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事故調は検察の下請けになる

ー現役の検事とヤメ検が揃いも揃ってそう公言しているのに、お医者さん達は暢気なもんだぜー

「刑事事件というのは人を死刑にもできる仕事だ。公取委の審査に支障がある？公取委の面目だ？そんなものはどうでもいい」1）

元検事の弁護士（いわゆるヤメ検）で，現在は弁護活動を通して健全な検察批判１）２）を行っている郷原信郎氏は、今から20年ほど前，東京地検から公取委に出向していた時に、一連のゼネコン汚職事件の一つである埼玉土曜会事件の調査に関わりました．この時，公取委は威信をかけて告発に動いたのですが，告発を受けても立件は困難であるとの検察の消極的意見に従い，やむなく告発を見送りました．

ところが，その後になって検察の態度は豹変します。例によってメディアを煽って「本来告発すべき案件だったのに政治家にねじ込まれて告発を見送った公取委はけしからん」という世論操作を行い、「国民感情が許さない」と公取委に調査資料を提出させ、94年3月に衆議院議員の中村喜四郎氏を逮捕、有罪にしました。

公取委の立場を踏みにじって道化役に仕立て上げ、自分たちだけが正義の味方になって国民の皆様の喝采を浴びる。そんな卑劣な演出に抗議した郷原氏に対し、先輩検事が吐いたのが冒頭の台詞です．一連の経緯については郷原氏の著書1）に詳細がありますので、興味のある方はお読みください。

このままで行けば、2015年10月に設立される予定の医療事故調査・支援センター（以下医療事故調）は公取委よりもさらに惨めな運命を辿ることになります。公取委は専属告発権（独占禁止法第九十六条）や強力な捜査権限（同法第12章第百一条～第百十八条）を持っています。自分達が正義の味方を演じるためには、そんな公取委の立場さえ踏みにじる検察にとって、「本来告発すべき案件なのに医者にねじ込まれて告発を見送るのは国民感情が許さない」と「馬鹿なマスコミ」に医療事故調を攻撃させるなんて朝飯前です．

医療事故調の調査結果は「警察には通知しない」ことになるようですが，そんな弥縫（びほう）策はトンデモ医事裁判を根絶するどころか、それこそ「国民感情」を煽って医事訴訟を却って増やす恐れさえあります。そもそも訴訟を起こす（裁判を受ける）権利は憲法で保障された基本的人権の一つですし，被害者による告訴・第三者による告発は刑事訴訟法で定められた正当な行為です．

特に検察は，診療関連死による刑事裁判として有名な、福島県立大野病院事件、杏林大学割り箸事件、東京女子医大人工心肺事件で立て続けに完敗を喫して以来，医事案件には非常に危機感を持っています．かといって，北陵クリニック事件で医療過誤・臨床研究不正隠蔽に喜々として加担したような警察３）の捜査能力を向上させるような妙案は見あたりません。さらに医師免許を持っているはずの法医学の先生方の鑑定も当てになりません４）．それどころか肝心のお膝元，エース揃いのはずだった東京地検特捜部は、最も得意としていたはずの税務事件で、なんと一審無罪判決、検察官控訴棄却で無罪確定という完敗を喫して、大のお得意さんである国税庁の顔も台無しにする始末です２）。

今や医事案件では八方塞がりのように見える検察にとって、絶妙の起死回生策が医療事故調です。「専門家集団」である医療事故調による調査結果は、中立公平性・医学的妥当性いずれの面でもぴかぴかの第一級資料です５）。証拠保全すれば後は煮て食おうと焼いて食おうとこっちのもの。国民の皆様の熱い期待を背に、粛々と裁判を進めればいいだけ。なんとヤメ検自身がそう告白しているのです１０）。（検察官でも弁護士になると正直になるのかな？）警察の杜撰な捜査や３）、法医学者のトンデモ鑑定４）に検察が苦しんだのは、今は昔の物語というわけです。脈の取り方も知らないヤメ検弁護士が偉そうに「医療事故調が実現しても、異状死の警察への届け出義務がなくなるわけではない」と日本循環器学会で偉そうに講演したり７）（日循のアホ．こんな札付きのヤメ検（→右の写真）をわざわざ呼んで御高説を賜るなんて、能天気にも程がある８），法医学会が利権の根本であるトンデモガイドラインを決して取り下げようとしない９）のもこのためです．

