UKのNHSは,割安な値段で質の高い医療を全ての国民に提供することを目的とした,世界に誇る国民皆保険制度です.日本の制度のお手本にもなりま した.ご多分に漏れず,赤字と医療資源(人員とハードウェアの両面)の不足に悩んでいますが,どんな困難があっても,この素晴らしい仕組みを維持してもら いたいと,心有る人々は願っています
英国の医療事情に関する勉強資料
a legal alien in london ロンドンで実際に臨床で働いている精神科医が書いているものです(個人的には存じ上げません)。問題点を的確に指摘しており、英国医療に関する日本語情報として一級の資料と思います。
予 算増に動く英国医療から学ぶべきこと(日経メディカルオンライン2006/8/14):伊藤善典著『ブレア政権の医療福祉改革』を読んで
森 臨太郎(もり りんたろう)氏による【英国医療事情】は偏りの無い見方で非常に勉強になります.
矢部久美子のイギリス福祉情報は英 国在住者必見のサイト
NHSの問題点のあらましを知るのによい日本語情報源としては,日医総研のリ
サーチエッセイに掲載されている
No.46 英国の2004年度国家予算案におけるNHSの位置づけ
森宏一郎
No.45 英国NHSの歴史
森宏一郎
をお勧めします.
週間医学界新聞の連載,近 藤克則氏(日本福祉大教授/医療サービス研究) による「医療費抑制の時代」を超えて イギリスの医療・福祉改革 も勉強になります.
英米医療のページ:英国の公的医 療監査(audit)機関であるGeneral Medical Council (GMC)関係の日本語資料あり。GMCは「患者の保護・医師の指導」を目的とし、Good Medical Practice (良質の医療のための原則)を初めとして、医療サービスの質の維持と向上のために各種の活動を行っている。厚労省でもなく、医師会でもなく、ましてや病院 機能評価機構でもない。日本でいうと、企業活動における公正取引委員会や、食品衛生における食品安全委員会に相当する,この英国独自の監査機関に学ぶべき ことは多い.著者の福見一郎さんは、医師ではありませんが、医療サービスの質の向上を意識した優れた文筆活動を続けているジャーナリストです。
また,専門的にはなりますが,NHSの財務内容については,イギリス医療レポート NHS病院会計の財務分析をご参考になすってください.
また,日
医総研の海外医療ジャーナルも,NHSの切実な問題が載っていて,とても勉強になります.多くの地域で医師不足が深刻になってきている日本にとっ
ても決して他人事ではありません.参考になるものとしては下記があります.
医師を輸入
するイギリス:英国の医師の半分以上は英国出身ではない.医師を輸入し,患者を輸出する医療サービス輸入国.
NHS
改革に悪戦苦闘ーブレア政権ー:いつまでたっても減らない手術待機患者を輸出したり,医療費予算を大幅に増額してもなお,山積する問題を解決でき
そうにもない.深刻な問題の一つとして,救急医の不足と,過酷な勤務による精神的ストレスの増大が取り上げられている.
病人をフランスへ輸出
英語の情報源としては,臨床医学のトップジャーナルであるランセットのニュース欄が欠かせません.この欄でも,UKの医療事情に関係するものを選 び,抄録を少しずつ書き込んでいきます.なお,ここに紹介するランセットの記事の原文のほとんどは,ネットで無料で読める・ダウンロードできますので,興 味のある方は,www.thelancet.comへどうぞ.簡単な 登録をすれば,すぐ読めます.
番外編
英国の悲惨な医療事情
日本の健康保健制度(英文):英国人を含めて海外の人々に日本の健康保健制度を知ってもらうための資料
過去の話題
全面禁煙後の心臓発作減少 こんなとこだとは思わなかった 心筋梗塞が世界一多い土地柄 悩みはいずこも同じ BBCの病院潜入取材番組 NHS病院に対する”第三者評価”,患者の選択眼を肥やそうとするNHS
の試み,英国の医師免許更新制度,かかりつけ医通信
から,HIV/AIDSのUK内分布,サッチャーの
失敗,オクスフォード白内障手術センターの危機,ミルバーン
が辞めた本当の理由,2003年10月の労働党大会から AyrshireのEmmieさんから,
保険医総辞退その後ネズミと同居を強いられる研修医,NHS病院の部長達による保険医総辞退,NHS改革におけるLiberal
Democratsの対案,医療費増額でNHSは生き返る
か?,MMRワクチンと自閉症の関連を否定,問題はお金ではなく,ベッ
ド数,看護師が処方箋を出すことの是非,
2007年10月現在,下記のニュースは論文にはなっていないようだ.
”スコットランドで,公共の場での全面禁煙が施行されてから最初の1年間で心臓発作のため入院する人が17%も減少した.全面禁煙は昨年3月に実施されたが、導入前の10年間は心臓発作で入院する患者数が年平均3%ずつ減少していたが、導入後の1年間で一気に17%に上昇したという。スコットランド医療当局の研究者は「喫煙者だけでなく、受動喫煙を強いられてきた人の健康状態が改善した」と分析している。
コメント:喫煙者のリスク減少にしては効果が出るのが早すぎるので、受動喫煙の減少によると判断しているのだろう。
WHOカーディアックスタディで世界各地を健康調査したところ、スコットランドは心筋梗塞の死亡率がヨーロッパ地域内で最も高い地域でした。
→続き
NHSのconsultant(日本で言えば各診療科の部長)の精神衛生状態が,労働時間の増加,責任の思い仕事からの重圧などにより悪化している
という。,1994年と2002年の調査の比較。英国の指導医も日本と同様の悩みを抱えているようだ.→あ
る都立病院部長の呟き
BBCの病院潜入取材番組
2005年7月20日21時からBBC1のPanoramaで放送された,Royal Sussex County Hospital in Brightonの内情曝露は大きな反響を呼んだようだ.もちろん,確実にひどいと思われ る例を選び出して番組にしたのだろうが,病棟に看護婦が足りないために.食事や排泄などの介助がろくろく行われていない様子を潜入取材している.BBCに は番組に対してたくさんの 投書が寄せられている.
