を認めていない
ADENURIC is indicated for the treatment of chronic hyperuricaemia in conditions where urate deposition has already occurred (including a history, or presence of, tophus and/or gouty arthritis).
また,心血管イベントリスクに関しては以下のように警告している
4.4 Special warnings and precautions for use
Cardio-vascular disorders
A numerical greater incidence of investigator-reported cardiovascular APTC events (defined endpoints from the Anti-Platelet Trialists' Collaboration (APTC) including cardiovascular death, non-fatal myocardial infarction, non-fatal stroke) was observed in the febuxostat total group compared to the allopurinol group in the APEX and FACT studies.

さらにNICEのガイダンスもフェブキソスタットの位置をアロプリノールの格下と定めている
1.1 Febuxostat, within its marketing authorisation, is recommended as an option for the management of chronic hyperuricaemia in gout only for people who are intolerant of allopurinol (as defined in section 1.2) or for whom allopurinol is contraindicated.
1.2 For the purposes of this guidance, intolerance of allopurinol is defined as adverse effects that are sufficiently severe to warrant its discontinuation, or to prevent full dose escalation for optimal effectiveness as appropriate within its marketing authorisation.

4.そもそも日本発のエビデンスが臓器保護効果を否定している
●ニュルンベルク綱領違反のFREED研究が,そもそも研究の体を成していないことについては,別途説明した.
腎機能保護効果でプラセボに勝てなかったFEATHER研究については,日本痛風・核酸代謝学会は触れたくないらしいので(*1),以下に同研究の要点を挙げる.(参考:高尿酸血症で腎機能を保持できるか:FEATHER studyの結果概要発表
デザイン
−対象:慢性腎臓病(CKD)ステージ3a、3b〔推算糸球体濾過量(eGFR)30〜59mL/min/1.73m2〕と中等度の腎機能障害を伴う高尿酸血症で痛風の既往がない患者..
−プラセボ対照二重盲検RCT:467例が登録され、443例がフェブキソスタット(40mg/day)群とプラセボ群に割り付けされた.観察期間は2年(108週間)
−主要アウトカム項目:eGFRの傾き(1年間あたりの変化量)
結果
-主要評価項目であるeGFRの傾きはフェブキソスタット群(0.23±5.26mL/min/1.73m2)とプラセボ群(-0.47±4.48mL/min/1.73m2)の間に有意差が認められなかった(differecne 0.70; 95% CI, -0.21 to 1.62; P=01.).この結果はCKDステージで層別解析しても同様だった。
-副次解析項目のeGFRの30%減少や透析導入などのイベントにも両群間に有意差は認められなかった.
-痛風関節炎の発現率はプラセボ群の5.86%に比べ、フェブキソスタット群では0.91%と有意に低かった.(*2)
考察
主要評価項目であるeGFRの傾きが両群間で差を認めなかったその理由として、プラセボ群でも追跡期間を通じてeGFRが良好に維持されていたこと,それに寄与した要因として、両群とも血圧がほぼ130/80mmHg未満に安定的に管理されていたことが挙げられた.(*3)

*1FEATHER Studyの上記結果は2017年5月に仙台で開催された第60回日本腎臓学会学術総会で発表されていた.これは,このガイドラインが出る18ヶ月前である.また,同様の内容は,2018年2月(ガイドラインの出る10ヶ月前)に米子で開催された,第51回日本痛風・核酸代謝学会でも発表されていた.
*2たまたま得られた結果とはいえ,これだけ著明な差は偶然とは考えられない.この結果だけを取り上げれば,中等度の腎機能障害を伴う高尿酸血症では,痛風の既往が無くてもフェブキソスタットの投与を考慮すべきだということになろうが,一方でCARES試験で示された心血管死リスクがあるので,そのトレードオフを考えると,二の足を踏むことになろう.
*3結局,eGFRの悪化防止には血圧コントールが一義的に重要であり,高尿酸血症の治療を考えるとしても,これもCARES試験で示されたフェブキソスタットの心血管死リスクを考えると,やはりアロプリノールを選択することになるだろう.

5.まとめ
まとめると,日本痛風・核酸代謝学会による高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン改訂第 3 版は,以下の点で米国・英国規制当局の見解と真っ向から対決し,見事なまでに国粋主義に満ちあふれた,ガラパゴスガイドラインとなっている.
1) 無症候性の高尿酸血症に対するフェブキソスタットの投与を推奨している.
2) エビデンスがないにも関わらず,どういうわけかフェブキソスタットに腎機能障害進行抑制効果を認め,腎機能障害患者への投与を推奨している.
3) 一方で,CARES試験で認められたフェブキソスタットの心血管イベントリスクを無視している.
4) フェブキソスタットはアロプリノールよりも優れた,高尿酸血症に対する第一選択薬として位置づけている.
5) 以上より,本ガイドラインは,帝人ファーマの利益には貢献しても,患者の利益に貢献しない.

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