年間報告 Annual Report (-2001)
日本肝移植研究会
−Registry by the Japanene Liver Transplantation Society−
The Japanese Liver Transplantation Society
One thousand eight hundred and five liver transplants have been performed by December 31,2001 in 45 institutions in Japan. There were 1789 1iving-donor transplants and 16 cadaveric transplants(14 heart-beating donor and 2 non-heart beating donor). Number of living-donor transplants in each year has been increasing since 1989 and reached 417 in 2001. Most popular indication was cholestatic disease. As for the graft liver in living-donor cases, right lobe graft has been increasing(203 in 2001). Patient survival following transplantation(heart beating donor;1-year 78.6%, 3-year 78.6%, 1iving-donor;1-year 79.9%, 3-year 77.8%, 5-year76.4%, 10-year 69.2%)was not largely different from graft survival(heart-beating donor;1-year 78.6%, 3-year78.6%, 1iving-donor;1-year 79.2%, 3-year76.9%, 5-year75.0%, 10-year66.5%).
Keywords: Japanese Liver Transplantation Society, Registry, Cadaveric liver transplantation,Living-donor liver transplantation, Prognosis
(I) はじめに
日本肝移植研究会は,1992年より肝移植症例の登録を開始し,これまでに1998年,2000年に集計結果を誌上報告してきた(1,2)。今回2001年末までの肝移植症例の集計を終了したので,その結果を報告する。なお,前2回の報告と異なり,今回はわが国で行われた肝移植のみについての報告である。
(II) 対象と方法
1992年の登録開始以来,レシピエント・ドナー合わせて25項目からなる登録用紙を年1回各施設に送付・回収する方法によって,登録業務を行ってきた。しかしながら,この方法では移植症例数の逐次の把握が行えない欠点があった。そこで,2001年5月より登録方法の改定を行った。すなわち,レシピエント情報9項目のみからなる簡易な一次登録用紙(「肝移植実施報告用紙」)を各移植施設にあらかじめ配布しておき,移植当日または翌日にこれに記入し事務局宛にFAXしていただくこととした。なお,このデータをもとに年1回各施設に詳細な二次登録用紙を送付・回収することにより,レシピエントおよびドナーについてデータの追加を行う予定であるが,二次登録用紙の内容は現在検討中である。
今回の集計対象は2001年末までにわが国で施行した肝移植症例である。旧登録用紙を用いて登録された1998年3月末までの肝移植症例と,新一次登録用紙を用いて2001年7月末日までに登録された症例のうち,移植日が2001年末までの症例を対象とした。
累積生存率はKaplan-Meier法で算出し,有意差の検定はLog Rank Testで行った。
<協力施設二45施設>
愛媛大学(3),大阪医科大学(3),大阪市立大学(4),大阪大学(18),岡山大学(38),鹿児島大学(1),神奈川県立こども医療センター(24),金沢医科大学(17),金沢大学(5),北里大学(3),九州大学(70),京都大学(770),熊本大学(19),群馬大学(7),慶應義塾大学(52),神戸大学(5),国立病院岡山医療センター(3),自治医科大学(10),島根医科大学(1),昭和大学(1),信州大学(165),千葉大学(5),筑波大学(9),東京医科歯科大学(3),東京医科大学(4),東京女子医科大学(81),東京大学(156),濁協医科大学(2),東北大学(52),徳島大学(2),長崎大学(18),名古屋市立大学(46),名古屋大学(19),奈良県立医科大学(4),新潟大学(21),日本医科大学(6),日本大学(15),兵庫医科大学(13),弘前大学(12),広島大学(15),福島県立医科大学(8),北海道大学(67),松波総合病院(17),山口大学(3),横浜市立大学(8)〔(註)括弧内:実施移植数(2001年末までの施行例)〕
(III) 結果と考察
総移植数は1,805であり,初回移植1,758,再移植46,再々移植1であった。
移植の種類別では,生体肝移植が1,789,死体肝移植が16(脳死肝移植14,心停止肝移植2)であった(Table 1)。
再移植は,国外で脳死肝移植後に国内で生体肝で再移植を受けたものが1,国内で生体肝移植後に国内で脳死肝で再移植を受けたものが3(うち同施設内2,異施設問1),国内で生体肝移植後に再度生体肝で再移植を受けたものが42(うち同施設内39,異施設間3),国外で脳死肝移植および脳死肝による再移植を受けた後に国内で脳死肝で再々移植を受けたものが1であった。
