2000/7-2001/6月のの話題
ポリグルタミンの神経毒性の本質はCREB-binding
proteinの阻害にあるのか?
ALSの原因は判定負けVEGFか?
Yet Another Guideline ! but
does it help?
痴呆は長生きできない
ドパミンアゴニストは何のため?
TNF-αのpolymorphismが痴呆の新たなリスク?
β-secretaseはBACE1
痴呆の神経病理は頼りになるのか?
ataxia-telangiectasia: carrierにも発癌のリスクが
ハンチントン病:機能消失も一役?
パーキンソン病に対するGDNFの遺伝子治療
アミロイドワクチンの効果
ハンチントン病の移植治療
rotenone: MPTPもどきか?
例えば左翼手の守備位置
Glutamate trasporter EAAT2のsplice variantはALSに固有の変化ではない
プレセニリンは成熟した神経細胞の生存に必要
核内封入体の意義は?
ポリグルタミンの手口
嵐の前に静けさを捉える
抗Aβ抗体による受動免疫も脳内のAβ沈着を軽減する
NSAIDsはアミロイドの沈着を抑制する
ミノサイクリンがハンチントンの進行を遅らせる?
プレセニリンの相手役
2000/7-99/7の話題
Aβ以外にもAPP由来の神経毒ペプチドが
脳,骨,そしてNatural Killer
不況が神経科学者に教えてくれること
ウィルソン病における酸化的りん酸化の障害
ATM & BRCA1:癌と神経変性をつなぐ橋
神経細胞は押し出しではなく満塁ホームランで負ける
抗コリンエステラーゼ剤によるななめ兆候
若年性パーキンソン病の診断におけるparkin 遺伝子の意義
Amyloid betaによる親殺し
ハエのパーキンソン病
肝癌の話ですが
カンナビノイド受容体二題
海馬歯状回の神経系前駆細胞がin vitroへ
アミロイドの蓄積:話が違うじゃないか
ペナントレースいよいよ開幕か?:神経変性疾患原因究明リーグ
分子シャペロンの障害の観点から
Beta-sheet breaker peptideをCJDの治療に?
運動障害によるハンチントン病の発症予見
グルタミン酸ポンプの逆転
カスパーゼ‐12/小胞体/アポトーシス/アミロイド‐β
アルツハイマー病の危険な予防法
A beta 42の蓄積場所
翻訳の品質管理
最も多いタイプの痙性対麻痺における遺伝子異常
タウの過りん酸化をおこすもの
多発性硬化症の治療にグルタミン酸受容体拮抗薬が有効?
beta secrease:主犯格一人判明か?
chaperone HSP70がpolyglutamineによる神経毒性を抑制する
骨髄移植によってmdxマウスの筋肉のジストロフィンの発現が回復する
脳内産業廃棄物問題
プレセニリン1がやはりγsecretaseなのか
痙性対麻痺の新たな遺伝子変異
ハンチントン病:リンパ球にも異常がある
プレセニリン1の遺伝子変異は小胞体での蛋白処理の障害を起こす
Friedreich ataxia患者筋肉でのATP産生障害
ユビキチン代謝酵素の変異による神経変性モデルマウス
人工授精とtrinucleotide repeat
98/8-99/7
- 食べ物を原因とするパーキンソン病
- Familial British dementia (FBD)の原因
- PrPC が神経細胞死を抑制する
- amyloid-betaの接種で脳のアミロイドが消えた
- 群発頭痛は視床下部に器質的な原因?
- 活性上昇したtransglutaminaseがhuntingtinを凝集させる
- シトルリン血症II型の遺伝子変異はミトコンドリアのcarrier protein
- beta-amyloidの神経細胞障害機序
- ミトコンドリア,Bcl-2,イオンチャンネル,apoptosis
- Caspase 1の阻害でHuntington病マウスが長生きする
- MPTPの神経毒性にPARPが関与
- アミロイド形成にcaspaseが関与
- alpha-synucleinと組んで細胞質封入体を作る蛋白
- アルツハイマー病における核酸の酸化;DNAではなくRNA
- 核と細胞質をつなぐ橋
- マウスのALSにクレアチンが有効?
- B細胞性白血病で神経疾患の遺伝子異常を発見
- 筋萎縮を起こす因子
- 毛生え薬はできなくても
- 癌と神経を結ぶもう一つの橋
- Leigh症候群における遺伝子変異
- 傍腫瘍性小脳変性:抗体ではなくキラー細胞が犯人
- 4-phenylbutyrateによる副腎白質ジストロフィーの治療
- transglutaminaseとタウ
- 精神分裂病における興奮性シナプスの減少
- cystatin B, non-caspase cysteine protease inhibitor & apoptosis
- substance Pと行動
- アルツハイマー病におけるCa感受性カリウムchannelの異常
- ミオグロビンなんていらないよ
- apoE対立遺伝子はHIV dementiaの危険因子でもある
- presenilinと結びつく蛋白たち
- にんじんの話で恐縮ですが
- FULL-LENGTH ハンチントン cDNAのトランスジェニック
- mGluR agonistによる精神分裂病の治療
- Ceramideはアポトーシスを起こす
- また一人脇役が
- サルのハンチントン病モデルでの線条体移植による効果
- 前立腺癌関連のアポトーシス遺伝子がアルツハイマー病と関連
- Repeatとproteolysis
- MSAお前もか
- +1protein
- 孤発性のALSでのグルタミン酸トランスポーターの障害
- 蛋白が凝集する時
興味のある方は下記の論文をご覧あれ.
Nucifora FC Jr, Sasaki M, Peters MF, Huang H, Cooper JK, Yamada M, Takahashi H, Tsuji S, Troncoso J, Dawson VL, Dawson TM, Ross CA. Interference by huntingtin and atrophin-1 with cbp-mediated transcription leading to cellular toxicity.Science. 2001 Mar 23;291(5512):2423-8.
McCampbell A, Fischbeck KH.Polyglutamine and CBP: fatal attraction?Nat Med. 2001 May;7(5):528-30.
著者らは,VEGF遺伝子のうちで,虚血に反応するプロモーター領域のノックアウトマウスを作って,虚血におけるVEGFの役割を調べようとしたそうな.このマウスでは,予想通り,虚血によるVEGFの増加が起こらなかった.ところがそればかりではなく,マウスが年を取るにしたがって,脊髄でも選択的に運動ニューロンの数がどんどん減り,ヒトのALSによく似た病像を呈したという.
ノックアウトの言葉通り,遺伝子をまるきり発現させないという乱暴な方法の他に,このようにプロモーター領域を潰すというような,判定負けというか,生殺しのようなやり方があるんですねえ.
遺伝子は発現しているのだけれど,何かの侵襲に対して反応できないというストーリーは,特に神経変性疾患のようなじわじわやられる病気には,実にお似合いのストーリーのように思えますね.ALSばかりでなく,いろいろなヒトの神経疾患で,いろいろな栄養因子のプロモーター領域がどうなっているのか,実に興味があるところです.
一方で,antiVEGF therapyを受けている癌や関節炎の患者で,運動ニューロンへの悪影響が心配になりますね.
Nat Gen 2001; 28: 131-38
Yet Another Guideline !
またしても,”ガイドライン”だ.それもアルツハイマー病だという.おいおい,いい加減にしてくれ.ただでさえ屋根が多くて混乱しているのに,その上にまた屋根を重ねようというのか.
New US guidelines for Alzheimer's disease released Lancet 2001; 357 : 1505
元はNeurology (2001; 56: 1133-66)に載っている.診断率は90-95%だとか・・・おい,ちょっと待ってくれよ.本当かね.私はどうしても信じられない.これまでの考案されてきたいくつかの診断基準の間で10倍も診断率が違うっていうのは,1997年のNEJMに出た論文の結論なんだよ.おまけにアルツハイマー病診断のgolden standardと言われてきた神経病理が当てにならないっていうのは,ついこの間の話なんだ.Golden standard そのものの存在基盤が揺れているというのに,診断率が90-95%というのは,あまりにも楽観的過ぎやしないか.
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痴呆は長生きできない
アルツハイマー病は長生きだと思いこんでいたのは,私だけではあるまい.何しろ,これまで,いくつかそういう論文が出ているからだ.しかし,実はアルツハイマー病も脳血管痴呆も痴呆が発症してから3年ちょっとっで死んでしまうという研究がNEJMに載った.
C. Wolfson and Others. A Reevaluation of the Duration of Survival after the Onset of Dementia N Engl J Med 2001;344:1111-6
今までの研究では,研究に含める前に死亡した急速進行性痴呆の人々を考慮していなかった可能性があるからだという.この研究はカナダで行われたが,主要死因の疫学や医療保険制度が異なる日本ではどうなっているのか,大変興味のあるところである.
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ドパミンアゴニストは何のため?
今回は特に論文の紹介ではない.常々疑問に思っていることなのだが,パーキンソン病治療でのドパミンアゴニストはどういう位置にあるのだろうか?レポドパにくらべてはるかに高い薬なのだから,それに見合った効果があるべきなのだが,現実はどうもそうではない.
Ramaker C & van Hilten JJ. Bromocriptin versus levodopa in early
Parkinson's disease. Cochrane Database Syst Rev 2000; (3):CD002258
によれば,レボドパと同等の効果があると結論されているが,レボドパよりも優れているとは言えない.さらに,ブロモクリプチン単独群では,脱落率が69%にもなっている.(レボドパ併用群では32%).これは,おそらくブロモクリプチンを十分量投与すると,副作用がきつくなるからだろうが,これではとても”レボドパと同等”とは言えないだろう.れ
少なくともパーキンソン病に対して第一選択ではない.効果がレボドパよりはっきり劣るからだ.フィンランドのRinneらのグループがどこかの学会で(手元にポスターの写しがあるだけで,どこの学会かは不明),A five year double-blind study with cabergoline versus levodopaと題して,未治療のパーキンソン病419例に対して,二重盲検でカベルゴリン単独群とレボドパ単独群を比較したが,UPDRSは明らかにレボドパ群の方が低かった,つまり効果があった.カベルゴリン群ではジスキネジアに代表されるような運動性の副作用は少なかったが,レボドパに比べて効果が弱ければ,優れているとはいえないだろう.ジスキネジア以外の副作用(消化器症状など)の群は両群ともほぼ同じだが,四肢の浮腫だけはカベルゴリン群の方が多かったという.
L-dopa単剤に上乗せした場合には,プラセボとドパミンアゴニストでは,ドパミンアゴニストの方が優れているという証拠はあるが,これは当然のことで,プラセボより優れていなかったら何のための薬かわからない.
おまけにドパミンアゴニストはひどく高い.ドパミンアゴニストの一つ,カバサールは0.25mg錠が123円,1mg錠は426円.それに対してドパール200錠は22円.常用量換算で比較すると,ドパミンアゴニストはレボドパの4倍以上となる.レボドパよりも副作用は確かに少ないかも知れないが,効果は劣る.しかも値段が4倍する.こんな薬が,果たして患者の幸せにつながるのだろうか?
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TNF-αのpolymorphismが痴呆の新たなリスク?
McCusker SM and others. Association between polymorphism in regulatory region of gene encoding tumour necrosis factor α and risk of Alzheimer's disease and vascular dementia. Lancet 2001;357:436-9
アルツハイマー病の病態仮説の一つに,炎症説がある.特に炎症性のサイトカインが神経細胞死に関与しているのではないかということだ.アミロイド斑の沈着にサイトカインが染め出されたり,非ステロイド系消炎剤の服用者はアルツハイマー病のリスクが低いとか,アルツハイマー病患者髄液中のTNFαが高いなんてことが仮説の根拠になっている.この研究では,TNFα遺伝子の調節領域(どこだとははっきり書いていない)の多形性が,血管性痴呆と,アポE遺伝子のアルツハイマー病リスクを持った人の痴呆のリスクになるということなんだが.
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β-secretaseはBACE1
BACE1 could hold the key to Alzheimer's therapy. Lancet 2001; 357:692
Nature Neurosci 2001;3:231-32, 233-34
アミロイド前駆蛋白からアミロイドβを切り出すプロテアーゼの一方である,β-secretaseの正体が,BACE1であることがほぼ決まった.BACE1のノックアウトマウスは正常に発達し,成熟してからの表現型も正常だった.しかしその組織には,アミロイドβは見出されなかったという.以上より,BACE1がβ-secretaseそのものであり,BACE1を阻害すれば,アミロイドβが作られないと結論できる.一方,BACE1のノックアウトマウスは表現型が正常だったことから,BACE1を阻害によって重大な副作用が起こる可能性が低いと推測できる.
これまで,神経細胞死や痴呆の原因になっているのかどうか疑問視される向きもあったアミロイドだが,アミロイドの蓄積が記憶障害の原因であり,ワクチンにより,脳内のアミロイドが減少し,記憶障害が軽減することもすでに示されているので(Robert Gerlai.. Alzheimer's disease: b-amyloid hypothesis strengthened! Trends in Neuroscience 2001;24:199.
Guiquan Chen et al. A learning deficit related to age and beta-amyloid plaques in a mouse model of Alzheimer's disease. Nature 2000;408:975-979.
Christopher Janus et al. A beta-peptide immunization reduces behavioural impairment and plaques in a model of Alzheimer's disease. Nature 2000;408:979-982.
Dave Morgan et al. A beta-peptide vaccination prevents memory loss in an animal model of Alzheimer's disease. Nature 2000;408:982-985..
こうなると,アミロイドのワクチンや,BACE1の阻害剤によるアルツハイマー病の治療が現実的に見えてくる.
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痴呆の神経病理は頼りになるのか?
Neuropathology Group of the Medical Research Council Cognitive Function and Ageing Study (MRC CFAS). Pathological correlates of late-onset dementia in a multicentre, community-based population in England and Wales. Lancet 2001; 357: 169-75
神経病理所見はアルツハイマー病の診断のGolden Standardとされているが,本当にそうなのだろうか?アルツハイマー病の立派な所見があっても痴呆がないケースというのは,本当に例外的なのだろうか?神経病理学的変化があっても,痴呆がないなんてことがしょっちゅうあったら,Golden Standardとは言えない.それどころか,アルツハイマー病というのは,本当に病気なのかということになる.
さらには,血管性痴呆との区別という,古くからの問題がある.痴呆全体の中で,アルツハイマー病が一番多くて,第二位が血管性痴呆だとか,いいやLewy Body Dementiaだとか議論しても,そもそも,その神経病理所見が痴呆の原因に直接結びつかなければ,その議論に何の意味もない.つまり,痴呆の診断基準として絶対視されてきた病理学的所見の妥当性を検討しなければならないのだ.
このような検討は,痴呆患者が入院して死後の脳を検索する病院ではできない.だって,もともと痴呆がある人しか入院してこないのだからね.その人の脳に何か変化があったら,それが痴呆の原因だってことになるのは当たり前じゃないか.これじゃあ,痴呆のない人にも,同じ様な病変があるかどうかはわからない.
そうではなくて,我々が実際に住んでいる地域社会で,臨床的な痴呆の有無をGolden standardとして(!!),痴呆患者と非痴呆患者の神経病理所見のprospective studyを行なわなければならない.では実際にそれをやったらどうだったか?
そしてこうなると,アルツハイマー病であれ,脳血管性であれ,互いの疾患の独立性が極めて怪しくなってくる.また痴呆患者脳の神経病理学的変化は,診断のGolden Standardとはとても言えないことになる.そして,神経病理学的変化の上に成り立っていたアルツハイマー病の研究は見直しを迫られることになる???