個人的には,最もひどい例だとは思うが,多かれ少なかれ,英国内(もちろん日本国内も)の多くの病院で起こっていることだろう.原因は,NHSの予 算不足,すなわち日本政府と国民の皆様もご熱心な医療費の削減である.人件費を節約するのが一番手っ取り早いから,経営者は看護師を増員しないから,人手 が足りない.当然しわ寄せは声を上げにくい弱者に行く.日本人が真似をしようとしているのは,米国だけではないようだが,こういうネガティブな報道だけで は,問題は解決しないことを報道者も自覚すべきだ.根本にあるのは,提供すべきサービスが増大する一方なのに,金も人手もそれと平行して増やせないという ことだ.
このような,命に関わる問題が存在することは,何もテレビで大々的に宣伝してくれなくたって,誰でも知っている.では,どうすればいいのか,提案す
るような番組が欲しいと言うのは無い物ねだりか.
日本でも医師免許更新制度はしばしば話題になるが,どちらかというと,臨床の診療技術をどうやって維持するかという議論になりがちだ.しかし,それ 以前に,医者の心と体が診療に相応しい状態かどうかの方を検証し,相応しい者だけ,免許を更新する仕組みを作るのが先である.腕前云々は,その仕組みがで きてから先の話だ.
上記の論文で紹介された英国の医師免許更新制度Revalidationは,このように,狭い意味での医者の腕前ではなく,心と体が診療に相応し く,社会的なトラブルをおこさずに誠実に診療しているかどうかを検証しする仕組みである.英国でも,未熟な外科医による手術の犠牲者が数多く出たり,GP (家庭医)が地域の受け持ち患者を次々と殺したりという,衝撃的な事件が近年続いたことも,この制度の背景にある.このような事件を防ぐためには,狭い意 味での診療技術を目安にするだけでは不十分で,人の命を預かる職業人として,社会の中で尊重されるに足る行動ができることを要求されるということだろう.
具体的には,医師は,5年ごとに,General Medical Council: GMCと呼ばれる医師免許認定を行う独立行政委員会に対して,次の観点からデータを収集,提出する:診療の質とその維持,教育・訓練(池田注:卒後研修だ ろうか),患者との関係,同僚との関係,誠実な業務遂行(犯罪歴はここに含まれる),医師の健康状態.これらのデータは,勤務医の場合には勤務先の病院, 開業医GPの場合には,所属するPrimary Care Trust(池田注:ちょっと説明するのがむずかしいが,わかりやすく言えば,医師会と支払い基金が合体したようなものだろうか)ですでに始まっている査 定のデータが転用できるそうだ.
ただ、この制度は、2005年4月に導入予定だったのが、すったもんだの挙句、医師会BMAが内容の変更を求めたために、2005年12月現在導入 が延期されているそうだ。
週刊誌の名医ランキングにせよ,学会の専門医制度も結構だが,名医が本当にその力を発揮する状況というのは,実際には数少ない.1人のブラック
ジャックが1人の重症患者を救う間に,1人の普通のまともなお医者さんは100人の患者さんを助ける.
「信じられん。予約の電話をしたら1週間後しか空いてないって言われた。」
イギリスに住む日本人の誰もがこぼす愚痴である。むかついているのは日本人
だけではないのだろうけど、100m毎に個人病院の並んでいるような国から来
た日本人には余計その不便さが際立つのである。
イギリスでお医者さんに診てもらう手順はこうである。まずしなくてはいけ
ないこと、それは登録である。自分の住んでいる地域にいくつかある診療所の
どれかを選んで、登録手続きの用紙を入手し記入、提出すると、何週間後に登
録カードが送られてくる。これでいわゆるかかりつけのお医者さんをゲットで
きる。
さていよいよ病気になるときがやって来る。「軽いうちにお医者さんに診て
もらって治しておこう。」なんて考えはイギリスでは通用しない。病気になっ
たからって、こちらの都合ではお医者さんに診てもらえないのである。必ず予
約が必要である。予約の電話をすると、「今日は空いていません。」と言われ
たからと言って驚いてはいけない。3日以内に予約が取れた時に驚くべきであ
る。私は今まで病気のピーク時にお医者さんに診てもらったことがない。
いつもお医者さんとの会話は「…でした。」「今、その状態ではないからなん
とも言えません。」となる。なんとも間抜けな話である。
日本のようにお医者さんに行けば、何かしてもらえると思うのは間違いであ
る。日本のお医者さんは、どこか悪いと言うと聴診器を当て、血圧を計り、薬
を山ほどくれる。イギリスでは、1つの診療所に何人かの医師が配置されてい
て、各自、個室を持っているが、その部屋にはとりたてて医療器具は置かれて
いない。
どちらかというと、社長室といった感じである。患者は順番に主治医の部屋に
入っていき、問診を受ける。ここでたいていの場合、5分かそこらで診療は終
了する。というより、世間話が終わり、部屋から出るといったほうが近いかも。
私は部屋を出た後「何をしに来たのだろう…・」と思うことが多い。診療所を
出るときいつも不思議な気がするのは、医療費を払わなくていいからである。
この診療所は国営で、医療費は100%フリーである。これは学生として滞在す
る外国人にもて適用されていてすごいと思った。
中略
これまでの話は、国営の診療所についてのものである。診療所で病状が深刻
と見なされた場合、国立総合病院に行く。民間の保険に入ってるならば、個人
病院に行く選択肢が増える。国立総合病院はただだが、予約は診療所以上に難
しく、入院は2年待ちなどといって、経営のあり方が常にイギリスではニュース
になっている。個人病院についてはかなりの医療費を覚悟しないといけない。
出産を例にとると、妊娠から出産まで国営にかかるのはただだが、個人病院だ
と通算して100万近かかるらしい。
行きたいときに行け、治療や薬が当たり前の日本の有料医療と、行きたいと
きに行けず、たいてい薬も治療もないイギリスの無料医療、どちらがよいのか?
