下肢静脈血栓塞栓症の臨床試験
Dabigatran etexilate versus enoxaparin for prevention of venous thromboembolism
after total hip replacement: a randomised, double-blind, non-inferiority
trial. Lancet 2007; 370:949-956
Comment Trials of venous thromboembolism prevention. Lancet 2007; 370:915-917
下肢静脈血栓塞栓症の臨床試験は悩ましい問題をいくつも抱えている.ここで取り上げた新規抗凝固薬のダビガトランの股関節置換術における下肢静脈血栓塞栓症の予防を検討した試験結果と,それに対するコメントを読んでも,下記の問題は容易に解決しないことが改めてわかる.
いつもながらの人種差の問題(決して解決したわけではない.日本人にとってはいつも悩みの種である)
下肢静脈血栓塞栓症,肺血栓塞栓症の発生頻度の人種差
止血血栓系の人種差と,それに伴う治療薬の用量反応性の人種差
対象疾患をどこまで細分化して試験をやるか・承認申請を別々にするのか:
整形外科(股関節・膝関節,その他の整形外科手術)
腹部外科(婦人科,ハイリスク妊娠,消化器,癌か癌でないか)
内科疾患(癌,精神科入院,心不全,脳梗塞急性期・・・・)
有効性評価指標項目
静脈造影でなければだめなのか?超音波で代用できないか?:上記コメントを読むと,欧州規制当局の新たなガイダンスでは,下肢静脈造影は必須ではなく、超音波でもOKとなった.
その背景には、下肢静脈造影は、検査データが非常に取りにくいことがあるようだ。実際、上記ダビガトランの試験でも、何と割り付けされた例の三分の一でデータ欠測となっている。
安全性評価(とくに出血)
大出血はだいたい肺塞栓と同じ頻度(2%)で起こるから、頻度が低いだけに、対照薬との差の有無を見るためには、膨大な症例数を必要とする。だからといって、わかりませんとか、有効性を見る試験だけで差がなかったとか済ませるわけにはいかないだろう。特に実薬対照非劣性を検証する試験の場合には、有効性だけでは新たに有用な薬と主張できないわけだから、何らかの形で安全製面で優れていることを主張できなければならないだろう。
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