2006年
キノホルムがハンチントン病の治療薬に?
2004年
NogoとBACE1
ミトコンドリア病とパーキンソン病
RNAiがSCA1の治療に使えるか?
Duchenneが治る日
2002/7月以降の話題
ポリグルタミンによる神経変性:PI-3K/Aktと14-3-3蛋白の関与
非ステロイド系消炎剤はアルツハイマー病を予防しない
パーキンソン病のジスキネジアをpartial D3
agonistで治療
髄液中のアミロイドとタウの組み合わせでアルツハイマー病を診断
GDNFによるパーキンソン病治療:臨床治験の手始め
メマンチンがアルツハイマー病に有効
自己幹細胞は使えるか?
アミロイドワクチンで脳血管障害?
RNA干渉
スタチン:コレステロールは変えるがアミロイドは不変
CoenzymQ10がパーキンソン病の進行を遅らせる?
夢よもう一度?
逆行性の軸索輸送の障害が運動ニューロン死を起こす
アミロイド:ニューロンを殺すだけではない
CNSループスの原因
内在性の前駆細胞による脳虚血後の神経細胞の補充
NSAIDsは本当にアルツハイマー病のリスクを低くするのか?
高コレステロール血症と高血圧はアルツハイマー病のリスクでもある
ハンチンチンはミトコンドリアのカルシウム代謝異常により神経細胞を障害する
2001/7月-2002/6月の話題
封入体が本質なのか?
とかくタンパクは群れたがる
アミロイドワクチン挫折か?
ドパミンニューロンに転換したES細胞によるパーキンソン病の治療
筋萎縮性側索硬化症患者による死期の決定
発症早期からブロモクリプチンを投与しても長期予後は変わらない
脳腫瘍細胞の興奮増殖性
α1Bアドレナリン受容体過剰発現によるアポトーシスと神経変性
グルタミン酸を放出する蛋白
GABA受容体の変異によるてんかん
アルツハイマー病脳におけるミクログリアの活性化
パーキンソン病の予防に緑茶?
不良在庫の犯罪
ニワトリと卵
鉄と神経変性
(2001年7月以前の話題はこちらへ)
2005年のPNASの論文で,旧聞に属するのだが,最近,このページの更新もとんとご無沙汰で,どうせ遅れているからかまわないだろうと・・・
クリオキノールはハンチントン・モデルマウスの臨床像・病理所見を改善する,しかし・・・・
に投稿したコメントである.
いつも丁寧な解説ありがとうございます.とても勉強になります.ご懸念のSMON,神経毒性についてコメントさせていただきます.PNAS論文でのマウスの投与量は30mg/kg/日で,大量投与ではありません.マウスとヒトの薬物代謝を比較しますと,通常,マウスの方がはるかに代謝速度が速いので,ヒトの場合には,30mg/kg/日の何分の一にも達しない量で有効性が発揮される可能性があります.一方,SMONの際は,30mg/kg/日をはるかに超える量(詳細は確認しておりませんが)が何ヶ月にもわたって投与されていた例が多かったと記憶しています.そういう意味では,SMONの懸念は少ないと思いますが,裏を返せば,今後,臨床開発を進めるにあたっては,SMONだけに留意すると足をすくわれかねません.ハンチントン病の治療という性格上,1年とか,2年とかではなく,年余にわたっての毒性をどうやってモニターするかという,SMONよりもはるかに難しい問題に直面します.
その点,”高い毒性を有するclioquinol派生物質”が気になります.キノホルム毒性の本体はまだわかっていません.その情報は臨床開発していく上で,極めて重要ですが,通常,そのようなネガティブな情報は,公開,共有されないのが,開発上の大きな障害となっています.失敗は成功の母,棋士は勝った将棋よりも負け将棋から多くを学ぶと言います.開発の失敗,開発リスク情報の共有が,開発速度の向上に大きく貢献するのは間違いありません.産官学揃って,医学の面でも,失敗知識の共有を推進していかねばならないと思っています.