ちなみに、もちろん本当に緊急の場合はイギリスのお医者さんだって診てくれ
ます。
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2.世界の子育て
生活情報 イギリスの医療制度から
私の子供は今度の10月で2歳になります。こちらへ着た当初は8ヵ月でした。
色々心配する事も多々ありましたが、その一番に来る事と言えばもし身体の
具合が悪くなったらと言うことでした。
○ 病院について
イギリスではNHSと言う国のシステムにより医療費は全額免除されます。日本
で言う社会(国民)保険のようなものでしょうか。
社会(国民)保険料は、イギリスでは住民税のような物に含まれている様です。
家が決まるとすぐにGP(GeneralPracticees)登録をします。
GPとはかかり付け医の事で、基本的に具合が悪い時はどんな事(耳・目・皮
膚など含む)でもここにまずかかります。
体調が悪ければ電話で予約してGPに行くことになります。混んでいると1週
間待ちになったりすることもあります。どうしても緊急の場合は朝一番に電話
でemergencyにいれてもらいます。これでいれるとどうにかその日のうちに
見てもらえますが、電話が話中になっていることも多いので何度もかけなく
てはなりません。
息子は幸い1歳を過ぎてからは殆ど熱が出ることも無く、大した怪我もしま
せんでしたが、特に赤ちゃんは優先的に診てもらえる感じです。
ただ、非常に困るのはレントゲン写真は余程の事が無い限り撮って貰えませ
ん。国からの規制が凄い様で、18ヵ月になった頃、1度だけ息子が階段から
落ちた事がありました。その時は子供病院の救急で診てもらいましたが、異
国にいる事もあり、万が一を危惧して随分と先生にレントゲンを撮って欲し
いとお願いしたのですが、診察して異常が診られないからと言うことでどう
しても撮ってもらえませんでした。
NHSとは別個にプライベートDr.もいて、これはまったくの自費になる様です。
個人で加入している保険や直接自分で支払う事になります。
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これらの体験談は「イギリスの医療事情」をよく表しています。
イギリス医療のキーワードは
◎GP(家庭医)への登録
◎公的医療機関(NHS病院)
◎国営の医療機関での医療費は無料
◎診療待ち・入院待ち「waiting list」
だと言われています。
1)イギリスの医療制度(NHS:National Health Service))
イギリスの医療保険制度は、疾病予防からリハビリテーションまで含む包括
的な保険医療サービスを、税金を財源として全国民に提供しています。受診時
の患者負担は、眼鏡費、薬剤費(1種類処方につき、6ポンド)、歯科治療費
(医療費の80%)等のごく一部を除いて、ほとんど無料です。
ただし、患者は、緊急医療を除いて予め登録した一般家庭医(GP:General
Practitioner)の診療を受けねばならず、GPの紹介を得て初めて病院や専門医
の治療を受けることができる仕組みになっています。
と言うと聞こえはいいようですが、前述した体験談のようにGPの診察を受け
るまでに時間がかかり、専門医に診てもらうのは、数日(ひどい時には数ヶ月)
かかることもあるようです。また日本は保険制度、イギリスは税金で医療を賄
っています。両国が抱えている問題の本質自体が異なっているので、直接対比
するのは問題があるかも知れません。
イギリスでは、医療を一次医療(プライマリケア)と二次医療とに区別していま
す。イギリスにおいて一次医療は、一般医(GP)が中心となった一次医療チームに
よって行われます。国民は、担当のGPを選択する権利と義務があり、GPの紹介
なしには、二次医療を受ける事ができません。GPは、年間で登録患者数に応じて
算出された予算金を受け取り、地域の特性に応じて、受け持ち患者の医療サービ
スを決定します。これには、予防活動、診療活動、福祉活動など、幅広い保健活
動が含まれているとのことです。しかし医療予算不足から医師・看護婦の不足→
医師一人当たりの担当患者増大→医師・看護婦の疲弊による医療ミス、と悪循環
を招いていると言われています。
GPは登録された人数分の支払いを受け,実際に治療した数と支払とは関係ありま
せん。これが,医療費の「まるめ」「包括化」の究極の姿です。高度な医療,高
額な機械の導入をすればするほどGPは負担に苦しむことになり,医療は萎縮して
いきます。これもイギリスの医療制度の問題点です。
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○「待ち行列 waiting list」
このイギリスの医療制度の弊害として「waiting list」という現象があり、イ
ギリスで大きな社会問題となっています。医師不足のため、GPに受診できるま
でに2週間を要する(救急の場合は別である)とか、30%以上の患者が手術を
受けるまでに3ヶ月、長い場合は18ヶ月も待つ、というのは、 さすがに患者の
「忍耐」の限度を超えているようです。ガンの疑いがあるという患者でも、2次
医療での検査を受けるまでに6カ月待ち、時には一年待ちといったwaiting
list
にのせられるのです。さらに国民の受けるサービスはGPの裁量に大きく依存して
おり、NHI(国民健康保険)の管理機構が弱い為、地域によりサービスのレベル
が大きく差が出てきている。また二次医療のレベルにも地域差が大きく、専門医
の教育が不十分であることも指摘されています。
日本ではより精細な検査を受けた方がいいと判断された場合、紹介状を持って
いけば、早ければ当日、どんなに待つことがあっても翌日には紹介先で診療して
もらえます。日本の大病院の待ち時間が少し長いことを、「三時間待ちの三分診
療」などとマスコミに揶揄されていますが、イギリスの場合の待ち行列は三時間
待ちどころではないのです。医療費がいくらタダとはいえ、これだけの間待たさ
れているうちに症状が進行してしまう恐れもあります。また、医師に入ってくる
医療費が基本的に定額であるため、医師の技術向上へのインセンティブの低下に
より、技術の確保が難しくなっているという状況もあるようです。
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○医師・患者の海外流出
イギリスはこれまでに医療費を対GDP比で6.7%に絞りました(日本は7.6%、
アメリカ13%)。その結果、腕の良い医者が海外に流出し医療の質は極端に下落
しました。癌が発見されて手術をするのに何ヶ月も待たされ、既に転移していた
という日本では考えられないような話しも現実にあるようです。
ブレア首相は「英国は医療にかける金をケチリすぎたために、国民に良い医療
を提供することに失敗した。これからは、ドイツやフランス並にGDPの10%ま
で医療にかける金を増やす」と大英断を下し、毎年6.3%ずつ増額しています。
そうすればイギリスが10%になったとき日本は先進11ヵ国の中で最低になりま
す。日本でも腕のたつ医者が海外に流出しています、これからもっと増えるのは
間違いないようです。
となりの芝は青く見えますが、そこに住んでみないと本当のことは分からないと
思います。
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参考サイト
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転載ここまで
(「JMA PRESS NETWORK」より)
NHS”改革”に辣腕を振るっていた厚生副大臣のAlan Milburnが,突如副大臣を辞めた.表向きの理由は,1997年の労働党勝利時の就任以来6年間にわたる単身赴任生活を解消し,精神科のコンサルタン ト(NHS病院部長職)をやっている妻と子供と一緒に生活するためだというが,そんな理由は誰も信用しちゃいない.
