有害事象・副作用データの集積と統合

McPherson K, Hemminki E.Synthesising licensing data to assess drug safety.BMJ. 2004 Feb 28;328(7438):518-20.

Small randomised trials conducted for licensing purposes should record data on adverse results and be made publicと題して,HRT(ホルモン補充療法)と冠状動脈性心疾患のリスクを例にとり,問題点と教訓を検証し、より迅速に副作用を明らかにするために、承認申請時の臨床試験データを規制当局が公開するように迫っている。

観察研究および試験では,estrogenおよびprogesterone製剤は,閉経期女性の閉経期の症状と同様に冠状動脈性心疾患への有効性も示唆されていた。例えば,12万人の女性を30年間追跡調査したNurse’s Health Study(N Engl J Med 1997;336:1769-75)では,HRTを用いたことのない女性に比べてHRTで治療の女性では,年齢で補正した冠状動脈性心疾患に対する相対リスクが0.47(95% CI=0.32?0.69)であった。一般的にこのような結果が行きわたり,承認された適応症は閉経期の症状の治療と骨粗鬆症の予防であるにもかかわらず,冠状動脈性心疾患の予防への利用が広まっていった。

一方,最近実施された大規模無作為化試験である米国WHI(Women's Health Initiative)試験では,心臓発作,乳癌,卒中発作のリスク増加が示され,2002年には試験が中断された。同様に英国Million Womenスタディも中断されたのは,皆さんよくご存知の通り。しかし,リスクに関して,それまであったエビデンスをもっと有効に活用していれば,WHIのような試験を行わずとも,HRTのリスクを正しく評価できた可能性があると著者らは主張している.

未公表のものも含めて承認用等の小規模臨床試験を分析したところ,冠状動脈性心疾患に対する相対リスクは1.78に上昇,観察研究と無作為化試験では異なる結果が示された。この解離の原因として,いくつかのバイアス,選別におけるバイアス,コンプライアンスバイアスおよび公表バイアス等が考えられるが、HRTの観察研究での冠状動脈性心疾患では特にコンプライアンスバイアスが影響しているように思われる。
良好に実施された小規模臨床試験の全てのデータを系統的に統合していれば,ずっと早期に,1997年以前に,HRTの冠状動脈性リスクの可能性が判明していたであろう。少なくとも200の試験が実施されていたが,有害事象を完全に報告したものは稀で,多くは公表されなかった。監督機関は医薬品製造者に,因果関係の有無にかかわらず全ての有害事象の記録をとり,その結果を公表することを要求すべきである。

一品目についてたかだか数百例の臨床試験では副作用は明らかにはならないが、それを公開し有害事象データを集積し、統合することによって、ホルモン補充療法の時のような遅れを少なくしていこうという趣旨です。ごもっともですが、日本では,1.企業側の抵抗と、2.有害事象データの集積/合成というのは、一体誰が責任をもってやるのか という2点が大きな障壁です。勇ましいことをおっしゃる方々が,厚労省なんぞには任せておけないとばかりに,この仕事を請け負ってくれればこんなありがたいことはないのですが。

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