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ataxia-telangiectasia: carrierにも発癌のリスクが
Mortality rates among carriers of ataxia telangiectasia mutant alleles
Dragatsis I and others. Inactivation of Hdh in the brain and testis results in progerssive neurodegeneration and sterility in mice. Nature Genet 2000;26:300-306
従来,増大したCAG repeatによるgain of functionと思われていたハンチントン病遺伝子変異だが,どうもそれだけではないらしい.著者らはconditional mutagenesis strategy(ノックアウトが遺伝子そのものを体全体にわたって潰してしまうのに対し,どうやら特定の発生時期に,特定の臓器で,ある蛋白の発現を阻止する技術らしい)を用いて,マウスの前脳と睾丸(これはたまたまやってしまったらしい)で,ハンチンチン蛋白の発現を胎生15日と,生後5日で止めたところ,10-12ヶ月で活動性の低下と振戦を認め,脳に組織学的異常も認めたという.睾丸の方は不妊になったそうな.
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パーキンソン病に対するGDNFの遺伝子治療
Neurodegeneration prevented by lentiviral vector delivery of GDNF in Primate Models of Parkinson's disease. Science 2000;290:767
GDNFはドパミンニューロンの栄養因子としては定評がある.以前,このグループではGDNFの脳室内投与をしたが効かなかった.これはGDNFが病巣に行き渡らなかったためと結論し,今度は遺伝子治療に挑んだというわけだ.MPTP投与後1週間でレンチウイルスベクターにGDNFを載っけて線条体と黒質に投与したところ,臨床症状がよくなり,また線条体黒質変性も予防できたという.
近年になってラットのパーキンソン病モデルでGDNFの効果が続々と報告されている.サルでも十分な効果があること,GDNFの発現とドパミンニューロンの再生が確認されたこと,MPTPを投与して一週間後,臨床症状がすでにはっきりした時点(線条体への入力は障害されているが,黒質ドパミンニューロンは完全には死滅していない)で投与しても快復が望めることなど,画期的な点が多々ある.
Anne-Catherine Bachoud-L思i and others. Motor and cognitive improvements in patients with Huntington's disease after neural transplantation. Lancet 2000; 356: 1975-79
パーキンソン病の二匹目のどじょうを狙って胎児のganglionic eminences(腹側前脳,つまり将来大脳になる部分の一部が脳室中 に隆起している部分で,将来基底核になる部分だと,群馬大学医学部・分子病態学の石崎泰樹先生から教えていただきました)を5例のハンチントン病の線条体に移植したところ,3例で症状の改善が見られ,PETでも移植組織が生きていることが推測された.一方残りの2例では症状は非移植群の対照と変わらなかったという.
この論文を読んで思い出す悪夢が
Madrazo I, Drucker CR, Diaz V, Martinez MJ, et al. Open microsurgical
autograft of adrenal medulla to the right caudate nucleus in two patients
with intractable Parkinson's disease. N Engl J Med 1987;316:831-4.
である.この論文の結果が余りにもセンセーショナルだったため,世界中の脳神経外科と神経内科はパーキンソン病の移植治療を巡って侃々諤々となった.今は落ち着くところに落ち着いているように見える.ハンチントンの場合は,この教訓があるため,整然とした追試になるだろう.問題は胎児脳組織が移植材料だということで,材料不足と,何が(たとえば,どんな神経栄養因子なのか)効いているのかわからない点だ.もしも上記のパーキンソン病に対するGDNFによる遺伝子治療のように,有効成分がはっきりすれば,何も胎児脳組織なんてものは使わずにすみ,治験ももっと大規模にできるのだが・・・いずれにせよ,追試結果がどう出るかは目が離せない.一方で,線条体神経細胞維持のための神経栄養因子の基礎的な研究が非常に大切になってくる.この面では黒質神経細胞に比べて遅れているような印象がある.基礎研究者の奮起もお願いしたい.
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rotenone: MPTPもどきか?
Scientists suggest a link between rotenone and Parkinson's disease.
Lancet 2000; 356: 1659. 2000年のSociety for Neuroscience meeting (New Orleans,
Nov 4-9)での話題ね.
rotenoneというのはよくある殺虫剤.日本でも動物のノミ,シラミ除けの薬として一般的に使われている.このロテノンをラットに静注したら,黒質細胞のドパミン性ニューロンが脱落して,おまけにレビー小体に似た病変も見られたっていうんだな.
MPTPだってレビー小体までは出てこないんだ.それが出て来るってんだから・・・
日本の神経内科医の中でも,都市部で働いていた人が農村部に来ると,”田舎はパーキンソン病が多いねえ”という印象を持つ人が多いんですよ.あるいは都市部で,ペットを飼ってノミシラミの手入れをしている人がリスクが高いとか,追試になるけど,日本でもきちんと疫学的研究をすべき時だと思いますよ.
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例えば左翼手の守備位置
Pedro Fernandez-Funez and others. Identification of genes that modify
ataxin-1-induced neurodegeneration. Nature 2000;408:101
野球がピッチャーとバッターだけではできないように,SCA1がアタキシン1だけで起こるとは誰も思っていない.でも一塁手が誰だとか,左翼手の守備位置はどこかとか,全て五里霧中で何がなんだか全然わからないのだ.そこを何とか見定めようという努力の論文である.
著者らは,ヒトのアタキシン1遺伝子全長を発現するショウジョウバエを使った.すると,CAGリピートが延長した変異遺伝子のトランスジェニックはもちろん,なんと正常のアタキシン1遺伝子の過剰発現でも神経変性が起こったのだ.またその神経変性に影響を与える遺伝子をスクリーニングしたところ,数種類のものが見つかり,それらはアタキシン1を折りたたんだり,片付けたりする蛋白をコードする遺伝子だったという.具体的に言うと,ユビキチン結合,RNA binding, transriptional cofactorといったものである.
これまではピッチャーの球速だとか球種ばかりに目が行っていたスタンドが,グラウンド全体を見渡せるようになるのはいつのことなのだろうか.
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Glutamate trasporter EAAT2のsplice variantはALSに固有の変化ではない
L.S. Honig and others. Glutamate transporter EAAT2 splice variants
occur not only in ALS, but also in AD and controls. Neurology 2000;55:1082-88
Lin CL, Bristol LA, Jin L, et al. Aberrant RNA processing in a neurodegenerative disease: the cause for absent EAAT2, a glutamate transporter, in amyotrophic lateral sclerosis. Neuron 1998; 20: 589-602.
この論文が出たとき,ALSでは興奮性アミノ酸のトランスポーターの障害があって,そのため細胞外のグルタミン酸濃度が高まり,そのために神経細胞死が起こるのという興奮毒性仮説が成り立つかに見えたのですが,その後この論文を裏付ける証拠がなかなか見つかりませんでした.今回のNeurologyも,EAAT2 splice variantsはALS固有の変化ではなく,対照脳やアルツハイマー病の脳にも見出されことを報告しています.
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プレセニリンは成熟した神経細胞の生存に必要
Wittenburg N and others. Presenilin is required for proper morphology
and function of neurons in C. elegans. Nature 2000;406:306
C. elegansは,環境温度を記憶するコリン作動性のニューロンが2個あるのだそうな.この2個のニューロンの維持にプレセニリン遺伝子が必要だという話.プレセニリン遺伝子に相同なsel-12やhop-1に変異を起こすとこの2個のニューロンは形態も機能もおかしくなる.この機能と形態の障害は,正常のヒトプレセニリン遺伝子の導入で回復するが,家族性アルツハイマー病に見られる変異プレセニリン遺伝子の導入では回復しないのだ.
神経変性疾患の原因遺伝子というと,正常の遺伝子産物の機能も変異遺伝子産物の機能も,何をやっているのだがよくわからないものが多いのだが,このようにして,成熟神経細胞の維持に必要だと証明されたのはプレセニリンがはじめてじゃないかな.
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核内封入体の意義は?
Nuclear localization of inclusion body formation of ataxin-2 are not necessary for SCA2 pathogenesis in mouse or human. Nature Genet 2000;26:44
ポリグルタミン病のいくつか(SCA3やハンチントン病)では,表現型が違っても神経細胞に核内封入体が認められる.また,CAG repeatが伸張した遺伝子を発現させたトランスジェニックマウスや培養細胞でも核内封入体が認められる.以上より,ポリグルタミン鎖を持った蛋白がユビキチン化を受け,それが分解されずに蓄積するため (ubiquitin-proteasome経路の障害),神経細胞活動に悪影響が及んで死に至るという物語が考えられていた.核内封入体はそのユビキチン化された蛋白の凝集体であり,神経細胞死の原因と関係があると考えられてきた.
一方,CAG repeat遺伝子トランスジェニックマウスや培養細胞でも,核内封入体が形成されなくとも神経細胞死が起こったり,核内封入体ができても,ポリグルタミン鎖を持った蛋白の凝集体は核外にあったりする場合も報告されており,核内封入体の形成が本当に神経細胞死に直接結びつくのかどうか疑問視する向きもある.
この論文では,SCA2での核内封入体の意義をさぐっているが,SCA2の患者脳でもSCA2のトランスジェニックマウスでも核内封入体が認められなかったし,ataxin-2のユビキチン化も認められなかったことから,少なくともSCA2では核内封入体は病気の本質とは関係ないと結論している.
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ポリグルタミンの手口
Shimohata and others. Expanded polygutamine stretches interact with TAFII130, interfering with CREB-dependent transcription. Nature Genet 2000;26:29
CAG repeatすなわりポリグルタミン鎖の伸張をともなう神経変性疾患は現時点で8つもある.こんなにあちこちで神経細胞を殺している犯人なのに,凶器が見つかっていない.新潟大学の辻のグループはその凶器の手がかりを見つけた.その手口はこうだ.
転写因子の一つであるcyclic AMP-responsive element biding protein (CREB)依存性の転写活性化のcoactivatorにTAFII130という蛋白があるんだそうな.このTAFII130にポリグルタミン鎖がくっつくと,TAFII130の働きが抑制されて,CREB)依存性の転写活性化が起こらなくなるんだそうな.
こういう変化が,例えばPCCMT, SERCA2 ,IP3R1遺伝子のdown regulationと結びつくといよいよ話が面白くなってくるんですがねえ.どうなんでしょうか.
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嵐の前に静けさを捉える
Amino-terminal fragments of mutant hutingtin show selective accumulation in striatal neurons and synaptic toxicity. Nature Genet 2000; 25: 385, August 2000
以前作られたハンチントン変異遺伝子huntingtinのトランスジェニックマウス(Cell 1996;87:493-506)には謎が残っていた.舞踏病様不随意運動やてんかん発作といった臨床症状はあるのに,神経病理学的変化が出てこなかったのだ.しかし,それは何も起こっていないということではなかった.著者らは,この一見何でもないように見えるhuntingtin gene mutantionのトランスジェニックマウスの線条体を,凝集したhuntingtinに特異的な抗体を使って検索したところ,huntingtinの凝集体は,ハンチントン病で特異的に障害される線条体のmedium spiny neuronsに選択的に見出された.その細胞内局在は,核内ではなく,神経突起のシナプス終末付近にあった.この凝集体は培養線条体神経細胞でも神経突起の変性を起こした.またこの凝集体はシナプス小胞に結びつき,グルタミン酸の取り込みを阻害した.
この論文の注目すべき点は二つある.一つは神経細胞が変性する以前に,そして核内封入体(おそらくユビキチン化されたhungingtinの凝集体)が出現する以前に,核の外,神経突起で事件が起こっていること.もう一つは,凝集体がシナプス小胞に結びつき,グルタミン酸の取り込みを阻害するという,ポリグルタミン蛋白の機能的な側面が明らかにされたということである.
神経細胞死に至る一連の出来事の出発点がどこにあるのか,核内なのか核外なのかは研究者の間で大きく意見が分かれている.この論文は少なくとも出発点は核外にあることを示唆している.またポリグルタミンのN末端がグルタミン酸の取り込みを阻害するという事実も神経細胞死の機序を明らかにする上で注目すべき点である.というのは,グルタミン酸の細胞内への取り込みは,単に細胞内のグルタミン酸が減って,グルタミン酸性の神経伝達が障害されるだけでなく,グルタミン酸の取り込みとリンクしている様々なシステムの障害も彦起こすからだ.例えば,グルタミン酸の取り込みと共役しているグルタミン酸/シスチンアンチポーターの働きが止まると,シスチンを材料とするグルタチオンが枯渇する.細胞内antioxidantとして最重要のグルタチオンが枯渇すれば,細胞内でラジカルが生じやすい状態となる.
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抗Aβ抗体による受動免疫も脳内のAβ沈着を軽減する
Peripherally administered antibodies against amyloid beta-peptide enter the central nervous system and reduce pathology in a mouse model of Alzheimer disease. Nature Med 2000; 6: 916
”アミロイドワクチン”で脳のアミロイドが消えることを以前著者らは報告した.今度は抗Aβ抗体による受動免疫でも同様にアミロイドが減少するという報告だ.末梢から投与した抗体は脳の中に入り,アミロイド斑を覆って,アミロイドを減少させた.ex vivoでは,抗体はミクログリアを活性化し,Fc受容体を介した食作用によりAβを分解するという.
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NSAIDsはアミロイドの沈着を抑制する
T Wyss-Coray & L Mucke. Ibuprofen, inflammation and Alzheimer disease. Nature Med 2000; 6: 973.
非ステロイド系消炎剤NSAIDsがアルツハイマー病のリスクを少なくするという疫学的データが出ており,現在,臨床試験が進行中である.そして今度は代表的なNSAIDsであるイブプロフェン(商品名ブルフェン)がAPPのトランスジェニックマウスでアミロイドの沈着を抑制したという報告が出た(Lin GP et. al. J Neurosci 2000; 20: 5709).Linらは,脳にアミロイドの沈着が始まる10ヶ月齢のAPPのトランスジェニックマウスに対し,イブプロフェンを6ヶ月間投与したところ,脳のアミロイド斑,Aβ量,グリオーシス,neuritic dystrophy, IL-1濃度のいずれもが対照に比べて減少していたと報告している.
このように,人間の疫学的データと動物実験の結果が一致する点が非常に面白い.NSAIDsは,constitutive, inducibleにかかわりない,非特異的なcyclooxygenase (COX) inhibitorだが,inducible COX (COX-2) 選択的であり,胃腸障害などの副作用がより少ないと言われるcerecoxibなどのCOX-2inhibitorがibuprofenと同様の効果があるのかどうかも興味があるところだ.
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ミノサイクリンがハンチントンの進行を遅らせる?
Chen M and others. Minocycline inhibits caspase-1 and caspase-3 expression and delays mortality in a transgenic mouse model of Huntington disease. Nature Med 2000;6:797, July 2000.
ミノサイクリンは血液脳関門を通過して,脳虚血の際のカスパーゼー1とiNOSのupregulationを抑制し,梗塞巣を小さくすることがわかっている.このことをヒントにハンチントン病遺伝子変異のトランスジェニックマウスにミノサイクリンを投与した.するとカスパーゼー1とiNOSのupregulationを抑制したばかりでなく,病気の進行と死亡も遅らせたことがわかった.ミノサイクリンの利点は,すでに臨床的に古くから使われている薬であり,重篤な副作用なしに,年余にわたる投与も可能であることだ.すぐにも臨床試験がはじまるだろう.
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プレセニリンの相手役
Gang Yu and others. Nicastrin modulates presenilin-mediated notch/glp-1 signal transduction and beta-APP processing. Naure 2000;407:48, September 2000
βsecretase次にγsecretaseによりAPPからAβが切り出される.γsecretaseはプレセニリンそのものかどうか問題になっていた.プレセニリン以外の蛋白と複合体を作って初めてγsecretaseとして働けるのではないかと推測されていたが,このほど見つかった,膜貫通糖蛋白であるニカストリンがプレセニリンの相手役であることが判明した.ニカストリンは一番染色体上で,家族性のアルツハイマー病の推定原因遺伝子座の近傍にあることも興味ある点である.
