医系と薬系

FDAにいる日本人医師とのやりとりから:

PMDA医系薬系の間にある葛藤の根本には,医療関連業務を何でもこなしてしま
う日本の伝統的医師像,ひいては分業に対する日本の文化的背景があると考えていま
す.

日本では,医師は,放射線科技師の業務や,処方箋(実は自分が書いたものに限られ
るのですが,実際には他の医師が書いたものもやってしまっている)の調剤業務もで
きると法で規定され,実際に医者が何でもやってしまいます.開業医が胸部X線を撮
影するなんて朝飯前,自分でMRI/CTの機械を操作・撮影できない脳神経外科医は日本
では馬鹿にされますし,当直時間帯に,医師がしばしば薬局に入って,救急患者のた
めに薬袋に錠剤を入れたり,点滴のボトルやバイアルを取り出して病棟に運んだりさ
えします.日本の医療費が安くて済むはずです.胸部X線の読影を担当するのが呼吸
器内科医ではなく,放射線科医であると規定されていたり,神経内科医ではなく,
nurse practitionerが神経学的所見をとって,それをふまえて神経内科医が診断する
のが当たり前の合衆国では考えられないことでしょう.

日本の審査はその裏返しです.かつて、東京都心は神谷町の無医村で,産婆と置き薬
で何とかしてきた.どうしても医者が必要なときは外部委員に助言を求めて間に合っ
ていた.その結果,たとえ臨床部分であっても,審査報告書を書くのは,医師でなく
てもできるようになった.審査センター発足以来,我々はそうやってきたという自負
が薬系にあります.

薬系は,臨床試験のことを何も知らない医者が入れ替わり立ち代わり入ってきて,
せっかく育ててやって,ようやく使い物になるかと思ったら,またすぐ臨床へ戻って
いってしまうと不満に思っています.一方,臨床医は,臨床現場を離れて懸命に審査
を勉強して一人前になっても,PMDAの中でMDのキャリアパスが全く
見えないことを大いに不満に思っています.

無医村で苦労してきたPMDA村に,お医者さんが来てくれたはいいが,みんな,来た当
初は村の事情がわからず右往左往.ようやく慣れたと思ったら,すぐ交代になって,
また一から育てなおし.さもなければ、この無医村に腰を据えるんだから,それにふ
さわしく待遇を改善しろと要求する医者が残る構図です.

日本の医師のほとんどは,臨床試験の何たるかを習ったこともないのに,いまだ
に,”治験なんて単純で低俗な仕事.臨床医なら,その気になれば誰でもできる”と
いう拙い理解しか持ち合わせていません.その結果,臨床試験のプロトコールやデー
タを吟味する能力の点で、PMDA薬系と同等の実力を持った日本人医師は,そのPMDA薬
系に審査を習ったPMDEC・PMDAのOB/OG医師にほぼ限られている。この皮肉な現状は、
この先もまだまだ続くでしょう.

私自身は,PMDA村でたくさんのことを学んできましたし,個々の村民とも良好な関係
を築いてきたつもりです.この財産を生かしつつ、PMDAの外で、full time
committmentではないにせよ、引き続きこの分野に関与していければと思っていま
す。

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