てんかんは多い病気であり、妊娠を希望し、実際に妊娠・出産されるてんかんのある女性は数多く
いらっしゃいます。しかしてんかんのある女性が妊娠された場合に、抗てんかん薬が胎児に与える
影響や、妊娠を契機に生じる発作頻度の変化、抗てんかん薬の血中濃度の変化、お生まれになった児の発達などについて、十分に理解が進んでいるとは言えません。このため、てんかんのある女性はもとより、治療をすすめている医師にも不確実感があります。
このような問題を克服するために、てんかんのある女性と妊娠についての世界的な登録システムが
構築されてきています。これにより、世界規模で情報を登録し、多くの情報から理解をすすめ、より
安全性の高い治療を実施することができます。私たちはこのような情勢を踏まえて、日本でも妊娠と
抗てんかん薬に関する登録システムを構築し、日本独自の情報を集積するとともに、世界の登録
システムとも協力することとしました。
この登録システムは、患者さんの種々の情報を集約することにより、てんかんのある女性が妊娠された
場合の全体像とこどもへの薬の影響を把握し、治療とケアの改善に役立てることを目的としています。
この登録システムでは、患者さんの状況や、日常診療で行われている検査の結果、お生まれになったお子様の状態について登録させていただきます。
登録する具体的な内容は下記の通りです:
妊娠と抗てんかん薬に関する多施設共同研究
・ 主治医への妊娠報告時
最終月経開始日、妊娠判明日、父親のてんかんの有無、母親(患者さん)の生年月日、国
籍、教育歴、妊娠回数、放射線への被爆の有無、分娩歴、基礎疾患名(あれば)、死産・新
生児死亡・流産歴、てんかん診断名、奇形・てんかん家族歴、最終月経開始日からさかのぼ
って1年間の発作頻度*、妊娠以前の抗てんかん薬の血中濃度*
・ 妊娠15週経過時
流産・人工妊娠中絶の有無およびその詳細、出産予定日、喫煙・アルコール飲用の有無、放
射線被爆の有無、母体の合併症、葉酸の使用、抗てんかん薬の投与量・服用方法、発作頻度、
避妊薬の使用の有無、人工授精・体外受精・顕微授精の有無、抗てんかん薬の血中濃度*、併
用薬剤の有無、血中葉酸量*
・ 妊娠27週経過時
死産・人工妊娠中絶の有無およびその詳細、喫煙・アルコール飲用の有無、母体の合併症、
抗てんかん薬の投与量・服用方法、発作頻度、超音波検査の結果、絨毛検査・羊水穿刺の有無
(有の場合にはもし分かれば核型も)、併用薬の有無、抗てんかん薬の血中濃度*
・ 出生時
死産の有無とその詳細、喫煙・アルコール飲用の有無、放射線被爆の有無、母体の合併症、
抗てんかん薬の投与量・服用方法、発作頻度、分娩中の発作の有無、併用薬の有無、性別・分
娩方法、出生児の体重・頭囲・体長、奇形の有無とその詳細、抗てんかん薬の血中濃度*
・ 出生後1年経過時
出生後一年間の死亡の有無とその詳細、奇形の有無とその詳細、生後1年以内の入院の有
無、母乳栄養の有無*、出産後の抗てんかん薬の血中濃度
妊娠と抗てんかん薬と出生児に関する多施設共同研究:
・1歳6か月時
KIDS乳幼児発達スケール(発達検査)
・3歳時
KIDS乳幼児発達スケール(発達検査)
・6歳時
KIDS乳幼児発達スケール(発達検査)
神経心理検査(WISCW)
なお、いずれの調査でも診療録に記載してあるその他の情報を医師に求めることもあります(二次調査といいます)。
妊娠と抗てんかん薬に関する多施設共同研究:
本研究へのご同意が得られた場合、抗てんかん剤による治療を受けている患者さんの妊娠がわ
かった時点から観察させて頂くため、登録センターに情報を登録します。
アンケートは妊娠が判明した時点で一回、その後15週と27週を過ぎた時点で各一回、お子様
が生まれた時点で一回、お子様が1歳になったときに一回で、合計5回実施します。
妊娠と抗てんかん薬と出生児に関する多施設共同研究:
またお子様が1歳6か月、3歳、6歳になられた時点で、アンケートによる発達検査を実施します。
6歳時には神経心理検査も実施します。
この研究では、検査の結果についても登録させていただきますが、診断や日常診療で一般的に
行われているもので、危険や不利益を与えるものではありません。通常の診断や治療、検査を行い、
その中で得られた診療情報を収集する研究であり、研究に参加することによる患者さんへの直接の
利益はありませんが、より良い治療法や診断法などの開発に貢献することができます。
本登録をご希望されない場合や、登録を途中で撤回された場合(同意撤回書にご署名いただきます)にも患者さんの通常の日常診療に不利益が生じることはありませんのでご安心下さい。
今回の研究に関する費用負担は患者さんに発生しません。
本研究では、研究に参加していただいた患者さんの情報を適切に管理し、これらの情報が外部にもれたり、研究の目的以外に使われないよう最大の努力をしています。
てんかんのある女性と妊娠に関する調査では、少しでも多くの患者さんを対象とするため、世界的
な規模での協力が必要になります。今回登録した日本の患者さんの情報について、その一部
(登録内容でお示しした項目のうち、*が付いた内容以外)を世界的な共同研究(EURAP)へも
登録させていただきます。
なお、EURAPとは、ヨーロッパで始まった共同研究グループで、その後アジア・オセアニア
の国々も参加するようになり、現在では40か国以上の国と地域が参加し、蓄積された情報に基づ
く成果を国際医学雑誌に数多く発表しています。本部は the Foundation IRCCS 'Carlo Besta'
Neurological Institute in Milan, Italy.に設置され、研究代表者はDina Battino(Epilepsy Cent
er, Department of Neurophysiology and Experimental Epileptology, I.R.C.C.S. Neurologic
al Institute "Carlo Besta" Foundation, Milan, Italy.)です。
ご登録いただいた情報の保存期間は研究が終了するまでとし、その後は適切に破棄されます。
なお、一旦ご同意なさっても、患者さんのご意思によりその同意はいつでも撤回できます。
そのような場合、担当医師と気まずくなったり、今後の治療に対して不利益をこうむることは
全くありません。その時点で担当医師と相談の上、患者さんにとって最善と思われる治療を行います
のでご安心ください。なお、途中で試験の参加をやめられる場合でも、中止までに得られた結果や、
中止後の安全性確認の結果情報を使用させてくださいますようお願いします。情報の使用についても
中止を希望される場合は、その旨を担当医師までご連絡ください。但し、同意を取り消した時点で
すでに公表論文となっている場合には、公開された情報から全ての情報を取り除くことはできない
場合があります。
個人情報を削除した登録情報の集計データや研究の進展については、本ホームページや日本てんかん学会(http://square.umin.ac.jp/jes/)のホームページにて定期的に公開いたします。
この臨床研究は、日本てんかん学会が主体となって行っています。日本てんかん学会とは、
研究者が主体となって活動しているグループです。本研究は学会内の「妊娠レジストリ運営委員会」により運営されています。
利益相反とは研究成果に影響する可能性のある利害関係をいいます。これには金銭及び人的、
物理的関係を含みます。本研究を行うにあたり、研究者個人の利益相反は各施設の利益相反委員会で審査され適切に管理されています。
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〒420-8688
静岡県静岡市葵区漆山886 静岡てんかん・神経医療センター内
E-mail jrap.office@gmail.com
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