これでγsecretaseとプレセニリンの関係が完全に解明されたわけではないが,Aβのプロセッシングの解明が大幅に前進したと言えるし,治療薬の標的がまた一つ増えたとも言えるだろう.
Lu DC and others. A second cytotoxic proteolytic peptide derived from amyloid beta-protein precursor. Nature Med 2000;6:397, April 2000
βsecretaseやγsecretaseだけがAPPを切るわけではないらしい.それがなんとカスパーゼ9だというのだ.カスパーゼ9はAPPのC末端を切断し,C31と呼ばれるペプチドを切り出す.このC31はAβとは何の関係もない.このC31は神経細胞にアポトーシスを誘発する.更に,C31と活性化されたカスパーゼ9はともにアルツハイマー病脳に存在するが,対照脳には見出されなかったという.
Paloneva J and others. Loss-of-function mutations in TYROBP (DAP12) result in a presenile dementia with bone cysts. Nature Genet. 25(3):357-361, 2000 Jul.
Nasu-Hakola病といっても,一部の精神科医と神経内科医しか知らないだろう.手首や足首の骨嚢腫(これが原因で骨折しやすい)と,大脳基底核の石灰化と痴呆を特徴とする,まれな病気である.症例のほとんどは日本人かフィンランドで人である.このように地理的に非常に奇妙な分布を示すことも,この病気の大きな特徴だ.この非常に奇妙な病気の遺伝子変異がわかった.TYROBP (TYRO protein tyrosine kinase biding protein)と呼ばれる膜貫通性の蛋白で,natural killer細胞で細胞内情報伝達に関与する.この変異でTYROBPの機能が失われる.しかし,患者のnatural killer細胞の機能をいろいろな面から調べても,障害されていない.これは何らかの代償が効いているためと考えられる.ところが骨や脳ではこの代償が効いていなことになる.今後はTYROBPが脳や骨で果たす役割の解明に研究の重点が移っていくことになる.
Roy NS, Wang S, Jiang L, et al. In vitro neurogenesis by progenitor cells isolated from the adult human hippocampus. Nature Medicine ; 6: 271-7.
その職場固有の運営のノウハウとか,貴重な技術を持った人は,派遣会社の人材では代役にならない.だから,そんな人が定年退職でいなくなると,職場の機能が麻痺してしまう.後継者の教育とか補充とかは不況で夢のまた夢である.これをcooperate Alzheimer diseaseという.このモデルは,本物のアルツハイマー病に対して面白い仮説を提供してくれる.
ふつう,神経変性疾患では,推理小説のように,神経細胞が何者かによって次々と殺されていくシナリオが考えられている.このシナリオは,成人の脳では神経細胞は補充がきかないという前提の上に成り立っている.しかし,通常は補充がきく体制になっているとなれば,別のシナリオが成り立つ.cooperate Alzheimerモデルのように,退職は本来の規則通りなのに,補充がきかないために人員不足になって機能しなくなるというシナリオはどうだろうか.
著者らは,側頭葉てんかんで切除したヒト成人の海馬にも神経幹細胞が存在することを初めて示した.それならば,この神経幹細胞が補充人員となって,ヒトの脳でも常に神経細胞死とその補充が起こっていると考えられるだろう.そして,アルツハイマー病に代表される神経変性疾患が,神経細胞死の促進によるのではなく,幹細胞による神経細胞の補充障害によって起こるという仮説も成り立つだろう.
M Gu, J M Cooper, P Butler, et alArticle: Oxidative-phosphorylation defects in liver of patients with Wilson's disease. Lancet 2000; 356: 469.
ミトコンドリアでラジカルが産生され神経細胞が死ぬという仮説は,培養神経細胞レベルではさんざん研究されているが,ことヒトの神経変性疾患そのものでは,なかなか直接的な証拠がつかまらないのが悩みの種だったが,Guらはウィルソン病でそれを強く示唆するデータを示してくれた.ウィルソン病で変異があるWD蛋白はゴルジ装置に局在し,P-type copper transporting ATPaseとして機能している.しかし,WD蛋白の変異がどのようにして神経細胞を障害するのかはわかっていなかった.著者らはウィルソン病での肝臓のミトコンドリアの酸化的りん酸化に関係する酵素を検討し,関係酵素活性が軒並み低下していることを見出した.著者らは,この酸化的りん酸化の障害はミトコンドリアへの銅の沈着が原因であり,この障害のによるラジカルの産生と酸化ストレスが神経細胞死を起こすのだろうと推測している.
血管拡張性失調症ataxia telangiectasiaという小脳の変性疾患の原因遺伝子産物であるタンパク質キナーゼ(ATM)が,家族性乳癌抑制因子を指令するBRCA1のDNA修復機能を司るというお話.電離放射線照射に応じてBRCA1結合タンパク質CtIPが過剰にリン酸化され、BRCA1から解離することがDNA修復に必要である.ATMはこのBRCA1結合タンパク質CtIPのりん酸化を行うが,ataxia telangiectasiaのようにATMに変異があると,CtIPのりん酸化ができなくなり,その結果,CtIPがBRCA1から解離できなくなり,DNA修復ができなくなるというわけだ.
SHANG LI and others. Functional link of BRCA1 and ataxia telangiectasia gene product in DNA damage response. Nature 406, 210- 215(2000)
Requirement of ATM-dependent phosphorylation of brca1 in the DNA damage response to double-strand breaks. Science 1999 Nov 5;286(5442):1162-6
神経変性疾患の多くは,ある年齢に達してから徐々に発症してくるので,一定の障害が徐々にボディーブローのように効いてきてついには死に至ると,誰もがそういう印象を持っていただろう.しかし,小脳変性症マウス、パーキンソン病、ハンチントン病など、12の細胞死現象をモデルにして動態解析した結果,病気にかかったニューロンは異常な状態を保っていて、そこに壊滅的な出来事がまれに起こると、それが高い確率で細胞死につながるのだという.つまり,野球で言うと,満塁から押し出しではなく,満塁ホームランで一挙にやられるということらしいのだが,それでは満塁に至るプロセスが何か,そしてホームランが何かというのは???
Yong Tae Kwak, II-Woo Han, Jongsam Baik, et al. Research letters: Relation between cholinesterase inhibitor and Pisa syndrome. Lancet 2000:355:2222.
アルツハイマー病におけるアセチルコリン性神経伝達の低下を是正することによって痴呆症状を軽快させるために,中枢性の抗コリンエステラーゼ剤を使うことがある.日本では商品名アリセプト(一般名ドネペジルdonepezil)として広く使われている.この種の薬剤が,向精神薬の副作用であるPisa syndrome(要するにピサの斜塔のように体が斜めに傾く)を起こすとして報告された.
パーキンソン病では,その症状の左右非対称ゆえに体が斜めになることは良く知られている.パーキンソン病の症状をアセチルコリン性ニューロンの活動亢進とドパミン性ニューロンの活動低下の相乗作用という観点から考えれば,向精神薬の副作用やアセチルコリン性神経伝達の亢進でPisa syndromeが起こることは決して不思議ではないと思うのだが・・・
若年性パーキンソン病におけるparkin 遺伝子の突然変異の頻度と表原型との関連を検討し,parkin 遺伝子の突然変異は,若年層で発症する常染色体性劣性遺伝の家族性パーキンソン病の49%,および20 歳以下で発症した孤立型の若年性パーキンソン病の77%にparkin 遺伝子の突然変異を見出し,parkin 遺伝子の突然変異はこれらのパーキンソン病の主な原因の一つであるが,臨床的に顕在化した症状だけでは,これらの患者の正確な診断を行うのは不可能であると結論している.
Amyloid beta protein (Abeta)は,細胞膜のamyloid precursor protein (APP)にNanomolar の濃度で結合することにより神経毒性を発揮するらしい.つまり,前駆体(親)であるAPPに,その鬼っ子のAbetaがくっついて親を邪魔して神経細胞死を起こすということ.
MEL B. FEANY* AND WELCOME W. BENDER. A Drosophila model of Parkinson's disease. Nature 404, 394 - 398 (2000)
家族性パーキンソン病の原因遺伝子の一つとして知られているα‐シヌクレイン遺伝子の変異のトランスジェニックショウジョウバエ(そのゲノムはすでに解明された:Nature 404;442- 443)を作った.すると成熟後のドーパミン作動性ニューロンの脱落、α‐シヌクレインを含む繊維状細胞内封入体の形成、そして運動障害を引き起こすことができた。ハエの運動障害ってどうやって評価するかって?ハエを瓶の中に集めて,瓶をたたいてハエを一旦瓶の底に落とし,そこからはい上がってくる時間を計るのだそうな.
このモデルのいいところは,薬のスクリーニングに使えそうだとということだ,マウスよりもずっと安上がりだし,数が稼げるし,判定に要する時間も短くて済む.
なんだ,そんなものは興味がないなんていう人は”戻る”のボタンを押してね.ご用とお急ぎでない方だけはお立ち会い.
AXIN1 mutations in hepatocellular carcinomas, and growth suppression in cancer cells by virus-mediated transfer of AXIN1 Nature Genetics 2000;24:pp 245 - 250
Wnt/Winglessシグナル伝達経路は、細胞表面で受容体に結合するWnt因子によって活性化される。この信号によってβカテニンが蓄積し、細胞核に移動する。細胞核に入ったβカテニンは、他の遺伝子の発現を活性化させる。Axinはβカテニンの活性を抑制するんだな,これが。Axinがいかれるとβカテニンがたまって肝細胞癌がおきる.そこへ正常のAxin遺伝子を導入すると肝細胞癌が消える.ということは,Axinの量が増えたり,過剰に活性化されると細胞が死ぬかもしれないよね.神経変性疾患でaxinの活性化,axin遺伝子の制御ってわかっているのでしょうか?.
I GALVE-ROPERH and others. Anti-tumoral action of cannabinoids: Involvement of sustained ceramideaccumulation and extracellular signal-regulated kinase activation. Nature Med 2000;6:313.
悪性神経膠腫は働き盛りの年代を簡単に倒す恐ろしい病気である.この病気で倒れていったおとうさん,おかあさんは多い.手術,放射線ともに根治的ではない.ましてや薬なんか・・
神経膠腫のマウスモデルを用い、腫瘍にカンナビノイド作用薬を注入すると、マウスの3分の1で腫瘍が根絶し、別の3分の1で生存が最高6週間延長するという.神経膠腫の培養実験から、カンナビノイドが、セラミドとRaf-1/ERK情報伝達系を介して腫瘍細胞にアポトーシスを引き起こすという.効果がヒトの悪性神経膠腫にも有効で,安全性が高いことを祈る.
DAVID BAKER and others. Cannabinoids control spasticity and tremor in a multiple sclerosis model. Nature 404, 84- 87(2000),
多発性硬化症のモデルである慢性再発性実験アレルギー脳脊髄炎(CREAE)ではミエリン抗原への過敏性応答が出現したのち、マウスに痙れんや振戦が現れる。R(+)-WIN 55,212,Δ9‐テトラヒドロカンナビノール、メタアナンダミドおよびJWH-133のカンナビノイド(CB)受容体作動薬を上記病態モデルマウスに投与したところ、振戦と痙れんが定量的に改善した。CB1、CB2受容体(とくにCB1)をSR141716AおよびSR144528で阻害すると、振戦と痙れんが悪化することから、内在性CB系が振戦と痙れんを抑えるために慢性的に活動していることもわかった。
ヒト成人の海馬でも神経細胞は新生することはわかっていたが(Eriksson PS, Perfilieva E, Bjorkeriksson T, et al. Neurogenesis in the adult human hippocampus. Nature Medicine 1998;4:1313-1317.)その神経系前駆細胞がin vitroで分離された.(N S ROY and others. In vitro neurogenesis by progenitor cells isolated from the adult human hippocampus. Nature Med 2000;6:271).神経細胞の発生,神経細胞死,移植医療への貢献が期待される.
Nobuhisa Iwata and others. Identification of the major Amyloid beta1-42-degrading catabolic pathway in brain parenchyma: Suppression leads to biochemical and pathological deposition. Nature Med 2000;6:143 - 150
アミロイドがたまるのは,異常なアミロイドが合成されて,それが分解できないからか?しかし,著者らは正常なラットの海馬にAmyloid beta1-42を注入したところ,neutral endopeptidase (NEP) により分解され,NEP inhibitorによりアミロイドが生化学的にも,病理学的にも沈着することを見出した.
ということは,たとえAmyloid beta1-42が生成されても,NEPさえしっかりしていればアミロイドはたまらないことになる.すると,次のような筋書きが考えられる.つまり,実はAmyloid beta1-42は生理的にもどんどん産生されているが,通常はNEPが働いているから蓄積せず痴呆にならない.しかし,アルツハイマー病脳では,NEPの働きが低下しているために,本来ならば作るそばからどんどん分解されていってしまうはずのAmyloid beta1-42がたまってしまう・・・
もし,これが本当ならば,アミロイド前駆蛋白のプロセッシングなんて追いかけるのはとんだ見当違いということになるのだが・・・
神経細胞死で,何が一次的な変化なのか.その変化は原因遺伝子の変異と結びつかなくてはならない.そしてもちろん神経細胞死が起こるよりもはるか前に始まっていなくてはならない(死んでから後に死因が始まるなんてもちろん許されないんだ!!)
著者らは脊髄小脳変性症の一つであるSCA1のトランスジェニックマウスにおいて,PCRを応用したsubtractive hybridizationを使って,症状が出る前から遺伝子の変化を検索した.著者らはこのような遺伝子を7つ見つけた.そのうち,最も早く変化するのは,小脳プルキンエ細胞の小胞体に豊富なprenylcysteine carboxylmethyltransferase (PCCMT)遺伝子のdown regulationだった.驚くべき事には,この変化は,原因遺伝子であるataxin-1のプロモーターが ataxin-1を発現させはじめた翌日,生後11日目,臨床症状が出る5-6週間も前に起こっていたのだ.
PCCMTは,RASのG蛋白を含む多くの蛋白の脂質による修飾に関与する.その後(といっても,まだ臨床症状やプルキンエ細胞の脱落が始まる2-3週間も前)には,細胞内カルシウムやグルタミン酸の代謝に関与する遺伝子の転写産物がdown regulationを受けてくる.これらの遺伝子は,type I 小胞体 イノシトール三りん酸受容体( IP3R1), inositol polyphosphate 5-phosphatase (INPP5A), 小胞体カルシウムポンプ (SERCA2), カルシウムイオンチャネルTRP3そしてグルタミン酸トランスポーター EAAT4である.そして,病理学的変化が現れて初めて急性期蛋白やアルツハイマー病でよく知られているalpha1-antichymotrypsin遺伝子が増加してくる.
では同様の変化がヒトのSCA1の脳で見られるのか?答えはYES. 少なくとも,PCCMT, SERCA2 ,IP3R1の三つの遺伝子はdown regulationを受けていることがわかった.
CAG repeatがどのように神経細胞を障害するか?この論文がそのドラマの幕開けとなるのだろうか?
このように,形態学的変化が現れるはるか前にたくさんの遺伝子の変化が起こっているとしたら,アルツハイマー病でも,アミロイドばかりにこだわっていていいんだろうか.(なーんて言うと,むきになって怒る人がたくさんいるよね.)
先に分子シャペロンであるHSP70がポリグルタミンによる神経変性を抑制することを紹介したが,カナダのケベック州に集積するこの遺伝性痙性麻痺の変異遺伝子産物が,heat-shock domainを持っていて,どうやらシャペロンとして働くようなのだ.変性疾患における神経細胞死を分子シャペロンの障害という視点から見ると面白いことがわかってくるのではないかと思わせる報告である.
in vitroでのデータだが,Beta-sheet breaker peptideが感染性のプリオンPrPScを正常のPrPCに似たペプチドに戻し,感染性を激減させるとのこと.なお同じグループは1998年にBeta-sheet breaker peptideをアルツハイマーの治療に応用するための基礎研究も行っている.