単身赴任といっても毎週末には帰っていたとのことで,それはそれで亭主元気で留守がいいってなもんで,家庭はそれなりにうまくいっていた.本当の理
由は,ブレアから,もっと厳しく”改革”しろと,ごりごりやられるのが嫌になったというのが,もっぱらの噂.ブッシュの尻の穴の舐め方の見事さからもわか
るように,ブレアという男はなりふり構わないところがあって,そこが嫌で愛想をつかす部下も出てくるんだろう.
「医師や看護師などのNHS(National Heal:国営の保健医療サービス)のスタッフ1人1人に敬意を表さなければならない」、「教育、医療な・どの公共サービス部門への歳出が増えるが、それ
は国民が必要とする公共サービス部門の人員を雇用していることも意味しているわけで、彼らに適切な報酬を支払う必要があることを忘れてはならない」。遠ま
わしではあるが、NHSスタッフは人手不足のなかで頑張っているのだから、サービスが不十分なことがあって
やむを得ない、人手不足を解消するにはそれなりの財源がいるのだ、と言いたいのだろう。また一方では、すぐにも手術が必要な症状なのに1年待たねばならな
いと宣告された、ある心臓病患 の事例を紹介し,ブレア政権が作った制度(フランスへの手術ツアーのことを指しているとみられる)を利用して外国に渡ったおかげで、すぐに手術を受けるこ
とができたとしたが、これも人手不足から派生した長期の入院待ち・手術待ちという問題の裏返しであり、根本解決に至ってないことを露呈したにすぎない。ブ
レア首相自身が認めているように、医療サービスを充実させるには熟練した人材を確保することが不可欠。政策的には、そのための財源を調達し、いかにして充
当していくか最大の課題といえるだろう.
イギリス発 森宏一郎 日医総研海外駐在研究員
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”大量破壊兵器”について同じようにデマを飛ばし,同じようにブッシュの尻を舐めても,片や,国民皆保険制度を維持していくためには,金も人材も必
要だと率直に言う,片や,国は金を出さないから,命は各人が金で買ってくれと正直に言わない,同じ首相でもこれほど違う人物を選んだのは,それぞれの国民
である.因果応報である.横須賀市民だけがいい思いをしているとは思えないが,それでも横須賀市民は彼を当選させるのである.
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アメリカでも 心ある人たちをたくさん知っているので とても心が痛みます。。。
高校時代に 1年ですが交換留学してるし、医者にもいったし、いっぱいお世話になったんです。昔の同僚も米国人多かったし。。。 とても よくして いただいたんです。
でも 最近の米国の医療は本当にすごいですよね。。。もう医は算術ってことばがぴったり。。。会社を選ぶ才も 医療保険のべネフィットが とても大 切だとか高額治療で 保険のカバーを超えると、自宅や株もうって治療をするとなると、持たない者はとてもじゃあないけどやっていけないですよね。。。とく に最近はひどいみたいで みな医者には よほどのことがないと行かないとか。。。可哀想に。。。
うちの姑は 第一次大戦後の貧しいCeltic Parkのうまれで、貧乏で 医者にも見てもらえなかったんです。医者もしってて、「あの家はお金がないからって。。。」でも、彼女の兄は、第二時大戦を 海軍で、若いから なんでもやさん見たいに器用に働いたらしく、戦後 学校へ行くための奨学金をもらって グラスゴーにあるNHSの病院のコンサルタント になりました。
おじさんの一番辛かったことは、人の命を助けたくて医者になったのに
死亡診断書にサインしなければならないことだったとか。。。
おかげで スコッチ飲み過ぎちゃったみたいだけど。。。
サッチャーさんの改革で、病院の掃除の人たちが切られたさいも、デもやったそうです。病院の掃除は違うんだ!っていくら訴えてもわかってもらえな かったとか。。。やっぱり化学も学んだらしくて院内感染に早くから気付いていたをみたいで姑が若い頃から、病院の床になにもおくな!と厳しくいわれていた そうです。ハンドバックは ひざの上におけ!」と。。。
確かに NHSには 問題山済みです。教育予算の少なさ、頭脳の流出等厳しいことはたくさんありますが、やっぱりNHSには なんとか
がんばってほしいと思っています。スコットランドは イングランドよりも 多くのお金を注ぎ込んでますが、そのぶん、やっぱりいいみたいだよ、マイケルも
いってました。
日本もそうです。私が若い時に せっせと働いておさめた健康保険や年金が 親にいくと思うから払ってきたし。。。おかげで そんなに心配しなくても すみましたしね。
> > When I start a volunteer at the charity shop, many of them said
"NHS is
rubish! Private is better!" Nowadays, they say "NHS is better!
>空気や水など,大切なものほど,あるのが当たり前になってしまい,無くなってか
ら,その大切さにようやく気づくようです.こちら日本のNHS論議は,UKの10年前に
相当します.まったく同じ論理でprivatizationが推し進められています.あと,
10年後,日本人も全く同じことを言うようになるでしょう.
マイケル、小姑の夫はイングランドのGPなんですけど、
先週 きてたからいろいろとはなしましたが
やはりイングランドは あぶないみたいだとか。。。
人の人生は長くなったし、いまどき末期の病気なんて
ものすごく減っている。 医学の進歩で助かるようになったから。
でも、NHSが なくなったら、お年寄りはどうするの?
過去に病気があった場合、プライベートの保険では まずカバーされないよ?
と聞くと、「そうなんだよね。 死ぬしかなくなる。。。」
と彼も寂しそうでした。。。
なくなってみて、始めて気がつくのかもね。。。と
> > Sometimes it's good to shout, isn't it?!
>そうです.これからもこつこつえみさん自身の体験をホームページに綴っていって
ください.そのことが,日本人に対して有意義な警告を発することにもなるのです.
