すでに起こった未来
ー製薬企業と医師の関係の場合ー
医薬品会社が会議に出席するために医師にお金を払い、講演料を受け取った医師の話を聞いてもらう時代は終わりに近づいていると言う。「飛行機での喫煙みたいなものになる。人々は過去を振り返り、『我々は本当に以前そんなことをしていたのか?』と問うようになるだろう」
歴史に残る子供だましが、すでに過去の遺物になったと考えないと、時代に取り残される時代になった。
--------------------------------------------
[FT]GSK、医師へ報酬を廃止 中国での贈賄疑惑受け Finantical Times 2016/1/12
英製薬大手グラクソ・スミスクライン(GSK)は、自社製品の販売促進のために医師に金銭を支払うのをやめる最初の大手製薬会社になった。医療専門家との利益相反を巡って医薬業界に対する圧力が強まっていることに対応したものだ。
GSKは、医療セミナーで自社を代表してプレゼンテーションを行ってもらうための医師への報酬を世界的にやめる。まだ日常的にベテラン医師を雇い、医薬品ブランドについて同業の医師を教育してもらっているライバル企業と一線を画した格好だ。
GSKの中国現地法人の贈賄疑惑で、同社は2014年、史上最も高い罰金を払うことになった=ロイター
この新たな方針は2年間の計画立案を経て1月初めに発効した。中国での汚職スキャンダルでダメージを受け、不正な販促について米国で30億ドルという史上最高の和解金を支払った後、同社が汚名をそそぐために講じた最新の対策になる。
■講演を担う医師、社員で構成
GSKは、医薬品業界に対する一般市民の信頼を損ねた医療専門家との金銭的なつながりを一部絶つという点で、他社もいずれ自分たちの先例に倣うことを余儀なくされると予想する。
他の医薬品メーカーは引き続き、医療会合――国際会議から地域のセミナーまで幅広い――で自社製品について話してもらうために医師に金銭を支払うことは、最新の治療法について知識を共有する合法的な手段だと主張している。
だが、GSKの最高医療責任者を務めるマリー・スチュワート氏は、このような形で支払いを受けている医師はますます、社会から「雇われガンマン」と見られるようになっていると指摘。利益相反を避ける最善の方法は、メーカーの従業員がプレゼンを行うことだと言う。
GSKは、従来外部の医師が行っていた講演の仕事を担う社内チームを築いている。昨年はこの目的で、ワクチンと呼吸器疾患の世界的権威数人を含め、150人以上の医師を採用した。同社はまた、講演要員を増やすために、すでに社内に抱えていた1000人の医師の一部を訓練している。
GSKは今後も販促のためにこうした医師を活用するが、彼らが例外なく会社の従業員であるという事実がプロセスを透明化させると考えている。批判的な向きは長年、医療行為を実践する医師への製薬会社からの金銭の支払いは、治療に関する当該医師の決断に影響を及ぼす恐れがあると主張してきた。
ワシントンにあるジョージタウン大学の薬理学助教授で、医薬品マーケティングの透明性向上に取り組む活動家でもあるエイドリアン・フー・バーマン氏は、GSKの改革は個々の医師にとっての利益相反を取り除くが、医師全般に対する業界の影響力という大きな問題は取り除かないとし、「私としては、会社が医療教育から完全に手を引いた方がずっと感心した」と言う。
講演料は、本業の収入に加え、医師が医薬品業界から金銭の支払いを受ける方法の一つだ。GSKが今後も継続するその他の報酬には、研究と臨床試験に対する支払いなどがある。
■欧州でも始まる金額情報開示
米国では2013年以降、「サンシャイン条項」と呼ばれる法の下で、医薬品メーカーと医療機器メーカーからの医師に対する金銭の支払いはすべて、毎年開示されなければならない。
直近のデータである14年の情報開示では、60万人以上の医師に対して64億9000万ドルが支払われた。GSKは2億1300万ドル(大半が研究開発活動のための報酬)で、最も支払う金額が大きい会社に数えられた。同じような開示制度が今年、欧州で開始される予定だ。
医師に対する講演料の廃止は、倫理的な懸念に応じたGSKのマーケティング慣行の全面見直しにおける最新の対策だ。同社は医薬品営業担当者の販売数量と報酬を連動させることも廃止した。従業員がボーナスを増やすために違法なマーケティング慣行に手を染めるのを減らすためだ。
GSKにとって、一連の改革はリスクを伴う。折しも販売が落ち込んだ後で業績を回復させようと奮闘しているときに、十分に試された手法を廃止することになるからだ。懐疑的な向きは、米国と中国の検察当局との手痛い衝突の後、やり方を変えるしか選択肢はなかったと言うだろう。
GSKは12年、未承認の用途のために医薬品を処方するよう医師を促す「コンサルティング料や高額な食事、週末の無駄な仕事、豪華な接待を装った現金の支払い」を行ったとの疑いを解決するために、米司法省に30億ドルの和解金を支払った。この事態を一段と悪化させたのが、中国で医師を買収した罪で14年に30億元(4億8800万ドル)の罰金刑を科されたことだ。中国のスキャンダルについては、GSKはまだ今後、米国と英国の当局からさらに処罰される可能性がある。
講演料は中国の医師に賄賂を払うために使われた偽装手段の一つで、GSKは、講演料の廃止は将来の汚職の可能性を減らすと話している。
GSKはまた、開催する医療セミナーの数を徐々に減らしている。こうしたセミナーもまた、過去に医師に対する疑わしい接待と旅費の支払いが行われた方法だった。GSKはその代わり、ウェブキャストを通じた医師との対話を増やしている。昨年、およそ40万人の医療従事者がGSKの専門家が主催した「ウェビナー」に参加した。
GSKの呼吸器内科代表のニール・バーンズ氏は、医薬品会社が会議に出席するために医師にお金を払い、講演料を受け取った医師の話を聞いてもらう時代は終わりに近づいていると言う。「飛行機での喫煙みたいなものになる。人々は過去を振り返り、『我々は本当に以前そんなことをしていたのか?』と問うようになるだろう」
--------------------------------------------
→二条河原へ戻る
→Regulatory Literacyとは?へ戻る