以下は、岩田健太郎著 感染症は実在しない 集英社インターナショナル2020/4/23 129ページ〜131ページより抜粋です。

パンデミックフル−(*)はその名の通り「現象」です。「こと」であり「もの」ではありません。日本の専門家だけがこれを「新型インフルエンザ」という「もの」として認識してきたのでした。確かにウイルスという病原体は「もの」として実在しますが、それをそのまま「インフルエンザという病気=現象」にすり替え、あたかも新型インフルエンザという病気が実在するかのように考えてしまったのがそもそもの間違いだったのです。この「感染症という病気=現象」と「病原体=もの」との混同は世界中で起きていますが、特にひどく間違えているのが日本だと私は考えています。そしてその象徴といえるのが感染症法と呼ばれる法律です。

感染症法のどこが間違っているのか
日本には感染症法という法律があります。これは、感染症という「こと」を「もの」と認識して作った悪法です。実際には「もの」でないものを無理矢理「もの」として認識するから、いろいろ困ったことになるのです。

例えば、新型インフルエンザは感染症法で、「全例」について感染症指定病院に患者を入院させなければいけないと定められていました(実は、本当はそうではないのかもしれないのですが、そのように扱われていました)。患者さんが軽症であろうと重症であろうと、ぴんぴんしていようと死にそうになっていようと関係ありません。私たち医者としては患者さんが元気かどうか、死にそうになっていないか、つまり「現象」が関心事なのですが、日本のお役人は実在しない感染症を「もの」として認識するから、こんなとんちんかんな法律を作るのです。

新型インフルエンザは、専門的にはH5N1と呼ばれるタイプのインフルエンザの変異体を想定していました。そこで、H5N1インフルエンザウイルスに対するワクチンを一所懸命に作ったり、タミフルのような薬を備蓄したりしてきたのでした。そして、新型インフルエンザの患者にはこのように対策をしましょう、と国や自治体は一所懸命ガイドラインやマニュアルを制定したのです。

ところが、2008年の段階で、すでにヨーロッパやアメリカではパンデミックフルーは現象であってで「もの」ではないという認識をしていました。で、彼らの結論は「H5N1だけが大流行を起こすとは限らないじゃないか。他のインフルエンザウイルスが流行するかもしれないし、もしかしたらインフルエンザウイルスじゃないウイルスが呼吸器感染症を起こして流行させるかもしれない。そういえば、数年前にSARSという感染症が流行ったじゃないか」と考えました。

だから、「H5N1」という「もの」ではなく、「大流行」という「こと」に注目し、対応することにしたのです。したがって、咳をしていて熱が出ていて、他人に感染させて死にそうになっている患者さんがいれば対策は原則同じです。それがH5N1による感染症であっても、他のインフルエンザウイルスによる感染症であっても、あるいは別の病原体による感染症であってもほとんど同じようなプロトコルで対策をとるのです。逆に、どの病原体が原因の感染症であっても軽症であれば入院させる必要もないのです。しかし、日本では新型インフルエンザは実荘している「もの」と考えていたので、そのような対応はとれません。

*注記:本書では「新型インフルエンザ」という言葉自体が誤解を招いているので、「パンデミックフル−」という世界標準語を用いている
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