どうもありがとうございます。
まあ 英国在住者からみたら、私のNHS擁護?は 度ひんしゅくを買っていることも
あるみたいですが、まあ気にしてません。
私は 米国人のともだちもいるし、どちらかといえば、
彼等、彼女らには どうやっても恩返しできない位 お世話になったし
米国も 大好きですよ。 なんでスコットランドに来たのか じぶんでも
不思議。。。 でも どこにいても Pro & Conがあるから。
最初 スコットランドに慣れれなかったけど、いまでもたまに
泣いて日本にかえりたくなったり、米国人のともだちに電話で 愚痴ってる。。。
スコットランド系米国人だったみたいで、心中複雑ってか??
弱者保護は、米国でも たくさん見てきましたよ。
個人的に 優しい人たちが多いこと、
ボランティア活動してる若い世代の人たちが ここよりもすごく多く、
みな、いい人たちがおおくて、外人の私でもすぐに仲間に入れてもらえたこと。
スコットランドの田舎は厳しいわ?!
いなかは どこでも大変ですけどね?。
HPにNHSのことを書き出したのは、
こっちにこしてきた場合、英語の問題もあるし、不安な人もいるだろうとおもって
おせっかいだけど 書き出したんです。
NHSはこの国で 一番人種差別とかがないところなんです。
優秀な医者の半分は 東洋人で、彼等がいなくなると維持できなく
なるらしいから、(スコットランド人のともだちが 私にそう教えてくれました。)
私のHPなんて、誰が読んでるんだろうとたまに
思うけれど、意外なところで いろんな別のカルチャーの人たちとも
知り合えたので これはこれでよかったと、満足しています。
以前,NHS病院の部長達による保険医総辞退についてスターリングにお住まいの杉本 優さん
から,次のような解説をいただいたので,杉本さんの許可を得て転載する.
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昨年11月にNHS病院の部長(コンサルタント)の契約内容改正に関して政府提案が
あったが、部長たちによる投票で否決されたという話題があったのを覚えていらっ
しゃるでしょうか。あれの続きです。英国内でも南と北でNHS保険医の業務形態に違
いがあることから、投票の結果はイングランド・ウェールズでは圧倒的否決、スコッ
トランドでは僅差で可決となったのですが、その後政府では国全体としてはこれ以上
契約見直しは行わないという立場をとり、代わりに各自治地域で個別に契約をまとめ
ることを認めることになりました。その結果、スコットランド政府の保健省とBMA
(British Medical Association)スコットランド委員会が交渉を続けていたのです
が、結局先日BMAが交渉決裂を発表するという形に終わりました。
以前書いた通り、病院部長新契約の主な内容は
・報酬引き上げ(20%ほどの増額になる)
・標準労働時間の導入(週40時間、超過すると時間外手当がつく)。
・NHS外の診療の制限(原案では禁止だったが妥協で制限となった)
の3点で、イングランド・ウェールズで強い反発があった3つ目のNHS外診療の制限が
スコットランドではそれほど問題にならなかったことから、スコットランド単独なら
契約がまとまるんじゃないかと期待されていたのですが、結局これがつまずきの石に
なったようです。
ニュースでの説明を聞いた限りでは、契約の内容に、「新人コンサルタントについて
はNHS外診療の規制を既存のコンサルタントよりも厳しくし、週50時間以上NHS診療
を行わなければNHS外診療を行なえないとする」という条項が含まれていて、BMA側が
この条項の削除を要求し、スコットランド自治政府側が拒否したことが交渉決裂の理
由だそう。BMAの主張は、「弁護士よりこの条項は間接的性差別にあたる可能性が高
いので削除を求めるべきとのアドバイスを受けている」というもの。
なぜ新コンサルタント差別が性差別になるのかというところがいまひとつはっきりし
ないんですが、従来コンサルタントといったら圧倒的に男性だったのに対し、今では
コンサルタントの卵の半分は女性であるということがあるみたいです。
また、女性医はコンサルタント資格取得後、家庭との両立のためパートタイム勤務を
選ぶケースが多いが、この条項によれば、事実上パートタイムコンサルタントによる
NHS外診療を完全禁止することになり、結果的に女性医をNHS外診療から締め出すこと
になる、という説明もありました。
いずれにしても、仮に裁判になった場合間接的性差別と認められる可能性が高いの
で、あとで問題にならないようこの条項を削除してほしいという主張だったわけで
す。
実際にはスコットランドのコンサルタントがNHS外診療を行うことはそれほど多くな
いので、この条項があってもなくても実際の影響はあまりないはずなのですが、BMA
によると、スコットランド保健相マルコム・チゾムがふたことめには「スコットラン
ドでの実害はないといっても、英国全体への影響も考えないと…」と繰り返し、それ
以外の理由説明もないまま削除を拒否したそうで、「契約がまとまらなかったのはイ
ングランド政府からの横槍のせい」と批判しています。
一方チゾム大臣は「イングランド政府から干渉があったというBMAの主張は全く根拠
がなく、あくまで自治政府の判断。現在の契約案はNHSにとってもコンサルタントに
とっても益になるものであり、修正の考えはない」と反論していますが、スコットラ
ンド自治議会ではすでに老人生活ケア無料化などでイングランドと大きく異なる政策
を導入しており、その結果イングランドでの不満度が高まるといったことも起きてい
るようで、イングランドへの配慮が原因というのはあり得ないことでもないような気
がします。
そういうわけで、結局英国内のどこでも病院部長の新契約は不成立に終わってしまっ
たわけで、今後NHS診療にどんな影響が出てくるのか心配です。折しもイングランド
では政府がFoundation hospital制度を導入しようとしており、これが通るとNHSに自
由市場原理を持ち込み、NHS内の病院同士を競争させるという事態が発生することに
なります。スコットランドではこの制度は選挙公約にも含まれず、他人ごとといえば
他人ごとですが、これまた「イングランドへの配慮」でスコットランドにも導入しよ
うという話になるかもわからないし、なしくずしにNHS保険制度が崩壊する可能性も
?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
この記事に関する私の感想は,以下の通りです.
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
NHS病院部長(コンサルタント)契約の問題は,かなり込み入っていてわかりにくくなっているのですが,優さんの解説を受けて私なりに整理してみました.
日本の公立病院でも共通の問題点がありますので,日本に住む人々にも決して他人事ではありません.
