救急医療クイズ

あなたは次の新聞記事を見て何を思うだろうか?

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救命救急4施設「実績が不十分」、厚労省調査 (2003/1/16付:日本経済新聞)

全国に160ある救命救急センターのうち、四施設が「診療体制や患者の受け入れ実績が十分でない」として「B」評価だったことが15日、厚生労働省が今年度に行った調査で分かった。残り156施設は基準を満たし「A」評価だった。
評価は1999年度から実施。当直医師や空きベッドの数や、救急車で搬送中の救急救命士に対する指示体制など点数化して評価する。
評価対象は昨年度の診療体制で、「B」だったのは市立釧路総合病院(北海道)、県立中央病院(青森県)、長岡赤十字病院(新潟県)、公立豊岡病院但馬救急センター(兵庫県)。国立病院や私立病院はすべて「A」だった。
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これらの4施設は不備を放置してけしからんと思うだろうか?こんな病院にはかかりたくないと思うだろうか?それならそれで結構だが,もしもあなたが,そういう義憤(というより,滑稽な独り善がり)を振り回すだけで,疑問を持つ,考えるということをしない人々と同類ならば,医療サービスに対するあなたの目は節穴だし,あなたのような人間が多数派を占める限り,日本の医療サービスは決してよくならないだろう.

この4つの病院が,なぜこんな不名誉を受けるようになったのか,そういう疑問を持てないのなら,以下は読むべきではないし,今後,私のホームページに来る意味もない.

これら4施設には紛れもない共通点がある.その県の医科大学のある都市から,同一県内にありながらも遠く離れた中核都市という点である.このような都市では,医療サービスの需要が多い,したがって救急の必要度が非常に高いのに,医者が来てくれない.しかし,病院の関係者が,ただ怠惰あるいは無責任ゆえに,この不名誉を受けたのではない.その証拠に,これらの病院の医者の給料は,大学病院の2倍をはるかに超えるだろうし,ただ同然で使える広くて快適な宿舎も用意されている.

医者が来たがらないのには理由がある.独身の研修医ならいざしらず,超多忙のキャリアを重ねて,家庭も築き上げた医者が,おいそれと転勤などできるわけがない.子供に転校を強いると同時に,配偶者がせっかく確保した仕事場を捨てろと言えば,家庭はたちまち崩壊するだろう.誰も行きたがらないから,義侠心を発揮して赴任したとしても,後任の当ては全くない.1−2年の単身赴任を我慢すればというわけにもいかない.

医療過疎というのは,何も山奥の僻地ばかりではない.医療サービスの需要と供給のアンバランスによって,数十万の都市でも医療過疎がありうるのだ.上記4施設は,地方の中核都市でありながら,いずれも日本の代表的な医療過疎地域にある,中核病院である.

では,このような医療過疎が生じるのは,誰が悪いのだろうか?厚労省が悪いのだろうか?もしもあなたがそう思うのなら,厚労省はどうすべきなのだろうか?そういう疑問を持ち,考える姿勢が,行政サービスのユーザーたるあなたになければ,行政が改善されるはずもなく,医療サービスもいつまでたっても現状のままということになる.でも,あまり意地悪をしないで,少しヒントをあげよう.→過剰=不足その2
 

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