効能追加とは何なのか?
一口に「効能追加」と言っても様々なものがある。
●明らかに効能追加に相当するのに,わざわざ申請しなくても元々の効能で薬はそのまま売れるので企業は敢えて追加効能を申請しない=添付文書上には反映されないものもある。
●同種同効で副作用が少ないなどの理由で見捨てられた薬でもまるきり新しい効能効果が発見されて再び脚光を浴びる(リポジショニング)。
●適応外使用が長年続いている品目・効能効果に対し支払基金が公式に支払いを認める(審査情報提供事例),(いわゆる55年通知の概要と課題

以下一応時系列で事例(注意:網羅的ではありませんし,時系列なので開発過程は雑多です)

ミノキシジル:日本では1979年降圧剤として承認。その後副作用として多毛が認められたため,発毛剤として開発が進められ、日本では一般用医薬品として大正製薬が開発を行い1999年からミノキシジル成分1%の「リアップ」として発売した。

アスピリン(1897年バイエルが合成に成功し1899年に発売)。100年後に下記の効能追加(審査報告書の日付は2000年7月24日)
○ 下記疾患における血栓・塞栓形成の抑制
狭心症(慢性安定狭心症、不安定狭心症)、心筋梗塞、虚血性脳血管障害(一過性脳虚血発作(TIA)、脳梗塞)
○ 冠動脈バイパス術(CABG)あるいは経皮経管冠動脈形成術(PTCA)施行後における血栓・塞栓形成の抑制

サリドマイド:1957年 コンテルガン発売。2008年10月 多発性骨髄腫の効能効果で承認(【厚労省】サリドマイドを承認 薬事日報

メトホルミンの心血管イベント抑制効果がpleiotropic effectsとして意識されないのはなぜか?また、その添付文書上での扱いはどうなっているか?
スタチンなんぞよりはるか以前、UKPDS34 [Lancet 1998; 352: 854-865] の段階でメトホルミンとグリベンクラミドのhead to headで、血糖コントロールが同じなのに、心血管イベントに明確な差がついていた。これはpleiotropic effects以外の何物でもない。では添付文書上での扱いはどうなっているか?
日本メトグルコの添付文書の「17. 臨床成績」の部分には、(当然ながら)承認申請にあたって改めて行われた国内臨床試験成績のみ記載

米国Glucophageの添付文書の14 CLINICAL STUDIESには日本と同様、血糖降下をエンドポイントとして行われた国内臨床試験成績のみ記載。なお、5.4 Macrovascular Outcomesには、There have been no clinical studies establishing conclusive evidence of macrovascular risk reduction with GLUCOPHAGE/GLUCOPHAGE XR.として、UKPDS 34には全く触れていない。承認申請資料ではないのだから、当たり前なのだが。
なお、米国糖尿病学会はメトホルミンが嫌いなようだ。→米国糖尿病学会が「糖尿病標準治療2022」発表 「第一選択薬はメトホルミン」の推奨消える

英国Glucophageの添付文書の4.1 Therapeutic indicationsに は、Treatment of type 2 diabetes mellitus, particularly in overweight patients, when dietary management and exercise alone does not result in adequate glycaemic control. A reduction of diabetic complications has been shown in overweight type 2 diabetic adult patients treated with metformin as first-line therapy after diet failure. とあり、それに加えて、A reduction of diabetic complications has been shown in overweight type 2 diabetic adult patients treated with metformin as first-line therapy after diet failure (see section 5.1). さらにその5.1 Pharmacodynamic propertiesを見ると、Clinical efficacy. The prospective randomised study (UKPDS) has established the long-term benefit of intensive blood glucose control in adult patients with type 2 diabetes. という文章に続いて、UKPDS 34の結果が4項目にわたって明記されている。

エンレスト実は一本の独立した試験ではHFpEFに対する有効性は認められていない。そのためEMAではHFpEFへの効能効果は承認していないし,日本も認めているわけではない。効能効果にあるのはあくまで病名としての「慢性心不全」であり,駆出率に関わりなく包括的に承認しているわけではない。それが何より証拠には,効能又は効果に関連する注意喚起で適応患者の選択を明らかにしている。
-2014/9/11 PARADIGM-HF試験(組み入れはHFrEFのみで、EF≦40%2010年のプロトコール改訂後は≦35%)
-2015/7/7 FDA承認。効能効果は試験結果通りにHFrEF限定:chronic heart failure (NYHA Class II-IV) and reduced ejection fraction
-2019/10/21 PARADIGM-HFと同様、EF 35%以下を対象にした国内試験PARALLEL-HF ではエナラプリルとの有意差示せず。
-2019/10/24 その3日後NEJM掲載のPARAGON-HFでもHFpEFに有効性を示せず(ネプリライシン阻害薬、HFpEFに有効性示せず サクビトリル/バルサルタンを評価したPARAGON-HF試験の結果 日経メディカル 2019/09/06
-2020/6/29 日本での心不全の承認は始めから「慢性心不全」(駆出率に関しては触れず)←CVOTs同様に日本の「病名」効能効果の本領発揮(Br J Clin Pharmacol 2021;87:3938-3948)ただし,効能効果の後の注意喚起では下記のようにしっかり手当はしている。

5. 効能又は効果に関連する注意〈慢性心不全〉
5.2 「臨床成績」の項の内容を熟知し、臨床試験に組み入れられた患者の背景(前治療、左室駆出率、収縮期血圧等)を十分に理解した上で、適応患者を選択すること。[17.1.1参照],[17.1.2 参照]

PARAGON-HF試験結果についての以後の経過は不明
怪しげな統合解析の記事:心不全患者のLVEFによるARNIの効果: PARADIGM-HF試験、PARAGON-HF試験統合解析
ノバルティスの報道発表:ノバルティスのLCZ696、PARAGON-HF試験において左室駆出率(LVEF)の低下した心不全(HFrEF)以外でもベネフィットを示す(2019/11/25)
-2021/2/16 FDA HFpEFにいろいろ条件をつけて(?)承認→改訂添付文書参照のこと
一方,EMAはラベルを変えていない=HFpEFには効能効果を認めていない→Entresto SmPC
4.1 Therapeutic indications Entresto is indicated in adult patients for treatment of symptomatic chronic heart failure with reduced ejection fraction

●SGLT2の心不全/慢性腎臓病への効能追加:始めは糖尿病限定→次に耐糖能障害の有無にかかわらずでそれぞれ臨床試験をやっている(ようです)。括弧 をつけたのは全部確認したわけではないから(そこまで暇が無い)。これはどれも国際共同で始めからやっているから日本でもすんなり行っている(ようで す)。括弧をつけたのは全部確認したわけではないから(そこまで暇が無い)

中途半端ですが,時間の制約があるのでまずはこの辺で。

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