白河育成園問題の背景

ご存知ない方のために白河育成園問題を簡単に説明する.知的障害者入所施設白河育成園(福島県西郷村、渡辺留二理事長)は,88年8月、無認可の「生活ホーム」として開設され,96年1月に福島県から認可された。園生の8割が東京都出身で、都内の区、市から運営費が支給されていた.97年4月、職員の内部告発をきっかけに,園生への暴行,医師免許を持たない理事長による薬物の過剰投与などの問題が表面化した.97年11月には刑事告発,98年1月には園生全員の退所,廃園,98年2月には渡辺理事長が医師法違反と暴行容疑,元職員の男性が暴行、別の男性が傷害容疑で,福島地検に書類送検された.

白河育成園のような極端な事件があちこちで起こっているわけではない.しかし,事件の原因となった問題は我々の身近にある切実な問題である.頭のおかしな理事長と一部の職員の横暴だけで片づけるわけにはいかない深刻な問題が,この事件の背景にある.

まず,上の文章を読んだ人はおかしなことに気づくだろう.なぜ福島県の西郷村の施設の利用者の8割が東京都出身なのだろうか?林間学校みたいに一時的に環境のいいところに行くのではない.知恵遅れの子がずっとそこで生活するのに,なぜ親元を遠く離れたところで生活しなくてはならないのだろうか?

保護者の高齢化,病気,死別といった様々な事情で家庭に居られなくなった重度の知的障害者.彼らは働くことはおろか,日常生活でさえ全面的な介助を必要とすることが多い.そんな人達は施設に入るしか選択の余地がない.しかしその施設が不足しているからだ.

都内ではまず土地が高い,土地そのものがない,あっても地域住民が建設に反対する.やれ障害者福祉だ,ボランティアだとか言っても,自分の近所に重度の知的障害者施設ができるなんて話を聞こうものなら,途端に,環境が悪くなる(どうして環境が悪くなるのかは説明不能),土地の値段が下がる(これも理由は不明)と,いちゃもん付け放題である.そんなわけで,東京都は山形県,秋田県といった遠隔の地に施設を求めなければならない.その構図はあたかもゴミ処分場,産業廃棄物のごとし.

かくして白河育成園の園生の8割が東京都出身となった.Out of sight, Out of mind.わが子といども距離が遠くなれば目も届かない.日々の生活でも忘れがちになる.盆正月に帰省して,園で殴られたと聞いても,まさか,馬鹿な子が空想を言っているのだろうという,思い込み,考え違い,そして手の掛かる子を預かってもらっているという親の引け目.

行政はもちろんやる気がない.東京都は手の掛かるやつを預かってもらってほっと安心.養育のために金は払っている.あとはどうなろうと知ったことではない.施設の監督責任は福島県にある.福島県の方は,県外からの利用者が8割を占める施設の監督なんて,てんでやる気がしない.県民の税金を使って建て,県民の税金を使って維持している施設なのに,どうして8割が都民なんだ.

そういった隙につけ込むのが商売人だ.補助金,措置費で収入を確保できる.施設の運営は手を抜いても役所のチェックは入らない.人の嫌がることをやっているんだ.慈善事業だ.文句があるならやめちゃうぞ.困るのはあんた方だろう.開き直りの文句はそう決まっている.

保護者や役所の監視が全く効かないとなれば,そんな商売人の経営する施設で何が起こるかはわかりきっている.自分の子さえ虐待する人がいる.他人の子を虐待しようとする人は当然いるだろう.華やかな都内ならいざ知らず,福島の片田舎の知恵遅れの子の施設では,人材豊富とはいえなかっただろう.福祉の意識が低い職員も雇わざるを得なかっただろう.園生の多くは,体は成人,知能は赤ん坊,そんな人に対して暴力が日常的になる.

ましてや医者は来ない.だから医師免許のない人が医療行為をするのが黙認される.暴れる子がいれば鎮静剤を多量に飲ませて眠らせてしまう.これも立派な傷害罪.

内部告発があっても,親はまさかと思い,行政は動かず,弁護士も動かない(立件しにくい.面倒な割には成功報酬がとれない).結局内部告発から廃園まで一年近くかかった.

しかし,まだお話は終わっていない.園を退所した人々の行き場がない.そうだろう.他に行き場ばなくて白河育成園に行ったのだから.福祉事務所(区や市の管轄)と都のキャッチボールがいつ終わるのか見込みがつかないという.

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