神経の再生を妨げることがよく知られているタンパク質Nogoが、アルツハイマー病にかかわっている可能性がでてきた。アミロイドβはbeta-amyloid
converting enzyme 1(BACE1)によって作られる。だから、BACE1阻害は、アルツハイマー病の治療につながる可能性がある。そこで著者らは、BACE1の活性を変化させる内在性分子の探索に着手し、Nogoや類似のタンパク質reticulon-3が、ニューロン内のBACE1と結合し、その活性を阻害することを明らかにした。この知見はNogoがin
vivoでBACE1活性を変化させている可能性を示しており、神経の成長を調節するこの分子はアルツハイマー病にかかわっているのかもしれない。
パーキンソン病ではミトコンドリアの障害により生じるフリーラジカル、酸化ストレスによって黒質線条体のドパミンニューロンが神経細胞死を起こすという、まことしやかな噂が流布しているが、これはその噂を裏付ける研究である。ミトコンドリアDNAを合成するmitochondraial
DNA polymerase γ(POLG)の遺伝子変異は、進行性外眼筋麻痺を主徴とするミトコンドリア病の原因となるが、この病気の患者の臨床症状、PETによる線条体の画像所見、及び神経病理学的所見は、いずれもパーキンソン病に類似していたという(ただしLewy小体はなし)。まあ、面白い視点だが、
一つ注文をつければ、神経病理所見の写真を詳しく載せてもらいたかったな。
忙しくて本文を読んでいられないので,どんなRNAiなのか知らない.アデノウイルスベクターを使ってを直接脳内に注入したところ,プルキンエ細胞の封入体,神経変性がともに抑制され,協調運動障害も著しく改善したという.
私見だが,脳内注入ってのが,問題だな.たとえ脳腫瘍の遺伝子治療が一般的になっても,神経変性疾患の場合には,アデノウイルスベクターの長期の安全性,特に腫瘍発生が大きな問題になる.
神経変性疾患ももちろんそうだが,Duchenne型の筋ジストロフィーが治る日も,神経内科医にとっては夢の日だ.私の場合,ジストロフィン遺伝子異常の発見が,1987年,医者になって5年目で大学院生としてネズミ相手の研究生活の真っ只中,ちょうど,隣がDuchenne型の筋ジストロフィーの研究室だったものだから,私自身の研究テーマこそ全く別物だったが,その時の研究現場の雰囲気は今でもよく覚えている.当時は,これで,治療が射程距離に入ったと,誰もが思ったものだった.遺伝子治療こそまだできなかったが(遺伝子治療は1990年のアデノシンデアミナーゼ欠損症の治療が始まり),他の先天性代謝異常症で,酵素補充療法が奏効していた疾患はあったし,ましてや,相手は血液脳幹門でしっかり守られている脳ではなく,筋肉なのだ.リポゾームか何かで巧く包めば,筋肉にジストロフィンを届けられるはず,と,全く別の研究をやっていた私でさえ夢想したのだから.
それから17年もの歳月がたって,ようやく手がかりが見えてきた.筋肉への遺伝子の送り込みがうまくいかないのは、やはり血管の関門だった。今回、著者らは、アデノウイルスベクターを、血管内皮増殖因子とともに静脈に単回投与し、遺伝子を心筋と骨格筋に効率よく到達させることに成功した。彼らは、デュシェンヌ型筋ジストロフィーにのモデルであるジストロフィン欠損mdxマウスにを静脈内投与でジストロフィン遺伝子を骨格筋に特異的に発現させ、症状が軽減して筋肉の機能が改善され、この方法が治療に利用できる可能性を示した。
Paulson H Polyglutamine neurodegeneration minding your Ps and Qs. Nature
Med 2003; 9: 825-6
Emamian ES et al. Serine 776 of ataxin1 is critical for polyglutamine-induced
disease in SCA1 transgenic mice Neuron 2003;38:375-387
Chen HK et al. Interaction of akt-phosphorylated ataxin-1 with 14-3-3
mediates neurodegeneration in spinocerebellar ataxia type 1. Cell 2003;113:457-468.
Paul S. Aisen and others. Effects of Rofecoxib or Naproxen vs Placebo
on Alzheimer Disease Progression: A Randomized Controlled Trial. JAMA.
2003;289:2819-2826.
BP897という名のpartial D3 agonistを使うのだとそうな.MPTPによるサルのパーキンソン病ではよく効いたという.このpartial agonistはL-dopaが少ないときはアゴニストとして働くが,多すぎるときは拮抗薬として働くことによってジスキネジアを抑制するのだという.L-dopaによる治療のやっかいな副作用であるジスキネジアを押さえ込めれば,単に副作用を減らすという意義ばかりでなく,L-dopaを増量できる範囲が広がり,より治療効果が期待しやすいことにもなる.
R.L. Nussbaum and C.E. Ellis. Genomic Medicine: Alzheimer's Disease and Parkinson's Disease. N Engl J Med 2003;348:1356-64.
