コンビニの男

商売は医者だわかると,次の質問は必ず,”ご専門は?”である.それに対して”特にありません”では,相手は絶対に納得しない.”専門”がないと,医者ではないと思っているのだ.意地を張って,”何でも見ますよ.診察室には病気が歩いてくるんじゃなくて,人間が来るんですからね”と言っても,それで納得してくれるのはよほど奇特な方で,たいていは,何をもったいぶっているのだろうと言いたげな表情である.

専門店はもちろん必要である.しかし,数はいらない.人口3万の町に呉服屋が10軒あっても住民はちっともうれしくないし,呉服屋の方は商売上がったりだ.これが呉服屋だったらそこが潰れてコンビニになるのが当然の流れだが,お医者の場合はそうはならない.これは仕事の量と質に応じて利益が上がるような仕組みになっていないからだ.生命保険会社がつぶれようと,銀行が自由競争になろうと,お医者さまは護送船団にしっかり守っていただけるのである.

専門医というのは,私はそれしか診られませんと,自分の無能さを公に宣言することだから,謙虚な人しかできない.こと仕事に関しては,傲岸不遜が服を着て歩いているような私には,金輪際できない所業である.私がしばしば診る脳梗塞という病気は,高血圧,糖尿病,心臓病,血液凝固異常,膠原病など,様々な原因で起きてくる.重症の脳梗塞なら,肺炎,肺梗塞,胃潰瘍,膀胱炎,腎機能障害,褥瘡,敗血症といった命取りになる合併症がどんどん起こってくる.こういった様々な病気を診断し,治療できなければ,医者ではない.専門医なんて,謙虚なことは言っていられないのである.お医者さんの多くは,スーパーの女あるいはコンビニの男でなくてはならない.

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