Soto C, Sigurdsson EM, Morelli L et al: Beta-sheet breaker peptides inhibit fibrillogenesis in a rat brain model of amyloidosis: implications for Alzheimer's therapy. Nature Med 4: 822-6, 1998
MAURICE A. SMITH, JASON BRANDT & REZA SHADMEHR. Motor disorder in Huntington's disease begins as a dysfunction in error feedback control. Nature 403, 544 - 549 (2000)
ハンチントン病で,通常気づかれる運動障害や痴呆,精神症状が始まるはるか前に,運動時の誤差のフィードバック調節機能の異常が検出されるという.これが脳のどの部位の障害によるものなのだろうか.パーキンソン病のような他の錐体外路疾患でも同様の異常が検出され,早期診断や病期の判定に使えるのだろうか?精神分裂病ではどうだろうか?
どこからというのは比較的簡単な話で,圧倒的に高濃度の細胞内のグルタミン酸が放出されるのだろうとの見解で誰もが一致している.しかし,その放出機序に関しては,複数の仮説があった.細胞外液からのCa2+流入や細胞内貯蔵部位からのCa2+放出に依存する開口放出、細胞膨化により活性化される陰イオンチャネルを介する放出、アストログリア細胞からのインドメタシン感受性の放出、グルタミン酸輸送体の逆回転による放出など,である.
DAVID ATTWELLはこのうちの,グルタミン酸ポンプの逆転を長年追いかけてきた男である.彼が,最終的にこの話に決着をつけた.細胞外のグルタミン酸が高濃度にならないように普段懸命に働いているポンプが,脳虚血の際のエネルギー不足が引き金になって,停止するどころか逆回りしてしまい,細胞内に閉じこめられていた最も普遍的な神経毒,グルタミン酸を放出してしまうのだ.
DAVID J. ROSSI, TAKEO OSHIMA & DAVID ATTWELL. Glutamate release in severe brain ischaemia is mainly by reversed uptake. Nature 403, 316 - 321 (2000)
カスパーゼ‐12は小胞体にあり,小胞体のカルシウム恒常性のかく乱、小胞体でのタンパク質の過剰蓄積などの小胞体ストレスで活性化される.小胞体といえば,プレセニリン1の遺伝子変異で蛋白処理の障害が起きる場所だ.カスパーゼ‐12のノックアウトマウスは小胞体ストレスで誘導されるアポトーシスに抵抗性である。さらに、このノックアウトマウスの皮質ニューロンは、アミロイド‐βによって誘導されるアポトーシスが非常におこりにくくなる.このように,カスパーゼ‐12は小胞体特異的アポトーシス経路を仲介し、さらにアミロイド‐βの神経毒性にもかかわっているらしい。
著者らは,生涯独身者は,既婚者に比べてアルツハイマー病になる危険性が明らかに高いことを見出したのだ.これは家庭を持たないことで刺激が少なくなるためではなく,生涯独身でいるような人格の人はもともとアルツハイマー病になりやすい素質があるのではないかと著者らは考察している.結婚のリスク(カール・ヤスパースの妄想の定義参照)とアルツハイマーのリスクのどちらを選択すべきか迷う人は下記の論文をきちんと読まなくてはならない.
C. Helmer and others. Marital status and risk of Alzheimer's disease. A French population-based cohort study. NEUROLOGY 1999;53:1953-1958.
アミロイドがどこでできてどこにたまるのか?は古くからの命題だが,いまだ決定的な証拠が得られていない.著者らは,A beta 42のC末端に特異的な抗体を用いて,免疫組織学的に検討した結果,まずはじめに細胞内でできて,そののちに細胞外へ運ばれるのだろうと結論している.
Akihide Mochizuki and others. Abeta42-positive non-pyramidal neurons around amyloid plaques in Alzheimer's disease. Lancet 2000; 355 (9197):
Ibba M. Soll D. Quality control mechanisms during translation [Review]. Science. 286(5446):1893-1897, 1999 Dec 3.
Lindahl T. Wood RD. Quality control by DNA repair [Review]. Science. 286(5446):1897-1905, 1999 Dec 3.
Hazan J and others. Spastin, a new AAA protein, is altered in the most frequent form of autosomal dominant spastic paraplegia. Nature Genet. 23(3):296-303, 1999 Nov.
Gentry N. Patrick and others. Conversion of p35 to p25 deregulates Cdk5 activity and promotes neurodegeneration.Nature 402;1999:615
アルツハイマー病では、タウタンパク質が微小管から離れて凝集して蓄積する。この凝集が起こるためには、タウが過剰なリン酸化を受ける必要がある。このタウをリン酸化するのは,サイクリン依存性キナーゼ5(Cdk5)だが,なぜりん酸化が過剰になるのかがわからなかった.著者らは,この過りん酸化の機序を解明した.
Cdk5の活性化には制御サブユニットであるp35タンパク質と結合する必要があるが,アルツハイマー病患者の脳では,このp35部分欠失型のp25が蓄積していることを発見した.p25はp35と異なり分解されにくい.そしてp25がCdk5に結合すると、Cdk5の活性を持続的に活性化させる.その結果,タウタンパク質が過剰にリン酸化されるのだ.さらに、初代培養ニューロンでのp25/Cdk5複合体の過剰発現は、細胞骨格の破綻、形態変性とアポトーシスを引き起こすという.
T SMITH, A GROOM, B ZHU & L TURSKI. Autoimmune encephalomyelitis ameliorated by AMPA antagonists Nature Med 6: 62-66, 1999.
D PITT, P WERNER & C S RAINE.Glutamate excitotoxicity in a model of multiple sclerosis Nature Med 6: 67-70, 1999.
オリゴデンドログリアがAMPA/Kainate型のグルタミン酸の受容体に弱いという論文は98年に紹介しましたよね.それに続いて上記の二つの論文が出ました.多発性硬化症の動物モデルである実験的アレルギー性脳脊髄炎が,AMPA/Kainate型のグルタミン酸の受容体拮抗薬のNBQXで良くなったという.これは髄鞘を作っているオリゴデンドログリアの障害が,AMPA/Kainate型のグルタミン酸の受容体を通って流入するカルシウムによって起こるからだというのだが・・・
でもねえ,ニューロンだってAMPA/Kainate型の受容体を持っているのに,なぜ白質だけがやられるの?それから,ある時にはあっち,別の時にはこっちって,なぜ時間と空間の多発性があるの?
amyloid precursor protein (APP) を切断して憎き(?)amyloid betaを作り出す二人の犯人,beta-secretase and gamma-secretaseの正体は,99年9月の時点では,後者ではプレセニリンの容疑が強くなっているとはいえ,まだ逮捕には至っていない.しかし,どうやらbeta-secretaseでは逮捕者が出た模様だ.今回beta-secretaseの容疑で逮捕されたのは,自称transmembrane aspartic proteaseで,本名BACE (for beta-site APP-cleaving enzyme)で,
1.BACEはbeta-secretaseと全く同じ部位でAPPを切断し
2.BACEのトランスジェニックではAPPのbeta-secretaseによる分解産物と同一の蛋白が増加し,
3.BACEのアンチセンスを投与するとbeta-secretase cleavage productsが減少し,
4.BACEの細胞内局在はbeta-secretaseで想定されていたのと同じ
以上より,著者らは逮捕に踏み切った.今後は,プレセニリンとの共犯関係を含めて事件の全容を明らかにする作業と,BACE inhibitorの開発と臨床応用の競争が開始されることになる.下記の論文も参照のこと.
Riqiang Yan and others. Membrane-anchored aspartyl protease with Alzheimer's disease beta-secretase activity. Nature 402;1999: 533 - 537
Sukanto Sinha and others. Purification and cloning of amyloid precursor protein beta-secretase from human brain. Nature 402, 537 - 540 (1999)
molecular chaperone分子シャペロンとは,タンパク質に結合して,それが不可逆的な凝集や間違った高次構造をとらないように,助ける分子の総称である.ヒストンとDNAが正しく会合してヌクレオソームを形成するのを助けるヌクレオプラスミンや,HSP70のようなストレスタンパク質は分子シャペロンの代表である.
こういう蛋白だから,蛋白が異常な凝集体を作るような病態に関与していることは容易に想像される.面白いのは,この作用が核内封入体の形成と関係ないこと.つまり核内封入体ができても,神経細胞変性は抑制されるということなんですね.
EMANUELA GUSSONI and others. Dystrophin expression in the mdx mouse restored by stem cell transplantation. Nature 401, 390 - 394 (1999)
デュシェンヌ型筋ジストロフィーのモデルであるmdxマウスに放射線照射した後,正常な造血幹細胞あるいは新しい筋肉由来の幹細胞を静脈注射すると、造血細胞が回復するばかりでなく、ドナーマウス由来の核が筋肉に取り込まれ、病的筋肉でジストロフィンの発現が部分的に回復する。
RICHARD L. DAVIS and others. Familial dementia caused by polymerization of mutant neuroserpin. Nature 401, 376 - 379 (1999)
蛋白が正常に片づけられず,ゴミとしてたまっていって,ついにはそのゴミによって神経細胞が殺されるという仮説は,アルツハイマー病におけるアミロイド,パーキンソン病におけるLewy小体,あるいはそれ以外の核内封入体を伴う神経疾患で常にささやかれているが,主犯となる分子が同定されているわけではない.この粗大ゴミ仮説を支持する遺伝性痴呆の家系が見つかった.
この家系における痴呆は常染色体優性遺伝を示す.痴呆患者では,セリンプロテアーゼ阻害因子(セルピン)の中でニューロン特異的なセルピン,ニューロセルピン遺伝子(PI12)のpoint mutationが見つかった.この変異遺伝子からは変異セルピンができる.変異セルピンは正常に”消化”されず,集まって大きな固まりをつくり(タンパク質重合),不燃ゴミとしてどんどんたまっていく.患者脳にはコリンズ物質と呼ばれる特徴的な物質があるが,これは、粗大ゴミとなったニューロセルピンが蓄積したものだ。タンパク質重合阻害物質の投与が、この病気や他の神経変性疾患の有効な治療につながるのだろうか?
1.Wolfe MS, Xia WM, Ostaszewski BL et al: Two transmembrane aspartates in presenilin-1 required for presenilin endoproteolysis and gamma-secretase activity. Nature 398: 513-517, 1999
2.Wim G. Annaert and others. Presenilin 1 Controls -Secretase Processing of Amyloid Precursor Protein in Pre-Golgi Compartments of Hippocampal Neurons. The Journal of Cell Biology, Volume 147, Number 2, October 18, 1999 277-294
Presenilin 1がAPPからアミロイドβをつくりだすγsecretaseではないかと疑われていた (1),Annaertら (2)は今回,α並びにβsecretaseで切られたAPPとPresenilin 1の局在がどんぴしゃりと一致することを見いだした.
痙性対麻痺は神経疾患の中でも頻度の多い病気だ.様々な原因で起きてくるが,”変性疾患”の一部として緩徐進行性で原因のわからないものが多い.今回わかったのは,常染色体性優生遺伝を示す痙性対麻痺の中で最も頻度の高いタイプで第二染色体短腕に遺伝子座があるとわかっていたタイプである. ATPaseの一種とか?
Spastin, a new AAA protein, is altered in the most frequent form of autosomal dominant spastic paraplegia. Nature Genetics volume 23 no. 3 pp 296 - 303,1999
ハンチントン病のリンパ球ではミトコンドリアの機能不全がおこっていて,カスパーゼ3の活性化とアポトーシスが起こっている.ではなぜ神経系に病変が限られるかというと,リンパ球ではいくらでも取り替えがきくが,神経細胞ではとりかえが効かないからだろうとのこと.そうなのかなあ,それよりもリンパ球では神経細胞にはない何かの保護機構が働いていると考えた方が面白いんじゃないかな.
Taiichi Katayama and others. Presenilin-1 mutations downregulate the signalling pathway of the unfolded-protein response. Nature Cell Biol 1999;1:479 - 485.
家族性のアルツハイマー病で変異が知られているプレセニリン1遺伝子異常により,アミロイド蛋白の生成が促進されることはわかっていたが,一体それがどういう機序によるのかはわかっていなかった.この論文はその機序を解明したものである.
プレセニリン1の遺伝子産物は小胞体の膜にある。同じ小胞体の膜の上にあるIRE1という別のタンパク質は,折りたたまれていないタンパク質(たとえばアミロイド)を検知して処置する.プレセニリン1が変異すると,このIRE1の機能が停止して,小胞体が折りたたまれていないタンパク質で一杯になって細胞の機能を障害し,ついには細胞が死ぬというのである.
そうすると,神経細胞が死ぬ前の段階で,小胞体の中に異常なタンパク質が一杯詰まっている様子が電顕で見られそうなものだが,そんな話は聞いたことがないなあ・・・私が不勉強なだけだろうか.
Raffaele Lodi and others. Deficit of in vivo mitochondrial ATP production in patients with Friedreich ataxia. PNAS 96, Issue 20, 11492-11495, September 28, 1999.
Friedreich ataxiaにおけるFRDA遺伝子GAA triplet expansionが一体どんな機能障害を起こすのか明かではなかったが,著者らは患者筋肉におけるATP産生が障害されいることをNMRで証明した.またその障害の程度はリピートの長さとよく相関した.
こうなるとフリードライヒ失調症の治療で,ラジカルスカベンジャーやミトコンドリアのエネルギー補給がより現実的に思えてくる.
gad (gracile axonal dystrophy) mouseは日本で発見された神経変性ミュータントで,後索の変性を特徴とする.近年はユビキチン蛋白やアミロイドの沈着の点から神経変性モデルとして注目されていたが,その変異がubiquitin carboxy-terminal hydrolase isoenzyme (Uch-I1)遺伝子のエクソン7と8のin-frame deletionであることがわかった.かねてからユビキチンの代謝が神経細胞変性に関与していることは想定されていたが,哺乳動物での神経変性モデルで関与が直接証明されたのははじめてである.(なお,ヒトでは,遺伝性のパーキンソン病はUch-I1の変異が見出されているNature 1998;395:451)
日本で見出された神経変性モデルマウスの原因が,日本のチームによって解明されたことは意義深い.
K SAIGOH, Y -L WANG, J -G SUH, T YAMANISHI, Y SAKAI, H KIYOSAWA, T HARADA, N ICHIHARA, S WAKANA, T KIKUCHI & K WADA. Intragenic deletion in the gene encoding ubiquitin carboxy-terminal hydrolase in gad mice. Nature Genet 1999;23:47-51.
Peter H Vogt. Risk of neurodegenerative diseases in children conceived by intracytoplasmic sperm injection? Lancet1999;354:611
Aneta T Dowsing, E L Yong, Malcolm Clark, et al. Linkage between male infertility and trinucleotide repeat expansion in the androgen-receptor gene. Lancet1999;354:640
人工授精児ではtrinucleotide repeatが長くなるから神経変性疾患のリスクが高まる??
Dominique Caparros-Lefebvre, Alexis Elbaz, and the Caribbean Parkinsonism Study Group. Possible relation of atypical parkinsonism in the French West Indies with consumption of tropical plants: a case-control study. Lancet 1999;354:281-86.
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Familial
British dementia (FBD)の原因
Vidal R, Frangione B, Rostagno A, et al. A stop-codon mutation in the BRI gene associated with familial British dementia. Nature 1999;399:776-781.