R.M. Friedlander. Mechanisms of Disease: Apoptosis and Caspases in Neurodegenerative
Diseases. N Engl J Med 2003;348:1365-75.
虚血心筋に対して栄養因子やその遺伝子を投与して再生させる試みは数々あるが,今のところうまくいっていない.ならばというので,自家骨髄移植の発想で,自己骨髄由来の幹細胞を移植したら,少数例ながらうまくいったというのだ.これが脳の病気で使えるかどうか,試みるとしたら,どんな病気か?脳虚血か?変性疾患か?心臓とは違って複雑な回路網を有する臓器だから,果たしてうまくいきますかどうか.ところで,パーキンソン病で自己幹細胞を使った研究は論文になっていますかね?もしご存知の方がいらっしゃいましたら,教えてください.
まだ問題はある.仮に,目立った有害事象もなくアミロイドワクチンが効くかもしれないと結論が出たとして,誰に投与するのか?英国アルツハイマー病協会の研究担当理事であるRichard Harveyは、患者がアルツハイマー病になる前か、ごく初期の段階にワクチン接種をすれば、アミロイドはまだほとんど蓄積していないだろうからうまくいくかもしれない、と言っているが, このような推論には何の根拠もない.本ページでも,アミロイドワクチンのリターンマッチを紹介したばかりだが,早くも新たないちゃもんがついた.効果がはっきりしている麻疹ワクチンでさえ,自閉症が起こるだの何だのと騒ぎになっているから無理もないのだが.
Pfeifer, M. et al. Cerebral hemorrhage after passive anti-AB immunotherapy. Science 298, 1379 (2002).
著者らは、高齢のマウスにアミロイドそのものではなく、アミロイドに対する抗体を注射した(受動免疫)。5カ月後、マウスの脳のアミロイドの蓄積は少なくなっていた。半面、マウスの脳の血管では小さな出血が多数起こった。人間の治験で見られたような炎症所見はなかった.アミロイドは、脳の組織だけでなく、脳の血管にもアミロイドが蓄積する。アミロイドを取り除くと、脳の血管を弱くしてしまうのかもしれない。もちろん,マウスと人間では症状と副作用が異なるので、今回の研究結果を人間へのワクチン投与試験の結果と関係づけて考えることはできない.しかし,上記に指摘したように,内因性にできるアミロイドが,神経毒であり,それを取り除くいても,悪いことは何も起こらないとする楽観的な見方に対する新たな警告になったことは確かだ.
アミロイドが神経細胞死の直接の原因なのかどうか,まだ証拠は揃ってはいない.アルツハイマー病脳におけるアミロイドの存在は,感染症における発熱のように,ほぼ必発の随伴症状に過ぎないのかもしれない.痴呆の患者数が多いので,見切り発車も許されるということなのだろうが,それは,本格的に実用化した後に有害事象が明らかになった場合,その犠牲者も多いということだ.
夢よもう一度というわけだが,果たしてうまく行きますかどうか.野次馬としても目が離せません.
SLEに伴う脳の病気は多彩である.脳梗塞・脳出血,血管炎,ステロイド精神病,ステロイド使用に合併した感染症,そして,以上の病変のいずれでもない,SLEによる脳症,CNSループスがある.CNSループスには特異的な診断指標がないため,結局除外診断となり,我々神経内科医にとってはやっかいなばかりでなく,どうしてそんな病気が起こってくるのか皆目見当がつかなかったが,この論文でようやく仮説が一つ提出された.
SLEの患者では二本鎖DNAに対する抗体が形成されるが,この抗体がNMDA受容体のNR2サブユニットの特定のペンタペプチドを認識するばかりでなく,この抗DNA抗体は,SLE患者の脳脊髄液にも検出されin
vivo,in vitroの両方で,神経細胞のアポトーシスを起こすことがわかった.
今回の疫学的な研究によれば,答えはYes.しかし,その条件は厳しい.つまり,発症の数年以上前に,2年間以上にわたってNSAIDあるいはアスピリンを飲み続けることだという.そうやってはじめて発症リスクが半分にできるという.もうそろそろ危ないからということで飲み始めるのでは遅いということだ.これほど条件が厳しいとなると,誰でもというわけにはいかず,アポタンパクε4対立遺伝子のような明らかな危険因子を持った人が,将来を見越して長期間にわたって飲みつづけるというケースが現実的になるだろうか?
