以前,日本で,なぜ,医者が足りないかを説明した.非常に単純に,人口あたりの医師数を外国と比較するような小学生の算数から一歩も出ていないやり方で役人が計算したから,こういうことになったわけだ.日本が国民皆保険であり,日本全国,どの医療機関にかかろうとも全くの自由で,安い料金で良質な医療を受けられるという最も重要な条件を忘れた,あるいは故意に無視して,医療サービスの需要判断を完全に間違えた.
日本の医療サービスのコストパフォーマンスは世界一のお墨付きをWHOから受けている.それだけ敷居が低いから,国民は気軽に医療機関にかかれる.その結果,日本の医者は,1時間で20人というカミカゼ3分診療を強いられている.それもこれも需要が多すぎて医者が足りないからだ.
一方,太平洋側の向こうでは,6人に一人が無保険者.おまけに民間の保険会社が診療を厳しく査定しているから,患者と医者の両方に診療抑制の強力な動機付けが起きる.例えば,胆石が心配だけれども,自分が入っている保険では,内視鏡による胆嚢摘出術はできないから,医者にかかるのは止めておこうと患者が考えるか,この患者の保険では,内視鏡による胆嚢摘出術はカバーできないから,手術はもちろんのこと,胆嚢の超音波検査もやめておこうと医者が考えるようになる.
そうなれば医者が暇になる.余る.仕事がなくなる.背に腹は替えられないから,仕事を求めて,家族揃って移住するということになり,僻地にも医者が行かざるを得ないようになる.
そこで,役人は考えた.医者の数はすぐには増やせない.おまけに国民皆保険の看板もすぐには降ろせない.だったら,患者に対しては,敷居(自己負担)を高くして,受診抑制に誘導し,医者に対しては,診療報酬や薬価を下げて診療抑制に誘導するしかない.この政策が奏効した暁には,3時間待ちの3分診療どころか,閑古鳥が鳴くぐらいの余裕ある外来が実現できるし,仕事にあぶれた医者が職を求めて僻地に赴く理想郷が実現するだろうと.