NICEの判断と保険償還の関係って、一体どうなっているんだろうとかねがね疑問に思っていたのですが、Biotodayに掲載された下記の記事の意味を突っ込んでいったところ、少しわかってきました。NICEの判断がそのまま保険償還に反映されるのではなく、各地域でNHSの予算を執行するPrimary Care Trust (PCT)が独自に作るFormularyが保険償還の基準になっているようです。参考文書のUnited Kingdom (England and Wales) - Reimbursement Process には次のようにあります。
The National Health Law of 2003 states that all technologies recommended by NICE are supposed to be funded by the PCTs in England and the health authorities in Wales. However, use of new technologies by providers still depends on adequate funding from PCTs, which is tightly controlled by the NHS and the DoH (as a public service). Hence even if NICE gives a favorable recommendation uptake is not guaranteed.
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地方組織は独自の判断でNICEの推奨治療を拒んではいけない/NHS長 (Biotoday
2012-8-15)
地方のヘルスケア組織の判断は重要ではあるが、NICEの推奨治療を拒んではいけないとの通知を英国NHSの長が発しました。Pharmatimesによると、多くのプライマリーケアトラストが独自の判断によりNICEが推奨/支持する治療を拒んでいます。Pharmatimesによると、NICEの方針遵守のための助成制度の導入が地方のヘルスケア組織に通知されています。
NHS
chief warns over NICE drug blacklists
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つまり、NICEの判断とは別に、予算執行体であるPCTの恣意性がFormulary→保険償還に反映されることになります。すると、たとえNICEの推奨があっても、高い薬がFormularyからはずされたり(*1)、病院のConsultantだけが処方できて、GPは処方できないというような制限(*2)がついたりする問題が生じます。もちろん、各地のFormularyにより、NICE推奨の反映度合いにばらつきも生じます(*1)。これが上記記事の背景です。
参考記事
*1 NICE
to help develop local drug formularies
*2 GPs
facing new "bans" on high-cost drugs, report claims (Pharma Times 11-4-14)
上記と関連して非常に興味深いのが加齢黄斑変性に対するAVASTIN
(bevacizumab)の適応外使用です.同じ抗VEGFモノクローナル抗体関連分子でも、Lucentis(ranibizumab)とMacugen
(pegaptanib)は、網膜疾患(Macugenは加齢黄斑変性のみ)には効能効果が認められていますが、癌にはなく、AVASTIN
(bevacizumab)は逆に癌には効能効果が認められていますが、網膜疾患にはありません。この承認状況は三極に共通しています。
加齢黄斑変性に対して,本来効能効果を持っているLucentisやMacugenではなく,AVASTIN (bevacizumab)の適応外使用が盛んに行われていが理由は至極簡単,安いから.下記の記事にあるように,英国ではAMD治療で1回の注射投与費用は、アバスチンが60ポンド(96.80ドル)、ルセンティスは740ポンド(1193ドル)。米国での費用はアバスチンが50ドル、ルセンティスは2000ドル。
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ノバルティス、英国での「アバスチン」の眼科利用阻止へ動く Wall Stree Journal 2012年 4月 25日 17:34 JST
スイスの製薬大手ノバルティス(NYSE:NVS)は眼科薬「ルセンティス」の売り上げを守る活動を強化している。ルセンティスと同様の働きを持つ安価な抗がん剤「アバスチン」を医師が眼科用に処方しないよう、英国民医療サービス(NHS)に対して法的措置を起こした。
NHS傘下部門は24日に声明で、「ノバルティスが、イングランド南部のNHS傘下部門が高齢者の失明の主因であるウェット型加齢性黄斑変性症(AMD)の患者に抗がん剤『アバスチン』を提供しないよう英国の裁判所に要請した」と明らかにした。アバスチンはルセンティスと作用機序が極めて類似しているが、眼疾患ではなく抗がん剤として承認されている。欧米など一部の国ではアバスチンがはるかに安価なことから医者はAMDについても同薬を処方している。
NHSによると、英国ではAMD治療で1回の注射投与費用は、アバスチンが60ポンド(96.80ドル)、ルセンティスは740ポンドだ。米国での費用はアバスチンが50ドル、ルセンティスは2000ドルだ。
NHS傘下部門は昨年9月、AMDについてアバスチンあるいはルセンティスの費用に保険を適用すると決定したと発表した。NHS傘下部門は「NHSに対する実質的な財務圧力がかかる時期に、この決定は責任ある合法的アプローチだ」と述べた。
法的争いは、時に製薬会社と財政債務を抱えて医療支出削減を試みる政府との間で厳しい対立を見せる。ノバルティスとルセンティスの販売提携相手であるスイスの製薬大手ロシュ・ホールディング(ROG.VX) は、ルセンティスの売上高を守ろうと長年ロビー活動に資金提供してきた。ただ法的措置は新しい戦術のもよう。ノバルティスの広報担当者は「このような法的措置が過去に提起された記憶はない」と述べた。ロシュはこの案件について法的措置は取っていないとした。
この状況は製薬会社間で交錯する利害関係を浮き彫りにしている。ノバルティスとロシュはルセンティスを共同で販促しつつ、ロシュは抗がん剤として当初開発されたアバスチンの権利を有し、販売している。ロシュはアバスチンをすべての市場で販売しており、米国でルセンティスを販売している。ノバルティスは米国以外でルセンティスを販売している。 (ダウ・ジョーンズ)
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英国規制部門が加齢黄斑変性症へのアバスチン使用中止を決定(Biotoday
2012-7-27)
Reutersによると、血管新生型(滲出型)加齢黄斑変性症(Wet
AMD)治療薬Lucentis(ルセンティス;ラニビズマブ、ranibizumab)を欧州で売っているNovartis(ノバルティス)社からの訴えを受けて、同剤の安価な代替物としてのアバスチン
(Avastin;bevacizumab、ベバシズマブ) 使用中止を英国健康監督部門が決定しました。
イングランド南部の一部の病院はLucentisの代わりにAvastinを使用してきました。そのような使用は患者を危険に晒すとし、Novartis社は法的判断を求めていました。当初英国規制部門はNovartis社の訴えに対抗する姿勢を示していましたが、このたびAvastin使用方針の中止を決定しました。
UK
authority backs down in Novartis eye drug dispute
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上記記事から、一部のPCTが薬価を考えて、Avastinの適応外使用を推進してきたことが伺えます。
さらに、(加齢黄斑変性症ではなく)糖尿病性黄斑浮腫についても、次のような記事もありました。(あくまで間接比較ですが。なお、ルセンティスは糖尿病性黄斑浮腫についてもラベルを持っています)
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糖尿病性黄斑浮腫のアバスチンとルセンティス治療に差はないようだ (Biotoday
2012-8-15)
5つの無作為化試験結果に基づく間接比較試験の結果、糖尿病性黄斑浮腫(DME)のアバスチン (Avastin;bevacizumab、ベバシズマブ)治療とLucentis(ルセンティス;ラニビズマブ、ranibizumab)治療の効果に有意差はないと示唆されました。ただしどちらかの薬剤がより有効である可能性は否定できず、十分な検出力をもった直接比較試験が必要と著者は言っています。
The relative clinical
effectiveness of ranibizumab and bevacizumab in diabetic macular oedema:
an indirect comparison in a systematic review. BMJ 2012; 345 doi: 10.1136/bmj.e5182
(Published 13 August 2012)
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参考:
United Kingdom (England
and Wales) - Reimbursement Process
誤解の指摘、追加コメントを歓迎します。また、イングランド以外の国の事情を御存知でしたら教えてください。