まず,問題の根っこにはNHS病院の劣悪な労働条件があります.NHS病院では医師も含めて医療従事者が安い賃金で,時間外手当もつかずに重労働を 強いられています.奉仕の精神を疾うに越えた問題で,日本と同様,研修医の劣悪な労働条件も問題になっています.しかし,NHS予算を増やさなければ(日 本流に言うと国民医療費を抑制しようとすれば),この問題は解決できないことはおわかりでしょう.
これに対し,UK政府は日本政府よりも柔軟ではありますが,それでも,市場原理は素晴らしいというドグマのもと,医療サービスにおける NHSの割合を抑えて,プライベートのサービスで代行しようとしています.今度の交渉もそのせめぎ合いの一つです.
平たく言えば,スコットランドの部長たちは,残業はないにこしたことはないが,残業するならきちんと手当てをもらいたい.一方で,アル バイトでがつがつ稼ごうとも思わない.ところがイングランド・ウェールズの部長たちは,残業があってもかまわないが,その代わりアルバイトもやらせろ,と いうわけです.
あのがりがり亡者どもめと,イングランドの部長をなじるスコットランドの部長達の声がここまで聞こえてくるようです.スコットランドの 部長達にとって,大筋では納得できる条件提示だったと思います.そこで問題となった新人に対するアルバイトの制限条項の背景にある女性の比率の増加につい て考えてみます.
医師の男女比で女性の比率が高まっているのは日本でも同様で,世界的な傾向です.イングランドよりも男社会の色合いの強いスコットラン ドですが,イングランドとスコットランドで医師の男女比がそれほど違うとは思えません.比較的時間の余裕のある非常勤部長の中で,家庭にいられる時間を確 保しようとする女性の占める割合が高まっているであろうことも容易に想像できます.ですから,新人へのアルバイト就業制限が,結果として女性への影響が男 性よりも大きくなるという懸念も無理からぬことだと思います.
今回の交渉では,そういう懸念とNHS診療崩壊のリスクとの天秤が最後に問題になったわけです.個人的には,結果的に性差別が明らかに なって実害が出た時は第三項を再考・撤廃するという修正案を出すとかして,何としても妥協して,NHS診療の危機を救ってもらいたかったのですが,残念な 結果になりました.
政府の説明責任と国民の間の議論が日本よりは少しはましなはずのUKでも,医療サービスへの市場原理の導入が未だに推進されているのは
不思議なことです.スコットランドにお住まいの皆さんには申し訳ありませんが,NHS廃止・プライベート万歳の悪しき先例に,日本に住む人々は学んでいか
なければなりません.医療サービスへの市場原理の導入,プライベートのサービスの正体が何かは,ここでお話すると長くなりますので,詳しく知りたい方は,
毎度おなじみ,メディカル二条河原へ:市場
原理とは何か, 車両保険
BBC NEWS, Thursday, 28 November, 2002, 16:31 GMT
Doctors consider legal move. A hospital could face legal action
over claims that it provided sub-standard
accommodation for junior doctors.
この話題も杉本優さんから教えていただいた.上記のように,11月28日のBBCが伝えるところによれば,英国でも研修医の待遇が大きな問題になっ
ている.スコットランドはキルマーノックのクロスハウス病院の宿舎の惨状は訴訟問題までに発展している.断水・湯沸器の故障は朝飯前,人間よりもネズミに
とって住み心地がいい宿舎の環境があまりにもひどいので,研修医は車の中で寝泊りを強いられている.BMA英国医師会は,当局は宿舎整備に一銭もかけず,
ただただ対処を遅らせるばかりであると非難している.
一方,エアシャー(エア県)当局は,公式の抗議は受けておらず,昨年度は管轄病院の宿舎の整備に2000万円も投資したと主張し,クロスハウス病院の宿舎
が特別にひどいのではなく,スコットランドや英国の他の病院でも似たり寄ったりのところはいくらでもあると主張している.
日本でもすでにこのような問題は起きている.ただ,訴訟になっていないだけだ.特に地方の国立病院の宿舎はさんたんたる状態である.公務員の給料ま
で減らす姿勢なのだから,研修医宿舎を整備する気など厚労省には全くないだろう.2005年から始まる臨床研修必修化で,お膝元の国立病院療養所に,いい
人材を呼ぼうという気は全くないようだ.
昔,日本で行なわれた保険医総辞退にも似た非常手段であり,このままでいけばNHS病院での保険診療実質的に不可能になってしまう.メディアでは医 師の傲慢と非難もあろうが,その背景にはそれなりの理由がある.(Jeffcoate W. Rejection of new consultant contract is a vote of no confidence. Lancet 2002;360:1440.)
仕事は増えるばかりなのに,NHSの予算不足によるベッドの閉鎖,残業手当の削減,人員削減で,良心的にやればやるほど労働負担が増えるのに,報酬 は全く増えない.労働条件と賃金体系ばかりでなく,保険診療でも政府の言うなりになれば,自分がよかれと思うような患者さんの診療ができなくなる.とても これでは自分の体もNHS制度も持たないと判断した末の非常手段といえよう.
すぐにNHSで保険診療ができなくなるわけではないが,今後,BMA British Medical Associationと政府の交渉は難航が予想される.関心のある方は,BMAのサイトも 参考にされたい.
