生体肝移植実施施設体制に関する緊急注意喚起
日本肝移植研究会 上本伸二
平成27年5月22日
日本肝移植研究会では常時肝移植症例を登録し、統計結果をホームページに毎年公開している(日本肝移植研究会:肝移植症例登録)。日本移植学会ではそのデータを基に「ファクトブック」として肝移植に関する一般向けの解説をホームページに公開している。2013年末までにわが国で実施された生体肝移植の1年生存率は18歳以上が80.8%(4646名)、18歳未満が89.0%(2609名)であった。先日以来、日本の一部の施設において実施された肝胆膵領域の高難度外科手術症例の生存率が低いことがメディアで取り上げられている。その中に生体肝移植が含まれていることは極めて憂慮されるべき事態である。日本移植学会と日本肝移植研究会は、生体肝移植を必要としている患者とその家族の不安を和らげるべく、すべての生体肝移植実施施設に対し、改めて日本移植学会倫理指針の遵守を求めるとともに実施体制に関する注意喚起を行う。
これまで我が国には生体肝移植施設の体制に関する詳細な取り決めはなかった。一方、わが国で脳死肝移植の施設認定を受けるには、十分かつ高い質の生体肝移植の経験と施設の体制整備などが要件となっている。生体肝移植において高い倫理性が要求されることは言うまでもない。さらに、生体肝移植では、健常人を臓器提供者とすることとグラフトが部分肝であることに起因する外科的・内科的課題を解決するために、より高い技術と知識と経験とチーム力が求められる。すでに、脳死肝移植施設認定作業部会は、脳死肝移植施設の認定条件として、移植チームの経験、実施体制、施設設備について詳細に定めている。そこで、脳死肝移植施設の認定条件に準拠して、生体肝移植の実施体制及び施設体制に関する基準を以下のように提案する。各施設においてはこれを遵守するよう努力されたい。
- 生体肝移植の実施について施設内倫理委員会の承認があること。
- 生体肝移植の適応と移植前後の治療について施設内で評価する体制が整備されていること。
- ドナー並びにレシピエントに対するインフォームドコンセントの手順及び書式が定められていること。
- 肝移植に関連する感染症、免疫抑制療法についてコンサルテーションを受ける医師が同一施設内に勤務していること。
- 日本肝臓学会認定肝臓専門医(内科医または小児科医)、日本麻酔学会麻酔専門医および日本集中治療医学会集中治療専門医が同一施設内に勤務していること。
- 肝移植に関連する病理診断について遅滞なくコンサルテーションを取り得る体制が確保されていること。
- 生体肝移植の実施前後の病棟管理について看護手順と体制が確保されていること。
- レシピエント移植コーディネーターが配置されていること。
- 医療行為などの緊急事項への対応について24時間体制が確保されていること。
- 肝移植患者の管理に十分な器材とスタッフを備えたICUが稼動していること。
- 細菌培養検査と真菌培養検査が迅速に実施できること。
- 使用される免疫抑制薬の血中濃度が迅速に測定できること。
- 手術顕微鏡を用いた血管吻合が可能な体制を確保すること。