先進医療の保険適応

医薬品や医療機器は薬事法に基づく承認審査の対象となるが,技術,知識といったソフトウェアは,PMDAによる審査の対象外となる.それでは,臓器移植のような特殊技術のリスク・ベネフィットは,一体誰が判断するのか?それはもちろん,専門家の先生方である.その名もずばり,先進医療専門家会議.事務局は保険局医療課である.

この会議が”評価”した技術が,中医協・診療報酬基本門第小委員会の下部組織である医療技術評価分科会とやらが選定する「保険適用する優先度が高い新規技術」の中に入って,目出度く保険適応になるようだ.

さて,この仕組みをあなたは素晴らしいと思うだろうか?それとも,問題だと思うだろうか?もし問題だとしたら,どんな疑問を感じるだろうか?何の疑問も感じないようだったら,こんなところを読まずにとっとと仕事に戻るなり,家に帰ってテレビでも見るがいい.

○医薬品や医療機器は薬事法に基づく承認審査の対象になるのに,移植のような特殊技術は,同じく人の命に関わるのに,なぜ,承認審査の対象にならないのだろうか?

○ましてや,医薬品や医療機器のようにGCPを始めとする数々の規制に則った臨床試験の試練を経ているわけではない.第三者の目が極めて入りにくい,コンプライアンスが不透明な少数の臨床経験だけが,リスク・ベネフィットの判断材料である.

○かつては,医薬品や医療機器の承認審査も,専門家の先生方の集まりである「調査会」で行われていた.しかし,承認審査は,お医者様達が本業の傍ら,片手間にできるような仕事ではないので,審査専門家集団として,医薬品医療機器審査センター(PMDA審査部門の前身)ができた.

○つまり,先進医療は,有効性、安全性のデータが医薬品・医療機器よりも乏しいだけに、より慎重な吟味を必要なはずなのに、新薬・機器審査の昔の形である”調査会”程度,あるいはそれより簡単な”専門家会議”で対応している。

○ある意味では、”規制緩和”、”医療技術審査特区”のつもりなのだろうが、保険適応になった先進医療で、将来、とんでもないことが起きたら、国民の皆様は、専門家会議の偉い先生方ではなくて、またもや厚労省叩きをやるのだろうか。

○また,狭い医療の世界では,第三者評価を確保することがむずかしい.つまり,先進医療専門家会議では,仲間内のお手盛りで,保険適応が決まっている可能性が排除できない.それを見るにつけ,治験で散々苦労している医薬品・医療機器企業からは,自分たちの製品も,うるさいことを言わないで,さっさと承認してくれという,矢のような催促が来るわけだ.

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