H. B. van der Worp and J. van Gijn. Acute Ischemic Stroke. NEJM 2007;357:572-579
このNEJMの総説を読んだ方から、欧米では、急性期脳梗塞において有効性が認められているのは、アルテプラーゼとアスピリンのみであるのに対し、日本では、欧米で全く使われていない薬が承認されているのはなぜかという素朴な疑問が寄せられた。以下、それに対する私の考察。
> sodium ozagrel(キサンボン、カタクロット)なんて一言も書いてないし、
> どうも日本国内と使用する薬剤がだいぶ違うようで、不安になってきました。
日本で脳梗塞に対して使われるエダラボン、オザグレル、アルガトロバンは、日本でのみ承認されているローカルドラッグです。国内臨床試験のみが行われており、外国のデータは一切ありません。ですから、この分野では、日本と海外で使う薬が全く違うのです。
なぜそんな薬を認めるのか?これはルールに基づいて臨床試験を行い、有効性・安全性の検討を行い、結果を出したからです。これらの脳梗塞治療薬の国内臨床試験に共通して言えることは、有効性主要評価項目が、一昔前に盛んに使われた全般改善度=担当医の漠然とした印象に過ぎないことです。だから、具体的に何に効くのか、運動機能なのか、日常生活動作なのか、意識レベルなのか、画像上の梗塞巣の大きさなのか、明確ではないデザインとなっています。
今は、”全般改善度”は使いませんが、その臨床試験が行われた当時の水準では認められていました。(エダラボン承認が6年前なので、臨床試験が行われたのがその2年以上前と思われます。オザグレルが承認が92年、アルガトロバンは90年です) また、日本でしか開発せず、外国で試験をしないのは、企業の判断です。お上が”行政指導”すべきことではありません。厚生労働省の審査に大したパターナリズムは期待できません。何しろ、臨床試験データだけを判断材料にしなければならないのですから。彼らは、市販後に現場で何が起こるのかをすべて予言できる神様ではないのです。
ですから、このようなローカルドラッグをどう位置づけるかは、それこそ現場の医師の見識にかかってきます。これも、お上がどうこう言う問題ではありません。商業誌や宣伝ビラに載っている”専門家”の先生方のご意見を尊重するのか、国際的に認められていないものは頭から信用しないのか、口コミであちこちに聞いて回るのか、実際に行われた臨床試験結果を自分で吟味しないと納得できないのか、みなさん、これらの選択肢を、薬によっていろいろな比率で組み合わせで使い分けてますよね。
ローカルドラッグは脳梗塞の分野だけではありません。私は、”国際的”な研究あるいは診療をやっていると主張している方が、せっせとローカルドラッグをガイドライン上で推奨し、実際に使っているのは、一体全体どういう理由なのかを説明してもらいたいと、かねがね思っています。彼らは専門家を自称するのですから、まさか、”厚生労働省が承認したから”とは言いますまい。