Familial British dementia (FBD)とは,常染色体性優生遺伝をとる痴呆性疾患で,40代前後で発症する.痴呆の他に痙性対麻痺,小脳性運動失調といった神経学的症状も出る.神経病理学的には脳血管のアミロイドアンギオパチー,老人斑,神経原線維変化があらわれる.この原因遺伝子が13番染色体上にあるBRIと呼ばれる遺伝子である.FBDでは,このBRIのストップコドンに一塩基置換がおこるためにより長いopen reading frameとなり,より長いBRI蛋白(前駆蛋白)が生じ,それからアミロイドの成因となるABriという異常蛋白が切り出されてくる.この,長くなった前駆蛋白はXbaIという制限酵素で切断されるので,FBDの診断に役立つとのこと.
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PrPCが神経細胞死を抑制する
CHIEKOハKUWAHARA and others.
Prions prevent neuronal cell-line death. Nature 1999;400:225-6
Wild typeとPrPCをノックアウトしたマウスからそれぞれ海馬神経細胞をとってきてserum freeで培養すると,Wild typeのマウスからとってきた細胞は生きているが,PrPCをノックアウトしたマウスからとってきた細胞は死んでしまう.だから,PrPCは神経細胞の維持に必要であるとのこと.
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amyloid-betaの接種で脳のアミロイドが消えた
DALE SCHENK and others. Immunization with amyloid- attenuates Alzheimer-disease-like pathology in the PDAPP mouse. Nature 1999;400:173-177.
アミロイドのトランスジェニックマウスの一つであるPDAPP mouseをAβ42で感作すると,脳へのアミロイドの沈着が対照の3割程度まで減少することを示した論文である.問題は現在のところ,アミロイドの沈着,神経細胞の変性脱落,学習記憶の障害の3つの要素を全て備えたモデルマウスがないことだ.だからこの論文でも行動障害が治ったとは一言も書いてない.この結果がヒトにもあてはまるとすれば,アルツハイマー病の治療手段として試みる価値はあるだろうが,神経細胞の変性脱落や痴呆症状そのものも改善するかどうかは未知である.
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群発頭痛は視床下部に器質的な原因?
May A, Ashburner J, Buhel C, et al. Correlation between structural and functional changes in brain in an idiopathic headache syndrome. Nature 1999;5:836-838.
PETで見ると,機能的な異常ではなく,視床下部に器質的な異常があるとのこと.
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活性上昇したtransglutaminaseがhuntingtinを凝集させる
Karpuj MV, Garren H, H.Slunt, et al. Transglutaminase aggregates huntingtin into nonamyloidogenic polymers, and its enzymatic activity increases in Huntington's disease brain nuclei. Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 1999;96:7388-7393.
ハンチントン病では脳でのみ特異的にtransglutaminase活性が上昇していて,リンパ組織などではかえって活性が低下している.transglutaminaseはhuntingtinを架橋させる働きがある.そして,huntingtinのポリグルタミン鎖のグルタミンがハンチントン病の発症閾値の数である36を越えると,架橋されたhuntingtinが凝集体を形成する.凝集体の形成はhuntingtinのポリグルタミン鎖が長くなればなるほど高度になる.ハンチントン病の核内封入体と同様,凝集体はアミロイドの性質を持たない.
ハンチントン病を阻止するのはcaspase-1の阻害なのか,はたまたtransglutaminaseの阻害なのか?
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シトルリン血症II型の遺伝子変異はミトコンドリアのcarrier
protein
Kobayashi K. Sinasac DS. Iijima M. Boright AP. Begum L. Lee JR. Yasuda
T. Ikeda S. Hirano R. Terazono H. Crackower MA. Kondo I. TsuiLC. Scherer
SW. Saheki T. The gene mutated in adult-onset type II citrullinaemia encodes
a putative mitochondrial carrier protein. Nature Genet. 22(2):159-163,
1999 Jun.
シトルリン血症は神経変性疾患とは直接関係ないが,多くの神経内科医にとって,肝性脳症,意識障害の鑑別診断として覚えておかなくてはならない病気の一つである.I型は古典的な先天代謝異常であり,新生児期,乳児期に発症し,シトルリンからアルギニンを合成するアルギニノコハク酸合成酵素 (ASS)遺伝子の変異が見出されている.
一方,日本人に多いII型は成人期に発症し,ASS酵素活性の低下も肝臓に限られている.II型ではASSの遺伝子には異常がなく,原因を突き止めようとする多くの研究者を悩ませていた.II型患者の多くは発症後数年以内に肝性脳症から脳浮腫を起こして死亡するので肝移植の対象である.私はこのII型の患者を担当し,失っている.診断の際,酵素活性の測定は,シトルリン血症研究の第一人者,鹿児島大学生化学の佐伯武頼先生にお願いした.佐伯先生が原因遺伝子の変異を見事に解明されたと聞くと,人一倍感慨深いのでここに紹介させていただいた次第である.
変異はASS遺伝子ではなく,citrinと名付けられたミトコンドリアに局在するキャリア蛋白の遺伝子にあったのだ.この蛋白が肝臓に多く発現していることは,II型ではASS酵素活性の低下が肝臓に限られていることともよく合致する.
原因遺伝子が見つかったなら,次は治療だ.肝臓という比較的アクセスしやすい臓器だ.私でなくても,臓器移植というパーツの取り替えよりも,遺伝子治療で自分の臓器を生かせないかと思うだろう.是非とも何とかしてもらいたい.かつて私が手も足も出なかった病気が,きれいに治るようになったという感慨を,死ぬまでに一度ぐらい味わいたいものだ.
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beta-amyloidの神経細胞障害機序
Della Bianca V. and others. beta-amyloid activates the O-2(radical
anion) forming NADPH oxidase in microglia, monocytes, and neutrophils -
A possible inflammatory mechanism of neuronal damage in Alzheimer's disease.
J. Biol. Chem. 274(22):15493-15499, 1999.
培養ミクログリアをbeta-amyloid で処理すると酸化ラジカルが産生される.この酸化ラジカルはNAPDH oxidaseの活性化により産生されたのである.この活性化は,tyrosine kinases ,phosphatidylinositol, 3-kinaseあるいは dibutyryl cyclic AMPによって阻害され,インターフェロンガンマによって抑制される.
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ミトコンドリア,Bcl-2,イオンチャンネル,apoptosis
Shimizu S and others. Bcl-2 family proteins regulate the release of
apoptogenic cytochrome c by the mitochondrial channel VDAC. Nature. 399(6735):483-487,
1999.
ミトコンドリアが神経毒産生工場となりうることは以前このページでも示した.ミトコンドリアの膜の透過性が変化するとcytochrome cのtranslocationが起こる.cytochrome cのtranslocationにともなってcaspasesの活性化が起こる.この研究はBcl-2 familyの様々な蛋白とアポトーシスとの関連を,このcytochrome cのtranslocationの観点から明らかにしようとするものだ.
著者らは,mitochondrial porin channel(voltage-dependent anion channel, or VDACとも呼ばれる)をリポゾームに組み込み,Bcl-2 familyの蛋白とVDAC,cytochrome cの動きを見た.すると,Bcl-2 familyのうち,pro-apoptoticなBar と BakはVDACを開いて,その開いたVDACからcytochrome cがリポゾームの外放出された.一方anti-apoptotic なBcl-X-LはVDACに直接結合してVDACを閉じてcytochrome cの放出を抑制した.
以上より,Bcl-2 familyの蛋白はミトコンドリアのVDACに結合することによってその開閉を行い,その結果cytochrome cの転移を制御することによってアポトーシスをコントロールすることがわかった.
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Caspase 1の阻害でHuntington病マウスが長生きする
Ona VO and others. Inhibition of caspase-1 slows disease progression in a mouse model of Huntington's disease. Nature. 399(6733):263-267, 1999 May 20.
huntingtinのCAG/polyglutamine repeatが延長したHuntingtonのトランスジェニックマウスではcaspase-1の活性化が起こっており,このマウスにdominant-negativeの caspase-1を発現させたり,caspase-1の阻害剤を脳内に投与するとマウスが長生きする.
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MPTPの神経毒性にPARPが関与
一連のNOに関する研究を行ったDawsonらのグループは,NOがPoly(ABP-ribose) polymerase (PARP)を活性化することによってエネルギー不足を引き起こし,これが神経細胞死の原因になるとの仮説の元に研究を行ってきた.以前は虚血におけるPARPの関与をPARPのノックアウトマウスを使って示したが,今度はMPTPによる黒質の神経細胞死にもPARPが関与していることを,やはりPARPのノックアウトを使って示している.
Mandir AS, Przedborski S, Jackson LV, et al. Poly(ABP-ribose) polymerase activation mediates 1-methyl-4-phenyl-1,2,3,6-tetrahydropyridine (MPTP)-induced parkinsonism. Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 1999;96:5774-5779.
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アミロイド形成にcaspaseが関与
Gervais FG and others. Involvement of caspases in proteolytic cleavage of Alzheimer's amyloid-beta precursor protein and amyloidogenic A beta peptide formation. Cell. 97(3):395-406, 1999 Apr 30.
著者らはアルツハイマー病の脳ではCaspase-3の活性化が起こっていることを見出した.更に,caspase-3は,APPの細胞質側ドメインを切断することを見出した.この切断されたAPPをトランスフェクションするとアミロイドβを過剰に産生するようになる.はin vivoで興奮性アミノ酸の投与あるいは虚血による海馬神経細胞障害の際にも起きる.またcaspase-3によって切断されたAPPは老人斑の形成にも関与する.さらに,スウェーデンの家系におけるアミロイドの変異は,caspase-6による切断を受けやすくなり,その結果アミロイドの産生が増す可能性を示した.
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alpha-synucleinと組んで細胞質封入体を作る蛋白
パーキンソン病を含む多くの神経変性疾患に共通して見られる核内封入体がどうやって形成されるかが神経細胞死解明の鍵になることはこのコラムでも度々強調している.そんな折,家族性のパーキンソン病の一部で変異しているalpha-synucleinと一緒になって封入体を作る蛋白が見つかった.場所は細胞質だが,この封入体が細胞質が核内に運ばれればいいわけだ.
Engelender S. and others. Synphilin-1 associates with alpha-synuclein and promotes the formation of cytosolic inclusions. Nature Genet. 22(1):110-114, 1999 May.
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アルツハイマー病における核酸の酸化;DNAではなくRNA
DNAとRNAの酸化のマーカーである8-hydroxydeoxyguanosine (8OHdG) と 8-hydroxyguanosine
(8OHG)をそれぞれ認識する抗体でアルツハイマー病脳を染色したところ,病変の強い部位で強く染まった.その染色はRNAaseで消失したので,DNAではなく,RNAの酸化が強く起こっていることが示された
Nunomura A. and others. RNA oxidation is a prominent feature of vulnerable neurons in Alzheimer's disease. J. Neurosci. 19(6):1959-1964, 1999 Mar 15.
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核と細胞質をつなぐ橋
神経変性疾患の多くに共通して見られる核内封入体の形成の謎を解く鍵として,細胞質と核をつなぐものが問題だということは下記に述べた.
その鍵となる可能性を持った蛋白として,Ranがある.RanはGTP-binding proteinの一つであるRanBP2は核と細胞質の間の蛋白輸送に重要な役割を果たす.Ranは今後神経変性疾患の研究で重要なキーワードになるに違いない.
Vetter IR. Nowak C. Nishimoto T. Kuhlmann J. Wittinghofer A. Structure of a Ran-binding domain complexed with Ran bound to a GTP analogue: implications for nuclear transport. Nature. 398(6722):39-46, 1999 Mar 4.
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マウスのALSにクレアチンが有効?
Klivenyi P and others. Neuroprotective effects of creatine in a transgenic
animal model of amyotrophic lateral sclerosis. Nat. Med. 5(3):347-350,
1999 Mar.
ヒトの家族性ALSと同じSODの変異を起こしたマウスに,クレアチンを食べさせると,ALSの症状や神経病理学的変化を軽減するっていうんですけど・・
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B細胞性白血病で神経疾患の遺伝子異常を発見
神経変性疾患と癌をつなぐ遺伝子として,ATMのことを紹介したと思ったら,すぐにそれを裏付ける論文が出た.ataxia
telangiectasiaとは全く別の病気である,慢性B細胞性白血病でもATMの遺伝子異常が見つかったのだ.
Stankovic T and others. Inactivation of ataxia telangiectasia mutated gene in B-cell chronic lymphocytic leukemia. Lancet 1999;353:26-29.
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筋萎縮を起こす因子
Gonzalez-Cadavid NF and others. Organization of the human myostatin
gene and expression in healthy men and HIV-infected men with muscle wasting.
Proc Natl Acad Sci USA. 95(25):14938-14943
myostatinはTGF-betaのスーパーファミリーの一員で,myostatinのノックアウトでは著明な筋肥大がおこるが,ヒトの疾患への関与は不明だった.著者らはヒトmyostatinのクローニングを行い,ヒトの筋肉ではtype 1, type 2線維の両方に分布し,血清中にもimmunoreactivityが検出されること,HIV感染患者では筋肉でも血清でもmyostatinが増加していることを明らかにした.
今後は各種の筋疾患でmyostatinの関与が明らかにされていくだろう.
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毛生え薬はできなくても
Gat U and others. DE NOVO HAIR FOLLICLE MORPHOGENESIS AND HAIR TUMORS
IN MICE EXPRESSING A TRUNCATED BETA-CATENIN IN SKIN. Cell. 95(5):605-614,
1998 Nov 25.
毛嚢の発達にはbeta-cateninが安定することが必要である.またbeta-cateninの異常な活性化はhair tumorを発生するとのこと.でも僕がしたいのは毛生え薬の話じゃないんです.痴呆あるいは高次機能障害を呈するいくつかの神経疾患,たとえば一部のビンスワンガー病とか,筋緊張性ジストロフィーでは,頭が禿げるんですよね.こういう疾患ではアルツハイマー病の場合と同様に,脳の病変にbeta-cateninの不安定化が関与しているのでは?
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癌と神経を結ぶもう一つの橋
Khanna KK.and others. ATM ASSOCIATES WITH AND PHOSPHORYLATES P53 - MAPPING THE REGION OF INTERACTION. Nature Genetics. 20(4):398-400, 1998 Dec.
癌化というのは神経細胞死と表裏一体であることは繰り返しこのコラムでも強調してきた.ataxia telangiectasia(AT)は小脳神経細胞死とリンパ系を中心とする悪性腫瘍がおこりやすい病気だが,この疾患の原因遺伝子ATMはphosphatidyl-inositol 3-kinase (PI-3 kinase)-like domain,proline-rich region,leucine zipperといった細胞内情報伝達系に重要な役割を果たす分子をコードしている.
一方,ATMに遺伝子変異を起こすと,放射線による細胞障害による回復過程において,G1/S相で障害が起こる.G1/S相には癌抑制遺伝子であるp53が関与することがわかっているので,著者らはATMはp53と深く結びついているのではないかとの仮説を立てて研究を進めた
その結果,ATMはN末端とC末端の両方でp53に直接結合することがわかった.C末端はPI-3 kinase-like domainであり,Recombinant ATM蛋白はp53をserine 15の部位でりん酸化した.さらに,AT患者からとった培養細胞に正常のATM遺伝子を導入すると放射線によるp53のりん酸化能が回復する.その一方,正常のATM遺伝子を持っている対照の細胞にATM antisense RNAを発現させると放射線によるp53のりん酸化が起こらなくなる.
以上より,神経細胞死を引き起こすATMが癌抑制遺伝子のP53を直接りん酸化し,DNA障害による細胞死を制御していることがわかった.ATの例からもわかるように,神経細胞死と細胞増殖である癌は単純な表裏一体ではないだろうが,癌を抑制する細胞の死が癌化につながると考えれば納得できる.
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Leigh症候群における遺伝子変異
Zhu ZQ and others.SURF1, ENCODING A FACTOR INVOLVED IN THE BIOGENESIS
OF CYTOCHROME C OXIDASE, IS MUTATED IN LEIGH SYNDROME. Nature Genetics.
