ある漫画の題材

私が勤めているような施設では,短期入所(ショートステイ)という制度がある.在宅の重症心身障害児(者)を,何らかの理由で家で面倒を見きれなくなった時,一時的に施設で生活してもらうのである.介護疲れ,家族の旅行,冠婚葬祭など,様々な理由で多くの人に利用してもらっている.中でも多いのが保護者の急病で,その日に飛び込みで決まることも珍しくはない.お役所らしからぬ機動性が要求される仕事なのだ.それぞれの家庭の切羽詰まった状況に迅速に対応できてはじめて短期入所制度の意味がある.

しかし,ここはれっきとしたお役所だから,それらしさを残しておかなくてはならないと考える人々もいるようだ.短期入所の起案書なるものがある.8月11日起案で,施行予定が同じく8月11日となっている.

こんな起案書を回すことにどれほど意味があるのだろうか?この起案書は合計9人の間に回されて起案者のところに戻ってくることになっている.起案書が起案者の元に戻ってくるころは本人はすでに入所しているどころか,家族の受け入れ体制が復旧して,すでに退所しているだろう.

病院の救急外来の患者搬入に起案書が必要だとしたら,それは正に漫画の題材だ.事務簡素化に逆行するどころの話ではない.その漫画と,我々が日常直面している現実とどこが違うというのだろうか.このような漫画が日常茶飯事となっていて,誰もそれに異議を唱えず,お役所の常識として放置され続けるとしたら,漫画は悲劇の序章へと発展する.

目次にもどる