ドラッグラグの根本原理

ドラッグラグ短縮の議論は全てが無駄です.なぜなら,根本的に誤った仮説に基づいて議論が進められているからです.ドラッグラグ短縮の議論に意味があるとしたら,公共事業と同様,ドラッグラグ短縮の錦の御旗の下に行われる数々の行事によって,お金が循環することにしかありません.

ドラッグラグ短縮の議論は,下記のような二大思考停止・誤った仮説に基づいて進められています.

1.全てのドラッグラグは悪である:ドラッグラグの意義・有用性について議論し,そういう側面を生かすためにはどうしたらいいかという議論を聞いたことがありません.

2.ドラッグラグは,特定の集団に属する人々(規制当局と開発企業)に責任がある.

しかし,誰もが上記の二つの誤った仮説を完全に信じているのならば,規制当局と開発企業を集団を潰せばいいだけです.でも,誰一人としてそう主張しない.つまり,仮説1も2も,誰も本気で信じていないわけです.実は,誰もが(少なくともこんなところを読んでいるようなあなたは)下記のように思っています.

1.全てのドラッグラグは悪なんて馬鹿げている.ロフェコキシブの例を引くまでもなく,承認を遅らせることによって,厚労省はたくさんの日本国民の命を救ってきた.それに,ドラッグラグは企業の合理的な判断によって生じている.だって,海外での開発失敗を見極めてから,会社にとっても被験者にとっても審査当局にとっても現場の医師にとっても患者にとっても,安全性の高い開発をしようと思って仕事をしているのだから.そしてそれが最終的・長期的には会社の利益になると信じるからこそ,開発を遅らせているのだから

2.ドラッグラグが,審査のラグと開発のラグの和だなんて,そんな子供だましの算数だけで全てがわかったような気分になるほど,自分は馬鹿ではない.ドラッグラグの責任を取るべきは,小田原評定を繰り返して誰も責任を取ろうとしない中医協でも,その中医協の事務局をやっている保険局医療課でも,支払基金でも,医療費を目の敵にする財務省でもない.

そう,もっともっと普遍的な存在がドラッグラグの根本原理です.

ドラッグラグの根本原理.それはお金です.国民医療費,製薬企業の研究開発費・営業利益,支払基金のお金,PMDAの治験相談費用,ベンチャー企業支援の予算,副作用被害の補償金,生命保険会社の営業利益・・・

ドラッグラグの根本にあるのは無数のステークホルダーの複雑な利害関係=お金を大切にする気持ちです.誰だってドラッグラグなんか作りたくないのです.お金が無限にあれば,ドラッグラグなんかとっくの昔になくなっています.

薬は金食い虫です.薬を世の中に出すまではもちろん,出してからも膨大な金を食うのです.誰だってお金が大切だから,そんな金食い虫をやたらめったら放し飼いにするわけにはいきません.誰もがそう思うから,ドラッグラグが生まれます.だから,ドラッグラグはなくならないのです.

こうして,お金のことだけを考えたって,ドラッグラグ短縮の議論の虚しさがよくわかります.そして,そこに人の命という感情論を振り回す人々が,未承認薬と薬害の両方向から乱入して来た日には,癌患者の声を聞けとか,医薬品とiPADの発売とを同一視するのはけしからんとか,阿鼻叫喚の巷と化し,議論が滅茶滅茶になります.まっ,所詮公共事業のワイドショーですから,それでいいんですけど.

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