九州大学大学院医学研究院病態制御(第三内科) 主幹教授
小川 佳宏
2025年9月より、日本心血管内分泌代謝学会(The Society of Cardiovascular Endocrinology and Metabolism, The CVEM Society)の第10代理事長を拝命しました九州大学大学院医学研究院病態制御(第三内科)の小川佳宏です。同時に就任された信州大学医学部循環器内科学教室の桑原宏一郎副理事長と力を合わせて本学会の発展に尽力したいと考えています。会員の先生方におかれましては、御支援の程、宜しくお願い申し上げます。
前世紀末には、ナトリウム利尿ペプチドファミリー、一酸化窒素、エンドセリン、アドレノメデュリンなどの心血管ホルモンが次々に単離・同定されました。この領域におけるわが国の研究者の貢献は著しいものがあり、「心血管内分泌代謝学」は日本発の新しい内分泌学の研究領域として誕生しました。これらのホルモンの多くは心血管疾患を中心に診断薬あるいは治療薬として広く臨床応用に至っています。
私は1987年に京都大学医学部を卒業し、井村裕夫教授、中尾一和教授の御指導の下、大学院博士課程の最初のテーマとしてナトリウム利尿ペプチドファミリーの臨床的意義に関する分子医学的研究に従事しました。本学会の創立時(1997年)には、京都大学医学部附属病院の助手(現在の助教)として内分泌代謝学の臨床と研究に従事していましたが、心血管内分泌代謝学という新しい研究領域が出来上がる頃の熱気を鮮明に記憶しています。世代を超えて異なる専門性の研究者が競うように集い、心血管疾患と内分泌代謝学の境界領域が大きく盛り上がりました。CVEM(シー・ブイ・イー・エム)という略語が合い言葉となり、新しい学会組織が出来上がる黎明期の目撃者としての経験は忘れがたいものです。
CVEMの誕生から30年が経ち、医学・医療の現場も大きく変わりました。時代が進むにつれ、CVEMの持ち場も心血管疾患のみならず広く内分泌代謝疾患をカバーするようになりました。私自身も所属機関の異動に伴って、研究テーマが目まぐるしく変わり、脂肪組織由来ホルモンであるレプチンから慢性炎症・エピゲノム制御、最近では副腎皮質と生活習慣病に関する研究へと広がっています。一方、近年の臨床研修制度・専門医制度の改革もあり、医学・医療が専門分化・細分化し、臓器・疾患別に特化した臨床・研究が増えていますが、専門性を越えて全身を俯瞰してシステム全体を議論する機会が減ったように思われます。日本の研究力の地盤沈下が叫ばれて久しいですが、臓器・疾患特異的であり、高い専門性が求められる循環器病学と全身の恒常性維持機構であり、臓器・疾患横断的な内分泌代謝学が縦糸と横糸のように交差して誕生したCVEMは、異分野融合による新しい研究領域のプロトタイプとして、日本の研究力のV字回復の起爆剤になる可能性があります。研究現場はすさまじいスピードで変化していますが、次の時代を担う若手世代には、前例にとらわれず、新しい課題に果敢に挑戦して欲しいと思います。
CVEMが分科会として属する日本内分泌学会は2026年に創設100周年を迎えます。長い内分泌学の歴史においても日本発のCVEMはユニークな位置を占めるものであり、100周年記念事業でも大きく取り上げられる予定です。2026年6月の日本内分泌学会創設100周年記念式典に合わせて国際内分泌学会(International Society of Endocrinology)の学術集会である第22回国際内分泌学会議(ICE2026)と第99回日本内分泌学会学術総会(JES2026)が合同開催されます(ICE2026/JES2026)(共同会長:柴田洋孝教授、小川佳宏)。ICE2026/JES2026のテーマは「Enlightened Endocrinology in Unprecedented Times(異次元の時代における進化する内分泌学)」です。ICE2026/JES2026には多くのCVEM研究者が世界中から結集し、最先端の議論が交わされます。現地の創設100周年記念式典には、日本内分泌学会会員あるいはICE2026/JES2026の参加登録者であれば入場可能であり、創設100周年を記念して、日本内分泌学会会員のICE2026/JES2026の参加登録費は国際学会としては破格の安値に設定されています。CVEMの会員の皆様には是非とも奮ってご参加いただければ幸いです。
CVEMのコンセプトを体現された高峰譲吉先生はわが国の内分泌学の黎明期に世界を股に掛けて躍動されました。日本内分泌学創設100周年を迎える節目の時期に、第二・第三の高峰譲吉先生を輩出するような新しいCVEMにしたいと考えています。会員の皆様の益々の御支援を宜しくお願い申し上げます。
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