以下は杉本さんの解説
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私の理解している限りで説明します。
政府提案(British Medical Association:BMAも,投票結果が出る前は支持していた)の内容は、大まかに言って
・報酬引き上げ(実質9%〜24%と、勤続年数などによってかなり幅はある)
・標準労働時間の導入(週40時間)。超過には時間外手当がつく。
・NHS外の診療の制限(原案では禁止だったが妥協で制限となった)
の3点です。
投票で反対したコンサルタントたちは、2番目の労働時間に関する規定が反対の主な理由だと言っているようです。週40時間といっても週4日当番、各 当番あたり10時間の勤務というパターンが基本となっており、実際の勤務パターンは各病院のマネージャーのさい配に任されることになっているため、コンサ ルタントの希望にかかわらず時間外手当なしで週末や夜間勤務を強制される恐れがあるというのがその内容。イングランドでは地域によって医師と病院マネー ジャーの関係が悪く、敵対状態という感じになってるところもあるようで、それが反映しているようです。
ただし、スコットランドとイングランド・ウェールズの票がきれいに分かれた原因は、3番目のNHS外診療に関する規定が原因だとみられています。と いうのは、イングランド・ウェールズでは、NHSに雇用されているコンサルタントがNHSの勤務時間外に個人的に有料で患者を診察することが多い(イング ランドの知人からは、「NHSを通じてコンサルタントの診療を受けようとしたら予約待ちが2年間といわれ、同じコンサルタントに有料(プライベート)で予 約を取って、2カ月後に診察してもらった」というような話をよく聞きます)のに対し、スコットランドではNHSのコンサルタントがNHS外で診療を行うこ とは少ないのです。そのため、NHS報酬の引き上げ、勤務時間の適正化という新契約の内容が、スコットランドでは歓迎されたわけです。
一方、新しい契約では、「NHSと契約しているコンサルタントがプライベート診療を行うには、NHSで一定時間の超過勤務を行うことを義務づける」 となっており、これに対する反発がイングランド・ウェールズで強かったことが投票結果の違いの原因だと、スコットランドのコンサルタントたちは考えている ようです。
NHS勤務医師の報酬交渉などは本来全国統一でやることになっていますが、医療自体は自治で権限委譲された項目のひとつなので、今後の成り行きに
よっては、スコットランド自治政府とスコットランドBMAの間で政府提案の新契約を施行するという方向に向かう可能性もあります。
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池田コメント:みなさん,わかりましたか?2年間といわれた予約がお金を出せば2ヶ月間になるのです.命をお金で買う世界です.”市場原理と自由競
争が安価で良質なサービスを提供する”と主張したのはマーガレット・サッチャーでした.彼女が行なった市場原理の導入の結果がこれです.小泉某がやろうと
していることも同じです.国民皆保険による医療サービスを支えているのは,親方日の丸(あるいはユニオンフラッグ)の人々ではなく,緊張の連続で本来の勤
務時間を大幅に超えて働きながらも,残業手当を要求できない人々です.そういった人々も,ひとたび自由競争,市場原理が公認されると,堂々と金を要求する
ようになるのです.
労働党のNHS改革案に対して,野党としてその問題点を指摘し,対抗案を出す必要がある.前の党首John Majorの愛人問題や悪名高き元副党首Jeffrey Archerの偽証罪での刑務所入りによる支持率の低下に悩む保守党はすったもんだの末に,NHSでなく,Privateの保険を使う患者に対して補助金 を出すことによってPrivateの保険への誘導とNHSの負担の軽減を狙う対案を出してきたが,これも,その補助金の財源はどうするのかということに なって,労働党のNHS拡大路線と朝三暮四ではないかと攻撃されている.
一方Liberal Democratの対案は二つの骨子からなる.一つは,NHSの収入源を税金でなく,保険料にすること,もう一つは,NHSの行政を中央から地方自治体に 委譲することである.第一の点も第二の点も,実は目新しいことではなく,1970年代からNHS改革が叫ばれる度に蒸し返されてきた問題である.
現在,NHSの財源は税収である.この点が,同じ国民皆保険制度でも保険料に依存する日本と大きく異なる点である.保険制度の財源を税金にするか, 目的に特化した保険料にするかは一長一短があり,簡単には決められない.税金の場合には,既存の徴収制度をそのまま使えるので徴収コストは増えないが,保 険料を徴収する場合には新たな徴収システムを作らねばならないので,事務量,人件費両面から行政コストが膨大になる.一方,保険料の場合には,用途がはっ きりしているので,負担増が国民に受け入れられやすいという利点がある.実際,日本の介護保険制度を作るときも,財源を税金にするか保険料にするかは最後 まで議論になった.
第二の点も一長一短がある.医療というのはもともと地域に根ざしたものだから,行政サービスは市町村レベルがいいように思える.人口の老齢化率,子
供の数や出生率,生活習慣病の頻度,医療サービスを左右する様々な要素が地域ごとに異なるからだ.しかし,医療サービスの決定権を地域に委譲すれば,医療
サービスに財源をまわせる余裕のある自治体とそうでないところで,必ず地域差が生じる.そもそも国民皆保険制度の精神自体が,機会均等,すなわち,誰で
も,どこでも平等な医療サービスを受けられることであって,地域差とは相反する.Liberal
Democratsの対案も,このような昔からある悩ましい問題の蒸し返しに過ぎない.
医療費抑制による小さな政府,市場原理の導入によるサービスの向上を旗印に,マーガレット・サッチャーは,炭鉱・鉄道・電力といった国営企業をどん どん民営化していった.そのサッチャーさえも,聖域NHSには容易に手をつけられず,侃侃諤諤の議論の末に,NHSの部分的な民営化は,彼女が行なった一 連の国営企業民営化の最後になった.
その結果はどうだったろうか.成果が上がったとはとても言えない.実は医療サービスが商売にならないことを知った民間の参入は期待したほど進まな かった.手術の待機期間は,緊急を要しない手術など,1年以上と,とてつもなく長いままである.市場原理導入に踏み切ってから10年以上たった今日も,問 題点は何ら解決されていない.それが英国人の一般的な印象ではなかろうか.
一方,労働党政権は,徐々にNHSへの税金投入を増やし,手術待機期間や外来の待ち時間の短縮に徐々に成果を上げてきた(4).そして,2002年 に大きな方向転換を行なった.そのきっかけとなったのが,元銀行家のDerek Wanlessによる,いわゆるWanless Reportである.彼は,蔵相からの諮問により,これまでの25年間のNHS財政を分析し,他のEU諸国の平均に比べて,英国のNHSへの投資は 2670億ポンド(日本円にし48兆円!!これは平成12年の日本の国民医療費29兆円の1.5倍以上の額である)も不足していると結論した.
この報告をもとに,労働党政権は2002年以降,NHSへの資金投入を大幅に増やすことに決めた.具体的には,2002年には12兆円の医療費を, 2007年には19兆円に増額する.英国の人口が日本の4割しかないことを考えると,2002年の時点でも,一人当たりの国民医療費は日本と同額である. それを,2007年には,日本の1.6倍に引き上げるというのだ.
