22 世紀の医療


背が高くてハンサムな医学生は外科を志し、容貌の冴えない医学生は内科を志すという、一見冗談みたいなBMJの論文を紹介してくれた生物統計学者への返事.一般社会で唯物論は100年以上にわたってもてはやされたが,医学における分子生物学の人気は,ワトソン・クリックの論文からヒトゲノム解読までの50年に過ぎなかったということだ.

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実はこれ、結構深遠な問題でね。これからの医学の方向性に関わる問題なの。今は誰も冗談みたいにしか考えていないけど。

19世紀以降、おそらく産業革命の波及効果で、狭義のヒト生物学が、医学のアウトカムに対して大きな影響を与えた。結核菌・梅毒スピロヘータの発見、あるいは脚気の原因解明をしていた時代は、アウトカムに対する生物学的医学の影響効率はよかった。何しろ、ナポレオンのモスクワ遠征の敗因は、冬将軍だけでなく、発疹チフスとの合わせ技だったり、、それから100年後の日露戦争でも、脚気による戦線離脱が戦死者数よりも多かったりした時代だったからね。治療法を探すのも、犬も歩けば棒に当たるの時代だったのさ。

でも、20世紀後半から、その効率低下がひどくなった。もうネタ切れなんだよ。薬屋のパイプラインにろくでもないやつしか残っていないのは、時代の流れなんだ。そういう時代に臨床のアウトカムを改善しようとすれば、狭義のヒト生物学から、診療に携わる人間の心理や行動の問題にパラダイムシフトが起きる。アルツハイマー病患者のQOLの改善のためには、遺伝子の解明よりも、介護者による虐待の低減を研究した方が、効率的だろ。

すでに、コクランのアクセスの第一位は、高齢者の骨折予防のシステマティックレビューになっている。この問題一つとっても、患者に対する介入を検討するだけでは不十分で、診療に関わる人々の行動や心理も吟味の対象にしなければならない。

だから、まず観察研究として、それぞれの診療科にどういう資質の人間が行くか、それはなぜかという考察は、重要な論文なわけよ。今、世間がぎゃあぎゃあ言っている、”医師の偏在”問題だって、心理学、行動科学の面から検討すれば、立派な論文になるわな。あたしは、22世紀の医学は、狭義のヒト生物学ではなくて、行動科学、心理学が中心になると思っている。21世紀はその転換期ね。
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