効かない患者を見つける仕事
セツキシマブ,パニツムマブといった抗EGFR抗体薬の有効性が,癌のEGFRの発現の有無・程度とは関係ないのと全く同じように,抗PD-1/L1薬の有効性が癌のPD-L1発現の有無・程度とは関係ない.そんなことは,BMJの論文が出るまでもなく,わかっていたことだ.
問題は,前述の抗EGFR抗体薬の有効性が,GFRの発現の有無・程度とは関係なく,KRAS変異の有無と関係あるということが,承認後2年経たないうちにわかった一方,抗PD-1/L1薬の場合には,ニボルマブが2014年7月に承認されてから4年経っても(この記事は18年9月に書いた),抗PD-1/L1薬の有効性を決定する遺伝子(変異)が見つかっていない点である.
製薬企業は,一旦承認された薬が効かない患者を見つける研究は決してやらない.つまりこの研究は研究者の使命である.その研究者に製薬企業からお金が出ることはない.つまり,公的資金によって行われる研究である.効かない患者を見つける研究の目的は,効きもしない薬の副作用から患者を守る仕事である.以上の全てはBMJの論文が出るまでもなく,わかっていたことだ.
KRAS変異の有無が抗EGFR抗体薬の有効性を左右することが発見されてから,もう10年が経ち,次世代シークエンサーの発達,遺伝子パネル検査の一般
化に象徴されるように,医薬品の有効性・安全性に関連する遺伝子の同定技術は目覚ましい発達を遂げた.にもかかわらず,抗PD-1/L1薬が効かない患者群が同定されたとは寡聞にして知らない.
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癌のPD-L1発現の有無だけで抗PD-1/L1薬を使うべき患者を決めることはできない Biotoday 2018-09-12
あわせて4000人を超える固形癌患者が参加した無作為化試験8つをまとめて解析したところ、PD-L1を発現してようといまいと抗PD-1/PD-L1
薬の生存延長効果は従来の化学療法を有意に上回りました。PD-L1発現状態だけで抗PD-1/PD-L1薬を使うべき患者を決めることはできないようだ
と著者は言っています。
Efficacy of PD-1 or PD-L1 inhibitors and PD-L1 expression status in cancer: meta-analysis. BMJ. 10 September 2018
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