嘱託医の苦悩

これは私の働いていた施設の話ではないのだが,同様の問題は,この種の施設のどこでも起こりうるので,報告する.

ある児童保護施設(両親が蒸発してしまったとか,事故で亡くなって引き取り手がいない児童が入所している)で,嘱託医がインフルエンザの予防接種をしようと考えたが,次のような様々な問題に突き当たった.

1.誰が費用を負担するのか?
2.保護者への連絡:親がいなくなって遠い親戚が保護者になっていて,名義だけ保護者で一度も面会に来ないばかりか,電話さえ通じないなんて場合もざら
3.役所が動かない:前例がないといって動こうとしない.

業を煮やした当の嘱託医は,義侠心から役所に脅かしをかけ(インフルエンザ脳症で死人が出たらあんたに責任をとってもらうよ)て動かす一方,保護者に精力的に連絡をつけて,了解をとり,インフルエンザ予防接種への道を開いたという.頬被りすればそれで済むものを,ここまで動いたのは殊勲甲である.そんな良心的な嘱託医の方から,次のようなお問い合わせをいただいた.

問:感染症児 たとえばAIDS 肝炎感染児童の施設の受け入れについて ご教示いただけましたら幸いです。 

回答:私がおりました重度精神遅滞者の施設では,感染症のあるなしで,受け入れや処遇に特別な扱いは,本人に対してはしておりません.これは,standard precaution(誰がどんな感染症を持っているかわからないという立場で,特定の感染症を持っている人だけを特別いしない)というより,施設の本質は病院ではなく,生活の場であるとの我々の信念ゆえです.ですから,日常生活では,相手が誰であろうと,月経血の処理と,歯ブラシ,かみそりの共有はしない点だけ気をつければいいとしておりました.

問:今回,インフルエンザは何とかできましたが,麻疹の予防接種等はどうしたらよろしいでしょうか?

回答:この種の施設の入所者は,保護者の怠慢や,逆に保護者,あるいは医療従事者の不必要な懸念(脳性麻痺の患児には予防接種してはいけないのではないか)のために,予防接種を行っていない例が多いのです.また,しばしば保護者が親ではないため,予防接種歴自体が不明なことも多いのです.これも嘱託医の悩みの種です.

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