東京大学医学部呼吸器内科第517研究室は、主に呼吸器の診療や呼吸器疾患に関わる分野において、基礎医学から臨床診療にまでわたる医学研究に、興味・関心を持つ医師・医学研究者が集い、呼吸器医学の進歩・発展を願う研究室です。
歴史的な背景としては、東京大学物理療法内科(物療内科)時代(1988年以前の内科再編前)に、大田健先生(現国立病院機構東京病院院長)と石井彰先生(現東京学芸大教授)が第17研究室として立ち上げられ、滝澤始教授(現杏林大学第一内科教授)により現在の形ができ、幸山正教授(現帝京大学溝口病院教授)へと引き継がれ、2012年8月より、私が引き継いでおります。代々伝わる「自由闊達な研究」を基調に、今後の「呼吸器診療の進歩・発展」に向けた研究を、研究室一同、目指しております。
呼吸器疾患は、気道・肺胞・ガス交換・循環・胸郭などにおいて、炎症・感染・免疫異常などを介して、大気環境・抗原・薬剤などの様々な要因により、その病態を形成し、病状・症状が出現することになります。気管支ぜん息・慢性閉塞性肺疾患・間質性肺炎・肺線維症・サルコイドーシス・呼吸器慢性感染症(非結核性抗酸菌症・アスペルギルス症)・薬剤性肺炎などの診断名(表現型)がありますが、個人個人おいてその病態が存在し、必ずしも、その病態と診断名は、一対一対応とは限らず、その病態と診断が、複雑に関連しておりますが、個々の病態とそれに応じた治療が選択されるべきであります。近年、疾患毎にガイドラインが充実され、医療の標準化が統制される一方で、層別化医療や個別化医療といった医療の必要性が着目されつつあるものの、未だそれらが確立されるまでには程遠い道のりの存在を感じているのも現状でもあります。我々は、呼吸器疾患の研究において、病態・病状に則した現象を追求しながら、その成果が呼吸器診療につながるように日々研究をすすめております。
我々の517研究室がある東研究棟は、大都会東京にありながら、レンガ造りの建物にツタがからまり、夏になれば蝉の鳴き声が暑さを盛り上げてくれて、秋には落ち葉でいっぱいになります。そして冬は隙間風。古色蒼然とは何たるかを若い人々にも示してくれる建物です。ここには、張りつめた空気は存在しません。重みある歴史の中を流れる風に触れることができる喜びと、新たなる未来への開拓への希望が満ち溢れています。
我々も、新しい世界を見据えた研究に向けて、日々努力しております。