NSAIDがどうやってアルツハイマー病を予防するかという疑問に対しては,神経細胞を障害する炎症を抑制するというありふれた考え方のほかに,抗炎症作用とは別の機序でアミロイドの沈着を抑制するという説がある.
Weggen S and others. A subset of NSAIDs lower amyloidgenic Aβ42 independently
of cyclooxygenase activity. Nature 2001;414:212
一方で炎症はアルツハイマー病にとって必ずしも悪いことばかりではないことを,Wyss-Corayらは,アミロイド前駆タンパク (APP)のトランスジェニックマウスと,補体活性化を抑制するsCrry (soluble complement receptor related protein y) というタンパクのトランスジェニックマウスを交配した系を使って証明した.この交配マウスではアミロイドの沈着が加速するのだ.これは補体の活性化がアミロイドの掃除に必要なことを意味する.その機序は次のように考えられている.まず,蓄積したアミロイドに補体C1qとC3bが結びつき,活性化が起きる.(sCrryはこの活性化を阻害する).この活性化でC3aを介してミクログリアの活性化が起きる.活性化したミクログリアが沈着したアミロイドを食って掃除するが,活性化がどこかでおかしくなるとアミロイドを掃除せずに神経細胞を攻撃してしまうのだという.
Gold TE. Inflammmation takes on Alzheimer disease. Nature Med 2002;8:936-938.
Wyss-Coray T and others. PNAS 2002;99:10837-42.
このように,NSAIDsが本当にアルツハイマー病の予防薬になるのかどうかはまだわからない.しかし,すでにADPT (Alzheimer's Disease Anti-Inflammatory Prevention Trial)という名の治験がすでに始まっている.これに対して,合衆国の市民グループが,疑問を投げかけている. (Lancet Neurology 2002;1:403-4)
中年期以降の高コレステロール血症と収縮期高血圧症は,アポタンパクε4対立遺伝子とは独立したアルツハイマー病のリスクファクターである.
Panov AV, Gutekunst CA, Leavitt BR, Hayden MR, Burke JR, Strittmatter WJ, Greenamyre JT. Early mitochondrial calcium defects in Huntington's disease are a direct effect of polyglutamines.Nat Neurosci. 2002 Aug;5(8):731-6.
ハンチントン病患者のリンパ球から取ったミトコンドリアでは,健常対照群のミトコンドリアよりも静止膜電位が低下し,カルシウム保持機能も低下していたという.同様のの異常は変異ハンチンチンを発現させたトランスジェニックマウスの脳ミトコンドリアでも観察された.この異常は症状出現の数ヶ月前から観察されると言う.そして,正常なミトコンドリアも,病的にポリグルタミン鎖が伸びた蛋白にさらされると,同様のカルシウム代謝異常を起こしたという.この異常は全身どの細胞にも起こりうるわけだが,特に脳はミトコンドリアのATP産生エネルギーを依存することが大ゆえに,ハンチントン病では脳が障害されるのではないかと,著者らは推測している.
アミロイドは細胞外の凝集体だが,パーキンソン病のレヴィ小体に代表される神経細胞内の封入体も,タンパク凝集体である.Davisらによれば,この封入体も細胞障害の単なる結果ではない,原因と密接に結びついているという.彼らは,neuroserpin遺伝子異常による進行性ミオクローヌスてんかんにおいて,遺伝子変異の種類と,臨床症状,並びに封入体形成が非常によく一致していることを示した.
Davis RL and others. Association between conformational mutations in neuroserpin and onset and severity of dementia. Lancet 359, 2242-47 (2002)
このneuroserpin変異とよく似た酵素であるα1−アンチトリプシン欠損症は,同様のconformational diseaseとして,肝臓に封入体を生じ,肝硬変が起こる.下記の総説は,conformational diseaseでは,なぜ,変異酵素が分解されずにたまっていくかを詳しく解説している.
R.W. Carrell and D.A. Lomas.Mechanisms of Disease: Alpha-1-Antitrypsin Deficiency -- A Model for Conformational Diseases. N Engl J Med 2002:346:45
しかし,一方で封入体が形成されない点が特徴の神経変性疾患もある.レヴィ小体にはα―シヌクレインとともにパーキンが証明されるが,パーキン遺伝子に変異を持つ若年性パーキンソン病患者では,レヴィ小体が形成されない.となると,パーキンがレヴィ小体形成に関与すると推測できる.ジョンズホプキンスのChungらは, この点に注目し,パーキンが,α―シヌクレインと相互作用するシンフィリンー1に結合することにより,そのユビキチン化を促進することを明らかにした.そして,若年性パーキンソン病患者で明らかにされているパーキン遺伝子の異常が,シンフィリン−1のユビキチン化を抑制し,ユビキチン陽性封入体の形成を阻止すること,さらに,パーキン,α―シヌクレイン,シンフィリンー1を同時に発現させると,レヴィ小体様の封入体が形成されることも見出した.