もちろん検察側の証拠申請に対して弁護側が「不同意」とすることもできますが，有罪率99.99％を誇る日本の裁判官の訴訟指揮により、結局は「同意するが、その信用性を争う」ようになることはいくらでもあります．「中立・公平で医学的に妥当な調査結果ならば、簡単には有罪の材料にはならないのでは？」というナイーブ極まりない思考停止の通りにまとも裁判が行われていれば、北陵クリニック事件は上記の税務事件同様、一審で無罪、検察の控訴は即時棄却となっていたはずです。検察にとって必要なのは「中立・公平で医学的に妥当な調査結果」という「ラベル」であって箱の中身ではありません。「箱の中身は有罪の証拠でぎっしり」と御用学者に証言してもらえば、弁護側が何と反論しようと、国民の皆様の期待を背負った正義の味方である自分たちは痛くもかゆくもない。そんな検察の「自信」５）　１０）を今日まで支えてきたのが、北陵クリニック事件なのです．

「刑事事件というのは人を死刑にもできる仕事だ。医療事故調の調査に支障がある？医療事故調の面目だ？そんなものはどうでもいい」

北陵クリニック事件でも猛威をふるった「国民感情」と呼ぶところの世論操作を全面的に請け負ってきたのは，「司法記者クラブ」という名の警察・検察広報部です。警察・検察は、この広報部が作成した全国紙の社会面を通して、あることないことを垂れ流し、「国民感情」に対する放火を繰り返し１）、みのもんた氏に代表される「バカなマスコミ」が医療機関や医師達を恫喝してきたのは皆さんご存じの通りです６）。

トンデモ医事裁判の解消は、一般市民の付託に応えるという我々医師の使命の出発点に過ぎません。トンデモ医事裁判の典型例である北陵クリニック事件で我々は、自分達の医療過誤や杜撰な臨床研究による事故を部下の冤罪にすり替えるような卑劣極まりない医師達の審理を、脈の取り方も知らない素人達に丸投げしてしまいました。我々の怠慢の結果であるそんなトンデモ医事裁判の根本的解決策は、我々医師自身が診療の質に対する自律性と当事者意識を取り戻し、弁護士同様の監査・懲戒制度１１）により、仲間を裏切って冤罪に陥れるような卑劣な医師を処罰すること以外にありません。

【参考資料】
１．郷原信郎　検察が危ない　KKベストセラーズ（以下は郷原氏のインタビュー記事から：2000年以降、特捜部が指揮した事件でまともな捜査はほとんどないのではないでしょうか。にもかかわらず、こんな状況にあってもマスコミは検察の発表をそのまま大本営発表のように垂れ流している。これはもはや太平洋戦争末期と一緒。よく目を開いて見てほしい。非難する対象をみつけては「鬼畜米英」と叫び、その一方で帝国陸海軍（＝特捜検察）は不敗だという不滅神話にこだわっている。いまは戦時中そのものです。）
２．八田隆氏が国家賠償請求訴訟で挑む「検察への『倍返し』」
３．トンデモ医事裁判を支える人々～その2～警察に真相は究明できない
４．納得いかない鑑定でぬれぎぬ「事故調」は絶対創設すべき
５．検察官は医療事故調査に何を見るか？　「公取委よりもはるかに格下の医療事故調が、”調査報告書を検察に見せてやるもんか”　なあんて、検察の怖さを知らないガキの世迷い言」と高らかに宣言する落合義和氏は、大先輩で、仙台・広島の両高等検察庁の検事長まで務めた緒方重威氏を、８ヶ月の拘置所拘留期間中「いつまで黙秘しているんだ。いい加減に目を覚ませ。証拠は全部そろっているんだ。このままじゃ一生刑務所だ。生きて出られると思っているのか」「刑務所で死ね。否認は２割増の求刑を知っているだろ」と、例によって机をバンバンと叩きながら、自供を迫り続けた敏腕検事さんです。まあ、退職金8000万＆年収3000万と、棺桶に入りきらないくらいの札束を稼いだ緒方さんの自業自得のようなのですが。
６．感染症パニックをビジネスチャンスと捉えるメディア
７．結局、異状死の警察への届け出はなくならない
８．「法律関係者」にヤメケンを入れるな！：飯田英男は本件事件の経緯で最も悪名高き、東京女子医大「学内調査委員会報告書」に対する、「外部評価委員会」の委員だった
９．トンデモ医事裁判を支える人々～その3～法医学者たちの責任～
１０．事故調の運用次第で、期待は刑事司法にー元最高検次長検事・伊藤鉄男弁護士
１１．医師の監査制度を考える

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一般市民としての医師と法
おなじみメディカル二条河原