その結果,GDPに占める医療費の割合は,7.7%から9.4%にまで上昇する.一方,日本は7.2%で,OECD諸国中最低クラスの19位であ る.ちなみにトップはアメリカの14%.それにドイツの10.3%,フランスの9.3%といったグループが続く.日本は,最低クラスの医療費で世界一の長 寿を誇っているのだから,コストパフォーマンスの良さが世界一とWHOから評価されるのも当然だろう.多くの日本国民はこんな大切なことがわかっていな い.
労働党政権は以上の資金投入により,2008年までに医師を1万5000人,治療士・研究者を3万人,看護師・保健師・助産師を3万5000人増や し,あわせて,全国に総合病院を42,ベッド数を1万床増やすという.
医療サービスへの資金投入には経済学的な裏づけがある.少なくとも,貧しい国では,医療サービスへの資本投下が,貧困を克服する最も有効な方法だと されている(3).この原理が先進国にそのまま当てはまりはしないだろうが,医療費がただ単に消えていくわけではない.国民の健康を向上させ,その結果医 療コストをも引き下げる.その上,人件費が大きな比率を占める医療サービスは雇用を生み出す効果も大である.翻って,こういった単純だが確実な事実を踏ま えた経済論議が全くなされずに,ただただ医療費抑制だけが声高に叫ばれる日本の現状は本当に情けない.
対する保守党が有力な対案を出せずにいることは,医療費抑制・市場原理導入のサッチャー路線が失敗したことを認めたことに他ならない.それでもな お,保守党は,NHSそのものが崩壊すると国民に信じ込ませ,NHSを廃し,全面的に市場原理を導入し,そこに大きなビジネスチャンスが生まれることを望 んでいる(4).
もちろん,労働党政権はただ気前よく金を出すわけではない.当然ながら増税がある.いい医療には金がかかる.金を惜しんで命を落とすか,命を守るた
めに投資するか,二者択一しかないと,率直に国民に選択を迫ったわけだ(4).また,急性病床をふさいでいる高齢者や精神障害者の医療にも変革が及ぼうと
している(1).
98年以来,はしか(麻疹)、おたふくかぜ、風しんの混合ワクチン(MMR三種混合ワクチン)と、自閉症や腸疾患との関連が取りざたされた結果, MMRワクチンの接種率が85%未満に下がった。はしか、おたふくかぜ、風しんは、いずれも脳の障害を始めとして重い合併症を起こす可能性がある。はし か、おたふくかぜ、風しんの急激な発生の増加を防ぐためにはワクチン接種率が95%以上である必要がある。接種率が85%未満は社会的な危機を意味するの で,この問題に対処するため、英国医師会の一部門である「ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル・パブリッシング・グループ」は、英国の健康管理研究企 業「ベイジアン」に最新の研究の分析を依頼した.その結果,ワクチンと病気が関連しているという証拠は見つからなかった.詳しくは,BioNewsの日本語記事を参考にされたい.
このMMR騒動は,98年にAndrew WakefieldがランセットにMMRと自閉症の関係を示唆した論文を発表してから起こった.その後の疫学的なデータはWakefieldらの仮説を支 持していないにもかかわらず,英国の親たちのMMRに対するリスク・ベネフィットのバランス判断の狂いは回復していないし,メディアも,MMRに対する正 しい評価を取り戻す方向に動いていない.2002/2/4のBBCの番組“Panorama”は,結果的にMMRに対する誤解を拡大し,MMRパニックに 火をつけるだけに終わった.
ごく一部の限られたケースでは,麻疹ウイルス感染と自閉症・腸疾患は関係あるのかもしれない.しかし,だからといって,MMRを受けずに,麻疹、お たふくかぜ、風しんによる重い合併症のため,命を落としたり,重い後遺障害を残すリスク(こちらのリスクの方がはるかに大きい)に自分の子供を晒しつづけ るという態度は明らかに間違っている.
Editorial: Time to look beyond MMR in autism research. Lancet 2002;359:637.
UK Government tries to control MMR panic. Lanct 2002;359:590.
2年前からNHSのfundを増やして以来,NHSの問題は資金ではなくベッド数capacity,だと,政府はおまじないのように唱えつづけてい る.おまけに新年度予算から,更にNHS予算を増やすため増税さえ予定されている.
増えつづける待機者数,待機期間は野党の格好の攻撃材料になっており,政府は頭を痛めているが,その原因は,residential & nursing home(日本で言う特別養護老人ホーム,介護老人保健施設や療養型病床群の類)へ退院できないで,急性期病院のベッドを塞ぎつづけている高齢者が原因で ある.(このあたりの事情は日本も似たような面がある.いわゆる高齢者の社会的入院である)
nursing homeが不足しているのだ.この不足の原因は,nursing homeに対する規制の強化や地方自治体による十分な資金援助が行なわれないためである.つまり商売にならないので,nursing homeをやめて,土地や建物を不動産業者・デベロッパーに売り払ってしまう経営者が続出している.
この問題を解決するため,nursing homeにより予算を投下するとか,急性期病院に対して,長期入院により不利なように誘導策を講ずるとか,はたまた,待機患者をドイツやフランスに輸出し
てさばくとか,いろいろな策が考えられている.
UKでは,一部の看護師が,一部の薬に限って処方箋を出すことができる.(nurse prescription).これを拡大する方針が,厚生副大臣のAlan Milburnによって4月24日に明らかにされた.当然のことながら,英国医師会はこの方針に反対した.ランセットの編集長は,その是非を論じている.
nurse prescriptionの長所は,医師不足,不在の状況を補強できる.実際,簡単な手術の場合,病院に手術にだけ来て,術後はさっさと帰ってしまう医者 がUKにはたくさんいる.その術後患者の鎮痛薬を処方するのにも,わざわざ院外にいる医者に電話をかけて確認しなければならないようなケースがUKではま まある.また,医者より患者と接する時間の長い看護師が処方すれば,看護師の方がより適切な処方をする,特に薬を止める場合に適切な判断ができる可能性が ある.(つまり薬をだらだら続けないで済むようになるかもしれない)
一方,医療過誤で一番多いのは処方箋に関する過誤である.現行では,看護師に対して処方の裏づけとなる薬理学や臨床医学の教育を確保するシステムが
できていないので,看護師の処方権限を拡大すれば,処方事故のリスクが増す.言い換えれば,医者が処方するリスクを看護師に押し付けるだけである.