Chung KK, Zhang Y, Lim KL, Tanaka Y, Huang H, Gao J, Ross CA, Dawson VL, Dawson TM Parkin ubiquitinates the alpha-synuclein-interacting protein, synphilin-1: implications for Lewy-body formation in Parkinson disease.. Nat Med 7, 1144-1150. (2001).
アルツハイマー病とクロイツフェルト・ヤコブ病の二つの神経疾患に共通するのが,アミロイドの沈着と神経細胞死だ.ところが,アミロイドを形成する材料となるタンパクは,これら二つの疾患で全く異なっている.だから,原材料が何であれ,とにかくタンパクの高次構造が変化し,凝集することが悪いのではないかという考え方が出てくる.
大腸菌HyFタンパクのアミノ端ドメインや,ウシのフォスファチジルイノシトール−3−キナーゼは,正常な個体にもともと存在する通常は無害なタンパクだが,アミロイドによく似た凝集体を,in vitroで形成する.ケンブリッジ大学の C Dobsonら#11は,このような凝集体が,極めて強い細胞毒性を発揮することを示した.
Bucciantini M, Giannoni E, Chiti F, Baroni F, Formigli L, Zurdo J, Taddei N, Ramponi G, Dobson CM, Stefani M Inherent toxicity of aggregates implies a common mechanism for protein misfolding diseases.. Nature 416, 507-511. (2002).
一方,ボストンのDJ Selkoeらのグループは,βアミロイドタンパク (Aβ)が生成後すぐに培養細胞内小胞でオリゴマーとなり,細胞外に分泌されることを見出した.このオリゴマーをたくさん含んだ細胞上清をラットの脳内に微量注入すると,海馬における長期増強が著しく阻害された.細胞をγセクレターゼ処理すると,モノマーはできるが,オリゴマーは生成しないが,このような細胞上清を注入しても,長期増強は阻害されなかった.したがって,モノマーではなく,オリゴマーが悪さをしていることになる.
Walsh DM, Klyubin I, Fadeeva JV, Cullen WK, Anwyl R, Wolfe MS, Rowan MJ, Selkoe DJ Naturally secreted oligomers of amyloid beta protein potently inhibit hippocampal long-term potentiation in vivo.. Nature 416, 535-539. (2002).
1999年に,アルツハイマー病治療薬候補のナンバーワンとして華々しく登場したアミロイドワクチンは,その後間もなく臨床治験に入ったが,フェーズIIaの段階で一旦中止になった.360人中5人に神経系の炎症所見が見られたからだという.この炎症所見が何を意味するのかは,第三者機関が調査中ということもあり,情報が一切公開されていないのでわからない.マウスの段階では,神経系の炎症所見は一切見られなかったわけだが,神経系にあるタンパクに対して抗体を作らせるわけだから, 当然,ミクログリアの活性化のような免疫反応を惹起することは予想された.問題はこの炎症所見が,どのくらいの頻度で現れるのか,永続性なのか,一過性なのか,そして,一番肝心なことは,アルツハイマー病の経過にどういう影響を及ぼすのかだが,これらの問題が明らかになるには時間がかかるはずで,治験が再開されるにしても,アミロイドワクチンが大きくつまずいたことは間違いない.
