Editorial: Europe on the brink of direct-to-consumer drug advertising. Lancet 2002;359: 1709.
ランセットのEditorialが,一般向けの薬の広告(DTCA: direct-to-consumer drug advertising)が野放しになることを心配している.DTCAが許されているのは現在のところ合衆国とニュージーランドだけだが,EUでも規制が緩められようとしている.
DTCAが製薬会社の意向を反映していることは間違いない.何しろ製品が売れて儲かるのは彼らなのだから.具体的にどんな宣伝をしてなにを売っているかは,下記の論文を参照のこと.
Woloshin S and others. Direct-to-consumere advertisements for prescription drugs: what are Americans being sold. Lancet 2001;358:1141-6
病気に関する情報にアクセスしやすくなるという美名は結構だが,その情報の質が信用できるかどうか,はなはだ疑問である.たとえば,合併症のない高血圧では,安い降圧利尿剤が第一選択だが,このような安い薬は,絶対に宣伝されない.現に,私の周りで昼休みにうろうろしているセールスマンの連中の勧めるのは,アンギオテンシン受容体拮抗薬,アンギオテンシン変換酵素阻害薬,カルシウム拮抗薬のいずれかだ.誰一人として降圧利尿薬やベータブロッカーを勧めたりしない.エビデンスなんて糞喰らえ.利幅が全ての世界である.
証券会社が投資信託を売るのとはわけが違う.まかり間違えば,金より大切なものを失うのだ.DTCAが本当に病める者の幸せに繋がるかどうか?我々は薬一つ処方するのにも,その患者さんの体の歴史と現状,他の薬との相性,様々なことを考える.薬を処方した後も,問診し,診察し,必要な検査を行い,リスク・ベネフィットを検討する.その判断を磨いてきたゆえに,私はこの道20年も商売できている.それがテレビコマーシャルで代用できるだって?お手並み拝見といきたいが,拝見している間に大切な患者さんの命が危うくなるとなれば,黙っちゃいないぜ.
セルフメディケーション推進協議会なるいかがわしい組織が日本にもできたのを見ると,この国の連中の猿真似(今風に言うとグローバリゼーションというのだそうな)が得意なのは相変わらずのようだ.医者に診察をさせない,処方箋を出させないことによって命を救うコストを削減する一方,薬屋の利幅はがっちり確保するという魂胆が見え見えだ.