そしてKOLは死語になった
流行に乗り遅れるなとばかりに部署を作って雇ってはみたものの,「何をやらせればいいのか?」と,当惑している周囲が見えるようだ.「MSLなんて本当に必要だったんだろうか?」そんな後悔が聞こえてくるようだ.しかし,MSLは絶対に必要である.ただ,MSLが果たすべき機能を理解していないから,そんな当惑や後悔が生まれるだけだ.
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「業務評価」「存在意義」などMSLの課題論議 JAPhMed年次大会 日刊薬業 2018/10/1
(前略)大日本住友製薬の西村剛氏は、MSLは通常のプロモーションと一線を画し、活動も長期に及ぶため「ビジネスへの貢献度が不透明」と説明した。アッヴィの向井陽美氏もMSLのKPI設定の難しさについて、昨年度にJAPhMedが実施した調査で製薬各社が「KOL(Key Opinion Leader/影響力の大きい医師)への訪問回数」や「KOLへの情報提供に対するフィードバック」が業務評価指標として多く使用されていた例を紹介。「数値的なことでは、無意味な訪問が増えてしまうので、ある程度実行可能な回数を設定する。業務のクオリティーに関してはこうすればいいという単純明快なものはなく、いろいろな会社で知恵を出して話し合うことが必要かなと思う」と述べた。
西村氏は「社内外のステークホルダーからの期待と失望」も課題に挙げた。アストラゼネカの柴英幸氏も「R&Dなど他の部門からすれば、同じ社内でも何をしているのかよく分からない部分がある」とし、社内においては新設部門であるMAへの期待が結果的に失望につながってしまうと同調した。(後略)
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製薬企業にとってMSLの機能は必須だ.それは間違いない.問題はその機能を担う人材だ.下記がMSLの機能を担う人材に求められるcompetencyである.
1.製薬企業でどんな人がどんな仕事をしているのかを知っている:一番の適任は,製薬企業に勤務経験があるお医者さん.次善策として薬事行政に携わった経験のあるお医者さん
2.医療行政に関するリテラシーがある:診療報酬制度,地域医療について,現場で出会う臨床医と議論ができる.
3.使える人脈を持っている:(実際に診療経験はなくてもいい.もっともあるにこしたことはないが)多くの診療科に,気軽に話が聞ける知り合いがいる.
4.科学研究遂行に必須のリテラシーがある:具体的には,臨床研究に携わって責任著者としてpeer review journalに論文を書いた経験があること.なぜなら,研究費取得,研究倫理,research integrity(研究公正)といったリテラシーがなければ,開発・薬事,承認審査の業務が理解できない.それだけでなく,知らぬ間にコンプライアンス違反を犯すリスクがある.
MSLにこれだけの条件が求められるようになったのは,医療に対する市民のリテラシーが向上し,それに対応して,医師のリテラシーも向上しているからだ.その結果,KOLは死語になった.現場で実権を握っている中堅,若手は,疑問があれば直ちにネットで検索をかける,しかるべきサイトに行く.MRさんたちにちやほやされながら高いギャラをもらって講演に勤しむ爺の言うことなど,もはや誰も聴いていない.そんな暇はない!! こうして,MRが死語になる前に,KOLは死語になったのだ.
それなのに,いまだに「KOL影響力の大きい医師)への訪問回数」なんて指標に拘っている会社になんて,誰が行くもんか.
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