SGLT2阻害薬による下肢切断リスクはclass effectだった
―これぞ「Real World Evidence」の威力

カナグリフロジンの場合でも、承認前の治験では、その安全性プロフィールは他のSGLT2阻害薬と同様で(Curr Drug Saf. 2014;9(2):127-32)、下肢切断リスクは認められていなかった。それが明らかとなったのは、2008年にFDAが出したガイダンスで要求した、CVOTs (Cardiovascular outcome studies)のひとつであるCANVAS試験 (N Engl J Med 377:644-657) の結果が出てからである。CANVAS試験では、1000人年あたりの下肢切断の割合は、カナグリフロジン6.3 に対しプラセボ3.4 、ハザード比 1.97(95% CI, 1.41 to 2.75)だった。

下肢切断リスク:FDAはカナグリフロジンのみ EMAはclass effectと認定
この結果を受けてFDAは2017年7月,カナグリフロジン(商品名INVOKANA)の添付文書に,心血管疾患あるいはそのリスクのある患者で下肢切断リスクが高くなる旨の黒枠警告を追加した.欧州ではさらに厳しく,合衆国に先行すること5ヶ月前の2017年2月,CANVAS試験の中間解析データが出た時点で,欧州医薬品庁(EMA)の医薬品安全性監視・リスク評価委員会(PRAC)が,下肢切断リスクはclass effectと認定し,カナグリフロジンだけでなく,同じSGLT2阻害薬のエンパグリフロジンダパグリフロジンにも,同リスク上昇の可能性があるとの警告を添付文書に追記するよう勧告した.

こうして,FDAとEMAで判断が分かれたわけだが,このたびEMAの判断を支持する結果が出た.今回のSGLT2阻害薬による下肢切断リスクは、ランダム化試験でこそないが、母集団はスウェーデンとデンマークの National Register(*)であり、傾向スコア(プロペンシティスコアpropensity score) でマッチさせた、各群17213人(両群併せて34426人)のコホート研究であり、エビデンスレベルはReal World Dataの中でも非常に高いと考えられる。
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SGLT2阻害薬はGLP1受容体作動薬より下肢切断や糖尿病性ケトアシドーシスを生じやすい 2018年11月16日
2型糖尿病の新しい治療薬・SGLT2阻害薬(dapagliflozin, empagliflozin, canagliflozin)使用患者はGLP1受容体作動薬に比べて下肢切断や糖尿病性ケトアシドーシスをどちらも2倍ほど生じやすいことが示されまし た。1000人年あたりの下肢切断の割合はSGLT2阻害剤群では2.7、GLP1受容体作動薬では1.1(ハザード比2.32, 95% CI 1.37 to 3.91) でした。糖尿病性ケトアシドーシスはそれぞれ 1.3と0.6でした(ハザード比2.14, 95%CI 1.01 to 4.52)。今回の試験のSGLT2阻害剤の殆ど(99%)はdapagliflozinかempagliflozinであり、既に下肢切断の 強調警告(Boxed Warning)の表示があるcanagliflozinの使用患者は残りの1%のみでした。(池田注: dapagliflozin, 61%; empagliflozin, 38%; canagliflozin, 1%)

SGLT2 Inhibitors Tied to Increased Risk for Amputation, Diabetic Ketoacidosis
Sodium glucose cotransporter 2 inhibitors and risk of serious adverse events: nationwide register based cohort study. BMJ. 14 November 2018
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3種類のSGLT2阻害薬をまとめた今回の検討結果では、下肢切断の頻度自体は、CANVAS試験での結果よりも頻度が随分と低くなっている。、これは、 SGLT2阻害薬の中でも特に下肢切断リスクが高いカナグリフロジンを使用していた患者の割合が1%と極端に低かったからだと考えれば説明できる。むしろ今回の検討から読み取るべき大切なことは、 カナグリフロジンの使用患者の割合が無視できるほど極端に低く、実質的にはダパグリフロジンとエンパグリフロジンの2種類であっても、GLP1受容体作動薬と 比較した時のハザード比が2.5倍近くだったことだ.つまり、下肢切断がカナグリフロジン固有のリスクではなく、程度の差こそあれ、SGLT2阻害薬に共 通したリスク、つまりclass effectであることを示している。

DPP-4阻害薬による心不全リスクでの判断はFDA/EMAで全く逆
類薬の一部で見られた新規血糖降下薬の副作用が他の同種同効薬でもclass effectとして認められた例として,DPP-4阻害薬による心不全が挙げられる。一連のcardiovascular outcome trials (CVOTs)によって心不全リスクが明らかとなったのは、サキサグリプチン(N Engl J Med 369:1317-1326)とアログリプチン (Lancet 385:2067-2076)のみだったが、その後、FDAは、CVOTsでは心不全による入院がプラセボ群と差が無かったリナグリプチンシタグリプチンにも、サキサグリプチン、アログリプチンと同様に心不全に対する注意喚起を添付文書に掲載させた。DPP-4阻害薬による心不全リスクの場合には,SGLT2阻害薬による下肢切断リスクのEMAの判断とは逆に,EMAの方はclass effectとは判断せずに,注意喚起はCVOTsでリスクが認められたサキサグリプチンとアログリプチンのみに止めている.

スウェーデンでは1947年から税収のための番号としてPersonal identity number (PIN;日本のマイナンバーに相当)制度が 始まったが、現在では税収の他、教育、保健医療等数多くの分野で個人データが登録・管理されている。このシステムがNational Registersと総称されている、特に保健医療分野におけるNational Registersの利用開始は早く、1940年代には、がんの登録が始まった。50年代には感染管理、60年代には病院の退院サマリー、死亡、出生などがレジスターで管理され始め、公衆衛生や疫学の分野に活用され、研究報告が政策にも利用されるといった、エビデンスベースの医療政策も行われている。

参考論文
今井志乃ぶ 北欧におけるビッグデータの活用 医薬品情報学 2014;16:N29-N32
久保田 潔 諸外国における医療情報データの利用状況について:薬剤疫学研究の事例から 薬剤疫学 2012;17 (2): 109-116

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