Dopamine neurons derived from embryonic stem cells function in an animal model of Parkinson's disease. JONG-HOON KIM and others. Nature AOP published online 20 June 2002; doi:10.1038/nature00900
ドパミン産生能のある細胞をパーキンソン病患者脳に植え込んで,根本的な治癒につなげようという試みでは,これまで,ヒト胎児黒質,ブタ胎児黒質,神経幹細胞と,いくつかの異なった細胞系を用いて行なわれてきた.NIHのRonald McKayらのグループは,胚幹細胞 (embryonic stem cell: ES細胞)をパーキンソン病モデルラットに用いて,良好な成績を得た#7.彼らは,ドパミンニューロンへの分化に関与するnuclear receptor related-1 (Nurr1)という転写因子をES細胞に導入したところ,ドパミンニューロンのマーカーであるtyrosine hydroxylase陽性になることを見出した.この細胞を6-hydroxydopamine (6-OHDA)によって黒質ドパミンニューロンを破壊したパーキンソン病モデルラットの線条体に移植したところ,生着し,組織学的にも,電気生理学的にも,中脳ドパミンニューロンとして性質を備えていた.そして,この移植を受けたラットは,対照群にくらべて,明らかな症状の改善を示した.この論文の最も重要な点は,ES細胞がドパミンニューロンの供給源として使えることを示したことにある.ヒトへの応用までには,安全性,年余にわたる効果の持続,内科治療との比較など,様々な問題点を解明しなくてはならないが,供給源の確保は,治験の大きな推進力になるだろう.9月末まではフルペーパーがオンラインで読める.
ALS患者が,進行期以後,どのような将来を望むのかは,医療者側にとっても大問題だ.厳密なガイドラインに従う場合には,医師による自殺幇助が許可されているオランダでは,患者の希望がより率直な形で出てくると考えられる.この研究では,ALS と診断を受け,1994-99 年に死亡したオランダの患者 279 例の担当医師241 人に質問票を送付した. 203 人(84%)の医師が質問票に回答した.その結果,患者 203 例のうち 35 例(17%)が安楽死を選択した.別の 6 例は医師の幇助を伴う自殺により死亡した.つまり,ALS患者の 5 人に 1 人が,安楽死または医師幇助自殺による死を選択したことになる.
かねてから,パーキンソン病の治療におけるドパミンアゴニストの役割について疑問をもっている身としては,やっぱりという気持ちだ.728例を対象に,平均9.2年間追跡した結果である.死亡率では差がなく,追跡3年後の時点では,ブロモクリプチン群では,disability scoreが悪かったという.その上,
Takano T and others. Glutamate release promotes growth of malignant gliomas. Nature Med 2001; 7: 1010
グルタミン酸の興奮毒性が正常な神経細胞の死に関与しているという興奮毒性仮説はみなさんよく御存知だろうが,この論文は,脳腫瘍細胞の場合,NMDA受容体の活性化がむしろ細胞を増殖させるのではないかというお話.脳虚血で効果を期待されながらもなかなか実用化されないNMDA受容体が脳腫瘍の化学療法の切り札として日の目を浴びる日が来るのだろうか?
Zuscik MJ and others. Overespression of the α1B-adrenergic receptor causes apoptotic neurodegeneration: Multiple system atrophy. Nature Med 2000;6: 1138
著者らは,神経変性疾患の研究をやろうなんて,全然考えていなかったに違いない.何しろ,所属が,Department of Molecular Cardiologyと正直に書いてある.どうせ高血圧の研究か何かやろうとしていたんだろう.ところが,α1Bアドレナリン受容体の過剰発現でできたのは,彼らにとってはとんでもない出来損ないだった. 黒質ドパミンニューロンに顆粒空胞変性が起こり,パーキンソン病類似の症状を示した.大脳皮質の変性によって大発作てんかんも起きた.著者らは,このモデルをShy-Drager類似としている.
シナプス小胞にグルタミン酸を取り込む蛋白がbrain-specific sodium-dependent phosphate transporter (BNP1)であることが判明したという論文なのだが,今回の発見は,グルタミン酸の放出機構にかかわる分子が判明したという基礎的な新知見にとどまらない.興奮毒性が疑われる神経疾患(脳虚血,筋萎縮性側索硬化症,ハンチントン病,アルツハイマー病など)で,BNP1がどう変化して,それが病態にどうかかわっているか,また,BNP1の働きを阻害する薬剤が興奮毒性を抑制するかどうか,といったところに非常に興味が出てくる.
GABAは抑制性の神経伝達物質であり,GABA拮抗薬はてんかん源性があるし,抗てんかん薬はGABA受容体のアゴニストだったり,GABA性の神経伝達を促進したりする.だからGABA受容体の変異でてんかんが起こることは当たり前のようだが,実際には見つかっていなかった.それがはじめて見つかったというお話.Wallaceらは,とくにこの変異によって,この受容体にもともとあるiジアゼパムの感受性が失われることから,内因性のリガンド(内因性のベンゾジアゼピン)の存在を推測している.
Baulac S and others. First Genetic evidence of GABAA receptor dysfunction in epilepsy: a mutation in the gamma2-subunit gene. Nature Genet 2001; 28: 46-49.