20(4):337-343.
重症のミトコンドリア脳症であるLeigh症候群はcytochrome C oxidaseの酵素活性欠損が原因だが,cytochrome C oxidaseの遺伝子には変異が全く見つからなかった.Zhuらは9q34にあるLeigh症候群の遺伝子SURF1の変異を見出した.SURF1の機能はcytochrome C oxidaseの未知のco-factorと考えられる.
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傍腫瘍性小脳変性:抗体ではなくキラー細胞が犯人
Albert ML, Darnell JC, Bender A, Francisco LM, Bhardwaj N, Darnell
RB. Tumor-specific killer cells in paraneoplastic cerebellar degeneration.
Nature Medicine 1998;4:1321-1324.
paraneoplastic cerebellar degeneration(PCD)では腫瘍組織とプルキンエ細胞をの両方を認識する抗体が見出される.当初,PCDはこの抗体による自己免疫疾患だと考えられた.しかしccdr2抗体だけでは神経細胞の変性を起こすことはできないことがわかった.ならば神経変性はどうやっておきるか.その答えがこれである.腫瘍特異的なキラー細胞が腫瘍組織とプルキンエ細胞の双方を攻撃するらしい.
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4-phenylbutyrateによる副腎白質ジストロフィーの治療
Kemp S, Wei HM, Lu JF, et al. Gene redundancy and pharmacological gene
therapy - implications for x-linked adrenoleukodystrophy. Nature Medicine
1998;4:1261-1268.
副腎白質ジストロフィーの遺伝子はペルオキシソームの膜輸送蛋白ALDPをコードしており,この遺伝子のノックアウトマウスもすでに作成されている.著者らは,このマウスで,4-phenylbutyrateが血中の極長鎖脂肪酸を減少させることを示した.4-phenylbutyrateはALDPの類似蛋白であるALDRPの発現を増加させることによって効果を発揮すると考えられる.
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trasglutaminaseとタウ
神経原線維変化の主な構成物質であるヒトのタウ蛋白が,transglutaminaseによってcross-linkingを受ける部位が明らかになった.神経原線維変化は,進行性核上麻痺をはじめとするアルツハイマー以外の様々な神経変性疾患で死に行く神経細胞に出現する.一方,transglutaminaseの阻害薬によってCAG
repeat diseaseにおける神経細胞死が抑制されることが示されている.transglutaminaseはCAG
repeat disease以外でも蛋白のcross-linkingを起こし,その蛋白を不溶化することによって神経細胞死を起こしているのだろうか.
Murthy SNP. Wilson JH. Lukas TJ. Kuret J. Lorand L. CROSS-LINKING SITES OF THE HUMAN TAU PROTEIN, PROBED BY REACTIONS WITH HUMAN TRANSGLUTAMINASE. J Neurochem 71(6):2607-2614, 1998 Dec.
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精神分裂病における興奮性シナプスの減少
Harrison PJ and Eastwood SL. Preferential involvement of excitatory
neurons in medial temporal lobe in schizophrenia. Lancet 1998;352:1669-1673.
興奮性シナプスのシナプス前のマーカーであるcomplesin IIのmRNAが分裂病患者の海馬,海馬傍回,小脳で減少していた.
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cystatin B, non-caspase cysteine protease
inhibitor & apoptosis
Pennacchio LA and others. PROGRESSIVE ATAXIA, MYOCLONIC EPILEPSY AND CEREBELLAR APOPTOSIS IN CYSTATIN B-DEFICIENT MICE. Nature Genetics. 20(3):251-258, 1998 Nov.
non-caspase cysteine protease inhibitorであるcystatin Bの遺伝子変異によりcystatin Bの機能が失われて,進行性ミオクローヌスてんかんの一種であるUnverricht-Lundborg disease (EPM1)が起こる.cystatin Bのノックアウトマウスでは生後1ヶ月で睡眠時ミオクローヌスが起こってきて,3ヶ月以降は神経病理学的に小脳顆粒細胞のアポトーシスが起こってくることがわかった.
caspase 3の活性化により小脳顆粒細胞のアポトーシスが起こることが知られているので,caspase 3を活性化するcathepsinをcystatin Bが抑制しており,cystatin Bのノックアウトでその抑制がはずれるからcaspase 3の活性化が起きるのではないかと著者らは推測している.
cystatin Bは体中にあるのに,小脳顆粒細胞だけにアポトーシスが起こるのはなぜだろうか?小脳顆粒細胞は正常の発達途上でアポトーシスを起こす.つまりもともとアポトーシスを起こしやすい細胞なのだ.だから,他の細胞ではcystatin B以外のredundantなprotease inhibitorの余裕があるのでcystatin Bがノックアウトされてもアポトーシスは起きないが,小脳顆粒細胞はcaspaseの活性化抑制をcystatin Bだけに頼っているので,こいつがノックアウトされると簡単にアポトーシスを起こしてしまうのではないだろうか.
小脳以外では角膜に潰瘍と炎症が起こる.これは涙の中のプロテアーゼが余分な蛋白分解を抑えて角膜を守っていることを示している.角膜潰瘍,角膜炎の原因の究明にも意味ある研究だ.
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substance Pと行動
substance P受容体(別名neurokinin (NK)1受容体)拮抗薬を痛みの治療に使おうとしても,どうもうまくいかなかったんだが,どういうわけか抗うつ薬として有望になったんだな(2).そういうことでNK1受容体ノックアウトを作ってみると確かに行動も変わっているので,めでたしめでたしになるのかな?
1. Defelipe C, Herrero JF, Obrien JA, et al. Altered nociception, analgesia and aggression in mice lacking the receptor for substance p. Nature 1998;392:394-397.
2. Kramer MS and others. Distinct mechanism for antidepressant activity by blockade of central substance P receptors. Science 1998;281:1640-45.
1. Asita de Silva H and others. Abnormal function of potassium channels in platelets of patients with Alzheimer's disease. Lancet 1998:352:1590-1593.
2. Ikeda M, Dewar D, McCulloch J. Selective reduction of [125I]-apamin binding sites in Alzheimer hippocampus, A quantitative autoradiographic study. Brain Res 1991;567:51-56.
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ミオグロビンなんていらないよ
Garry DJ and others. MICE WITHOUT MYOGLOBIN. Nature. 395(6705):905-908,
1998 Oct 29.
ミオグロビンのノックアウトマウスの表現型は全く正常であり,in vitroでの筋細胞の機能も異常ない.
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apoE対立遺伝子はHIV dementiaの危険因子でもある
HIV脳症による痴呆のリスクファクターの研究.E4 ALLELEの人は痴呆だけでなく末梢神経障害にもなりやすいという.
Corder EH and others. HIV-INFECTED SUBJECTS WITH THE E4 ALLELE FOR APOE HAVE EXCESS DEMENTIA AND PERIPHERAL NEUROPATHY. Nature Medicine. 4(10):1182-1184, 1998 Oct.
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presenilinと結びつく蛋白たち
catenin familyは細胞内の情報伝達にあずかる蛋白である.プレセニリンはbeta-cateninと結びついてbeta-cateninを安定化させる働きがある.ところが,
1.家族性のアルツハイマー病に見られるプレセニリン遺伝子変異のトランスジェニックマウスでは,変異したプレセニリンでは,beta-catenin安定化作用は減少している.
2.プレセニリン遺伝子変異をもつ家族性のアルツハイマー病脳では,beta-cateninが極端に減っている.
3.beta-cateninがない神経細胞は,アミロイドによるアポトーシスが起こりやすくなる.
以上より,プレセニリン遺伝子変異を伴うアルツハイマー病では,beta-catenin不足が神経細胞死の原因になっている可能性がある (1).
一方,プレセニリンと結びつくカルシウム結合蛋白の存在も指摘されている(2)
1. Zhang ZH and others. DESTABILIZATION OF BETA-CATENIN BY MUTATIONS IN PRESENILIN-1 POTENTIATES NEURONAL APOPTOSIS. Nature. 395(6703):698-702, 1998 Oct 15.
2. Buxbaum JD and others. CALSENILIN - A CALCIUM-BINDING PROTEIN THAT INTERACTS WITH THE PRESENILINS AND REGULATES THE LEVELS OF A PRESENILIN FRAGMENT Nature Medicine. 4(10):1177-1181, 1998 Oct.
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にんじんの話で恐縮ですが
Worrall D. Elias L. Ashford D. Smallwood M. Sidebottom C. Lillford
P. Telford J. Holt C. Bowles D. A CARROT LEUCINE-RICH-REPEAT PROTEIN THAT
INHIBITS ICE RECRYSTALLIZATION. Science. 282(5386):115-117, 1998 Oct 2.
なんでにんじんの蛋白が神経変性疾患と関係があるかって?勘のいい人ならタイトルを見るだけわかるはずなんですがね.
魚が氷点下の海で泳いでいても凍らない.そのための特殊な蛋白が植物にもある.植物は外でじっとしていて,氷点下の温度にも耐えなくてはならないという条件は魚と同じだからね.
この蛋白は氷の結晶化を抑えるんだ.結晶化と聞いて何か思い出さないかい?核内封入体,Lewy小体,アミロイド,あれ,みんな結晶じゃないのかい.結晶化を抑える蛋白がLEUCINE-RICH-REPEAT PROTEINというのは,CAG repeatとleucine zipper proteinの話でもわかるように,神経変性疾患と縁が深いんだ.Gajdusekじゃないけど,神経細胞の変性死というのは,結局蛋白の結晶化の問題に行き着くのではないだろうか.
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FULL-LENGTH ハンチントン cDNAのトランスジェニック
Reddy PH. Williams M. Charles V. Garrett L. Pikebuchanan L. Whetsell WO. Miller G. Tagle DA. BEHAVIOURAL ABNORMALITIES AND SELECTIVE NEURONAL LOSS IN HD TRANSGENIC MICE EXPRESSING MUTATED FULL-LENGTH HD CDNA Nature Genetics. 20(2):198-202, 1998 Oct.
Mangiariniらは,異常に伸びたCAGリピートを含む第一エクソンの部分のみを遺伝子導入したトランスジェニックマウスで,ハンチントン病に見られる舞踏病様不随意運動やてんかん発作を観察したが,ヒトのハンチントン病で見られる線条体の萎縮や大脳皮質の細胞脱落などはなかったことを報告した.しかしfull lengthの変異cDNAのトランスジェニックは行動異常ばかりでなく,神経病理学的にもハンチントン病によく似た変化を起こすという.
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Ceramideはアポトーシスを起こす
Ceramideはマクロファージにアポトーシスを起こす.Ceramideは脳にたくさんある.だったら脳のCeramideもアポトーシスに関係しているんじゃないか.
Lakics V. Vogel SN. LIPOPOLYSACCHARIDE AND CERAMIDE USE DIVERGENT SIGNALING PATHWAYS TO INDUCE CELL DEATH IN MURINE MACROPHAGES. Journal of Immunology. 161(5):2490-2500, 1998 Sep 1.
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mGluR agonistによる精神分裂病の実験的治療
変性疾患ではないが,変性疾患にも関係が深いグルタミン酸受容体が治療に関係しているという点で興味深い論文がサイエンスに掲載された.精神分裂病によく似た症状を起こす
PHENCYCLIDINEによるラットの行動・学習障害とprefrontal cortexでのグルタミン酸の上昇を代謝性グルタミン酸受容体のアゴニストであるLY354740がきれいに抑制したというのだ.しかもこの薬剤はドパミン系にはなんら影響がないことから,ハロペリドールをはじめとした分裂病治療薬の欠点(パーキンソン症状の出現,陰性症状に対する効果がないこと)を補う可能性がある.
これまで私は知らなかったのだが,PHENCYCLIDINEはNMDA受容体をブロックすることで精神症状を発現させるのではなく,グルタミン酸の放出を促進させることによってnon-NMDA受容体を間接的に刺激し,精神症状を起こすのだとのこと.LY354740は代謝性グルタミン酸受容体を刺激して,PHENCYCLIDINEによるグルタミン酸の放出を抑えるらしい.
Moghaddam B. Adams BW. REVERSAL OF PHENCYCLIDINE EFFECTS BY A GROUP II METABOTROPIC GLUTAMATE RECEPTOR AGONIST IN RATS. Science. 281(5381):1349-1352, 1998 Aug 28.
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また一人脇役が
アルツハイマー病のリスクファクターとしてApo-Eに続いて,ALPHA-2 MACROGLOBULINが登場した.betaアミロイドに結合してその分解に関与するALPHA-2
MACROGLOBULINをコードするA2M遺伝子の多型変異型が,遅発性のアルツハイマー病患者で共通して見られるという.
Blacker D. Wilcox MA. Laird NM. Rodes L. Horvath SM. Go RCP. Perry R. Watson B. Bassett SS. Mcinnis MG. Albert MS. Hyman BT. Tanzi RE. ALPHA-2 MACROGLOBULIN IS GENETICALLY ASSOCIATED WITH ALZHEIMER-DISEASE. Nature Genetics. 19(4):357-360, 1998 Aug.
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サルのハンチントン病モデルでの線条体移植による効果
これまで,運動障害に対する治療効果の報告はあったが,この報告は高次機能の障害にも効果があるとのこと.
Palfi S. Conde F. Riche D. Brouillet E. Dautry C. Mittoux V. Chibois A. Peschanski M. Hantraye P. FETAL STRIATAL ALLOGRAFTS REVERSE COGNITIVE DEFICITS IN A PRIMATE MODEL OF HUNTINGTON-DISEASE. Nature Medicine. 4(8):963-966, 1998 Aug.
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前立腺癌関連のアポトーシス遺伝子がアルツハイマー病の神経細胞死と関連
やっぱり,癌をとるかアルツハイマーをとるか,なんですよ.
Guo Q. Fu WM. Xie J. Luo H. Sells SF. Geddes JW. Bondada V. Rangnekar VM. Mattson MP. PAR-4 IS A MEDIATOR OF NEURONAL DEGENERATION ASSOCIATED WITH THE PATHOGENESIS OF ALZHEIMER-DISEASE. Nature Medicine. 4(8):957-962, 1998 Aug.
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Repeatとproteolysis
EBウイルスの生き残り作戦なんて,神経変性疾患の研究をしている人は興味ないですか?でも,この話を聞き逃さない手はないですよ.EBウイルスはね,核抗原に含まれる内在性のglycine-alanineのリピートを利用して,ubiquitin-proteasomeによる蛋白分解から逃れられるそうですよ.しかも,ただ単に分解されない蛋白がたまるばかりじゃなくて,変異したI kappa B alphaはconstitutive dominant-negative mutantsになっちゃうっていうんだから,こりゃ大変.神経細胞を意識した論文ではありませんが,glycine-alanineのリピートをグルタミンのリピートと置き換えると,随分と面白そうな論文ではありませんか.CAGリピート病というのは,やはり変異蛋白がたまる,そしてそれが単にたまるばかりじゃなくて,dominant negativeになっちゃうってストーリーじゃないんでしょうか.
Sharipo A. Imreh M. Leonchiks A. Imreh S. Masucci MG. A MINIMAL GLYCINE-ALANINE REPEAT PREVENTS THE INTERACTION OF UBIQUITINATED I-KAPPA-B-ALPHA WITH THE PROTEASOME - A NEW MECHANISM FOR SELECTIVE INHIBITION OF PROTEOLYSIS. Nature Medicine. 4(8):939-944, 1998 Aug.
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MSAお前もか
multiple-system atrophyでもalfa-synucleinがグリアの封入体や変性した神経終末に染まったとのこと.
Gai WP and others. Multple-system atrophy: a new alfa-synuclein disease? Lancet1998:352:547-548
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+1protein
アルツハイマー病における,アミロイドやユビキチンのmRNAの2塩基欠損によるframeshiftについて,詳細がTrends
in Neuroscienceに掲載された (1).この変異はこれまで報告されたアルツハイマー病の遺伝子変異と以下の点で決定的に異なる.
