魔法の病名
-そして、遅れてやってきた,リリカ乱用のReal World Evidence-
Gabapentin and Pregabalin for Pain — Is Increased Prescribing a Cause for Concern? N Engl J Med 2017; 377:411-414
リリカの場合、適応外使用という名はふさわしくない。企業・規制当局・学会の産官学ぐるみの乱用に他ならない。この包括的な名称により、あたかも、「痛むのは神経に決まっている。だから、どんな痛みにでもリリカは使える」かのような「勘違い」が必ず起こる。「関係者達」がそう確信して生まれたのが、「神経障害性疼痛」という魔法の病名だからである。
ただし、下記の川口先生の説明とは異なり、この魔法の病名は日本だけで使われているわけではない。たとえば英国の添付文書では
Neuropathic pain: Lyrica is indicated for the treatment of peripheral and central neuropathic pain in adultsと、日本と同様の、Neuropathic painという包括的名称になっている。また、より保守的なFDAの効能効果でも、下記のようにNeuropathic pain「神経障害性疼痛」という言葉は使われている。
● Management of neuropathic pain associated with diabetic peripheral neuropathy
● Management of postherpetic neuralgia
● Management of fibromyalgia
● Management of neuropathic pain associated with spinal cord injury
つまり、産官学一体となったリリカの乱用(プロモーションとも)は「グローバリゼーション」の一環だったわけで、日本だけが「線維筋痛症」「帯状疱疹後神経痛」「脊髄損傷後疼痛」だけに限定して承認を下ろそうとしても、それこそ「何を今更ガラパゴスで突っ張ってるんだよ!ふざけるのもいい加減にしろ!」と袋だたきになるのは目に見えていた。
抗がん剤やC型肝炎治療薬と違って、世間は全然騒がなかったし、そもそも、保険局医療課・中医協が仕切る保険・医療経済の類いは、PMDAにとって治外法権になるから、EMAの書きぶりを排除して、FDAと同じ効能効果を下ろすという選択肢は初めからなかったのだよ。
リリカの乱用についての頑健なreal world evidence
整形外科で遭遇する代表的な痛みに対し、そんなリリカが無力であることを、医師主導治験で示したのが下記のNEJMの論文である。FDAがリリカを承認したのが2004年のことだから、それから13年の歳月の後に、リリカの乱用についてようやくこれだけ頑健なReal World Evidenceが出た。
Trial of Pregabalin for Acute and Chronic Sciatica N Engl J Med. 2017;376:2396-7
Treatment with pregabalin did not significantly reduce the intensity of leg pain associated with sciatica and did not significantly improve other outcomes, as compared with placebo, over the course of 8 weeks. The incidence of adverse events was significantly higher in the pregabalin group than in the placebo group.
やるじゃん、NEJM.!ブラック企業という汚名を雪ごうと頑張ったのかしらん。
2019/4/3追記:Journal Watchでは,下記のように,リリカの「神経障害性疼痛」に対するエビデンスの貧弱さを論じている.
Markedly Increased Off-Label Use of Gabapentinoid Drugs for Pain Management
そこで紹介されているJAMA Intern Medの論文
Goodman CW, Brett AS. A Clinical Overview of Off-label Use of Gabapentinoid Drugs. JAMA Intern Med. Published online March 25, 2019. doi:10.1001/jamainternmed.2019.0086
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乱用される国内販売トップの鎮痛薬「リリカ」 効能が実証されていない適応外処方が患者を苦しめ、医療費増加を招く
川口 浩 東京脳神経センター整形外科・脊椎外科部長 Web論座 2019年01月22日
全身に原因不明の痛みが走る「線維筋痛症」の治療薬として、鎮痛薬「リリカ」が2012年に公的医療保険を使えるようになった。一般名を「プレガバリン」といい、製薬会社のファイザーから製造販売されている。
プレガバリンは現在、国内で販売されている全ての薬剤の中で、売り上げ額で第1位の薬剤だ。2017年は937億円に達し、中外製薬の抗がん剤「アバスチン」や、小野薬品工業の免疫チェックポイント阻害薬「オプジーボ」を上回った。しかし、この隆盛の背景にあるのは、従来のルールを逸脱した前代未聞の不公正な動きである。効能がはっきりしない疾患に対する乱用が、医療現場で続いているのだ。
海外の医学専門誌が警告
プレガバリンの適応症は「神経障害性疼痛」となっているが、その効能が治験で実証されている具体的な傷病は「線維筋痛症」「帯状疱疹後神経痛」「脊髄損傷後疼痛」だけである。にもかかわらず、臨床の現場では腰痛症や坐骨神経痛、関節痛といった治験が全くなされていない多くの整形外科疾患に対して、長年にわたって処方されつづけている。
こうした適応外疾患に対する効能は、学術性の高い臨床試験においてすべて否定されている。医学界でもっとも権威ある総合医学専門誌のひとつ「New England Journal of Medicine」は、2017年に掲載した論文で、プレガバリンの販売額が急増している現状に対して、次のように強い懸念を表明した。(池田注:上記Perspectrive Gabapentin and Pregabalin for Pain — Is Increased Prescribing a Cause for Concern? N Engl J Med 2017; 377:411-414のことを指していると思われる)
プレガバリンは2004年に糖尿病性神経障害と帯状疱疹後神経痛の治療薬として、また2007年に線維筋痛症の治療薬として承認された。だが製薬会社の広告は、もっと一般的な用途を持った鎮痛薬として宣伝されている。一部の臨床医は、線維筋痛と似た曖昧な疼痛ばかりか、腰痛や変形性関節症といった明確に異なる症状に対してもプレガバリンを使用して、適応外処方を正当化している。
ここで重要なのは、適応外処方された患者の被害に対する責任の所在である。日本においては、学術的根拠を逸脱した適応拡大を認めた医薬品医療機器総合機構(PMDA)と、それを巧妙に利用して不公正なプロモーションを続けたファイザーの両者が問われねばならない。
米国の審査当局であるFDAも、また欧州のEMAでも、プレガバリンの適応症は「帯状疱疹後神経痛、脊髄損傷後疼痛、糖尿病性神経痛、線維筋痛症」と具体的な疾患を特定している。これに対して日本では、臨床試験もないまま言葉だけをすり替えて、あいまいな「神経障害性疼痛」という実体のない疾患名へと適応拡大され、臨床現場や保険審査員に対する情報操作がされてきた。
内服後にふらつき、救急車で搬送
プレガバリンの副作用は非常に強い。臨床でしばしば経験するのは、めまい、傾眠、意識消失などだ。
私の周囲にも、プレガバリンを内服後にめまいで転倒して骨折した人、意識がなくなって救急入院した人が複数いる。愛知県内で循環器系のクリニックを経営する男性院長は、ご自身が頸椎症性神経根症の痛みとしびれに対してプレガバリンを処方された。内服したところ診察時に呂律が回らなくなり、めまい・ふらつきで歩行が困難になって救急車で基幹病院に搬送されたという。院長は、自分のこの経験を広く公表しても構わないという意向を持っておられる。証拠として自分が歩行困難になった状態を動画で記録している。
いまもこうした被害が、各地で続いているに違いない。国内の整形外科疾患の多くの患者さんが、効能の実証されていない薬を飲まされ続けている。
(後略)
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