2015年10月22日に放送されたクローズアップ現代「なぜ医療事故は繰り返されるのか〜再発防止への模索〜」は「報告する死亡事故の判断基準があいまいな上、その判断が医療機関に委ねられていることから実効性に疑問の声もあがっている」として、医療事故調査制度(事故調)を非難しました。クローズアップ現代が事故調を非難する理由は、マスメディアが多大な収益を上げてきた医療事故ビジネスを、事故調が崩壊させるからです。
事故調があれば,北陵クリニック事件、杏林大割り箸事件,東京女子医大事件,福島県立大野病院事件は,全て「事件」とはなりませんでした.刑事訴追が事故原因を隠蔽した高濃度カリウム製剤誤投与事故やウログラフィン誤使用事故でも、事故調が正常に機能していれは、事故原因が解明され事故防止に多大な貢献をしたに違いありません.だから事故調を骨抜きにして、事故原因の隠蔽と再発する事故によって成り立っている医療事故ビジネスを何としても守る。そんなマスメディアの露骨な商業主義を象徴するのが件のクローズアップ現代です。
マスメディアは刑事訴追や裁判が事故原因を究明し事故防止に役立つという虚構で我々を騙してきました。私がそのことを指摘すると、検察と一体となって私を藪医者、嘘つき呼ばわりしてきました。さらには神経難病患者の人権を蹂躙し、突然死の恐怖の中に今日も放置し続けています。マスメディアはなぜそんな悪辣な商売を平然と何十年もの間続け、また今後とも続けようとするでしょうか?そんな彼らに対して我々市民はどう対処したらいいのでしょうか?
報道過誤否認症とサイレントクレーマーの増加
「相撲は負けて覚えるもの。勝って覚えることなどない」(朝青龍)
相撲であろうと医療であろうと、失敗は次の失敗リスクを低減するための貴重な糧です。失敗から学ぶのは世間の一般常識のはずですが(関連記事)、マスメディアの世界ではこの常識が一切通用しません。逆に過去の恥は書き捨て全てを忘れ去る記銘力障害の強さと傲慢さが要求されるのです。
重大な報道過誤から学ぶどころか隠蔽しようとする.それが報道過誤否認症です。この病気が蔓延した結果、教育・人材育成の仕組みどころか、調査報道のスキルもノウハウの蓄積もない、マスメディアの空洞化が完成しました。豪勢な社屋の中身は、そこで働く正義の味方気取りの人々の頭の中身同様にすっからかん。医療事故ビジネスの犠牲者が続出する現実に直面して初めて、そんな事実に気づいた医療者達の危機感が事故調の創設につながったのです。
医療者だけではありません。長年にわたってマスメディアに騙されていたことに気づいた市民は、サイレントクレーマーとなって,空洞化したマスメディアからの距離をどんどん拡大しています。彼らが声を上げないのには立派な理由があります。報道過誤否認症患者達に大声で抗議するのは時間の無駄としか思えないからです。それでもテレビの場合には、視聴率によってサイレントクレーマーの実力行使を感度良く検出することができます。
医療事故ビジネスの崩壊
自らの不明を棚に上げ,自分たちが理解できないことを全て「事件」に仕立て上げ、警察・検察の垂れ流しを生命線としてきたマスメディアは、医療事故報道でも、脈の取り方一つ知らない人々が作り出す虚構に全面的に依存してきました。その点ではNHKも民放も新聞各紙も何ら変わるところはありません。国家最強権力による事故原因の隠蔽にひたすら協力し、放置された事故原因により続々と再生産される事故を食い物にして彼らは多大な収益を上げてきました。
「自分たちはお前達愚かな市民よりも素晴らしい調査能力を持っている。さらに万能の正義の神である警察や検察とも仲良しこよしである我々は、お前達のような愚かな市民など到底知り得ない重要な秘密情報を数多く握っている。それゆえ、お前達は何も考えずにお前達の思考を我々の口座に直ちに振り込むが良い。そうして何も考えずに、電波あるいは紙によって我々が配信する報道を何の疑いもなく受け入れるが良い。ゆめゆめ事故調などという悪徳医者どものペテンに騙されてはならない」