Wallace RH and others. Mutant GABAA receptor gamma2-subunit in childhood absence epilepsy and febrile seizures. Nature Genet 2001;28: 49.
Annachiara Cagnin and others. In-vivo measurement of activated microglia in dementia.Lancet 2001; 358: 461-67
アルツハイマー病における神経細胞死に炎症反応が関与しているのではないかという憶測は今でもくすぶりつづけている.それゆえ,非ステロイド系消炎剤やら,もともとはマラリアの薬であるクロロキン(ミオパチーも起こるのだが・・・)を使ったがだめだったとか (Lancet 2001; 358 : 455-60),今でも議論がある.
この論文は,治療とは別に,実際にアルツハイマー病の脳で,ミクログリアの活性化が起こっているかどうかを,末梢型ベンゾジアゼピンの受容体のリガンドであるPK11195を使ってPETで検討したところ,側頭葉内側面,側頭頭頂葉皮質,帯状回で,対照に比してPK11195結合の有意な増加が見られたという.このようなミクログリアの活性化が,悪いことなのかいいことなのかはわからない(下記)
Wyss-Coray T, Lin C, Yan F, Yu GQ, Rohde M, McConlogue L, Masliah E, Mucke L.TGF-beta1 promotes microglial amyloid-beta clearance and reduces plaque burden in transgenic mice.Nat Med. 2001 May;7(5):612-8.
Weninger SC, Yankner BA. Inflammation and Alzheimer disease: the good, the bad, and the ugly. Nat Med. 2001 May;7(5):527-8. .
Green tea extract may have neuroprotective effects in Parkinson's disease. Lancet 2001;358:391
先に胃癌の予防効果が否定された緑茶だが,性懲りもなく(?)今度はパーキンソン病の予防効果があるんじゃないかとの実験データをイスラエルのグループが出してきた.彼らは,MPTPあるいは6-hydroxydopaminによるラットのパーキンソンモデルの脳で,microarrayを使って遺伝子発現量の変化を見た.その中にはNFkappaBやIL-1betaのように,10倍以上も増加するものがあったが,経口的に緑茶の成分の一つであるepigallocatechi-3-gallate (EGCG)を投与しておくと,そういった遺伝子の変化が抑制されたという.
もちろん,この話は,緑茶がヒトのパーキンソン病の予防になるという話にはすぐにはつながらないが,パーキンソン病の有力な病因仮説の一つに鉄によるフリーラジカル産生があること.貧血に対して鉄剤を服用する時には,緑茶との併用は避けるよう薬剤師から指導されることからもわかるように,EGCGには鉄のキレート作用があることを考え合わせると,面白そうなデータだ.
筋緊張性ジストロフィーはトリプレットリピート病ということで,神経変性疾患の病因論の面からも興味深い疾患である.この病気については,9年前に19番染色体(19q13)のDMPK遺伝子の非翻訳領域に広がるCTGリピートが見つかった.私はこれがすべてだと思い込んでいたのだが,実はそうではなく,表現型が同じで別の変異があったのだった.(そういえば,典型的な症状なのに,なぜか変異が見つからなかった症例があったっけ)
今回は3番染色体3q21の,zinc finger protein 9 ZNF 9のやはりnon-coding region, intron 1に,リピート数なんと5000にも及ぶCCTGリピートが同定された (Science 2001; 293: 864-67). では,なぜ翻訳されない遺伝子変異が障害を起こすのか? 核内には,リピートを持ったRNAが(翻訳されずに)たくさんたまりつづけることがわかっている.このたまりにたまったRNAの不良在庫が,どんな悪さをするのだろう.RNA結合蛋白の異常な活性化だろうか?
アルツハイマー病で,アミロイドと神経原線維変化のどちらが本質的かという論争は神学論争かと思われたが,あらたな材料が提出された.
メイヨークリニックのLewisらは (1),アミロイド斑と神経原線維変化のdouble mutantを作ってアミロイド斑と神経原線維変化の分布を調べたところ,メスのマウスの辺縁系で,神経原線維変化がsingle mutantに比べて有意に増加していたという.この場合,アミロイド班のすぐそばに神経原線維変化が観察されたわけではなかった.
また,チューリヒ大学とレーベンカトリック大学のグループは (2),Aβ42のアミロイドをヒトタウのトランスジェニックマウスの大脳皮質と海馬に注入して神経原線維変化の分布を検討したところ,アミロイドを注射したマウスでは,対照の注射をしたマウスよりもアミロイドが5倍にも増えていたという.しかも,神経原線維変化が増えていたのは注射部位よりも離れた扁桃核だったという.