1.DNAの異常ではなく,mRNAの異常である.言い替えればposttranscriptional,
DNAの誤読 (misreading)である.
2.家族性ではなく,孤発性のアルツハイマー病で見つかった変異である.
mRNAの転写後の編集は脳でも起こっている.この変異は尿崩症のラットの遺伝子変異にヒントを得て見つかった.GAGAGあるいはCUCUというある特定の塩基配列にGAあるいはCU2塩基脱落が起きやすくなる(molecular misreading).この変異は転写活性が高いほどおきやすい.もしこの変異が起これば,その変異よりN末端ではペプチド鎖は正常だが,C末端側ではフレームシフトが起きて異常なペプチド鎖ができることになる.一方,GAGAGという塩基配列はアルツハイマー病関連蛋白である,アミロイドやユビキチンに多い.そこで著者らはアルツハイマー病における,このフレームシフトによる遺伝子産物が発現しているかどうかを検討した.
このフレームシフトにより産生される変異アミロイド,変異ユビキチンの構造を予測し,これらの蛋白に対する抗体を作った.するとその抗体はアルツハイマー病の老人斑周囲の神経終末や,神経源線維変化を起こした神経細胞を染め出した.そればかりでなく,痴呆のない72歳以上の対照脳でも神経細胞が染まった.しかし72歳以下の脳では染まらなかった.したがって,このフレームシフトはアルツハイマーのごく初期,臨床的に痴呆が発症する前に起こる出来事ではないかと推測している.同様の所見は老人斑や神経源線維変化のないダウン症の脳でも見出された.一方,パーキンソン病や多発性硬化症では見られなかったので,アルツハイマー病に特異的な所見であるとしている.
では変異蛋白がどのようにして細胞を称がするのだろうか?正常のユビキチンではリシンとC末端のグリシンが結合しmultimerを作り,これがproteasomeによる分解の引き金になる.しかしフレームシフトしたmRNAの産物ではC末端のグリシンがなく,multimerを作れず,分解も受けない.その結果,細胞内に変異蛋白がどんどんたまっていって細胞を障害するという仮説を著者らは立てている.
今回見出された変異はDNAではなく, mRNAにあった.加齢に伴いmRNAの品質管理の低下が起きやすくなると考えればいいだろう.同様なRNAのprocessing errorが孤発性のALSでも見つかっている.
今後検討すべき問題として,この変異が一次的なアルツハイマーの原因なのかどうか,トランスジェニックマウスを作って調べる必要がある.
1. Vanleeuwen FW. Burbach JPH. Hol EM. MUTATIONS IN RNA - A FIRST
EXAMPLE OF MOLECULAR MISREADING IN ALZHEIMERS-DISEASE. Trends in Neurosciences.
21(8):331-335, 1998 Aug.
1. Lin CL, Bristol LA, Jin L, et al. Aberrant RNA processing in a neurodegenerative disease: the cause for absent EAAT2, a glutamate transporter, in amyotrophic lateral sclerosis. Neuron 1998;20:589-602.
2. Aoki M, Lin CL, Rothstein JD, et al. Mutations in the glutamate transporter EAAT2 gene do not cause abnormal EAAT2 transcripts in amyotrophic lateral sclerosis. Annals of Neurology 1998;43:645-53.
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蛋白が凝集する時
変異遺伝子の産物は不溶性の凝集体を作り,線維となって核膜を貫いて核の中に侵入し,核内封入体となり,神経細胞を障害する.少なくともCAG
repeat diseaseでは,どうやらこのようなプロセスが働いているらしい.また,アルツハイマー病やプリオン病でも不溶性の凝集体ができるプロセスは共通している.となると,一番はじめの,不溶性の凝集体を作る機序がどうなっているのか,凝集体の形成が阻止できれば,神経変性疾患の治療薬ができることになる.そんな時,神経科学者だけで考えていてもだめだ.下記の論文の著者のような蛋白工学の専門家と共同研究すべきだ.彼らの作った蛋白は
leucine-zipper構造を持ち,pHや温度の微妙な変化で凝集する.
Petka WA. Harden JL. Mcgrath KP. Wirtz D. Tirrell DA. REVERSIBLE HYDROGELS FROM SELF-ASSEMBLING ARTIFICIAL PROTEINS. Science. 281(5375):389-392, 1998.
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97/10-98/7のトピックス
Mezey E, Dehejia A, Harta G et al: Alpha synuclein in neurodegenerative disorders - murderer or accomplice. Nature Med 4: 755-757, 1998.
これまで髄液中のbeta-amyloidといえば,可溶性のモノマーを測定していた.一方,老人斑を形成する不溶性の凝集体は,脳実質でしか検出できなかったのだが,Pitschkeらはfluorescence correlation spectroscopyという方法を用いて,アルツハイマー病患者の髄液中に不溶性のbeta-amyloid凝集体を検出することに成功した.
Pitschke M, Prior R, Haupt M, Riesner D. Detection of single amyloid beta-protein aggregates in the cerebrospinal fluid of alzheimers patients by fluorescence correlation spectroscopy. Nature Med 1998;4:832-834.
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ハンチントン,CJD,アルツハイマーを結ぶ糸
Scherzingerら18)はハンチントン病でCAG repeatの細胞障害の機序について,プリオン蛋白やアミロイドと関連づけて興味ある結果を報告している.彼らは,ハンチントン病の原因遺伝子の産物であるhuntingtinが,CAG
repeatが病的に延長した場合に限って,プリオン蛋白やアミロイドに類似した不溶性蛋白を形成することを無細胞系で証明した.この不溶性蛋白は,ハンチントン病変異遺伝子ののトランスジェニックマウスの脳でも見出されるという.Scherzinger
E, Lurz R, Turmaine M et al: Huntingtin-encoded polyglutamine expansions
form amyloid-like protein aggregates in vitro and in vivo. Cell 90: 549-558,
1997.
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癌をとるか,アルツハイマーをとるか
アルツハイマー病患者は身体的に丈夫で,脳卒中や心臓病,癌といった病気になりにくいと言われている.Roperchら(1)は,一部のアルツハイマー病で変異が見出されているプレセニリン遺伝子の変異がアポトーシスを促進し,腫瘍を抑制することを見出した.すると,アルツハイマー病では癌になりにくいというのは,少なくとも部分的には本当であることになる.一方,抗ガン剤であるブレオマイシン投与がアルツハイマー病のリスクになることが報告されている(2).ブレオマイシンはフリーラジカルの産生によってDNA断片化とアポトーシスを起こす.このブレオマイシンの作用機序は,神経細胞死がアポトーシスである面から考えて興味深い.こうなると,細胞の異常増殖である癌と,神経細胞死が起こるアルツハイマー病は,シーソーの関係にあるという仮説がまんざらおとぎ話でもなくなってくるように思える.さらに,大胆な仮説を立てると,アルツハイマー病の予防薬というのは,carcinogenに求められるのではないかと推測したくなる.臨床治験でアルツハイマーの予防効果がわかる前に,治験対象者がみんな癌で死んでしまっては効果がわからなくなる懸念があるが.
1. Roperch JP. Alvaro V. Prieur S. Tuynder M. Nemani M. Lethrosne F. Piouffre L. Gendron MC. Israeli D. Dausset J. Oren M. Amson R. Telerman A. Inhibition of presenilin 1 expression is promoted by p53 and p21(waf-1) and results in apoptosis and tumor suppression. Nature Medicine 4:835, 1998.
2. Montoya SE, Aston CE, Dekosky ST, Kamboh MI, Lazo JS, Ferrell RE. Bleomycin hydrolase is associated with risk of sporadic alzheimers-disease. Nature Genetics 1998;18:211-212.
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神経変性におけるCD4の関与
Buttini M. and others. NOVEL ROLE OF HUMAN CD4 MOLECULE IDENTIFIED IN NEURODEGENERATION. Nature Medicine. 4(4):441-446, 1998 Apr.
CD4をミクログリアに発現させたトランスジェニックでは末梢からのLPSチャレンジで,野生型にくらべて神経突起やシナプス終末が変性するという報告.神経細胞体そのものの障害は起きない.LPS投与という条件が神経変性とはあまり関係がないので,今一つの感がある論文.もっと神経変性に近い条件,例えば興奮毒性なんかはどうなのだろう.またこのような動物でアミロイドのたまり方を調べてはどうなのだろう.アミロイドのトランスジェニックと交配させてダブルトランスジェニックにしてみたら・・
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クローン牛胎児の黒質をパーキンソン病の治療に使う
Zawada WM. and others. SOMATIC CELL CLONED TRANSGENIC BOVINE NEURONS
FOR TRANSPLANTATION IN PARKINSONIAN RATS. Nature Medicine. 4(5):569-574,
1998 May.
パーキンソン病では胎児黒質のドパミンニューロンの移植が治療手段になりうることが示されているが,移植臓器の不足が研究,治療の進展を妨げている.著者らはヒト組織の代わりにクローン牛の胎児のドパミンニューロンを,免疫を抑制したパーキンソン病のモデルラットに移植し,症状が軽快した,ドパミンニューロンも脳内で生きていることを示した.
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オリゴデンドロサイトはAMPA/Kainateの興奮毒性に弱い
アストロサイトは興奮毒性に抵抗性ですが,オリゴデンドロサイトはAMPA/Kainateの興奮毒性に弱いとのことです.NMDAには強い.オリゴデンドロサイトというと,すぐ多発性硬化症を連想するわけですが,多発性硬化症と興奮毒性というのは,まだ誰も手を付けてないお話だと思います.まあ,この論文を出したグループはもう始めているでしょうけれど.誰かやってみませんか.
Mcdonald JW. Althomsons SP. Hyrc KL. Choi DW. Goldberg MP.
OLIGODENDROCYTES FROM FOREBRAIN ARE HIGHLY VULNERABLE TO AMPA/KAINATE
RECEPTOR-MEDIATED EXCITOTOXICITY. Nature Medicine. 4(3):291-297, 1998 Mar.
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神経毒産生工場としてのミトコンドリア
ミトコンドリアはエネルギーの産生工場であり,ミトコンドリアの機能低下が細胞死を起こすと我々は習ってきたが,そうではなく,むしろ積極的に神経毒を産生しているのではないかという見解が出てきた.mitochondrial
permebility transition pore (MRT)というチャネルは,脱分極や,カルシウムで開くのだが,このチャネルが異常に活性化されるとミトコンドリアの機能障害や膨化が起こってreactive
oxygen species (ROS)をはじめとする細胞毒が放出されて細胞死が起こるというのだ.MRTの構成要素にはbcl-2や末梢型のベンゾジアゼピン受容体などがあってとても面白そうなチャネルだ.
Miller RJ. MITOCHONDRIA - THE KRAKEN WAKES. Trends in Neurosciences. 21(3):95-97, 1998 Mar.
シナプスと核の橋渡し;やっぱりNF-kappa B
以前,細胞膜,細胞質と核内の連絡が神経変性疾患の理解に重要だとお話しした.その時の橋渡し役が何かということだが,血管内皮の場合はnuclear
factor-kappa B (NF-kappa B)である.そして神経細胞の場合も,橋渡し役はやはりNF-kappa
Bらしいのだ.
1. O'Neill LA, Kaltschmidt C. NF-kappa B: a crucial transcription factor for glial and neuronal cell function. [Review] [64 refs]. Trends in Neurosciences 1997;20:252-8.
2. Routtenberg A, Meberg PM. A novel signaling system from the synapse to the nucleus. Trends in Neurosciences 1998;21:106.
組み替え型ヒトインスリン様成長因子がALSの治療に有効
Lai EC, Felice KJ, Festoff BW, et al. Effect of recombinant human insulin-like
growth factor-I on progression of ALS. A placebo-controlled study. The
North America ALS/IGF-I Study Group. Neurology 1997;49:1621-30.
ALSの進行を26%遅らせるとのことだが,これまで数々のALSの”治療薬”が浮かんでは消えていった経緯がある.本当の有効性を見極めるにはまだまだ時間が必要だ.
ALSの治療薬であるRiluzoleによる肝障害
Castells LI. Gamez J. Cervera C. Guardia J. ICTERIC TOXIC HEPATITIS
ASSOCIATED WITH RILUZOLE. Lancet. 351(9103):648, 1998 Feb 28.
家族性のパーキンソン病;α-SYNUCLEINがすべてではない
Gasser T. and others. A SUSCEPTIBILITY LOCUS FOR PARKINSONS-DISEASE MAPS TO CHROMOSOME 2P13. Nature Genetics. 18(3):262-265, 1998 Mar.
Chan P. and others. FAILURE TO FIND THE ALPHA-SYNUCLEIN GENE MISSENSE MUTATION (G(209)A) IN 100 PATIENTS WITH YOUNGER ONSET PARKINSONS-DISEASE.Neurology. 50(2):513-514, 1998 Feb.
酸化ストレスによる神経病のモデル
Melov S. Schneider JA. Day BJ. Hinerfeld D. Coskun P. Mirra SS. Crapo
JD. Wallace DC. A novel neurological phenotype in mice lacking mitochondrial
manganese superoxide dismutase.Nature Genetics. 18(2):159-163, 1998 Feb.
ミトコンドリアの機能障害により生成されるフリーラジカルが神経細胞を障害するという仮説は,筋萎縮性側索硬化症,パーキンソン病,アルツハイマー病などで唱えられているが,これまでいい動物モデルがなかった.理論的にはフリーラジカルの消去役をするミトコンドリアのsuperoxide dismutase (SOD)をノックアウトしてしまえばいいわけだが,こいつは拡張型心筋症や肝障害を起こして脳味噌が病気になる前に生まれてすぐに死んじまう.それじゃあってんで,Manganese 5, 10, 15, 20-tetrakis (4-benzoic acid) porphyrin (MnTBAP) っていうSODの代わりをする薬をそのノックアウトマウスに投与したところ,これがまあ,ほんとによく効いてマウスが長生きする.ところが長生きしたマウスに運動障害が生後3週までに現れてくる.そのマウスの脳には海綿状脳症や脳幹神経核のグリオーシス,ミトコンドリア障害であるLeigh脳症やCanavans病によく似た変化も見られるとのこと.著者らはMnTBAPが血液脳関門を通過できないから脳にだけミトコンドリア病があらわれるのだろうと推測している.
アミロイド,ユビキチンにフレームシフト
孤発性のアルツハイマー病と,ダウン症候群の脳で発現しているアミロイドとユビキチンに,ともにDNAでなはなくて,mRNAの2塩基欠損によって起こるフレームシフトのmutationが見つかった.正常対照の高齢者脳にもわずかながらこの変異が見出されるので,加齢によりリスクが増大するようだが,どうしてこの変異が起こるのかはわからない.
Vanleeuwen FW. Dekleijn DPV. Vandenhurk HH. Neubauer A. Sonnemans MAF. Sluijs JA. Koycu S. Ramdjielal RDJ. Salehi A. Martens GJM. Grosveld FG. Burbach JPH. Hol EM. FRAMESHIT MUTANTS OF BETA AMYLOID PRECURSOR PROTEIN AND UBIQUITIN-B IN ALZHEIMERS AND DOWN PATIENTS. Science. 279(5348):242-247, 1998 Jan 9.
てんかんもイオンチャネル病
Biervert C and othersA POTASSIUM CHANNEL MUTATION IN NEONATAL HUMAN
EPILEPSY. Science. 279(5349):403-406, 1998 Jan 16.
