パンドラの箱が開いた

「混合診療」禁止は違法、東京地裁が国側敗訴の判決(2007年11月7日15時16分  読売新聞)

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健康保険が使える診療(保険診療)に上乗せして保険外の診療(自由診療)
を受けた場合、保険診療分まで全額患者負担になるのは不当だとして、神奈川
県内のがん患者が、国を相手取り、保険を受ける権利があることの確認を求め
た訴訟の判決が7日、東京地裁であった。

 定塚誠裁判長は、保険診療と自由診療を併用する「混合診療」を原則禁止し
ている国の政策について、「混合診療を禁止する法的な根拠はない」と述べ、
原告に保険診療分の受給権があることを認め、国側敗訴の判決を言い渡した。

 日本の健康保険制度の前提となってきた混合診療の原則禁止を違法とした初
めての司法判断で、厚生労働省は法改正を含め保険制度の見直しを迫られそうだ。
(中略)
ただ、判決は「法解釈の問題と、混合診療全体のあり方の問題とは次元の異なる問題」とも述べ、混合診療の全面解禁の是非については踏み込まなかった。(←池田注:ここのところで、裁判官は、この判決の重大さから逃げたつもりなんでしょうが、そんなこと誰の記憶にも残らないって!!かくして,”定塚誠”の名は後々の世まで語り継がれるってわけ!!
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「混合診療を禁止する法的な根拠はない」って、一体どういうこと?と不思議に思う方は、混合診療の幻を参考におさらいしてください。(もう、7年も前に公開した文章です) 混合診療問題がパンドラの箱であることがご理解いただけるでしょう.

でもですよ.なんと,あの社会保険庁が,法的根拠のない混合診療禁止を盾に,藤枝市立病院の保険医療機関を取消にしてしまったのです.

藤枝市立病院が、顎形成術とインプラントを行ったのが混合診療禁止に”違反する”として 保険医療機関取り消しにしてしまった事件

顎骨形成術では、インプラント義歯が必要。インプラント義歯はもう10年以上も前から標準的な治療になっているのに、いまだに保険適応になっていない。だから、顎骨形成術は必然的に混合診療となる。しかし、患者さんに負担を強いるのは忍びないから、インプラント義歯をやっても保険診療に含めて請求していた。これはどこでもやっていることだ。それなのに、正義の味方社会保険庁が、患者さんを思いやる行為を不正請求として、公立病院である藤枝市立病院の保険医療機関の指定を取り消した。

この事件を知った時,私は、江戸時代のお家お取り潰しと同様の大本営(厚労省)の強権とどこが違うのか、これが法治国家のやることか?と思ったのですが、世間では,全く騒ぎになりませんでしたね。

多くの人が、混合診療禁止には、「法的根拠がある」と信じ込んでいたから、言いがかりによるお取り潰しを従容として受け入れたのでしょうか?あの処分は、今度の判決を踏まえて、どうなるんでしょうね。藤枝市民は、法的根拠のない不当処分で市民に損害を与えた大本営を訴えるでしょうか?

これまで、「法的根拠がない」「混合診療禁止」を、なぜ、我が大本営が守り続けてきたか?それは、「混合診療禁止」が「御神体」だったと考えれば合点がいきます。御神体だから、「法的根拠」などという俗界文書は不要というか、相容れないということだったのでしょう。それを社の奥に納めて、国是としていたのです。御神体の実体(実は秘密でも何でもなかったのですが)を知っている人々の中には、そんなごみ、いつまでもありがたく拝んでいるような場合じゃないだろうと公言して憚らない人たちもいましたが、神主として御神体を守ってきた大本営はもちろんのこと、御神体のお陰で商売をしてきた氏子もたくさんいるので、これまで何とか持ちこたえていました。

混合診療を巡る議論がしばしば混乱する原因は,ヒトとモノを混同することにあります.具体的には次の2点です
1.保険制度面でのヒト(国民皆保険制度)とモノ(保険適応)の混同→PMDAと混合診療問題
2.治療そのものの面でのヒト(例:心臓カテーテルの腕前)とモノ(そこで使うカテーテルの値段)
混合診療を議論する時に,常に何を議論しているのか,最低上記の2点を意識しないと,不毛な議論を飽きずに繰り返すことになります.

そういったことを踏まえて、たとえば、適応外使用の特定療養費化のような問題を考えてみましょう。

また、先進医療については、誰が、どのような基準を以てリスク・ベネフィットの判断を行い、その判断に対して誰が責任を持つのかという、これまた大変難しい問題があります。先進医療が、”患者さんのために最新の医療をいち早く届ける”とのスローガンのもとに、充分なリスク・ベネフィットの吟味を経ずに患者さんのお手元に届いてとんでもないことが起こる可能性はいくらでもあります。(単にモニタリングシステムがないために、実際にとんでもないことが起こっているのに気付いていないだけなのかもしれません。それにしても、最新=最善というドグマを受け入れてしまう人の何と多いことか)

下記は、ちょっとひねくって書いてありますが、ある程度承認審査(いわゆる認可)の仕組みをご存じで、”先進医療”(以前は高度先進医療と高度でない先進医療)のいい加減さ、危うさについて知りたい方向けです。

機構とばしの現実性高度でない先進医療

いずれにしろ、どうやらパンドラの箱は開いてしまったようです。善悪、白黒の二元論や、いつもの大本営攻撃では決して解決できない、この複雑なパズル、これからどうなるのでしょうか?

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