練習問題

規制当局の人々にとっても,そして,もちろん,医療者や一般市民にとっても,たくさんの論点が浮かんでくる問題である.私への評価は,このような素材を生かして学習材料とする腕ゆえである.誰がいいとか悪いとか言って思考停止に陥るだけでは,あまりにももったいない,貴重な問題を,まずは読んでみよう.

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病気腎移植求め提訴へ 患者ら『国、治療の権利侵害』

2008年10月4日 東京新聞 朝刊

 厚生労働省が病気腎移植を「原則禁止」にしたことにより、患者が適切な治療を受ける権利を侵害したとして、腎不全で透析中などの患者ら約十人が今月下旬にも、国などを相手取り、移植を受ける権利の確認と国家賠償を求め松山地裁に提訴する。 

 厚労省は昨年七月、日本移植学会などが示した「(病気腎移植は)現時点で医学的妥当性がない」との見解を踏まえて原則禁止にした。患者らは「事実と違う発言をして病気腎移植の道を閉ざした」として、同学会の幹部も相手取り、損害賠償を求める。

 提訴するのは、香川県丸亀市の長谷川博さん(48)をはじめ、愛媛や岐阜、広島各県などの透析患者や病気腎移植を受けた患者約十人。国への賠償請求は、一人当たり一千万-数百万円。患者らは、治療を選ぶ患者の自己決定権や生存権を中心に争う考え。

 患者らは「病気腎移植は海外でも実績があり、臓器不足の中で必要な手段」と主張。治療を選択する権利については、生命や自由を追求する権利を定めた憲法一三条に基づき「合理的な理由がない限り国が禁止することは許されない」としている。
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さて,どんな疑問が浮かぶだろうか?順不同でいいから次々と並べてみるがいい.

○この新聞記事を読む限りでは,病気腎移植を止めろといっているのは,厚生労働省と日本移植学会であって,患者側ではない.つまり,病気腎移植「原則禁止」するのは,患者のためではないことになる.しかし,厚生労働省と学会も,この「原則禁止」によって,何の利益も受けずに,却って面倒な訴訟を抱え込むことになっただけのように見える.すなわち,誰も幸せになっていない.なぜ,こんな喜劇が繰り返されるのだろうか?

○厚生労働省と日本移植学会は,おそらく,「患者様のためを思ってやった」と言うだろう.しかし,その患者様から訴えられてしまった.すると,「こんな馬鹿馬鹿しいことやってられない」と思うのが普通だと思うのだが,そういう声が全く聞こえて来ないのはなぜなのだろうか?

○患者様の団体というのは,治療や薬を承認しないといっては厚労省を訴え,承認した治療や薬がけしからんと言っては厚労省を訴える.「相手の立場になって考えてみる」という小学生レベルの道徳を,厚労省が相手の時に限って忘れることができるのは,なぜなのだろうか?

○厚生労働省が病気腎移植を「原則禁止」したのは,どこの課が,どのような法?,省令? 通知を根拠に,どのような文書を持って,「原則禁止」にしたのだろうか?あなたはそれを知っていただろうか?

○もし,病気腎移植を行ったら,どのような罰則が適用されるのだろうか?それは,どんな法に基づいた罰則なのだろうか?

○「原則禁止とは何だろうか?例外はどのような場合なのだろうか?

まだまだ山のように疑問は出てくる.あなたはどうだろうか?

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