Benign familial neonatal convulsions (BFNC) という常染色体性優生遺伝を示すてんかんがあるそうな.20q13.3に原因遺伝子があることから,ポジショナルクローニングでカリウムチャネルの一つであるKCNQ2に変異があることがわかった.正常のKCNQ2をアフリカツメガエルの卵に発現させるとカリウム選択的な電位が得られたが,変異チャネルを発現させても電位は得られなかったという.そうなると,常染色体性優生遺伝だが,gain
of functionではないということかな?
核内封入体に注目
Lancet(1)とNeuron(2)でそれぞれ独立に核内封入体と神経変性疾患についての総説が出ている.SCA1では下記に示したように遺伝子産物のataxin1は核膜に存在する.神経変性疾患で神経細胞に起こる主たる変化の場所は核なのだろうか.では細胞質や細胞膜にある翻訳産物と核内封入体をつなげる経路や情報伝達系はどうなっているのだろうか?神経とは直接関係ないが,nuclear
factor-kappa B (NF-kappa B) のcytoplasmic inhibitorであるI kappa B alphaの誘導と核内への移転を促進する(3)という論文がある.Igarashiら(4)は,CAG
repeatを含んだDRPLA (dentatorubral-pallidoluysian atrophy)のtruncated cDNAをCOS-7細胞に発現させたところ,線維状の凝集体が核膜周囲と核内に観察され,アポトーシスを起こした.その際,核膜周囲の繊維状の凝集体が核膜を突き抜けて核内に入っている様子を電顕で観察しており,核内封入体の形成を考える上で興味深い形態学的所見である.
1. S W Davies and others. Are neuronal intranuclear inclusions the common neuropathology of triplet-repeat disorders with polyglutamine-repeat expansions? Lancet.351(9096) 131-133. January 1998.
2. Ross CA. INTRANUCLEAR NEURONAL INCLUSIONS - A COMMON PATHOGENIC MECHANISM FOR GLUTAMINE-REPEAT NEURODEGENERATIVE DISEASES [Review]. Neuron. 19(6):1147-1150, 1997 Dec.
3. Spiecker M. Peng HB. Liao JK. INHIBITION OF ENDOTHELIAL VASCULAR CELL ADHESION MOLECULE-1 EXPRESSION BY NITRIC OXIDE INVOLVES THE INDUCTION AND NUCLEAR TRANSLOCATION OF I-KAPPA-B-ALPHA. Journal of Biological Chemistry. 272(49):30969-30974, 1997 Dec 5.
4. Igarashi S, Koide R, Shimohata T et al: Suppression of aggregate formation and apoptosis by transglutaminase inhibitors in cells expressing truncated DRPLA protein with an expanded polyglutamine stretch. Nature Genet 18: 111-117, 1998.
Bcl-2とSMNの協同作用;脊髄性筋萎縮症の病態
Iwahashi H. Eguchi Y. Yasuhara N. Hanafusa T. Matsuzawa Y. Tsujimoto
Y. SYNERGISTIC ANTI-APOPTOTIC ACTIVITY BETWEEN BCL-2 AND SMN IMPLICATED
IN SPINAL MUSCULAR ATROPHY. Nature. 390(6658):413-417, 1997.
常染色体性劣性遺伝を示す脊髄性筋萎縮症では,SMN (survival motor neuron)と NAIP (neuronal apoptosis inhibitory protein)の二つの遺伝子変異が見つかっている.この遺伝子は両方とも5q13に存在する.NAIPはその名の通り神経細胞のアポトーシスを抑制するが,SMNの機能はよくわかっていなかった.この論文はSMNが別のアポトーシス抑制蛋白であるBcl-2との相互作用でアポトーシスを抑制し,脊髄性筋萎縮症に見られるSMNの変異があると,Bcl-2との相互作用ができなくなり,アポトーシスを抑制できないという結果を示している.Bcl-2のノックアウトでは,運動ニューロンの他に,末梢の感覚神経と交感神経が障害されることを考えあわせると,脊髄性筋萎縮症で運動ニューロンだけが障害されるのは,末梢の感覚神経と交感神経ではBcl-2がたっぷりあるので,SMNの変異だけでは末梢の感覚神経と交感神経は保たれるのだろうと推測している.
選択的神経細胞死の説明:SCA1の病因
Matilla A, Koshy BT, Cummings C, Isobe T, Orr HT, Zoghbi HY. The cerebellar
leucine-rich acidic nuclear protein interacts with ataxin-1. Nature 1997;389:974-978.
変異を起こした遺伝子産物そのものは様々な細胞に発現しているのに,なぜ一部の神経細胞だけが変性脱落するかという問題に対しては,いくつかの説明がある.Matillaらは,leucine-rich
acidic nuclear protein (LANP)という蛋白に注目した.LANPは,
1.SCA1遺伝子産物のataxin1と結びつく.
2.LANPはSCA1で障害されるプルキンエ細胞に強く発現している.
3.LANPとataxin1の結合はpolyglutamine鎖が長くなればなるほど強くなる.
4.免疫蛍光法で見るとLANPとataxin1はともに核膜下にある.
以上より,LANPはSCA1の発症に深く関与することを示している.
Skinner PJ, Koshy BT, Cummings CJ, et al. Ataxin-1 with an expanded glutamine tract alters nuclear matrix-associated structures. Nature 1997;389:971-974.
同じ号のNatureで,Skinnerらはataxin1が核質のnuclear matrix-associated domain(何のことだか私にはわからないのだが)変化を起こすことを示している.どうやらSCA1の病因はプルキンエ細胞の核にあるらしい.
アミロイドと結びついて神経細胞障害を起こす蛋白
Yan SD, Fu J, Soto C, et al. An intracellular protein that binds amyloid-beta
peptide and mediates neurotoxicity in alzheimers-disease. Nature 389: 689-695,
1997.
アミロイドがどうやって神経細胞を障害するかという問題に対して,Yanらは一つの可能性を示した.彼らはアミロイドと結びつく細胞内蛋白をスクリーニングしERABという蛋白を発見した.
1.ERABはアルツハイマー病の神経細胞でアミロイドの近くに過剰に発現されている.
2.ERABはアミロイドと結びついて沈着する
3.ERABを過剰に発現させたCOS細胞やneuroblastoma cellをアミロイドで処理するとCOS細胞にアポトーシスが起きる.このアポトーシスはERABの抗体で阻止される.
ほとんどの場合細胞外にあるアミロイドが,細胞内蛋白であるERABと結合して細胞障害性を発揮するというのは意外である.ERABの機能は不明だが,sequenceの類似性からhydroxysteroid dehydrogenase enzymeあるいはacetoacetyl-CoA reductaseと考えらる.正常の組織でも発現しており.特に肝臓と心臓で発現量が多い.ERABの遺伝子はX染色体上にあり,ERABに相当する牛の蛋白のcDNAもクローニングされている.
Wyss-Coray T, Masliah E, Mallory M, et al. Amyloidogenic role of cytokine TGF-beta-1 in transgenic mice and in Alzheimers disease. Nature 389: 603-606, 1997.
アルツハイマー病脳ではTGF-beta1が増えていること,また,TGF-beta1トランスジェニックマウスではフィブロネクチンやヘパラン硫酸といった細胞外マトリックス蛋白の沈着を促進することから,Wyss-Corayらは,TGF-beta1がアミロイドの沈着を促進するのではないかという仮説を立てて,TGF-beta1とAPPのbigenic mouseをつくり,そのことを証明した.
アルツハイマー病
アルツハイマー病の病因の研究では,βアミロイドとともにpresenilin(1と2の2種類あり)が注目されている(1).presenilinは家族性アルツハイマー病の遺伝子変異を検索する過程で見つかった膜貫通蛋白であり,その変異は早期発症の家族性アルツハイマー病のうちの25%に見つかっている(1).presenilinの機能は不明だが,presenilin1のノックアウトマウス(2)(3)の脳は,出血,神経細胞の大幅な消失といった異常を示した.脳以外では骨格系の異常が著明だった.一方,presenilin
mutationのトランスジェニックマウスでは脳にアミロイドがたまる(4)ので,presenilinはβアミロイドのプロセッシングに重要な役割を果たしている可能性も考えられる(1).
βアミロイドがどのようにして神経細胞を障害するかは,in vitroとin vivoの両面から検討されている.in vitroでは,βアミロイドがイオンチャネルの機能を変化させるというFraserらの仮説(5)が面白い.というのは,presenilinにせよ,βアミロイドにせよ,膜貫通蛋白であり,何らかの(異常な)イオンチャネルあるいは受容体として神経細胞を障害する可能性があるからだ.
in vivoではβアミロイドのトランスジェニックマウスを用いた研究が行われている.LaFerlaら(6)は,βアミロイドが神経細胞内に蓄積するトランスジェニックマウスにおいて,アミロイドの沈着,神経細胞の脱落とアポトーシス誘発遺伝子であるp53の発現,ならびにDNAの断片化が見られたとしている.一方Nalbantoglu(7)らの作ったβアミロイドのC末端のトランスジェニックマウスでは,水迷路試験での空間認知障害があり,その海馬スライスでは長期増強が障害され,CA1の神経細胞も減少していた.
アルツハイマー病の診療の際にしばしば問題となるのは,健忘のみを主訴として,他に何も症状のない患者である.ほとんどの場合,器質的な神経疾患を見出せずに,”年だから仕方がないでしょう”とお茶を濁してお引きとりいただくのだが,将来痴呆にならないと保証できるわけでもない.Bowenら(8)は,重症の健忘のみを示した48人の患者を追跡し,そのうちの半数が2年以内に痴呆に進展したと報告している.しかし,初診時の神経心理学的検査では,痴呆に進展した例と進展しない例を区別できなかったという.
治療面での話題は,モノアミン酸化酵素阻害剤であるセレジリン,αトコフェロール(ビタミンE)あるいはその併用が,アルツハイマー病の進行を遅らせるという報告(9)である.これらの薬剤は共に抗酸化薬であり,この治療プロトコールはアルツハイマー病での神経細胞障害が酸化ストレスによるという仮説をもとにしている.痴呆を改善するという薬はこれまでたくさんの報告があるが,長期予後を改善するという報告はこれがはじめてである.ただし,セレジリンとαトコフェロールが脳に働いてアルツハイマー病そのものを改善するのか,あるいは脳以外の臓器に働いて長期予後を改善するのかはわからない.
遺伝性運動失調症
これまで見出された遺伝性運動失調症の遺伝子変異の多くはCAG repeatの増大である.CAG
repeat diseaseでは遺伝子産物の共通性はない.共通なのはCAGでコードされるポリグルタミン鎖である.ならば,神経細胞死の原因はそれぞれの固有の遺伝子産物ではなく,ポリグルタミン鎖そのものではないのか?
Ikedaら(10)の実験結果はこの仮説を支持している.彼らは,Machado-Josef disease (MJD)遺伝子のCAG配列が含まれる3'端の一部だけをCOS細胞にトランスフェクションすると,アポトーシスによって細胞死が起こることを示した.さらにこの遺伝子を小脳プルキンエ細胞に導入したトランスジェニックマウスは生後4週間で運動失調症を呈した.このマウスの小脳は対照の1/8に萎縮し,プルキンエ細胞は消失し,分子層,顆粒細胞層の発達も悪かった.一方,MJD遺伝子全体を導入したCOS細胞は細胞死を起こさず,トランスジェニックマウスも運動失調症をおこさなかった.
ではCAGリピートに異常な機能があるのだろうか?spinocerebellar ataxia 6 (SCA6)でCAGリピートの増大がおこるのは,電位依存性カルシウムチャネルのα1Aサブユニット遺伝子内である(11).カルシウムチャネルは神経細胞の機能に極めて重要な役割を果たし,カルシウムの過剰な流入は神経細胞死を起こすことが知られている.
このように,変異を起こしたイオンチャネルあるいは受容体が,新たな異常な機能を獲得し(gain of function),それが選択的に神経細胞を障害して神経変性疾患を起こすというモデルは,すでにLurcher mouse(12)で証明されている.Lurcherでは,プルキンエ細胞の樹状突起だけにあるグルタミン酸受容体GluRδ2で,3番目の膜貫通部にある654番目のalanineがthreonineに入れ替わっている.GluRδ2は,正常ではイオンチャネルとして機能しないが,この変異のよって常にナトリウムイオン(+カルシウムイオン?)を通すようになり,プルキンエ細胞がアポトーシスを起こして死んでいく.Lurcherで見出された変異は,グルタミン酸受容体の過剰刺激が神経細胞死を起こすという興奮毒性仮説,gain of function,選択的神経細胞死といった重要な仮説をすべて説明できる.今後は,グルタミン酸受容体の異常に注目して神経変性疾患の病因を検索していく必要があるだろう.
ハンチントン病
ハンチントン病もCAG repeat diseaseの一つである.その疾患遺伝子は第14染色体の短腕にあり,第一エクソンのCAG反復配列が異常に伸びている.
Mangiariniら(13)は,異常に伸びたCAGリピートを含む第一エクソンの部分のみを遺伝子導入したトランスジェニックマウスで,ハンチントン病に見られる舞踏病様不随意運動やてんかん発作を観察している.このことは,前述の遺伝性失調症の場合と同様,ポリグルタミン鎖そのものがハンチントン病を起こす可能性を示唆している.しかしMangiariniらのモデルでは,脳全体の重量は対照の80%に減っていたにもかかわらず,ヒトのハンチントン病で見られる線条体の萎縮や大脳皮質の細胞脱落などはなかった.ハンチントン病の神経病理学変化はあくまで二次的な変化,病気の成れの果てに過ぎないのだろうか?
ハンチントン病のように,発症前に診断することが理論的に可能な病気ならば,発症前から投与して発病を阻止する薬剤の開発が望まれる.Emerichら(14)は,キノリン酸で線条体を壊したサル(ハンチントン病の動物モデル)で,ciliary neurotrophic factor(CNTF)をあらかじめ線条体に投与しておくと,病変が軽くなることを示した.
筋萎縮性側索硬化症(ALS)
一部のALS症例ではsuperoxide dismutase (SOD)1の遺伝子変異がある.この変異したSODが新たに異常な働きを持つようになり(gain
of function),このために病気が起こる可能性が考えられている.しかし,なぜ運動ニューロンだけが障害されるのかが説明できない.Kunstら(15)は,変異SODとのみ結びつき,正常SODとは結びつかない2種類の蛋白,lysyl-tRNA
synthetaseとtranslocon-associated protein deltaが脊髄前角に存在することから,これらの蛋白がALSの病態に関与する可能性を示した.Kosticら(16)は,ヒトのALSと同様のSODの変異を起こさせたトランスジェニックマウスでproto-oncogeneであるbcl-2を過剰発現させると,発症を遅らせ,延命させることができたとしている.
治療面での話題はriluzoleである.riluzoleはナトリウムチャネルブロッカーで,神経細胞死の際のナトリウムの細胞内への流入を抑制すると言われている.riluzoleは,959人のALS患者を対象とした二重盲検試験で,ALS患者の気管切開までの期間と生存期間を延長した(17).
パーキンソン病
Glial cell line-derived neurotrophic factor (GDNF) はドパミンニューロンの成長と維持に関与する.Choilundbergら(18)は,GDNFによる遺伝子治療が,マウスにおいて6-hydroxydopamineによる黒質ドパミンニューロンの減少を3分の1に抑えることから,GDNFがパーキンソン病の治療に使える可能性を示している.一方,Zetterstromら(19)は,核内受容体の一つであるNurr-1のノックアウトでは,黒質ドパミンニューロンが発生しないことを見出した.パーキンソン病でNurr-1の発現の障害があるとすれば,Nurr-1を介した情報伝達を助ける意味で,Nurr-1のリガンドがパーキンソン病の治療に使えるかもしれない.家族性パーキンソン病の大家系におけるlinkage
study(20)では,変異遺伝子が4q21-q23にあることが判明しているので,家族性パーキンソン病における遺伝子変異の同定も近いだろう.
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