症例紹介 研究会目次

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「パスツレラ症」の日本の現状認識に違いがあった!? 2
〈質と量(数)に大きな変化!〉
 
日本大学医学部臨床検査医学 荒島 康友
 
2 パスツレラ症の概要
 
〈感染様式・疫学〉
  パスツレラ症では、現在P.multocida, P.canis, P.dagmatis, P.stomatis の4種類がイヌ、ネコに起因する感染症の原因菌(写真)として確認されています。しかし、ほとんどはP.multocida による感染が主体です。
  パスツレラ症は、すでにWHOが重要な人畜共通感染症として警告を呼びかけ、日本でも厚生省がペット動物(イヌ、ネコ)由来人畜共通伝染病として取り上げ注意を呼びかけています。
  (URL http://www.forth.go.jp/mhlw/animal/page_b/b04-2.html#Anchor-62495 にリンク)
 
  パスツレラ症の実数は現在確認されている数の少なくとも5〜10倍、それ以上の数と考えています。その根拠は、
  1. イヌ、ネコにおける本菌の保有率が他の人畜共通感染症と比較にならないほど高率であること、
  2. ペットとしてイヌ、ネコが以前にも増してヒトの生活環境に密着してきていること、
  3. 我々が1991年に報告した日本でのパスツレラ属菌の分離状況は、1989年以降、年平均25%の検出増加傾向が確認されたこと、
  4. 日大板橋病院における昨年までのパスツレラ属菌の検出状況でも、直近5年間の年平均検出率が35%の増加傾向を示していたこと、
  5. パスツレラ属菌が関与している未発表例が存在していること、
  6. この菌が抗生物質が良く効くために重症化せず、かつ菌が検出され難くなること、
  7. 学会・論文における発表のなかで我々研究チームが応援して、初めて発表に至った死亡例をはじめとする症例が多数あること、
等が挙げられます。
  しかし、平成11年4月から施行された“感染症新法”のうち、人畜共通感染症は重要な一・三類の全て、四類の59疾患中約24疾患(約40%)と高率に含まれています。ペット由来のものでは四類の内9疾患約15%存在しています。
  しかし、いずれもペットの原因菌の保有率は低く、症例数も少ないのです。
  これに比べパスツレラ症は原因菌の保有率がネコで約100%、イヌで約75%と高率で、死亡例も多数報告されています。こうした点と高齢者関連感染症という点から、今後評価され新法に入ってくるべき感染症と考えられます。
 
〈受診時のポイント〉
  動物との接触状況について、経時的に表を作り伝えることです。
経過メモの例
氏名 ○×△、 XY歳
連絡先(TEL)  
 
1. ○年×月△日 飼いネコに手を咬まれ、自宅で消毒をするが、疼痛、腫脹が増したため近医受診。
2. ○年×月□日 治療薬をもらい完治するが、このころより全身倦怠感が現れた。
3. ○年△月□日 症状が改善しないため、近医を受診するが、『気のせい、そのうち治る!』といわれたが改善しない。
 
〈他の感染症との鑑別〉
  パスツレラ症では、咬み傷、引っ掻き傷の約30分〜数時間後に激痛を伴う腫脹と精液様の臭いのする浸出液が排液されてきます。(猫ひっかき病では、受傷約2週間後にリンパ節が腫脹します。)
 
〈治療〉
  初期治療を確実に行うことが大切です。幸い、耐性菌はほとんどなく、通常医師が使用する抗生物質(ペニシリン系、セフェム系)が有効です。
 
〈予防〉
  “危険因子”として、持病(とくに、糖尿病、アルコール性肝障害)、中高年者(40代〜)、過度な直接的接触(キス、寝室に入れる等)、等が挙げられます。
  まずは、これらの危険因子となるような行為を行わないようにし、健康保持に努めることです。また、鶏肉にはよく火を通すことです。
 
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