したがって,アミロイドが神経原線維変化を促進するのは,軸索輸送を介して遠隔的に働くのではないかと推測される.
1. Science 2001;293:1487-91
2. Science 2001;293:1491-95
鉄は錆びやすい.つまり酸化しやすい.自分が酸化するということは相手を還元する,すなわち相手にに電子を与えるとことである.電子をもらうととたんに乱暴者になる分子をフリーラジカルと呼ぶ.フリーラジカルはめったやたらと刃物を振り回すように片っ端から神経細胞を障害する.そう,鉄は乱暴者に刃物を与える役目をする.
ちょいと手前味噌になるが,鉄負荷の増大がてんかんのリスクになる可能性を示した論文が出た(1)と思ったら,鉄関連遺伝子の変異が神経変性疾患の原因であるという論文が立て続けに出た.
まずはじめはこのフェリチンの変異が,神経変性疾患になるという話(2).フェリチンはheavy と lightの2種類,24本の chainからなる鉄貯蔵蛋白である.英国はニューカッスルのMRCのグループは,イングランド北部の家系で,大脳基底核に鉄沈着を伴う変性を起こす上染色体性優性遺伝の家系の遺伝子変異を調べたところ,19q13.3にlocusがあるフェリチンのlight chainのC末端をコードする遺伝子に,余分なアデニンが挿入されていたことがわかった.この変異により,22アミノ酸残基がC末端にくっついた変異蛋白ができる.
この病気の患者脳の淡蒼球には,フェリチンを含む球形の封入体が数多く見られる.また白質全体にわたって,軸索の腫脹があり,そこにはユビキチンとタウが染まってくる.この所見は,やはり鉄沈着で有名なHallervorden-Spatz病とよく似ているが,Hallervorden-Spatz病は常染色体性劣性遺伝だし,locusも20p12.3であるので,異なる病気である.
面白いのは,この病気では血清フェリチンの値は低く,また,一般的な鉄代謝異常であるヘモクロマトーシスで障害される膵臓や心臓,肝臓の障害はない.異常なフェリチンはこれら臓器でも発現しているにもかかわらず,神経細胞選択的に障害が起こっている (neuroferritinopathy)
同様のneuroferritinopathyのマウスのモデルをLaVauteたちが編み出した (3).彼らはフェリチンに結びつくiron regulatory protein-2をノックアウトした.このマウスでは相対的にフェリチンあるいは鉄が過剰となると考えられる.このマウスでは,軸索変性が起こり,変性した軸索にはフェリチンが沈着しているという.
そして,Zhouらは,Hallervorden-Spatz病の変異遺伝子を見つけた (4) .それはパントテン酸キナーゼ2なる酵素である.この酵素は鉄代謝には直接関係がないが,反応にシステインが必要なこと,Hallervorden-Spatz病の病変部位ではシステインが沈着していること,システインは強力な鉄キレート作用を持っていることから,同部位に二次的に沈着した鉄が神経細胞を障害する可能性が考えられる.
Rouaultは鉄による神経変性過程を次のように推測している.(5) 神経細胞は細胞体から軸索輸送でシナプスで使う鉄を輸送する.この輸送の過程で,過剰なフェリチンはライソゾームによって消化されるが,フェリチンが多すぎると鉄イオンが遊離し,遊離した鉄イオンが前述のようにフリーラジカルを産生し,軸索変性,果ては神経細胞変性に至るというのである.まず軸索から障害されるというのは,前記のヒトあるいはマウスモデルの組織学的所見に合致している.
1. Ikeda M. Iron overload without the C282Y mutation in patients with epilepsy. J Neurol Neurosurg Psychiat 2001; 70: 551-553
2. Curtis ARJ and others. Mutation in the gene encoding ferritin light polypeptide causes dominant adult-onset basal ganglia disease. Nature Genet 2001; 28: 350
3. LaVaute T and others. Targeted deletion of the gene encoding iron regulatory protein-2 causes misregulation of iron metabolism and neurodegenerative disease in mice. Nature Genet 2001; 27: 209.
4. Zhou B and others. A novel pantothenate kinase gene (PANK2) is defective in Hallervorden-Spatz syndrome. Nature Genet 2001; 28: 345.
5. Rouault TA. Iron on the brain. Nature Genet 2001;28:299