生体・死体別の移植数の変遷をTable 2に示す。生体肝移植数は,1989年以降毎年増加を続け,2001年は年間417例であった。なお,18歳未満を小児,18歳以上を成人とすると(本論文を通じてこの定義で記載する),1998年までは小児の方が多かったが,1999年には逆転して成人の方が多くなり,その後成人の占める割合は年々増加している。一方,脳死肝移植は1999年に開始され,2000年には6例に増えたが2001年も6例にとどまった。なお,1968年,1993年の死体肝移植は,いずれも心停止ドナーによるものである。レシピエントの性別は,男性765,女性1,040であった(生体移植に限ると,男性760,女性1,029)。
レシピエントの年齢分布は,Table 3のとおりであり,10歳未満が836と全体の46.3%を占め,中でも1歳未満が291(16.1%)を占めた。前述のように10歳未満に最大のピークがあるが,50歳台にも第二の緩やかなピークを認めた。なお,最高齢のレシピエントは69歳(2例)であった。
レシピエントの原疾患を死体,生体別に示す。死体肝移植ではTable 4(a)のとおりであり,胆汁鬱滞性疾患が最多を占め,代謝性疾患,腫瘍性疾患がこれに次いだ。なお,劇症肝不全は1例もなかったが,これは同疾患では待機しうる期間が短く,ドナー数が極端に少ない現状では移植に至りにくいものと推察された。
次に,生体肝移植の原疾患を小児・成人別に,Table4(b)に示す。小児・成人とも胆汁鬱滞性疾患
が最多を占めたが,その内訳をみると前者では胆道閉鎖症が,後者では原発性胆汁性肝硬変が最も多かった。肝細胞性疾患では,成人のHBV,HCVが多くを占めた。腫瘍性疾患については,肝細胞癌が119例と大半を占めた。なお,転移性肝腫瘍4例の原発巣は,いずれも膵の神経内分泌腫瘍であった(同時性1,異時性3)。劇症肝不全は202例と胆汁鬱滞性疾患に次いだが,その原因は多くが不明であった。
Table5(a)に死体肝移植の移植肝を示す。全肝移植が大半を占めたが,reduced graft(外側区域graft),Split graft(右葉graft,外側区域graft)も用いられた。Table5(b)に生体肝移植の移植肝を示す。外側区域graft41.3%,左葉graft26.6%に次いで,右葉graftが23.6%と顕著な増加を示している。
その他では,従来より行われていた左葉・尾状葉graftに加えて,後区域graft,mono segment(S3)graft等の新しいgraftが工夫され,あるいはfamilial amyloid polyneuropathyのレシピエント肝を用いたドミノ肝移植も行われている。成人のレシピエントに限ると,右葉graftが51%と半数以上を占めていた。
1人のレシピエントが2人のドナーから肝の提供を受ける,いわゆる「dual graft」が1例あり,各々右葉と左葉を提供された。生体グラフトの年次変化はTable6のとおりであり,近年の成人例の増加に伴って,右葉graftと左葉・尾状葉graftは増加しており,とくに前者において著しい。
なお,[(II).対象と方法]の項で記載したように,現在の一次登録用紙は9項目のみであり,レシピエントの血液型のデータやドナーのデータ全般が含まれていないため,従来の誌上報告で行った血液型別の分類やドナーとレシピエントの血液型適合性についての検討は行うことができなかった。
移植後の累積生存率(Table 7)は,生体肝移植が死体肝移植より良い傾向があったが,有意差はなかった。生体肝移植と脳死肝移植とで比較すると差がなかった(Fig. 1)。また,生体肝移植後のレシピエントの生存率とgraftの生着率の間には大きな差がなかった(Fig. 2)。
以下の検討は,症例数の多い生体肝移植に限って行った(Table 8)。性別では,女性の予後が有意に良か
った(P<0.05,Fig. 3)。小児と成人では,後者で有意に予後が悪かった(P<0.0001,Fig. 4(a))。小児を2歳末満と2歳以上の2群に分け比較したところ,両群間に差はなかった(Fig. 4(b))。初回移植と再移植では,後者で有意に予後が悪かった(P<0.0001,Fig. 5)。次いで,原疾患別の予後を検討した(Fig. 6(a))。疾患群間で予後に有意な差があったのは,胆汁鬱滞性疾患-肝細胞性疾患(P<0.001),胆汁鬱滞性疾患-腫瘍性疾患(P<0・005),胆汁鬱滞性疾患-急性肝不全(P<0.0005),腫瘍性疾患一代謝性疾患(P<0.05),急性肝不全-代謝性疾患(P<0.05)であった。
胆汁鬱滞性疾患の中では,胆道閉鎖症-原発性胆汁性肝硬変(P<0.005)の間でのみ生存率に有意差を認めた(Fig. 6(b))。肝細胞性疾患,腫瘍性疾患,急性肝不全,代謝性疾患の各疾患群の中では,各々の疾患の間に生存率の差を認めなかった(Fig. 6(c)〜(f))。
次に,生体肝移植についてgraft別の予後を検討した。外側区域graftは,左葉graft,右菓graftに比し有意に良好であった(P<0.0001,Fig. 7(a))。左葉graft,左葉+尾状葉grれ後区域graftの間には差がなかった(Fig. 7(b))。また,外側区域graftとmonosegment(S3)graftとの間にも差を認めなかった(Fig. 7(c))。
(IV) おわりに
肝移植研究会が1992年以来行ってきた症例登録の第3回の集計結果を誌上で公にすることができた。臓器移植法に基づく脳死肝移植症例を含む初めての報告である。今回の報告の内容はすべて,先に挙げた多くの施設の御協力の賜であり,改めて感謝の意を表したい。
文責:日本肝移植研究会事務局 門田守人,梅下浩司
文 献
1)日本肝移植研究会・肝移植症例登録報告・肝臓 1998;39:5−12
2)日本肝移植研究会:肝移植症例登録報告・移植 2000;35:133−144