2007年12月1-2日,高松公演



> ●一方的なレクチャーだけでなくフリーディスカッションや患者さんの診察などとても勉強になりました
今回は,高松空港から香川大学医学部へ向かうタクシーの中で,初冬の讃岐の風景を眺めながら浮かんだ疑問が新しい課題になりました.
「公演本番は眠くなる人が出るのに,懇親会の議論で眠る人はいない.どうしてだろう?懇親会でやるように,公演本番でも話をすれば,もっと興味を持って聴いてもらえるのではないか?では懇親会での議論の特徴は何か?公演本番とどこが違うのか?それは演者がパワーポイントを使わず、即興で話をしてそこから全員参加で議論が発展することだろう。公演本番でも、患者さんの問診・診察の時に眠る人はいない。あの時も、横井先生が言うように、ジャズの即興演奏と同じでぶっつけ本番で、展開から目が離せないから、眠くならないのだろう」そう思って、公演の多くの部分は、即興となりました。

> ●症例の話がとてもおもしろかった。特に頭痛の鑑別で椎骨動脈解離がでてくるとは思ってもいなかったので。
私も出てくるとは思わなかったのですが、私が週に一度お世話になっている東埼玉病院の抄読会で、以前、NEJMの総説を紹介した時にパワーポイントでまとめてあったのが役に立ちました。即興の時こそ、普段の地道な勉強が役立つのだなと思った次第です。

即興ゆえに、ふだんの公演ではあまり使わないいろいろなキーワードが出てきました。当日その場にいらっしゃらなかった方のためにちょっと解説を:

●「5つ考えなさい」:マッキンゼー出身の著明なコンサルタント横山禎徳さんの授業を受けたとき、思考停止に陥らない道具として印象に残った言葉です。原因や対策を求められた時、3つまでは誰でも考えつくが、誰でもできるレベルでは思考停止も同然という意味です。

●人間生物学云々:20世紀までの医学教育は専らヒト生物学ばかりやってきたけれども、ヒト生物学自体の効率性が甚だしく低下してきました.一方、現場に出てすぐに使わなければならないアイテム(コミュニケーション、面接、プレゼンテーション、行動科学、心理学、社会学、経済学)の使い方がもっぱら卒後のon the job trainingに任されている現状を改善し、これらのアイテム使用法の教育を卒前にシフトさせる必要がありますが、多くの大学で経営のことを厳しく言われて教育に力を入れる余裕が全くない現状下で、これらのアイテム使用法の卒前教育を大学外に求める動きが活発化しています。

●手段の目的化:このキーワードは、日常生活やキャリアパスにしばしば待ちかまえる落とし穴を避けるために有用ですが、臨床現場でも大いに役立ちます。たとえば、手段=代用エンドポイント、目的=ハードエンドポイントと考えると、臨床試験結果の吟味の際にも使えるといった具合です。

●世界征服:意識障害の診断における血圧の意義のように、アルゼンチンでも、パキスタンでも、ジンバブエでも使ってもらえる単純、頑健、無料の道具を考案して世界中で使ってもらうという意味です。→世界征服のヒント
 

●win-winの関係:世の中には、認知の歪みを材料にしてゼロサムゲームを構築し、お互いにいがみ合っている関係がたくさんある。その認知の歪みを正せば、win-winの関係を作ることは簡単であり、win-winの関係はゼロサムゲームよりもずっと楽しいから、ゼロサムゲームよりも実は継続可能性が高い。

●定番の即興「初診外来」再現および「大盤解説」は今回も、私にとってとても印象深いものでした。患者さんは私の家族ではもちろんなかったのですが,予後不良な疾患の診断の際の私の心の動揺をそのまま,若い人たちの目の前で見てもらえたからです.次の機会には,学生さんの提案にもありましたが、他の道場でやっているように,学生・研修医にも問診・診察をやってもらって,私の問診・診察を比べてもいいでしょう.どちらが上手いとか下手とかではなく,お互いに学ぶことがあって、それで私も伸びてきたので.

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